縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第4話 2日目①

 
 
 
          翌朝。野営地。
 
タカジョウ  「渓流を見に行ったが、渓流どころか荒れ狂う濁流だ。」
シロクン  「山の様子も、昨日とは全然違う。相当な台風だったな。
        小屋が無事で良かったよ。
        この3本の樹のお陰だ。
        お神酒を捧げたいが、持ち合わせが無いからなあ。」
ミツ  「おはよう。雨、止んだんだね。」
タカジョウ  「起きたか。サチは?」
ミツ  「今、降りてくる。
     わー、いっぱい樹が折れてる。」
サチ  「おはよう。シップウは?」
タカジョウ  「あそこだ。さっそくヘビを捕まえて、食っておる(笑)。」
シロクン  「キノコ汁が出来たぞ。木の皮鍋だ。
        おれ達も朝メシにしよう。」
タカジョウ  「お?こりゃあグリッコじゃないな。」
サチ  「クリコ。私とミツで作ったの。」
ミツ  「搗栗(かちぐり)で作るんだよ。ミヤコの食べ物なんだって。」
タカジョウ  「ミヤコの味か。旨いもんだな。」
シロクン  「今日も歩くからな。
        交代で抱っこしてやるが、クルミもタップリ食べておけよ。」
サチ  「はい。でも途中の川が荒れていたりしそうだね。」
ミツ  「崖崩れとかもあるかも知れないよ。」
シロクン  「そうだな。まさか初っ端から台風とはな(笑)。」
タカジョウ  「まあ、無事だったから良かったよ。
        昨日食べたウサギとカモだがな、魂送り(たまおくり)の儀をやった方がよくないか?」
シロクン  「そう思って、昨日骨は埋めておいた。
        あとで掘り出して、祈りを捧げよう。
        送り場に納められんからな。」
 
    送り場とは、現代人からすればゴミ捨て場に近い。
    各村には送り場があり、そこは村の中でも聖域だ。
    食料とした動植物の残滓(ざんし)や使い終わった道具などをそこに納めた。
    そこに納められた物は、すんなりとあの世に旅立ち、
    またこの世に戻ってくることができると信じられた。
    人が使った道具にも、たましいが宿ると信じられていた。
    ・・・と、これらはあくまで、作者の空想です。
    多くの貝殻を納めた送り場は、貝殻から出るカルシウム成分が酸性土壌を中和し、
    普通なら溶けてしまう骨角類を保存し、貝塚と呼ばれるものになる。
    ウルシ村では、冬至の午後、送り場の前で魂送りの祭りが行われている。
 
タカジョウ  「あの小屋は、どうする?」
シロクン  「もしかすると、スワの衆が心配して探しに来るかも知れん。
        あれを見れば安心して帰るだろうが、あの縄は、また使いたいんだよな・・・」
タカジョウ  「縄をほどいて、材料を樹の根元に綺麗に積んでおけばどうだ?
        それと火を焚いた跡をみれば、おれ達の無事は分かると思うよ。」
シロクン  「そうだな。ここは地図に沿って進んで来た場所だ。
        探しに来れば、すぐに見つけるだろう。
        村の方でも何らかの被害が出ておるだろうから、余分な心配はさせたくないからな。」
タカジョウ  「ところでサメ漁の兄弟だが、カワセミ村に行けば会えるのか?」
ミツ  「会ってみたいよね?」
サチ  「うん!」
シロクン  「それがなあ・・・
        4年前の春に、二人で舟に乗って漁に出て以来、帰って来てないんだよ。」
タカジョウ  「なにかの事故に遭ったのか?」
シロクン  「んー・・・
        霞山(かすみやま)に登ったと、村の衆は言っている。」
タカジョウ  「舟で山に登るのか?」
シロクン  「実はおれも信じられんのだが、海に山が現れることがあるらしいんだよ。」
ミツ  「海って言うのは、湖が大きくなったみたいになってて、空の下が全部水なんでしょう?」
サチ  「そうだよ。山が現れるって、どういう事なんだろう?」
シロクン  「普段は普通の海なんだぞ。海と空しか見えない。
        だけどたまにだが、海のむこうに陸地がある時があるそうだ。」
タカジョウ  「それは村人全員が言ってるのか?」
シロクン  「そうだ。その付近の者全員が見ている。
        ただ、その陸地にたどり着いた者はいない。
        二人が漁に出ている時に、霞山が現れたそうだ。
        海はとても穏やかだったらしい。」
 
