第218話 45日目③
飛び石。続き。
シロイブキ 「イナか!全然変わっておらんな。美人のままだ。
テイトンポ。懐かしいなあ。所帯を持ったって?」
シロクンヌ 「そうだ。子も授かったんだぞ。」
シロイブキ 「そうか!おめでとう!
おれはな、ヒワの湖の手前にある山に住んでおるんだ。
そこにマシベが来たんだよ。
サッチ、いやクンヌ、アマカミになるそうだな。
おめでとう!おれはうれしいぞ!」
シロクンヌ 「ああ・・・おどろいたもんだから、つい興奮したな。
みんなに紹介しておく。シロイブキだ。おれの兄弟だよ。母親は違うがな。」
夕刻の広場。
シロの村の3人は持ち場に着く事となり、シロイブキとマシベはウルシ村に泊まる事となった。
シロイブキ 「これがハニサの器か。まさしく、神の器だ!
ハニサ、これで沸かした湯が飲みたいのだが。」
ハニサ 「いいよ。待ってね。熾きを持ってくるね。」
シロイブキ 「ハニサは美しいなあ。光の子か・・・
この辺りがミヤコになるのだな・・・美しい山々だ。
あれがクニトコタチの山なのか。
それでクンヌ、その目のアザは?」
シロクンヌ 「イナだ。これはな・・・」
シロイブキ 「アッハッハッハ、イナ、クンヌに手を上げてはいかんではないか。」
イナ 「いいのよ。嬉しがってるんだから。」
シロクンヌ 「嬉しくないと言っているだろう。
しかしハグレ役6人に加えてイブキも残ってくれるのなら、
これほど心強い事はない。」
シロイブキ 「おう。ハタレの自由にはさせんからな。」
テイトンポ 「シロイブキは山に住んで何をやっておるのだ?」
シロイブキ 「何もやっておらんよ。一人、ただ住んでおるだけだ。
山のテッペンからは、ヒワの湖が見える。
湖の向こうが、ヲウミのシロの村だ。
その風景が気に入ってしまってな(笑)。
この10年、人の役には立っておらん。
そろそろ何かをせねばなあと思っておった所に、マシベが来たんだよ。」
マシベ 「あれからここを立ちまして、イブキの小屋に立ち寄ってみたのです。
するとイブキもハグレ役に加わりたいと言うもんですから、
ヲウミの帰りに、イブキの小屋に寄ってここに来たのですよ。」
シロクンヌ 「イブキはヲウミには子がおらんだろう?」
シロイブキ 「おう。おれはまだ、どこにも子はおらんぞ。
なんせ、山籠もりしておったから(笑)。」
ハニサ 「はい。お湯が沸いたよ。」
シロイブキ 「おお、すまんな。熱いっ、うん、旨い!力が湧く。」
シロクンヌ 「今日はたまたまコノカミが出かけておって留守なんだ。
イブキとは打ち合わせもしておかねばならんし、
それを飲み終わったら、まず村の中を案内するよ。」
イナ 「驚く物があるのよ。」
シロイブキ 「テイトンポの工房にも驚いたがな。明日、またゆっくり見てみたい。」
テイトンポ 「蒸しムロに入ればいい。それから、洞窟も見ておいた方がいいぞ。」
シロクンヌ 「よし、夕食前に、ざっと見て回ろう。」
夕食の広場。
タマ 「シロイブキって言うのかい。男前じゃないか。熊汁だよ。いっぱいあるからね。」
シロイブキ 「ああ、すまんな。」
クマジイ 「シロクンヌの兄弟か。ほい、グイっとやれい。どっちが兄さんじゃ?」
シロイブキ 「おっとっと、ありがとう。クンヌだ。と言うかな、クンヌになった方が兄なんだよ。」
エミヌ 「ねえねえ、シロイブキもシロクンヌみたいに強いの?」
シロイブキ 「いや、クンヌほどじゃないぞ。クンヌはべらぼうに強いからな。」
イナ 「なんでよ。18の頃は同じくらいだったじゃない。」
シロイブキ 「おれとサッチがか?全然サッチの方が強かったよ。だからクンヌになったんだぞ。」
シロクンヌ 「タガオ、ミツには驚いたよ。完全に旅の戦力だ。」
タガオ 「いや、何かと手が掛かると思うが、きびしくしてやってくれ。よろしく頼むな。」
オジヌ 「ねえミツ、旅立つ前に、河原で石をいくつか割ってよ。」
ミツ 「いいよ。でも割り石は、欠けやすいけどいいの?」
オジヌ 「いいんだ。おれも横で一緒にやってみたいから。」
ハニサ 「クルミ採りは誰が勝ったの?」
オジヌ 「大差でサチ。樹に登って生ってるのを採りまくってた。」
サチ 「私、北のミヤコのクルミ採り大会で、3位になった事がある。」
ミツ 「えー!知らなかった。大人の男の人も一緒の大会?」
サチ 「そうだよ。でも、子供の参加が多いの。」
シロイブキ 「で、薙ぎ倒しって言うのは、海の向こうに今でもいるのかな?」
クズハ 「いたら怖いわよね。」
マシベ 「トコヨクニには、いつまでいたんだろうか?」
アコ 「粘土の器の無い頃らしいよ。」
ヌリホツマ 「あの洞窟にはヒトの骨が4体あっての。石の道具もあったんじゃぞ。」
シロイブキ 「その者達が、狩ったと言う事か?」
イナ 「絶対無理よ、あの大ムロヤ位の大きさなのよ。病で死んだに決まってるわ。」
ハギ 「洞窟に行くのなら、案内するよ。」
シロイブキ 「マシベ、明日、行ってみようか?」
マシベ 「そうですな。せっかくだから見ておきたいですな。」
テイトンポ 「おお、見ておいた方がいい。シップウもおるしな。」
ヤシム 「凄い狩りをするのよ。カモシカまで狩るんだから。」
シロイブキ 「本当か?おれの住む山にもワシはおるが、オオイヌワシなんだよな?
お!このタレは旨いなあ!
村で飯を食うなんて、何年振りだろうな・・・」
カイヌ 「その熊、シロクンヌが熊刺しで倒したんだけど、シロイブキも熊刺しが出来るの?」
シロイブキ 「熊刺しは出来るよ。一人では食いきれんから、追っ払うのに使う方が多いがな。
だから肋骨は、折らん。熊刺しは、イナの得意技だ(笑)。」
カイヌ 「ホントにイナは、熊刺しが出来るんだ。」
シロイブキ 「以前、ヲウミの村のそばに、ミツバチの巣があった。
イナはそこに通って、ハチミツをなめておったんだよ。こっそりな(笑)。
みんなその巣の事は知っていたが、イナに遠慮して知らん振りをしていたんだ。
ある日そこに行くと、熊が巣を荒らしておった。
おれはたまたまそれに出くわしたんだが、それを見たイナが怒ってな。
熊を一喝するやいなや、横に立っていた樹をブチ折って、熊に突進したんだ。
枝も掃わずにだぞ。
二度三度と突かれて、哀れな熊は谷底まで落ちて行ったよ。」