第214話 44日目④
夕食の広場。
ヤシム 「アハハハ。それで目にアザがあるんだ。熊と取っ組み合ったんだと思ってた。」
シロクンヌ 「イナは熊なんかより凶暴だぞ。」
イナ 「何言ってるの、嬉しい癖に。」
シロクンヌ 「嬉しいはずが無いだろう。」
ハニサ 「アハハ。後でお薬塗ってあげるね。」
エミヌ 「カイヌ、あんた顔が真っ赤だよ。」
ヤッホ 「カイヌは今日、活躍したからな。褒美の酒だよ。」
タガオ 「オオヤマネコ1頭は、そうやって狩ったんだな。熊はどうやったんだ?」
ヤッホ 「1頭は、アニキだよ。」
カイヌ 「ぼく、びっくりしたもん。」
オジヌ 「おれも!ひっくり返りそうになった。まずカイヌが熊を見つけたんだ・・・」
ナジオ 「そんな方法だったのか!よくあんなものに、突っ込んで行けるなあ。」
テミユ 「やっぱシロクンヌって凄いのねえ。」
サチ 「父さん、すごい。」
ハニサ 「でもやっぱり、その辺の樹の枝を使ったんだ(笑)」
アコ 「一撃だったの?」
カイヌ 「そうだよ。熊が転がって、樹にぶち当たったんだよ。」
ムマヂカリ 「熊刺しなのか?テイトンポが言っておったが。」
イナ 「熊刺しよ。あたしが教えたんだから。」
カイヌ 「えー!イナにもあれが出来るの?」
イナ 「もちろんよ。熊とミツバチの巣を争っても負けないわよ。」
カイヌ 「ねえ、イナって、アマテルが産まれたら、帰っちゃうの?」
イナ 「それはクンヌが決める事だけど・・・どうして?」
カイヌ 「居て欲しいなと思って・・・」
シオラム 「なんだ、カイヌはイナに惚れたのか?(笑)」
ムマヂカリ 「さては目に焼き付いておるな?(笑)」
エミヌ 「あんた神坐になってるでしょう?見せてごらんよ。」
カイヌ 「やだよ、姉ちゃん。触るなよ。」
タガオ 「ワハハ、もう1頭はどうやったんだ?」
ナジオ 「ムマヂカリだよ。投げ槍で仕留めたんだ。熊棚にいる熊に向かって投げたんだよ。」
タガオ 「熊棚に?熊棚は低い所にあったのか?高い場所の物には、投げ槍は刺さらんだろう?」
オジヌ 「おれも驚いたんだ。上に向かって投げて、よく刺さったよね。」
ササヒコ 「あれはムマヂカリならではなのだ。他の者にはなかなか真似できんぞ。」
テイトンポ 「そうだな。あの倍の高さまで届く位の勢いが必要だ。
あの一発で、熊は樹から落ちたからな。」
タガオ 「ほう。そりゃあ、大したもんだ。
しかし樹から落ちた位では、熊はまだ生きておるだろう?」
ムマヂカリ 「ふむ。枝にぶつかりながらだから、落ちた事自体はこたえておらんな。
落ちた拍子に、槍も抜けたし。逃げようとしたが、そこにまた投げた。」
サラ 「ムマヂカリは、槍を5本、持ってたもんね。」
ムマヂカリ 「ああ、3本使って仕留めたんだ。3本目は、近づいて心臓を狙った。」
ナジオ 「熊狩りって凄いよな。
あの熊だって、2本目が刺さった後に、こっちに向かって来ただろう。」
タガオ 「熊もイノシシも、急所をやらん内は手負いと同じだ。凶暴で危険だぞ。」
シオラム 「あそこでひるまずに、前に出て投げたのが良かったんだろうな。」
アコ 「あー、あたしも行きたかったなー!」
ヤッホ 「タヂカリも枝を拾っては投げてるから、将来は、槍の使い手になる気だ。」
クマジイ 「しかしカイヌは、ようあの熊を見つけたのう。」
ヤッホ 「そうだよ。おれ達全員一緒に歩いてたよな?」
ムマヂカリ 「カイヌだけが気付いたんだから、大したもんだ。」
テイトンポ 「カイヌは目がいいぞ。動く物への反応もいい。」
シロクンヌ 「熊2頭とオオヤマネコ1頭を、カイヌ一人で見つけた訳だな。」
イナ 「そうか・・・カイヌは目がいいのね・・・ああ、恥ずかしい。」
カイヌ 「でも僕は、イナが大好きになったよ。世の中で一番好きだ。」
クマジイ 「ほう!強烈な告白じゃな。」
エミヌ 「あんた、酔っ払ってるね?」
シロクンヌ 「イナ、顔が真っ赤だぞ(笑)。」
タマ 「ぷるぷる煮が出来たよ。しばらくお別れだからね。シオラムからやっとくれな。」
シオラム 「おお、こりゃあ豪勢だなあ。ぷるぷる煮などは、シオ村じゃあ、まず食えんからな。
そら、イナにも取ってやる。」
イナ 「ありがとう。美味しそうね。」
ハニサ 「オオヤマネコの残りの1頭はどうやったの?」
ナジオ 「あれもびっくりしたなあ。」
シオラム 「蹴ったら、落ちて来たんだ。」
テミユ 「え?どういう事なの?」
ヤッホ 「カイヌが、枝にいるオオヤマネコを見つけたんだ。
そしたらテイトンポがアニキに落とし打ちをやるぞって言って、
アニキが枝の下に立ったんだよ。
アニキは、熊刺しで使った枝を持ってた。
そしてテイトンポが樹を蹴ったら、オオヤマネコがストンと落ちて来たんだ。
それをアニキが枝で突いたんだよ。地に着く前だったよね?」
シロクンヌ 「オオヤマネコは、枝の上で気絶して、落ちて来たんだぞ。」
アコ 「幹を蹴ると、枝の上のオオヤマネコが気絶するの?」
テイトンポ 「ガッチン漁と同じ理屈だ。アコにもその内教えてやる。
セミから始めてリス、ハト、猿と進み、
オオヤマネコまで行くには10年は掛かるがな。」
イナ 「アコはいいわね。あたしも教えて欲しい。」
テイトンポ 「ああいいぞ。イナがこっちにおれば、アコと一緒に教えてやる。」
イナ 「ホント?クンヌ!あたしが技を習得するまでは、こっちに居させなさいよ。」
シロクンヌ 「ああ、もともと、こっちに居てもらうつもりだったからな。」
クマジイ 「カイヌ、良かったのう。」
カイヌ 「うん!」