第228話 49日目②
湧き水平。
シロイブキ 「見事な杖だな。矢筒も立派だ。
こうして見ると、サッチはまさしくクンヌだな。堂々たるミヤコ入りだ。」
ナクモ 「キリっとしててカッコいいね!サチの矢は、祖先の矢じりなの?」
サチ 「そう。旅の御守りなの。」
カタグラ 「ミツ、飛び越し盤、持ってるか?」
ミツ 「持って来なかった。」
カタグラ 「ほら、桜の皮で作ったから持って行け。」
ミツ 「ありがとう。サチ、時々やろうね。」
シロクンヌ 「あの山の上に、イブキの小屋が出来るんだなあ。」
タカジョウ 「あれであそこは見晴らしが良いんだぞ。冬は吹きっさらしで寒いだろうが。」
シロイブキ 「朝日が綺麗だぞ。
クンヌ、良い機会だから、アユ村まで同行させてくれ。
スワを見ておきたい。」
シロクンヌ 「ああ、では出発するか。シップウは?」
タカジョウ 「シップウ!」
タカジョウが指笛を吹くと、谷あいからシップウが現れ、タカジョウの腕にとまった。
ミツ 「やっぱりおっきいねえ!」
サチ 「うん。カッコいい。」
タカジョウ 「カタグラ、ナクモ、世話になったな。出来ればここに戻って来る。
その時はよろしくな。」
カタグラ 「戻って来いよ。ここにタカの里を作ればいい。」
ナクモ 「待ってるわね。」
マシベ 「クンヌ、私はここで。旅のご無事を祈っておりますぞ。」
シロクンヌ 「うん。クマジイと仲良くやってくれな。
ミツ、疲れてないか?」
ミツ 「大丈夫。私、アユ村まで歩けるよ。」
シロクンヌ 「よし!では出発だ!」
アユ村の見晴らし広場。
アシヒコ 「そうか、タガオの目がのう。良かったのう。」
マユ 「ミツ、良かったね。」
ミツ 「うん。きっと、もう少し良くなると思う。」
シロクンヌ 「確かにそんな気がするな。
ミヤコから戻って来る頃には、もっと見えてるんじゃないか?」
マユ 「そうなら良いね。」
アシヒコ 「女神の奇跡じゃな。
ところで、シロイブキは今夜は泊まっておくれ。
ゆっくり話を聞きたいしのう。」
マグラ 「いろいろ相談したい事もあるしな。栗実酒を酌み交わそう。」
シロイブキ 「そうだな。では一晩、厄介になるか。」
マユ 「シロクンヌの兄弟だけあって、やっぱりカッコいいわね。
私はマユ。よろしくね。」
シロイブキ 「あ、ああ。よろしく頼む。」
タカジョウ 「なんだシロイブキ、赤くなってるぞ(笑)。
マユ、シロイブキはひとり者なんだ。彼女募集中らしいぞ。」
テミユ 「へー、そうなんだ。マユ、付き合っちゃいなよ。」
カザヤ 「おお、お似合いだ。なあシロクンヌ。」
シロクンヌ 「ハハハ。そうだな。イブキ、ヒゲを剃ってもらったらどうだ?」
シロイブキ 「クンヌ、からかうものじゃない。マユに迷惑だよ。」
マユ 「迷惑なんかじゃないわよ。私でよければ、ヒゲを剃ってあげるよ。
裏の温泉で剃ってあげようか?」
シロクンヌ 「それがいいぞ。神坐の件はナイショでな(笑)。」
フクホ 「アハハハハ。シロクンヌも人が悪いよ。」
シロイブキ 「なんだ?神坐の件って。」
シロクンヌ 「何でもないさ。カモ鍋、美味しかった。ご馳走になったな。
そう言えば、これはハニサの大好物だったな。
ハニサはどうしてるかな・・・」
ナジオ 「あはは、やっぱり言った!」
タカジョウ 「これで二度目だぞ。
先が思いやられるわ(笑)。」
テミユ 「ハニサは愛されてるんだねー。」みんなが笑った。
シロクンヌ 「ははは、油断すると、口をついて出てしまうな。
さあ、おれ達は出発しよう。」
ナジオ 「舟はこの下だ。サチとミツも漕いでみるか?」
サチ 「ミツ、漕いでみようか?」
ミツ 「うん。海でも漕ぐんでしょう?練習になるよ。」
フクホ 「ねえアンタ、あれを渡した?」
アシヒコ 「そうじゃった!大事な物を忘れておった。
あれからこの村に、アマゴ村のノムラ爺さんが訪ねて来たんじゃ。
沈んだ村から引き上げた矢じりを見たいと言っての。」
フクホ 「丸一日、引きこもって矢じりを見ていたのよ。」
アシヒコ 「そして、この五つの矢じりを選んだんじゃ。
この五つは、ノムラ爺さんでも作れんそうじゃ。