 
          道中。葉が落ちた樹で、見通しのきくゆるやかな山。
 
シロクンヌ  「ここらで休憩するか。キジバトを焼いて食おう。」
タカジョウ  「ダケカンバが倒れておる。焚き付けに使うか。」
シロクン  「ミツ、メシにするぞ。よく寝ている(笑)。」
サチ  「タキギを拾うね。」
シロクン  「待て!誰か来る。」
タカジョウ  「6人か。あやしいぞ。」
シロクン  「ミツ、起きてくれ。下ろすぞ。
        タカジョウ、二人を連れて、少し後ろに下がっていてくれ。
        それからな、あいつらの前で、決してお互いの名を呼び合ってはいかんぞ。」
 
 
  「いい所で会った。ちょうど道に迷っていたんだ。
    ウシシ村ってどう行くんだ?知ってるだろう。」
シロクン  「ウシシ村?その村に用事なのか?」
  「ウシシ村なんかにゃ用事はねえよ。
    ハニサって女に用事があるんだ。
    とんでもねえ美人だって言うじゃねえか。
    おまえ、ハニサを見た事あるか?」
シロクン  「おまえらこの辺りの者ではないだろう。
        どこから来た?」
  「どこから来たか分かりゃあ苦労しねえんだ、馬鹿野郎!
    ハニサを見た事あるのか無いのか、どっちなんだよ。
    にいちゃん達二人、ガタイはいいが、こっちは6人いるんだぞ。
    棒っ切れ持っていきがるんじゃねえぞ。
    こっちは槍だ。石斧だって持ってるぜ。
    この黒切りで、首をツーっとやってやろうか?」
シロクン  「ハニサの事は誰から聞いた?」
  「ハニサをはらませたやつだよ。おれのツレだ。」
    なあ、あの女二人、おまえの女か?毎日やってるのか?」
シロクン  「娘だ。おまえ、アマカミの事は知ってるか?」
  「アマカミだあ?何の話してやがる。
    娘なら、おまえの言いなりだろう。おまえ、好き放題やってやがるな?
    あっちの兄ちゃんにもやらしてるんだろう?
    何だおまえら、もうしごいてるのか。うひゃひゃひゃ。気が早えな。」
シロクン  「おまえらの荷物、濡れておらんようだが、昨夜の台風、どこでしのいだ?」
  「うるせえんだ、おめえ。」
 
    男がいきなり殴り掛かって来た。
    そこからのシロクンヌの動きは、とても眼で追えるものでは無かった。
    6人全員、杖で深々と脾臓を突かれていた。
    身構える間も与えない、あっと言う間の出来事だ。
    6人全員、濡れた地面に転げ回り、泥と枯れ葉にまみれながら、
    味わった事のない強烈な痛みに、うめき声をあげて苦しがっている。
 
シロクン  「二人一組にして縛り上げる。
        抵抗した者は容赦せんぞ。
        おまえ、抵抗しそうだな。
        容赦せんとはどういう事か、教えておこうか?」
  「や、止めてくれ。おとなしくする。」
 
 
    男達は、背中合わせになってくくりつけられた。
    腕には長い棒が通され、磔(はりつけ)のようなかっこうで、
    手を曲げる事も下ろす事も出来ない。
 
シロクン  「さあ、台風をしのいだ場所に案内しろ。
        さっさと横歩きして進め。
        言っておくがおまえ達、この先、ウソをついたら容赦せんからな。
        ウソかどうかの判断はおれがする。
        ウソだと思ったら、いきなり行くぞ。
        おまえ、ウソつきそうだな。」
  「わ、わかった。ウソはつかん。
    うー!止めてくれ!」
シロクン  「それがウソだ。このまま握り潰してやろうか?」
  「絶対だ!絶対ウソはつかん!」
 
 
シロクン  「ムロヤが1軒見えて来たが、あそこか?」
  「そうだ。」
シロクン  「ここで待っていてくれ。
        おれ一人で見に行って来る。」
タカジョウ  「わかった。」
 
 
シロクン  「誰も居なかった。しかし、女も住んでいるはずだ。
        あの丘の上から旗が見えたんだ。村がある。
        あっちの方向だ。それほど遠くない。
        3人でその村に行って、村人数人でここに来るように言ってくれないか。
        3人はそのまま村で待っていてくれ。
        後からおれもそっちに行く。」
タカジョウ  「分かった。あっちだな。」
シロクン  「そうだ。さておまえ達、両脚のヒザを縛らせてもらうぞ。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。