縄文GoGo旅編 第1話 1日目③
スワの湖上。
シロクンヌ 「スイスイ進むなぁ。」
ナジオ 「大人5人で漕ぐよりも速いよ。
シロクンヌは分かるが、タカジョウがこんなに巧く漕ぐとはな!」
サチ 「私、こんなに速い舟に乗ったの、初めて。」
ミツ 「私も!
サチ、私達、漕がない方が速いんじゃない?」
サチ 「そうだね!漕ぐの止めてみようか。」
タカジョウ 「よし!じゃあ、本気出すか!」
ミツ 「わー!速いよ!」
サチ 「速いねー!
シップウ、大人しく舟に乗ってるんだね。」
ナジオ 「風を受けて、シップウも気持ち良さそうだ。
ところで、今夜はどこに泊まるんだ?」
タカジョウ 「そうだ、それはおれも気になっていた。
野宿か?」
シロクンヌ 「ふむ、さっきまでそう思っていたんだがな、どうもそうはいかんかも知れん。
あれ、見てみろよ。100人以上いるぞ。」
タカジョウ 「ホントだな。出迎えか?」
ナジオ 「おそらくアヤクンヌの到着を待ちわびた人達だよ。
いつ来るんだ?って、方々でしつこく聞かれたからなあ。」
山中
シロクンヌ、タカジョウ、サチ、ミツの4人が歩いている。
タカジョウ 「ああ、まいったな。」
シロクンヌ 「スワでのサチの人気はすさまじいな。」
タカジョウ 「うちの村に来い、いやおれの村だって、引っ張られておったが、サチ、腕がもげておらんか?」
サチ 「大丈夫(笑)。でもびっくりしたね!」
シロクンヌ 「なんとかナジオがなだめてくれたが、もしどこかに泊まろうものなら、争いが生じておったよな?」
タカジョウ 「間違いない。先を急いでおるからと、地図だけもらって駆け抜けたのが正解だったぞ。」
シロクンヌ 「地図の通り、そこに渓流がある。
そこで水を汲んで、上に登った所で野営の準備をしよう。
ミツ、疲れただろう?」
ミツ 「少しだけね。でも準備もいっぱい手伝えるよ。」
渓流の谷を登った野営地
シロクンヌ 「よし、ここにしよう。
まず祈りを行う。三人はそこにひざまずいてくれ。
清水を供えて・・・
ちーのーみーたーまーにーもーうーしーきーかーせーたー」
タカジョウ 「ホントだな。この炭を使えば、簡単に火熾しできるんだなあ。」
シロクンヌ 「じゃあサチ、さっきのササヤブに行くぞ。
ササ屋根の材料を取って来よう。」
サチ 「はい!」
タカジョウ 「ミツ、柴拾いだ。一晩分の柴を集めるぞ。
太い倒木があれば、それもここに運ぶ。」
ミツ 「はい!」
シロクンヌ 「青葉を焚いて、煙を出しておくか。煙がこの場所の目印だ。
何かあったら、ボウボウで連絡する。」
タカジョウ 「さっき獲ったウサギをくれ。カモもだ。
この枝からぶら下げて、シップウに番をさせておく。」
ミツ 「シップウが番をしていたら、熊だって横取りしようとは思わないよね。」
シロクンヌ 「よし!日が暮れん内にやってしまおう。」
バンドリを装着し、荷縄(にな)を持って二組は出発した。
シロクンヌ 「おお、また沢山担いで来たな!」
タカジョウ 「これだけあれば、朝まで持つんじゃないか?」
シロクンヌ 「ああ十分だ。ミツも沢山背負って来たんだな。」
サチ 「ミツ、偉いねぇ。重かったんじゃない?」
ミツ 「大丈夫だよ!何だか楽しいもん!」
サチ 「うん!何だか楽しいよね!」
タカジョウ 「シロクンヌ!この山積みになってるササ、おぬしが採って来たのか?」
シロクンヌ 「ああ、おれとサチでな。
四人とシップウが寝るんだ。
これくらいは有った方がいいだろう?」
タカジョウ 「そりゃあそうだが・・・
おぬし、腕が10本はえとりゃあせんか?」
シロクンヌ 「ははは。おれとサチは寝床作りするから、タカジョウはミツと晩メシの方を頼めるかな?」
タカジョウ 「分かった。少し時間はかかるが、旨いもんが食いたいだろう?
あそこにいい段差があるから、横穴炉を作って、ウサギの丸焼きをやるよ。
はらわたは、シップウが食う。
ミツ、手伝ってくれ。旅の初日だ。
旨いもんをつくるぞ。」
ミツ 「はい!」
シロクンヌ 「タカジョウ、地の祓(はらえ)をやっておくか。」
タカジョウ 「ふむ、では全員で行こう。
行くぞ、大きく息を吸え。
ぶをうううううー。」
全員で、横隔膜を揺さぶる声を出した。けものを威嚇する声だ。
けものからの夜襲を、未然に防ぐ方策だ。
夕食
あたりはすっかり暗くなっている。
大きく火が焚かれ、バチバチと音を立て火の粉が舞い上がる。
その風上で、四人は御座の代わりにカモシカの冬毛の毛皮を敷いて座っていた。
カモシカの冬毛は、細い毛が綿の様に生えていて、とても暖かいのだ。
シロクンヌ 「旨いなー。このウサギ肉、パリッパリじゃないか。」
ミツ 「いい匂いがするのは、香草?」
サチ 「美味しい!タカジョウって料理が上手なんだね!」
タカジョウ 「横穴炉(オーブン)でじっくり焼いたからな。カモはどうだ?サクラ燻しだぞ。」
シロクンヌ 「これは串に刺してから燻したんだなあ。絶品だ!串まで旨いぞ。」
タカジョウ 「おいおい、まさか食っちゃおらんだろうな(笑)。」
サチ 「あはは、父さん、串をなめてる。」
ミツ 「私もなめよう。美味しいよ!」
タカジョウ 「ふむ、確かに串まで美味い。今日の燻しは大成功だな。
だが、いつもこうだとは思うなよ(笑)」
タカジョウ 「ハシャギ回っておったが、いつの間にか眠ってしまったな(笑)。」
シロクンヌ 「ふむ、やはり疲れていたのだろうな。仲良く並んで寝てる。毛皮を掛けてやるか。」
タカジョウ 「明日の天気だが、どう思う?」
シロクンヌ 「まず雨だろうな。今は星空が綺麗だが、雨雲のニオイがする。
問題は、どの程度の雨かだが・・・」
タカジョウ 「おれは、ひょっとすると台風なんじゃないかと思う。季節外れだが。」
シロクンヌ 「タカジョウもか!よし!今から備えておくか!」
タカジョウ 「今年はまだ山に雪が降りておらんからな。暖かいんだぞ。
何で風除けを作る?」
シロクンヌ 「あの樹だ。あの三本の樹の内側を頑丈な避難豪にする。
あの三本なら、風を受けても折れはせんぞ。
地面から半回し上がった所に床を張ろう。
さっきのササヤブに篠竹が生えていた。伐り出しに行って来る。」
タカジョウ 「せっかく組んだあの屋根だが、一旦くずすぞ。あっちに組み替える。」
シロクンヌ 「そうしてくれ。もっと細かく、きつく組んでくれ。では行って来る。」