第227話 49日目①
早朝の広場。
ヤッホ 「何だいアニキ、荷物はこの大袋だけかい?」
シロクンヌ 「そうだ。この背負い袋に全部入ってる。
サチにもミツにも、荷物を背負ってもらうから、おれはこれだけだよ。」
イナ 「杖(つえ)くらい持って行きなさいよ。シロのイエのクンヌがミヤコ入りするのよ。」
ササヒコ 「そうだぞ。できればこれを受け取ってくれ。」
テイトンポ 「ほう、凄いな!見事な逸品だ。カヤか?」
ササヒコ 「そうだ。弦を張れば、たちまち弓になる。強弓だぞ。
本当は、弓で渡したかったのだがな(笑)。
ヌリホツマに漆を頼み、桜の皮を巻いてみた。持ってみてくれ。」
サチ 「父さん、カッコいい!」
アコ 「似合うよ、シロクンヌ。」
ソマユ 「男っぷりが最高!」
シロクンヌ 「そうか?ではコノカミ、有難く頂いて行くよ。」
ササヒコ 「それからこれは矢だ。10本ある。」
クマジイ 「矢筒はわしの傑作じゃ。」
ヤッホ 「矢じりはおれ達が作ったんだぜ。」
ムマヂカリ 「おれとハギとヤッホで三つずつだ。」
シロクンヌ 「そうか。ありがとうな。見事な矢だ。これは真っ直ぐ飛びそうだ。」
ササヒコ 「そしてこの一本。この矢の矢じりは分かるな?」
シロクンヌ 「アヤの村の物だな。矢の根石の村の矢じりだ。」
ヌリホツマ 「旅の守り神じゃ。この矢が、おぬしらの身を護る。」
シロクンヌ 「そうか。ではこの一本はサチが持て。」
ヤシム 「待ってて。サチ、背負い袋に矢留めを縫い付けてあげる。」
エミヌ 「出来たよ。ネバネバ同士。とろろとねばねばが混ぜてあるの。」
サラ 「シロクンヌ、ねばねばが好きでしょう?エミヌと作ってみたの。」
アコ 「うっ!ニオイが・・・」
シロクンヌ 「ハハハ。今のアコにはキツイだろうな。これは精が付きそうだ。」
クズハ 「これ、編んでみたの。シロクンヌからもらった貝染めの糸で。
サチとミツ、つけて見て。」
エミヌ 「かわいい!手っ甲ね。」
オジヌ 「うん。女の子っぽいね。
これ、スワの湖で拾った貝で作ったの。貝刃。よく切れるよ。
持ちやすい様にこっちも削った。サチとミツに一個ずつ。」
サチ 「みんな、ありがとう。」
ミツ 「ありがとう。大事にするね。」
ハギ 「ハニサだ。やっと来た。どこ行ってたんだよ?」
ハニサ 「タガオを手伝ってたの。わー、サチもミツもかわいいのもらったね!