じゃからおそらく、これらの作者は、アヤその人だと言うことじゃ。」
シロイブキ 「見せてくれ・・・
確かに素晴らしい出来栄えだ。これほどの物は、他に無いだろうな。」
アシヒコ 「サチ、これをミヤコへ持ち帰って、アヤのイエの人達に見せてはどうかの?」
サチ 「はい。もらえるなら、是非そうしたいです。」
アシヒコ 「では一つ一つ、革袋に入れて進ぜるでの。大切に持って行くんじゃぞ。」
サチ 「はい、ありがとう。」
湖のほとり。
シロクンヌ 「おお!立派な舟じゃないか。上手に削ったもんだなあ。これなら速いだろう?」
ナジオ 「シロクンヌにそう言ってもらえると嬉しいよ。」
コヨウ 「兄さん、体に気をつけてね。また会えるよね?」
タカジョウ 「ああ、こっちに戻って来るつもりだ。
コヨウも風邪など引くんじゃないぞ。オジヌと仲良くな。」
コヨウ 「うん。もしお爺ちゃんに遭ったらよろしくね。」
ナジオ 「じゃあ4人共乗ってくれ。おれが押すから。
おれがケツに乗って出来るだけ舵を取るから、みんな好きに漕いでくれていいよ。」
シロクンヌ 「タカジョウは舟の経験は?」
タカジョウ 「あるよ。海でもある。一通り師匠から教わってる。
さあシップウ、久しぶりの舟だぞ。」
マグラ 「サチ、待ってるからな。アヤのイエの人達によろしくな。」
サチ 「はい。あそこに見えるのがそうだね。」
カザヤ 「船着き場は、もう大分出来てるよ。造成も順調に進んでる。」
シロイブキ 「スワは活気にあふれているなあ。」
テミユ 「湖の向こう側の村々も、アヤクンヌの到着を待ちわびているから、
向こうでも歓迎を受けると思うわよ。」
タカジョウ 「よし!船出だ!
シロクンヌ、号令を頼む!」
シロクンヌ 「みんな、いろいろ世話になった。
戻って来たら、また夜宴をやろう!
その時に土産話をいっぱい聞かせてやるからな。
では、出発ー!」
縄文GoGoウルシ村編 終了。
縄文GoGo旅編 第1話 1日目③
スワの湖上。
シロクンヌ 「スイスイ進むなぁ。」
ナジオ 「大人5人で漕ぐよりも速いよ。
シロクンヌは分かるが、タカジョウがこんなに巧く漕ぐとはなあ!」
サチ 「私、こんなに速い舟に乗ったの、初めて。」
ミツ 「私も!
サチ、私達、漕がない方が速いんじゃない?」
サチ 「そうだね!漕ぐの止めてみようか。」
タカジョウ 「よし!じゃあ、本気出すか!」
ミツ 「わー!速いよ!」
サチ 「速いねー!
シップウ、大人しく舟に乗ってるんだね。」
ナジオ 「風を受けて、シップウも気持ち良さそうだな。
ところで、今夜はどこに泊まるんだ?」
タカジョウ 「そうだ、それはおれも気になってた。
野宿か?」
シロクンヌ 「ふむ、さっきまでそう思っていたんだがな、どうもそうはいかんかも知れん。
あれ、見てみろよ。100人以上いるぞ。」
タカジョウ 「ホントだなあ。出迎えか?」
ナジオ 「おそらくアヤクンヌの到着を待ちわびた人達だよ。
いつ来るんだ?って、方々でしつこく聞かれたからなあ。」
山中
シロクンヌ、タカジョウ、サチ、ミツの4人が歩いている。
タカジョウ 「ああ、まいったなあ。」
シロクンヌ 「スワでのサチの人気はすさまじいな。」
タカジョウ 「うちの村に来い、いやおれの村だって、引っ張られておったが、サチ、腕がもげておらんか?」
サチ 「大丈夫(笑)。でもびっくりしたね!」
シロクンヌ 「なんとかナジオがなだめてくれたが、もしどこかに泊まろうものなら、争いが生じておったよな?」
タカジョウ 「間違いない。先を急いでおるからと、地図だけもらって駆け抜けたのが正解だったぞ。」
シロクンヌ 「地図の通り、そこに渓流がある。
そこで水を汲んで、上に登った所で野営の準備をしよう。
ミツ、疲れただろう?」
ミツ 「少しだけね。でも準備もいっぱい手伝えるよ。」
渓流の谷を登った野営地
シロクンヌ 「よし、ここにしよう。
まず祈りを行う。三人はそこにひざまずいてくれ。
清水を供えて・・・
ちーのーみーたーまーにーもーうーしーきーかーせーたー」
タカジョウ 「ホントだな。この炭を使えば、簡単に火熾しできるんだなあ。」
