第219話 45日目④
ハニサのムロヤ。
シロクンヌ、ハニサ、シロイブキの3人が居る。
シロイブキ 「ここはヤシロだ・・・光の子が宿るのも当然だ。」
ハニサ 「はい。ヌリホツマのお茶だよ。
お湯があるから、体を拭く?背中を拭いてあげようか?」
シロクンヌ 「拭いてもらったらいい。気持ちがいいぞ。」
シロイブキ 「じゃあ拭いてもらおうか。人に体を拭いてもらうのなんて、10年振りだ。」
ハニサ 「上を脱いで、そこに立って。
シロクンヌも一緒に拭いてあげるよ。今日も汗かいたでしょう?」
シロクンヌ 「そうだな。イブキ、一緒に拭いてもらおうか。」
シロイブキ 「そうか?もう脱いだのか!」
ハニサ 「シロクンヌは、すぐ裸になるんだよ。」
シロイブキ 「ハハハ、そうなんだな。クンヌ、ミズキはどうしてる?」
シロクンヌ 「船乗りだ。南の島にも何度も渡ったようだぞ。」
シロイブキ 「南の島と言うのは、言葉が通じる一番南の島か?舟で何日も掛かる。」
シロクンヌ 「そうだ。ハニサ、ミズキと言うのは、もう一人の兄弟だ。
キッコとめずらしい貝は、ミズキからもらったんだよ。」
ハニサ 「そうだったんだ。」
シロイブキ 「あったかくて気持ちがいいなー。ミズキは船乗りを続けるのか?」
シロクンヌ 「おそらくな。行ってみたい島があると言っていた。
ここから南に行った所にフジが見える浜がある。
そこから舟で南に漕ぎ出せば、黒切りの島があるんだ。
そこは昔から知られている島なんだが、そこから更に島伝いに南に行くんだ。
すると、黒い川に出るらしい。」
シロイブキ 「黒い川?そこは海だろう?ありがとう。あとは自分で拭くよ。」
シロクンヌ 「海の水が、黒い川の様に流れておるらしい。
流れは、ヒトが歩くよりも速いと言うぞ。
そして川幅は、空まで続いているそうだ。
前を見て、見える海が全部黒い川らしい。
ああ、あったかくて気持ちいい。」
シロイブキ 「その空まで続く川の向こうに、島があると言うのか?」
シロクンヌ 「どうやらそういう事なんだが、それも伝説で、
本当かどうかを確かめてみたいと言っていた。」
大ムロヤ。
マシベ 「イナ、こっちの暮らしはどうだ?」
イナ 「楽しいわよ。今はコノカミのムロヤで暮らしてるの。
今日はいないから、ここで寝ようかな。」
タガオ 「ミツ、ちょっとこれを履いてみろ。」
ミツ 「ぞうり?うん、ちょうどいい。」
マシベ 「ほう、タガオは目が見えんでもぞうりを編むのか!ちょっと見せてくれ・・・
おれよりも巧いじゃないか。」
イナ 「もうすぐ、若くて綺麗な奥さんが来るのよ。」
マシベ 「それはうらやましい。しかしミツとサチは仲が良いな。ミツも旅に同行するんだって?」
ミツ 「そう。楽しみなの。マシベはミヤコに行った事があるの?」
マシベ 「いや、無いんだ。北にはそれほど行っておらんなあ。
だがフジには登った事があるぞ。」
タガオ 「ほう、それはすごい。たやすくは登れんだろう?」
マシベ 「もちろんだ。何度も失敗しておるよ。息が出来んで死にかけた事もあった。
だから途中に基地を作ったんだ。仲間と協力して。」
サチ 「寝泊まり出来る所なの?」
マシベ 「最初はそのつもりだったが、何しろ風が強くてな。何度やっても失敗する。
基地に泊まるつもりで登ると、壊れておるんだ。
だからその場で簡単な風除けを作ることにした。
その材料置き場が、基地だな。
雨水が貯まるカメを埋め込んで、グリッコもカメに入れてふたをして埋めておく。」
イナ 「なんか楽しそうね。いつやったのよ?」
マシベ 「楽しいぞ。イナが来る前の年だよ。
そうやって、基地を3ヶ所作ったんだ。」
ハニサのムロヤ。
シロイブキ 「なるほど、光の合図か。見晴らし岩と、ウルシ村の両方が見える場所だな。
その場所を、探して見た方がいいな。」
シロクンヌ 「うん。明日行けば分かるが、あの洞窟は重要な拠点なんだ。
だからイブキには、ハニサの護りと同時に、あの洞窟も護って欲しい。
山歩きは得意だろう?」
シロイブキ 「ああ、山歩きなら、クンヌに勝てるかも知れん。10年鍛えたからな。」
ハニサ 「山のテッペンに住んでるの?」
シロイブキ 「夏はそうだ。テッペンの小屋だ。景色がいいぞ。だがモヤが掛かって遠くは見えんな。
遠くを見ようと思えば寒い冬だが、雪が凄いんだ。
だから、冬は、山のこっち側のふもとだの小屋だ。
山の向こう側、つまりヒワの湖側は雪がひどいんだ。
でもそっちにも小屋はある。
その山には、ヒトは、おれしか住んでおらんかった。」
ハニサ 「寂しくないの?」
シロイブキ 「ヒトはおらんが、いろんなものがおるんだ。そいつらが、遊びに来る。」
ハニサ 「えー!それって、怖い何か?」
シロイブキ 「最初は怖かったが、不思議なだけで、怖いものでは無いと分かったよ。
だから不思議な何かだな(笑)。」
大ムロヤ。
サチ 「一番上の基地からテッペンを目指すの?」
マシベ 「そうだ。夜中に出発する。」
ミツ 「朝じゃなくて夜中なんだ。」
マシベ 「せっかく登るのだ。テッペンで日の出を拝みたいだろう?
もちろん天気次第だろうが、おれが登った時は綺麗だったぞ。
空の色が、いろんな色に変わるんだ。そして、雲の海から日が昇る。」
ミツ 「わー、見てみたい。」
タガオ 「やっぱり、夏でも寒いのか?」
マシベ 「寒い。平地の冬と変わらん。
だが雨と風に遭うと、平地の冬の何倍もつらい。
体が冷え切ってしまって息が出来んのだ。
昼でも前が見えん。5歩先が見えんほどだ。雲の中におるんだろうな。」
イナ 「楽しいだけじゃなくて、危険と隣り合わせなのね。」
マシベ 「方角も分からんし、基地の場所など分かる訳が無い。
しょうがないから、しゃがみ込んでジッとしておったよ。
すると夜になってやっと雨が止んで、雲が無くなった。
嘘の様に晴れたんだ。一面の星空だ。
そこに流れ星が流れた。1個や2個じゃないぞ。10や20でもない。
もの凄い数の流れ星だ。空が全部流れ星だ。
思わず見とれておったが、もしかして、おれは死んだのかも知れんと思ったよ。」