第215話 44日目⑤
大ムロヤ
アコ 「このシナノキの皮って・・・」
シオラム 「飛び越しの穴の場所に印がしてあるだろう?
道中、粘土版を持ち歩くのは重いからな。そいつが代わりだ。
ドングリの代わりは、この貝殻だ。黒巻貝(タニシ)と白巻貝(ヒメモノアラガイ)。」
アコ 「立ち寄る村々でやるの?」
シオラム 「そうだぞ。飛び越しを塩街道で流行らせてやろうと思ってな。」
クズハ 「みんなが飛び越しを知っていれば、来年のお祭りで、飛び越し大会が出来るわね。」
テイトンポ 「おお!それもいいか。勝ち抜き戦だ。」
テミユ 「優勝は、ミツじゃない?」
ミツ 「サチも、今は強いよ。」
ナジオ 「サチとミツの対戦成績はどんな感じなんだ?」
サチ 「5回やれば、1回勝てるくらい。」
テミユ 「へー、サチ、凄いねえ。」
シオラム 「おれも一年で腕を上げるつもりでおるぞ。」
毎朝、ミツとサチに食べさせてやりたいんだ。」
イナ 「旅にはクルミがいいわよね。歩く元気が湧くもの。」
ハニサ 「そうなんだ。採りたては、脂がキツイもんね。乾燥クルミなら一杯あるでしょう?」
ササヒコ 「ああ、有る。割って、食べる部分だけを持っていくんだろう?
好きなだけ持って行ってくれ。」
ササヒコ 「ハハハ、気にせんでくれ。他には?」
シロクンヌ 「あとは、麻縄か。短くていい。削って火口に使う。
それから竹皮の余分があれば、少し欲しい。
それと、ヒョウタンだ。あと3個あればいい。
毛皮は、ハギがカワウソの毛皮の毛布をくれたから・・・それ位かな・・・」
ササヒコ 「なんだ、たったそれだけでいいのか?」
シロクンヌ 「ああ。あと必要な道具は持っているし、ほとんどは現地調達なんだ。
持ち運ぶと荷物になるからな。」
ササヒコ 「そういう事か。もし何か他にも思い浮かんだら、言って来てくれ。」
イナ 「あ、飛び越しが始まったわね。コノカミ、見に行きましょう。」
ハニサ 「夜は、吊り寝なの?」
シロクンヌ 「サチと二人だけなら吊り寝でも良かったが、張り屋を作るよ。行った先々で。
簡単な物だけど、4人がゆっくり寝られる物を。
寝床はもちろん、地面から上げて、雨風がしのげる様な物だな。」
ハニサ 「わー、なんか楽しそう。」
シロクンヌ 「そりゃあ、楽しみながら旅をしないとな。つらい思いは、したくないだろう?
移動は夕刻早めに切り上げて、明るい内に寝床と晩飯の準備だ。
樹とか岩とか、そこにある物を利用して張り屋を作るんだよ。
虫に刺されない為の工夫も要る。
雨だって降るぞ。そんな時も、つらくならない工夫をするんだよ。」
ハニサ 「いいなー。あたし、今度そういう旅がしてみたい。」
シロクンヌ 「ハニサとは野宿をしていないからな。
タビンドの真骨頂は、野宿にあるんだ。
いいぞ。いつかアマテルと三人で旅してみよう。
ハニサに海を見せてやりたいな。」
ハニサ 「わー、楽しみ!絶対行きたい!舟にも乗れる?」
シロクンヌ 「もちろんだ。釣りもできるぞ。どこかの島に渡ってみてもいい。
おれが潜って色んな貝を採って来てやるから、浜で焼いて三人で食おう。」
ハニサ 「もう!楽しみ過ぎる!何年か先だよね?早く行きたいなー。」
アコ 「ミツ、テミユって強いんじゃない?」
ミツ 「うん、アユ村で、上位3人に入ってる。」
シオラム 「待てよ・・・今が正念場だ。この数手で勝負が決まる・・・
行って見るか!こうだ。」
テミユ 「その手は予想外・・・でも、これでどう?」
シオラム 「しまった!」
イナ 「そんな手があったのね。」
シロクンヌ 「タガオ、ミツだが、縄綯い(なわない)は出来るかな?」
タガオ 「ああ、教えてあるよ。アカソやカラムシを採って、紐作りも出来る。
結び方も、何通りか教えてある。」
シロクンヌ 「それなら良かった。旅だが、基本は野宿だ。
野宿と言っても、寝心地のいい張り屋を行く先々でこしらえる。
夜はぐっすり寝なきゃ、体が持たんからな。」
タガオ 「4人で役割分担してやるのだな。
ミツは火熾しもそこそこ早いぞ。
弓ギリでしか熾せんが、拾った枝ですぐ弓を作る。弦(つる)は木の皮や草から作るよ。」
シロクンヌ 「それは頼もしい。タガオが教えたんだな?」
タガオ 「ああ。いかだ組みも竹の伐り出しから手伝わせたし、魞(えり)作りも二人でやったな。
だからサチ程では無いが、泳ぎも出来る。投網(とあみ)も出来るぞ(笑)。
バシバシこき使ってやってくれ(笑)。」
シロクンヌ 「投網まで出来るのか!」
タガオ 「時間さえあれば、網も自分で作るよ。網針(あばり)や錘(おもり)もな。
ああ、あと、石割りが巧い。
河原の石を岩に投げつけて割って、石包丁にするのが巧いんだ。」
シロクンヌ 「石は自分で選ぶのか?」
タガオ 「そうなんだ。それに関しては、おれは何も教えていない。
最初から、おれよりも巧かった。
試しにやらせてみたらいい。
竹の枝掃いや竹割き、楔(くさび)くらいなら、すぐ作るぞ。」
シオラム 「アコも負けかー。テミユは強いな。」
アコ 「やられた。途中、イケルと思ったんだけど・・・」
テイトンポ 「よし、テミユ、今度はおれと勝負だ。」
シロクンヌ 「ミツ、明日は一緒にブナの実採りに行くぞ。
その時、河原で石割りを見せてくれ。サチも一緒に行くからな。
クルミも採るぞ。」
ミツ 「はい。サチ、クルミ採り、競争しよう。」
サチ 「いいよ。父さん、クルミ挟みってある?」
シロクンヌ 「あるだろうが、明日現地で作る。ちょっとした竹林があったからな。
昼飯に火を熾すから、その時に竹を曲げるよ。」