第217話 45日目②
ブナの森。
カイヌ 「シロクンヌは凄いね。あっと言う間に魚を20匹も突いちゃうんだもん。」
ミツ 「サチも4匹突いたよ。」
オジヌ 「おれ、3匹だった。またサチに負けちゃった・・・」
シロクンヌ 「よし、ブナの森に着いた。
昨日おれ達が暴れ回ったから、獣も少し減っていると思うが、油断禁物だ。
今日の目的は狩りではないから、獣には出会いたくない。
サラとミツは、拍子木を打ちながら歩いてくれ。オジヌは時々ボウボウを吹け。
ひと固まりになって歩くぞ。カイヌ、周りを見ながら歩いてくれ。
まず、アケビの谷に行って火を熾す。魚を遠焼きにしておこう。
そのそばで、ブナの実採りをする。」
言い終わると、シロクンヌは横隔膜を揺さぶる様にしてうなり声を上げた。
獣を威嚇する声だ。
すると、猿の鳴き声が止んだ。
アケビの谷。
サラ 「凄い数の山ブドウだね。いた。やっぱりブドウ虫いるよ。
落とし穴の水場の野ブドウにもいたから、その気になれば沢山捕れるね。」
シロクンヌ 「じゃあ、後でみんなで捕ろう。
ミツ、火を熾してもらっていいか?
森から見える、この場所がいい。」
ミツ 「はい。ちょと時間が掛かるけどいい?」
シロクンヌ 「ああいいぞ。火口(ほくち)はさっき採ったススキだ。竹も使っていいからな。
オジヌは竹串を作ってくれ。
おれ達は、ざっとたきぎを集めておこう。遠くには行くなよ。」
サチ 「父さん、ミツが面白い弓を作ったよ。」
カイヌ 「向かい合わせの弓だ。割り竹を向かい合わせたんだね。
一本だけでは弱かったんでしょう?」
ミツ 「それもあるけど、両手を使いたかったの。力一杯やらないと動かないから。
この枝に合わせて作ったんだよ。ほら、ピッタリはまるでしょう?
奥に押し込んで・・・こうやればグラつかない。
地面でやるより、この高さでやった方が、私、やりやすいの。やってみるね。」
ミツは手近な樹の上下2本の枝を利用していた。
上下の枝で、火キリ杵と火キリ臼を挟むのだ。
上の枝の下部に火キリ杵が入る窪みを開け、火キリ杵をはめ込み、グラつかない様にする。
そして上の枝の先端部分を下の枝にぎゅっと紐で結ぶのだ。
そうすれば、火キリ杵も火キリ臼もビクともしなくなる。
そうやっておいて、両手を使って弓を前後に動かすのだ。
当然、火キリ杵と火キリ臼の接点には、強烈な摩擦熱が生じる事になる。
あっという間に火種が出来て、木の皮の上にたまった。
サラ 「凄い凄い!もう火種が出来てる。こんなやり方があるんだね!」
シロクンヌ 「ミツは、自分で考えたのか?」
ミツ 「うん。どうやったら力が無くても、一人で火を熾せるか考えたの。」
シロクンヌ 「火キリ杵を上から押さえる力が大事なんだが、
こういう風にすれば、自分で押さえなくて済むんだな。
こりゃあ、ミツと旅をするのが楽しみになって来たなあ。」
サチ 「ミツは頭がいいね!私も今度マネしてやってみよう。」
ミツ 「火が熾きたよ。樹さん、ありがとう。」
アケビの谷。昼食。
サラ 「天気もいいし、こういう所で食べると美味しいね。」
シロクンヌ 「サラ、ネバネバって、四日では出来んのか?」
サラ 「四日では難しいけど、今もう作ってるから、あさってくらいには出来るよ。」
シロクンヌ 「そうか!もう一度、あれが食いたかったんだよ。
ミツは、ネバネバを知ってるか?」
ミツ 「知ってる。ちっちゃい頃、食べてた。死んだ母さんが作ってくれてた。」
シロクンヌ 「ああ、ミツのお母さんは、ヒシオも作っていたんだったな。」
オジヌ 「姉ちゃんが今、必死になってヒシオ作りに挑戦してるよ。
どんぐり小屋で、一人で何かブツブツ言ってる。」
ミツ 「母さんが言ってたけど、ネバネバは、ヒシオの近くに置いちゃいけないんだって。
ネバネバは強いから、ヒシオがやられちゃうんだって。」
サラ 「そうなんだ。私、ムロヤで作ってるんだけど、気をつけよう。」
オジヌ 「お昼までに、籠四つが一杯になったね。お昼からは、場所を移す?」
シロクンヌ 「そうだな。この辺りはもう採り尽くしたから、移動しよう。
その前に、みんなでブドウ虫を捕るか。」
オジヌ 「シロクンヌ達が旅立つ前に、釣り大会をしたいね。」
カイヌ 「釣り針って、簡単に出来るの?」
シロクンヌ 「ああ、直針だからな。鹿の骨を削れば簡単に作れるぞ。
あさってソマユを迎えに行くから・・・
その次の日に、釣り大会をやろうか。旅立つ前日だ。」
オジヌ 「うん、やろう!わー、楽しみだな。」
オジヌ 「火に炙(あぶ)って曲げるんでしょう?」
シロクンヌ 「そうだ。カイヌも手伝ってくれ。竹板も作る。
サラとサチとミツは、紐を作ってくれ。
一回し(70センチ)の長さで、15本。長く作って切ってもいい。
3本束ねて、サチがぶら下がれるくらいの丈夫さが欲しいな。」
飛び石。
ハニサ 「お帰りー。」
イナ 「ホントに5段、積み上げてる(笑)。オジヌは3段でカイヌは2段ね。」
アコ 「ミツも背負ってるね。根性あるんだ。飛び石、渡れるのかな?」
シロクンヌ 「ただいま。ミツ、飛び石、渡れるか?」
ミツ 「出来るよ。」
シロクンヌ 「おっとっと、おお、渡れたな。よし、そこまででいいぞ。イナに渡せ。
よく頑張ったな。」
ハニサ 「ミツはずっと背負って来たの?」
シロクンヌ 「そうだぞ。途中でおれが持ってやるって言ったんだが、大丈夫だからって言ってな。」
テイトンポ 「おお、帰って来たか。疲れただろう。工房の前で湯浴び出来る様にしておいた。
サラとサチとミツから浴びて来い。アコ、手伝ってやれ。」
サラ 「父さん、これ見て。」
テイトンポ 「ブドウ虫か!また沢山捕って来たな。」
オジヌ 「釣り大会をやるんだ。シロクンヌ達が旅立つ前の日に。」
丁度そこに、マシベがシロの村の者3人と一人の若者を連れてやって来た。
マシベ 「クンヌ、遅くなりました。」
若者 「サッチ、久しぶりだなあ。元気だったか?なんだその目のアザは?」
シロクンヌ 「イブキか!イブキが来てくれたのか!」
テイトンポ 「おお、シロイブキ!立派になりおったな!」
イナ 「イブキ?ホントだ。イブキだ。何であんたが来たのよ?」