第224話 48日目②
飛び石付近。続き。
シロクンヌ 「ああ、ありがとう。おお、箱も立派だなあ。曲げ木か?」
クマジイ 「ほうじゃ。フタも良かろう。
枌板(へぎいた)を曲げて筒にして、桜の皮でとめて固定した。
わしが考えた作り方じゃぞ。」
シロクンヌ 「うん、これはいい。これは物入れとしては最高だな。」
ヤシム 「素敵な箱ねえ。」
ハニサ 「ここがフタでしょう?ピッタリおさまってる。」
クマジイ 「ハニサも気に入ったようじゃな。曲げワッパの傑作じゃ。」
タマ 「何だいそれは。中に何か入ってるのかい?」
シロクンヌ 「ほら、以前話した事があったろう?ハニサへの贈り物だ。
木彫りの髪飾りだよ。
ヌリホツマに漆掛けを頼んでおいたのが完成したんだよ。」
何か始まるのかと、みんなが集まって来た。
サチ 「父さん、それ、なに?」
シロクンヌ 「ハニサへの贈り物だ。この筒箱に入ってる。
出来上がりは、まだ父さんも見てないんだ。
この村に来てすぐに、彫り始めたんだよ。頭に載せる髪飾りだ。」
クズハ 「雨の日の朝、いろり屋で話してたアレね。随分大きいのね。」
ヌリホツマ 「見れば分かるが、単なる漆塗りではないぞよ。
ヤコウ貝と言っての、南の島の巻貝の貝殻を磨いて、
それを砕いて散りばめてある。
これがそのヤコウ貝じゃ。まだ二つ残っておる。美しかろうが。」
エミヌ 「わーきれい! 緑色とか、不思議な色で光ってる。」
ミツ 「こっちとこっちで色が違うのは、どうしてなの?」
シロクンヌ 「元々海にいる時は、ゴツゴツした暗い色なんだ。こっちがそれだ。
磨いていけば、下の層は綺麗な色になる。
磨きをかける深さで、色も変わってくるんだよ。
もっと磨くと、ツヤツヤの白になるんだぞ。」
アコ 「不思議な貝なんだな。シロクンヌが持って来たの?」
ヌリホツマ 「そうじゃ。
おそらく、他の村への渡しにする心づもりで、
この村に来た時には温存しておった物じゃ。
それをハニサのために使ってくれと言って、わしに差し出しおった(笑)。」
ソマユ 「きゃー。ハニサ、愛されてる。」
ムマヂカリ 「初っ端からこの二人はアツアツだったからな(笑)。」
ササヒコ 「お!いよいよ出来たのだな。
実はな、みんなには見せてはおらんが、
先日、ヤコウ貝を散りばめた櫛をヌリホツマが作ったのだ。
それをアマカミへの献上品として、カヤに託した。
それは見事な出来であったぞ。
ミヤコでも見た事の無い物だと言って、カヤも喜んでおった。」
ヤッホ 「なんだか凄い物が入ってそうだな。」
アコ 「ハニサも中身を知らないんだろう?」
ハニサ 「うん。作り掛けのは知ってるけど・・・」
ハギ 「サラは知ってるのか?」
サラ 「私は全然見て無いよ。」
タマ 「早く見たいね!」
エミヌ 「わくわく。わくわく。」
ササヒコ 「よし!ではこうしよう。
シロクンヌとハニサは、トツギではないから、当然トツギの儀は挙げておらん。
しかし光の子の父親と母親だ。
それはトコヨクニにあって、唯一無二の結びつきと言うことだ。
もれ聞こえる所によると、贈り物は頭に載せる飾りだそうだ。
そこで今日改めて、わしら全員で、二人のお祝いをしてはどうだろう。
言って見れば、戴冠(たいかん)の儀だ。」
テイトンポ 「おお、いいな。どうやる?」
ササヒコ 「そうだな・・・と言っても大袈裟な事は出来んが・・・
このあとみんなで木の皮鍋をやるだろう。
その前にこの中身をみんなに披露して、シロクンヌがハニサの頭に飾る・・・
それくらいしか思い浮かばんが・・・」
ヌリホツマ 「それで十分じゃ。あとはみんなの祝う気持ちがあれば良い。」
シロクンヌ 「なんだか大袈裟な事になってきたなあ。」
イナ 「なに言ってるのよ。素晴らしい事じゃない。きっといい思い出になるわよ。
ねえ、ハニサ。」
ハニサ 「うん。あたし達のために、みんな、ありがとう。」涙ぐんでいる。
ヌリホツマ 「となれば、もう少し篝火(かがりび)を増やそうかい。
用意が整うまで、この筒箱はサチが大事に持っておれ。」
サチ 「はい!」
飛び石のそばの河原。
ササヒコ 「知っての通り、明日、シロクンヌとサチそしてミツは、
タカジョウと共にミヤコへと旅立つ。
しばしのお別れだ。
シロクンヌが村に来てふた月足らずだが、わがウルシ村は様変わりした。
大袈裟ではなく、シロクンヌは村の恩人だ。
そして、次代のアマカミとなるお人だ。
そのシロクンヌはハニサと結ばれて、今ハニサには、光の子が宿っておる。
これはトコヨクニ始まって以来の慶事であろう。
シロクンヌとハニサ、二人がウルシ村で出会い、
そして我が村で、光の子が産声を上げる。
今日は改めて二人の出会いを祝し、四人の旅の無事を祈って饗宴を催そうと思う。
シロクンヌとハニサ、中央に進んでくれ。
サチ、それを持って中央に。
さあシロクンヌ、中身をみんなに披露してくれ。」
サチから箱を受け取り、シロクンヌは中身を取り出した。そして高く掲げた。
それは渦巻紋の器の上部をかたどった木彫りに黒漆が塗られ、
美しい緑の螺鈿(らでん)加工が施された冠であった。
おお、というどよめきが起こった。
ハニサ 「綺麗!」
サチ 「キラキラ光ってる!」
シロクンヌ 「素晴らしい出来だ。ヌリホツマ、ありがとう。」
ヤシム 「こっちにも見せて!」
アコ 「綺麗だ!」
タマ 「まあまあ、これは素敵だねえ!」
クズハ 「ハニサ、良かったねえ。」
ササヒコ 「では戴冠だ。シロクンヌ、それをハニサの頭上に。」
シロクンヌは冠をハニサの頭に載せた。
その瞬間、ハニサの全身から強い光が放たれた。
拍手をしようとしていたみんなの動きが止まった。
誰もが言葉を失い、ただただ光るハニサに見とれている。
すると・・・
タガオ 「見える。光が見える。美しい光が見えるぞ!」
ソマユ 「ハニサよ。ハニサが光ってるの。女神様の光よ。」
タガオ 「ソマユか。ほんのわずかだが、ソマユの顔も見える!」
ソマユ 「タガオ!」
ミツ 「父さん!」
タガオ 「ミツ!わずかだが、ミツの顔も見えるぞ!」