縄文GoGo旅編 第2話 1日目④
野営地。続き。
シロクンヌ 「きーのーみーたーまーにーもーうーしー・・・」
タカジョウ 「まだ雲は出ておらん星空だが、風が出て来たな。」
シロクンヌ 「なま温かい風だ。シップウの様子は?」
タカジョウ 「落ち着かん感じだ。間違いなく台風だと思うぞ。」
サチ 「父さん、手伝う?」
シロクンヌ 「起きたのか。ミツは寝てるようだな。
ではサチ、父さんと森を歩いて、腕くらいの太さの樹を見つけたら教えてくれ。
こんな時、サチの眼は大いに頼りになる。
遠くでも見えるんだろう?」
サチ 「はい。見えるよ。」
シロクンヌ 「ではタカジョウ、渡しになるような木を採って来る。
ミツを頼むな。」
タカジョウ 「ちょっと待ってくれ。
床の高さだがな、一回しくらいの高さにして、床下に柴木をくくりつけんか?」
シロクンヌ 「そうだな!濡れん柴は有った方がいい。
それに壁は外からガッシリとくくりつけて、
床から出入りした方がいいから、一回しにしよう。
床木を上げて出入りする。」
タカジョウ 「高さはどれ位のつもりでいる?」
シロクンヌ 「風を受ける面は小さい方が良い。
低い壁にしよう。
床に座って、頭が屋根に当たらん位か。」
タカジョウ 「ここからここまででいいな?
ではおれは、この三本の樹に、渡しの受け溝を彫っておく。
樹よ、痛いだろうが勘弁してくれな。
おれ達も、命が懸かっているんだ。」
シロクンヌ 「よし、サチ、行くぞ。」
サチ 「はい。父さん、何かあったの?」
シロクンヌ 「よし!これでいい。
方々から折れた枝などが飛んで来るだろうが、これだけ頑丈に作れば大丈夫だ。
樹の幹の周りだけは、少し水が伝うだろうがな。」
タカジョウ 「シロイブキが作ったという縄。
シナノキの皮で作られたこの縄が、早速役に立ったな。
この床、これだけドスンドスンやっても、びくともせんぞ。
屋根の渡しもしっかりしておる。
ぶら下がっても大丈夫だ。」
シロクンヌ 「うむ、さすがにイブキが自慢しただけの事はあるよ。
さあ、こっちに引っ越ししよう。
ミツを抱いて来る。
風が強まった。星が一つも見えん。そろそろ降り始めるかもな。」
夜中。避難用の小屋の中。
怒り狂ったような暴風雨の中、小屋は壊れずにしっかりともっていた。
真っ暗な小屋の中で、4人は身を寄せて座っていた。
シップウは、タカジョウのひざにいる。
ミツ 「うわっ、今何かがぶつかって来たね。」
サチ 「凄い音。私、台風ってあんまり知らない。
ミヤコでは、こんな雨風ってあんまり無いよ。」
ミツ 「怖いねー。」
タカジョウ 「吹雪はどうだ?冬場に吹雪いたりするんじゃないか?」
サチ 「うん。前が見えなくなったりする。
でもその時でも、こんな音はしないから。」
シロクンヌ 「シップウも眠れない様子だな。」
タカジョウ 「うむ。明日は腕に止まらせて移動だ。
しかしこうやって旅をして改めて思うのだが、野営をすれば痕跡は残る。
野ざらしで寝る訳にはいかんからな。」
シロクンヌ 「オロチか?」
タカジョウ 「まあ、そうだ。」
シロクンヌ 「ミツ。心配はいらんぞ。
おれが護ってやるからな。
タカジョウもいる。シップウもいるし、サチもいる。」
ミツ 「はい!ありがとう!」
タカジョウ 「旅の間、一人で離れた所に行ってはいかんぞ。
必ず、3人の誰かと一緒にいろ。」
ミツ 「はい!」
シロクンヌ 「サチも気をつけるんだぞ。サチとミツはそっくりだ。
間違っても、オトリになってオロチをおびき寄せようなどと思うなよ。」
サチ 「はい!」
ミツ 「私もそれが少し心配だった。
湧き水平でサチが居なくなった時、私、凄く心配したんだよ。
サチ、オロチの事は、大人の人にまかせようね!
サチは、無理しないでね!絶対だよ!」
サチ 「うん分かった。前みたいな事はもうしないよ。
父さんとタカジョウとシップウが護ってくれれば、もう安心だもん。
台風の中でだって、こうしてお話できてるんだしね。」
ミツ 「ホントだねー。台風が来るって分かるなんて凄いよね。
村の人達、どうしてるかな?」
タカジョウ 「多分だが、おれ達の心配をしていると思うぞ(笑)。」
シロクンヌ 「おそらくな。ハニサはどうしてる・・・おっと、危なかったー。」
タカジョウ 「今のは言ったも同然だぞ(笑)。
サチ、何回目だったかな?」
サチ 「5回目。」
ミツ 「アハハハハー。」
シロクンヌ 「どうしてだろうなあ。
すぐに口をついて出てしまうんだ(笑)。」
タカジョウ 「そりゃあふた月近く、ずっとハニサと一緒だったんだろう?
旅立ってすぐだから、しょうがないさ。
おれだって、アコの事で頭が一杯だった時期があるからな。」
ミツ 「うわっ、また何かがぶつかった。
これじゃあ、眠れないね。」
シロクンヌ 「こんな時のために、抱っこ帯を持って来た。
明日はミツとサチを交代で抱っこしてやるから、その時寝ていいぞ。」
ミツ 「わー、ありがとう!
じゃあ眠るの止めて、何かのお話しようか?」
サチ 「うん!何のお話がいい?」
ミツ 「こんな時にするんだから・・・怖いお話がいい!
きっと、もっと怖くなるよ。」
タカジョウ 「ははは。おれも抱っこしてやりたいが、シップウがヤキモチ焼くからなあ。
怖いお話と言えば、シロクンヌ、怖い思いをした事があると言っていただろう?
湧き水平で、溺れた時の話をしていた時に。」
サチ 「私もそれ、気になってた。
溺れた事は無いけど、怖い思いをした事はあるって言っていたでしょう?
父さんでも、怖い思いをする事があるんだと思って。」
ミツ 「うん、テミユがオオヤマネコに襲われた話をした時だよね?
あの時、みんな気になっていたと思うよ。」
シロクンヌ 「じゃあ、海での怖かった体験談をしようか?」
ミツ 「うん!聞きたい!」
サチ 「私も!」
シロクンヌ 「いくつかあるぞ。どの程度怖いのがいい?」
ミツ 「どうせだから、とびっきり怖いのがいい。」
シロクンヌ 「では話としてはさほど怖くはないが、
体験したおれとしては一番怖かった出来事でいいな?
実はこの旅にも関係あるんだぞ。
カワセミ村での出来事だから。」