シロクンヌ 「じゃあサチ、さっきのササヤブに行くぞ。
ササ屋根の材料を取って来よう。」
サチ 「はい!」
タカジョウ 「ミツ、柴拾いだ。一晩分の柴を集めるぞ。
太い倒木があれば、それもここに運ぶ。」
ミツ 「はい!」
シロクンヌ 「青葉を焚いて、煙を出しておくか。煙がこの場所の目印だ。
何かあったら、ボウボウで連絡する。」
タカジョウ 「さっき獲ったウサギをくれ。カモもだ。
この枝からぶら下げて、シップウに番をさせておく。」
ミツ 「シップウが番をしていたら、熊だって横取りしようとは思わないよね。」
シロクンヌ 「よし!日が暮れん内にやってしまおう。」
バンドリを装着し、荷縄(にな)を持って二組は出発した。
シロクンヌ 「おお、また沢山担いで来たな!」
タカジョウ 「これだけあれば、朝まで持つんじゃないか?」
シロクンヌ 「ああ十分だ。ミツも沢山背負って来たんだな。」
サチ 「ミツ、偉いねぇ。重かったんじゃない?」
ミツ 「大丈夫だよ!何だか楽しいもん!」
サチ 「うん!何だか楽しいよね!」
タカジョウ 「シロクンヌ!この山積みになってるササ、おぬしが採って来たのか?」
シロクンヌ 「ああ、おれとサチでな。
四人とシップウが寝るんだ。
これくらいは有った方がいいだろう?」
タカジョウ 「そりゃあそうだが・・・
おぬし、腕が10本はえとりゃあせんか?」
シロクンヌ 「ははは。おれとサチは寝床作りするから、タカジョウはミツと晩メシの方を頼めるかな?」
タカジョウ 「分かった。少し時間はかかるが、旨いもんが食いたいだろう?
あそこにいい段差があるから、横穴炉を作って、ウサギの丸焼きをやるよ。
はらわたは、シップウが食う。
ミツ、手伝ってくれ。旅の初日だ。
旨いもんをつくるぞ。」
ミツ 「はい!」
シロクンヌ 「タカジョウ、地の祓(はらえ)をやっておくか。」
タカジョウ 「ふむ、では全員で行こう。
行くぞ、大きく息を吸え。
ぶをうううううー。」
全員で、横隔膜を揺さぶる声を出した。けものを威嚇する声だ。
けものからの夜襲を、未然に防ぐ方策だ。
夕食
あたりはすっかり暗くなっている。
大きく火が焚かれ、バチバチと音を立て火の粉が舞い上がる。
その風上で、四人は御座の代わりにカモシカの冬毛の毛皮を敷いて座っていた。
カモシカの冬毛は、細い毛が綿の様に生えていて、とても暖かいのだ。
シロクンヌ 「旨いなー。このウサギ肉、パリッパリじゃないか。」
ミツ 「いい匂いがするのは、香草?」
サチ 「美味しい!タカジョウって料理が上手なんだね!」
タカジョウ 「横穴炉(オーブン)でじっくり焼いたからな。カモはどうだ?サクラ燻しだぞ。」
シロクンヌ 「これは串に刺してから燻したんだなあ。絶品だ!串まで旨いぞ。」
タカジョウ 「おいおい、まさか食っちゃおらんだろうな(笑)。」
サチ 「あはは、父さん、串をなめてる。」
ミツ 「私もなめよう。美味しいよ!」
タカジョウ 「ふむ、確かに串まで美味い。今日の燻しは大成功だな。
だが、いつもこうだとは思うなよ(笑)」
タカジョウ 「ハシャギ回っておったが、いつの間にか眠ってしまったな(笑)。」
シロクンヌ 「ふむ、やはり疲れていたのだろうな。仲良く並んで寝てる。毛皮を掛けてやるか。」
タカジョウ 「明日の天気だが、どう思う?」
シロクンヌ 「まず雨だろうな。今は星空が綺麗だが、雨雲のニオイがする。
問題は、どの程度の雨かだが・・・」
タカジョウ 「おれは、ひょっとすると台風なんじゃないかと思う。季節外れだが。」
シロクンヌ 「タカジョウもか!よし!今から備えておくか!」
タカジョウ 「今年はまだ山に雪が降りておらんからな。暖かいんだぞ。
何で風除けを作る?」
シロクンヌ 「あの樹だ。あの三本の樹の内側を頑丈な避難豪にする。
あの三本なら、風を受けても折れはせんぞ。
地面から半回し上がった所に床を張ろう。
さっきのササヤブに篠竹が生えていた。伐り出しに行って来る。」
タカジョウ 「せっかく組んだあの屋根だが、一旦くずすぞ。あっちに組み替える。」
シロクンヌ 「そうしてくれ。もっと細かく、きつく組んでくれ。では行って来る。」