タガオ 「少し目が見える様になったから作ってみたんだ。ハニサに手伝ってもらって。
炭だよ。蚊遣りキノコの炭だ。」
ヤッホ 「そんな物、何に使うんだい?」
タガオ 「火口(ほくち)だ。火キリ臼にこれを少しのせて、火キリ杵を使えば、火種が熾きやすい。
火力の具合が難しくてな、灰にしてしまっては駄目だから。
器を焼きなれているハニサに頼んだのだ。」
ハニサ 「さっき試しにやってみたら、本当にすぐに火種が出来たんだよ。びっくりしたもん。
シロクンヌはこんなやり方、知ってた?」
シロクンヌ 「いや、知らん。テイトンポは知ってたか?」
テイトンポ 「おれも知らんぞ。今からやってみるか。」
ササヒコ 「驚いたな。これなら女でも熾しやすい。これからは、これだな。」
クマジイ 「蚊遣りキノコにこんな使い道があったとはのう。」
イナ 「他のキノコからでも、出来るの?」
タガオ 「いや、蚊遣りキノコだけだな。ミツ、これを持って行け。」
ミツ 「父さん、ありがとう。私、火熾し係ね。」
シロクンヌ 「ああ頼んだぞ。ミツは元々火熾しが巧いからな。」
ヤシム 「サチ、出来たよ。ここに矢を挿して。」
サチ 「ありがとう。」
オジヌ 「サチ、カッコいいぞ。」
ミツ 「うん、似合ってる。」
ヤシム 「サチってやっぱりアヤクンヌなんだね。
サチ、無茶しちゃ駄目よ。いけない、涙が出て来ちゃった・・・」
シロクンヌ 「さあ、出発するか。帰って来た時、この村も様変わりしているのだろうな。」
ササヒコ 「今よりも賑やかになっておるかも知れんな。みんな、飛び石まで見送りに行くぞ。」
飛び石。
クズハ 「ここで初めてシロクンヌと出あったのよね。
昨日の事のようでもあるし、随分前の出来事だった気もするわ。」
シロクンヌ 「そうだった。夕方だというのに、ムシロの洗濯をしていたな(笑)。
イナ、ハニサを頼んだぞ。」
イナ 「まかせなさい。ハタレには、指一本触れさせないわよ。」
ミツ 「父さん、行ってきます。」
タガオ 「シロクンヌの言う事を聞くんだぞ。」
サチ 「ヤシム、いろいろありがとう。お世話になりました。」
サチはヤシムに抱きついた。ヤシムは涙で言葉にならない。
タホ 「お姉ちゃん、どっかに行っちゃうの?
いやだー。わーん。」
サチ 「タホ・・・」
ハニサ 「サチ、絶対だよ。絶対、無事に戻って来てね。」
サチ 「はい。お姉ちゃん、ありがとうございました。」
サチも涙を流している。
ハニサもアコも、エミヌもソマユも、サラもスサラも、クズハもタマも涙に暮れている。
ヤッホ 「アニキ・・・」鼻をすすっている。
「アニキ、待ってるよ。ミヤコの話を聞かせてくれよな。」
ムマヂカリ 「シロクンヌ、帰って来たら、シカ狩りに行くぞ。」
ハギ 「魚突き勝負で、決着を付けような。」
サラ 「ミツバチ、必ず成功させるから。蜂蜜をいっぱい舐めさせてあげるよ。」
エミヌ 「シロクンヌ、また遊んでね。」
シロクンヌ 「分かった。必ず無事に戻って来る。
テイトンポ、スッポン鍋を楽しみにしているよ。」
テイトンポ 「ああまかせろ。腹一杯食わせてやる。」
シロクンヌ 「オジヌとカイヌ、泣くやつがあるか。」
オジヌ 「うん。行ってらっしゃい。」
カイヌ 「また、狩りに行こうね!」
シロクンヌ 「オジヌもカイヌも、たくましくなっておれよ。
クマジイ、元気でいてくれな。」
クマジイ 「おおさ。マシベと森小屋を作るんじゃ。まだまだ老いぼれんぞい。
アコや、泣いてばかりおらんと、何か言ったらどうじゃ。」
アコ 「・・・またな!」
シロクンヌ 「おう。アコも無茶するなよ。
ヌリホツマ、薬をいっぱいくれたってな。ありがとう。」
ヌリホツマ 「なんの。なま水には気を付けるんじゃぞ。」
シロクンヌ 「じゃあみんな、ちょっとミヤコまで行って来る。
春か、夏前かには戻って来るつもりだ。
ハニサ、秋にはアマテルと三人で、お月見をするぞ。」
ハニサ 「うん。待ってるね!」
シロクンヌ 「サチ、ミツ、タカジョウが待ってるぞ。
さあ、出発だ!」
ササヒコ 「よしみんな、笑顔で見送ろう!」