第221話 46日目②
夕食の広場。
ササヒコ 「そうか。それでシロイブキはどこでボウボウを吹いたのだろうな?」
シロクンヌ 「それはまだ分からん。明日はここに来るから、作戦も進展しそうだ。」
ヤッホ 「アニキの兄弟はやっぱり凄いんだね。」
ヤシム 「私、畑にいたけど聞こえたよ。シロクンヌが旗塔で吹く前に。」
エミヌ 「どんぐり小屋の中では気付かなかった。
シロクンヌが2回吹いたでしょう。
それで何かなと思って外に出たの。
そしたら遠くで2回吹いたのが聞こえた。」
クマジイ 「ウルシ林では聞こえたぞい。わしは耳はいいんじゃ。」
サラ 「うるし小屋では聞こえなかった。」
イナ 「東の森でも聞こえたわよ。鳥のさえずりの合間に。クンヌが吹く前よ。」
タマ 「いろり屋では誰も気づいてないんだよ。ワイワイやっていたからね。」
ササヒコ 「川から離れた屋外なら聞こえるようだな。」
ムマヂカリ 「雨の日は、難しいんじゃないか?」
テイトンポ 「そうだな。天候に左右されるだろうが、大きな進展だぞ。」
ササヒコ 「うむ。それにしても、シロクンヌの兄弟が来てくれたとは心強い。」
サラ 「あ!ハギだ。お帰り。」
ハギ 「遅くなった。報告しておくよ。白樺の皮に描いてもらって来た。
こっちでボウボウを吹いたのは誰だ?」
入口の洞窟。夕食。
シロイブキ 「ほう、あの穴の位置を、一発で見抜いたのか・・・
おれには無理だ(笑)。」
カタグラ 「だけど来るやいなや、ボウボウの道筋を見つけたからなあ。驚いたよ。」
タカジョウ 「それも、一度だけだよな?ボウボウを聞いたのは。」
シロイブキ 「そうだな。ナクモが吹いたのを見て、これは使えると思ったのだ。
おれも山暮らしだが、木の皮を丸めて音を出すなんて発想は無かったよ。」
ナクモ 「でもそこの山からウルシ村まで、
間に中継1ヶ所でボウボウが届くなんて、びっくりしたよ。
村は近くに見えるの?」
シロイブキ 「うむ。山から見ると、ここまでの倍くらいか。森の向こうの丘の上がウルシ村だ。
間の森だが、夏場は葉が茂るだろうから、ボウボウの音は通りにくいだろうな。
でもこれでおれの拠点は決まった。あの山の上だ。
あそこからなら、洞窟の入口と、この風穴の上が見える。
夏はミズナラの葉が生い茂って、洞窟の入口が見えんかも知れんが、
枝を掃えばいい。」
カタグラ 「あの山の上まで、あっという間に移動しただろう。」
タカジョウ 「ああ、おれ達がのんびり降りてきたら、もう聞こえたからな。
シロクンヌより速いんじゃないか?」
シロイブキ 「山暮らしだからな。今おれ達が座っているここでボウボウは聞こえたんだろう?
ミズナラの葉が茂っても聞こえそうかな?」
カタグラ 「聞こえるだろうな。枝を掃えばなおさらだ。
しかし、シロイブキがそこの山に居てくれるとなると、おれ達は安心できるよな?」
ナクモ 「うん。ありがとう。少し不安だったから。」
シロイブキ 「ハハ、いいさ。おれの仕事だ。
この洞窟の護りも、クンヌから仰せつかっているからな。
それはそうと、カタグラ、アユ村に気立ての良い娘はおらんかな?
クンヌとハニサや、おぬしとナクモを見ておったら、
うらやましくなってしまってな。」
カタグラ 「なんだ、シロイブキは一人者か?」
マシベ 「あー気持ち良かった!薬湯とは初めてだ。体がポカポカしますな。」
夕食の広場。
ハギ 「シロイブキの山駆けは凄いぞ。速いなんてもんじゃない。
もしかすると、シロクンヌよりも速いかも知れん。
(白樺の皮の地図を指して)ここの山の上まで、あっと言う間に行ったんだよ。
そこですぐにボウボウを吹いたんだから、息が乱れていないのだよな?」
イナ 「山暮らしで鍛えたのね。」
ヤッホ 「やっぱりアニキの兄弟だけあるよ。」
シロクンヌ 「きっとおれよりも速いだろう。」
ハギ 「そしてすぐに、ここ、森の中間まで行ったんだ。
そこでウルシ村に向かってボウボウを吹いた。」
テイトンポ 「この地図のここ。ウルシ村とこの山の間の森だが、この森はどんな所だ?」
シロクンヌ 「おれがサチと、ヒノキの皮剥ぎをした森だ。
おれの作業場があったのが、この森のこっち側のここだ。
この森は、葉が落ちない樹が多い。だから地に立っていては、周りの山は見えんぞ。」
テイトンポ 「樹の上に森小屋を作るか。」
アコ 「樹の上に作るの?」
テイトンポ 「そうだ。ハシゴで登る小屋だ。幹と枝を利用して作る。
巨木であれば、一本の樹に、三つも四つも小屋が出来るぞ。」
クマジイ 「面白い!わしにやらせてくれ。
樹の高い所に、小屋を作ってみたかったんじゃ。」
入口の洞窟。夕食。
タカジョウ 「その山で10年過ごしたのか?」
シロイブキ 「そうだ。だから人と交わるのは久しぶりだ。またすぐに、ハグレに戻るが(笑)。」
カタグラ 「あの山に住むのなら、ここにもちょくちょく寄ってくれよ。」
ナクモ 「ごはん食べに来て。」
シロイブキ 「ありがとう。まあメシは自分でなんとかするが、近々熊を狩って来るから分けないか?
雪が積もるまで、おれの分を岩室で預かって欲しいんだ。」
カタグラ 「岩室は自由に使ってくれればいい。
岩室に入って左側はヌリホツマ専用だから、おれ達は右側だ。
それはいいが、熊狩りにはおれも同行させてくれよ。
熊刺しという技があるんだって?」
シロイブキ 「ああ、熊刺しでやっつける。ではボウボウで知らせるよ。
あの山から熊棚が見えたんだ。そこに一匹いた。
あいつが冬ごもりする間際を狙おうと思ってな。」
ナクモ 「あの山からの見晴らしはどうなの?」
シロイブキ 「低い山だけど、見晴らしはそこそこ良いんだよ。おれは気に入った。
東が開けているから、朝日が綺麗だぞ。
風が強いだろうけど、あそこに小屋を建てる。朝日を浴びる場所にな。」
マシベ 「では私は、向こうの森の、イブキがボウボウを吹いた辺りに、小屋を建てて住もうかな。
森の中に、中継小屋は必要でしょうからな。明日、クンヌに頼んでみます。」
シロイブキ 「頼んでみろよ。冬は寒いぞー。そこが良いんだけどな。」
タカジョウ 「明日はどういう予定なんだ?」
シロイブキ 「シップウの狩りを見せてくれよ。」
タカジョウ 「いいぞ。見晴らし岩でやってみるか。」
マシベ 「奥の洞窟にも、もう一度行ってみたいですな。」
カタグラ 「岩滑りをやったらいい。」
シロイブキ 「そうだ、それをやってみたいな。
帰りはマシベ、森を抜けて帰るぞ。ウルシ村に向かって真っすぐに歩く。」