第220話 46日目①
朝の広場。
ハギ 「シロクンヌは行かないのか?」
シロクンヌ 「うむ。おれはハニサのムロヤに火棚を作ったり、なんやかんやと旅の準備があるんだ。
明日はソマユを迎えに行かねばならんし。」
ミツ 「父さん、明日ソマユが来るんだよ。楽しみ?」
タガオ 「そりゃあ、な。」
マシベ 「若くて美人だと聞いたぞ(笑)。」
シロイブキ 「ほう。そりゃまた、うらやましい話だ。どこから来るんだ?」
タガオ 「アユ村だ。ご近所だったんだ。」
ハニサ 「シロイブキも良い人見つければ?
ハグレ役って、女の人と二人組でやってもいいんでしょう?」
シロクンヌ 「構わんぞ。女二人との三人組でもいい(笑)。」
シロイブキ 「クンヌは今朝、ハニサにヒゲを剃ってもらっておっただろう。ひざ枕で。
ああいうの見ると、いいもんだなあと思うよな。」
ハニサ 「シロイブキと一緒になると、その女の人はシロのイエに入る事になるの?」
シロクンヌ 「それはどっちでも良いんだ。出来た子についても。
だが入りたいと言った場合は、おれか、おれの父かの許可が要る。」
シロイブキ 「おれはイエにはこだわらんな。」
イナ 「そんなら誰でもいいじゃない。どっかで見つけて来なさいよ。」
シロイブキ 「またイナは乱暴だな。誰でもよくはないぞ。それに見つける時間など無いよ。
役目を果たしてからだ。」
イナ 「ハグレをしながら見つければいいじゃない。」
シロイブキ 「そんな器用な事、出来るもんか。まあ、機会があれば、やってみるけど。
でもハグレだからなあ・・・怪しまれるぞ、きっと。」
シロクンヌ 「ハハハ、イブキは今夜は向こうで泊まるのか?」
シロイブキ 「そうなりそうだな。だが明日には戻るぞ。そこで再度作戦を練ろう。
ではマシベ、行こうか。ハギ、お願いする。
洞窟だが、どっちの方角なんだ?」
ハギ 「だいたい、あっちだよ。」
シロイブキ 「ここからアユ村まで歩く距離の真ん中にあるんだよな?」
ハギ 「そうだね。歩く時間はどっちから行っても同じくらいだ。」
シロイブキ 「向こうからは川沿いの一本道だろう?
という事は、直線距離ならここからの方が短い・・・」
シロクンヌ 「サチとミツ、縄綯(な)いをするぞ。旅で使う縄だ。
サチとミツの二人がぶら下がっても切れん強さだ。」
湧き水平。
ハギ 「ナクモー、居るかー。」
ナクモ 「居るよー。」
マシベ 「ほー、いい所ですな。」
シロイブキ 「あれが洞窟か。入口が、半分杭でふさいである。」
ナクモ 「あれ?お客さん?」
ハギ 「そうなんだ。誰だと思う?聞いたらおどろくぞ。」
見晴らし岩。
シロイブキ 「あれがシップウがカモシカを獲った山だな。
あの山はウルシ村から見えていた。」
カタグラ 「そうなのか?おれは今まで気無しだったが。」
ハギ 「ああ、そう言えばそうだ。今朝、村から見たよ。」
シロイブキ 「直線距離なら、半分じゃないか?あっちの方角だ。」
タカジョウ 「あそこがアユ村だ。半分ならあの森の辺りだ。
ウルシ村までの直線距離が、あの森くらいと言う事か?」
シロイブキ 「そうだ。意外に近いだろう?」
ナクモ 「えー!あんなに近いの?」
シロイブキ 「方角はあっちだ。すぐそこが低い山。
間に川があるが、岩伝いに跳んでゆけば濡れんですむ。
藪を突っ切って登ってゆけば、たやすく頂上にでる。」
ナクモ 「たやすくって・・・
たいへんそうだけど。」
シロイブキ 「まあ、おれは慣れておるから。
その山が無ければ、おそらくここからウルシ村が見えている。
山の向こうは森だろうな。
タカジョウ、ここからウルシ村まで、ボウボウ何回で届くかな?」
タカジョウ 「そうか!あの山までなら1回だ。その先にもう1回。
中継二つで届くかも知れん。」
シロイブキ 「さっきはナクモが吹いたが、カタグラならもっと大きな音が出るんだろう?」
カタグラ 「おお、吹いてみるか。」ボウボウを吹いた。
シロイブキ 「音も違うんだな。コダマが返って来たよな?あの山までなら、絶対に届いている。」
マシベ 「私があそこに行きましょうか?」
シロイブキ 「そうしてくれ。おれはその向こう側まで走っていく。
森の中ほどまで行くつもりだ。
中継2ヶ所で届くかどうか、試してみよう。
タカジョウ、ボウボウを貸してくれないか。吹くのは難しいのか?」
大屋根の下。
シロクンヌ 「ミツ、この枝とこの枝をこうして交差させたココ。
ここを縛りたいとする。どうやって縛る?この縄でやってみてくれ。」
ミツ 「うん。これ、初めてやる。グラつかない様にするには・・・」
サチ 「父さん、今の音・・・」
シロクンヌ 「ボウボウだ。どっからだ?」
サチ 「旗塔に行って見る?」
シロクンヌ 「そうだな。ミツも行くぞ。サチ、ボウボウを持ってるか?」
サチ 「はい。持ってる。」
旗塔。
サチ 「また鳴った。あっちだよ。」
ミツ 「遠いね。また鳴るかな?」
シロクンヌ 「聞こえた。見晴らし岩の方角だ。
分かったぞ。ボウボウを貸してくれ。」
シロクンヌは、ボウボウを2回吹いた。すると相手も2回吹いて来た。
次に3回吹いた。すると相手も3回吹いて来た。
サチ 「相手も分かったんだね。」
シロクンヌ 「おそらくイブキだろうな。洞窟からここまでのボウボウの道筋を見つけたんだ。」
ミツ 「ボウボウいくつで届いたのかな?」
サチ 「でも歩いて行ったのなら、さっき着いたくらいだよ。」
シロクンヌ 「うん。見晴らし岩に登って、すぐに見つけたんだろう。
そしてそこに移動して吹いた。だから、中継2ヶ所かも知れんぞ。」
テイトンポ 「シロクンヌ、向こうのボウボウはシロイブキか?」
シロクンヌ 「ああ、おそらくそうだ。工房でも聞こえたのか?」
テイトンポ 「いや、工房で聞こえたのは、おまえが吹いたボウボウだ。
あそこは川の音がするからな。
村の入口まで来た所で、遠くで3回鳴ったのが聞こえたぞ。」
シロクンヌ 「おれ達は大屋根の下にいたんだ。そこで聞こえたからここに来た。
ここと洞窟、ボウボウで連絡が取れそうだな。」