縄文GoGo旅編 第6話 2日目③
下の温泉。
セリ(11歳・女) 「潜りっこしよう。一番長く潜っていた人が勝ちね。
いくよ。せーのっ!」
セリ、サチ、ミツの3人が、一斉に温泉に潜った。
タカジョウ 「ハハハ、絶対、サチが一番だぞ。」
シロクンヌ 「子供はすぐに仲良くなる(笑)。
それにしても、5人で入るにはもったいない広さだ。
コノカミが自慢しただけの事はあるなあ。」
セリ 「プァー、あー私がドベだ。」
ミツ 「プァー、こんなの、絶対サチだよ。」
セリ 「そうか!スワの湖に潜ったんだったね!」
ミツ 「洞窟の泉にも潜ったよ。凄く冷たいの。
薙ぎ倒しイノシシの牙を持って泳いだんだよ。」
セリ 「それ、凄く長いって聞いたよ。」
ミツ 「長いよ。ここからね、あそこくらいまである。そして重いの。」
セリ 「奥の洞窟って寒いんでしょう?こないだ、イワジイから聞いた。」
タカジョウ 「イワジイが村に来たのか?」
セリ 「そう。泊まってはいかなかったけど。って、サチってまだ潜ってるよね。
上がってどっか行っちゃった?」
シロクンヌ 「もうそろそろ顔を出すぞ。あの辺から(笑)。」
セリ 「え?さっきまでここにいたよ?」
ミツ 「この温泉、広いもんね。私、こんなに広い温泉って初めて。」
サチ 「プァー、こっちは熱いんだねー!」
セリ 「ホントだ!いつの間に行ったの?」
サチ 「え?ホントだって、こっちから出て来るの、知ってたの?」
セリ 「うん、シロクンヌがそう言った。」
サチ 「もう父さん、言っちゃダメだよ。びっくりさせたかったのに。」
シロクンヌ 「そうだったか。すまんすまん(笑)。」
ミツ 「アハハ、シロクンヌがしかられてる。」
セリ 「ねえ、ミツってアヤの村に住むんでしょう?」
ミツ 「うん!」
サチ 「セリも来る?そしたら毎日遊べるよ。」
セリ 「行ってもいい?」
サチ 「もちろんいいよ!」
セリ 「でも、コノカミが寂しがるかな・・・」
ミツ 「舟で湖を渡れば、歩く距離ってそんなに無いんじゃない?
時々、こっちにも来れば?
昨日乗った舟なんて、凄く速かったよ。
ああいう舟を、今いっぱい作ってるんでしょう?」
シロクンヌ 「ふむ。昨日も思ったが、スワは変わる。
アヤの村が出来る頃には、この辺だって変わるぞ。
すぐそこがミヤコとなれば、ここはヒスイの道になる。
多くのタビンドが行きかうはずだ。
橋を作ったりして、今よりも人の往き来はしやすいようになるぞ。」
ミツ 「やったー!セリもおいでよ!」
セリ 「うん!」
シロクンヌ 「ところでセリ、この広い温泉に、木の葉も枝も浮いておらんが?」
タカジョウ 「台風でひどい事になっていただろう?」
セリ 「サチ達が来たから、コノカミが一生懸命片付けたの。」
タカジョウ 「一人でか?」
セリ 「んー、多分そうだと思う。途中で見に来た時、一人だったから。
汗びっしょりでやってたよ。」
シロクンヌ 「どんなご馳走よりも、ありがたいもてなしだ。」
タカジョウ 「そうだな。涙が出るよ。」
スズヒコのムロヤ。
シロクンヌ 「コノカミ、いい湯をありがとう。堪能したよ。」
タカジョウ 「広いんだなあ。まるで池だ(笑)。」
スズヒコ 「そうじゃろう。なんにもない村じゃが、下の温泉だけは胸を張れる。」
シロクンヌ 「明日、日の出の時分に入ってもいいか?」
タカジョウ 「おおいいな!きっと湯煙がもうもうとしておって最高だぞ。」
スズヒコ 「さてはおぬしら、通じゃな?
温泉は、朝が一番じゃ。もちろん、入ってくれていいぞ。
朝は村の者でもにぎわうがの。」
シロクンヌ 「よし、起き抜けに、浸かってみるか。
時にコノカミ、セリだが、ひょっとして・・・」
スズヒコ 「そうじゃ。5年前、母親と姉がさらわれた。」
タカジョウ 「母娘3人でタケノコ採りをしている時と聞いたが・・・」
スズヒコ 「ふむ、根曲がり竹のタケノコでな、熊の大好物じゃろう。
セリが熊除けの拍子木を打っておった。
その音を聞きつけたハタレ二人が、セリの目の前で、母親と姉をさらったんじゃ。
セリは6歳じゃった。
ここらで悪さをしておった二人組じゃ。
ひと月ほど前にカタグラが訪ねて来てくれての、その後の顛末は聞かせてもろうた。
セリの父親は、その時以来、とにかく憑(と)りつかれたようにあちこち探し回っての、
ある時からプッツリ戻ってきておらん。
2年前に、山奥の渓谷の岩の裂け目でヒトの骨が見つかっての、
足を滑らせて崖から落ちたようなんじゃが、
遺品の様子から、それがそうではないかと言われておるがはっきりせん。」
シロクンヌ 「コノカミは、このムロヤでセリと二人で暮らしているのか?」
スズヒコ 「そうじゃ。わしも5年前、連れ合いを亡くしての。
フキを採って来ると山に行って帰ってこんから、村中でさがしたんじゃが、
三日後に川で見つかった。
したが、亡くなってすぐのように見えた。
やつら二人の仕業だと言う者も多い。」
タカジョウ 「ここらには、ハタレがよく出るのか?」
スズヒコ 「ここはスワでも、他の村々から少し離れておる。
ハタレにしてみたら、狙い目なんじゃろう。
ここの西にはしばらく村はない。
山越え、峠越えが続くからの。
その白樺の皮の地図にも、この少し先までしか描かれてないじゃろう?」
シロクンヌ 「そうだな。ところで、イワジイが寄ったそうだが。」
スズヒコ 「そうじゃった。その話をしようと思っておったんじゃ。
イワジイから、オロチの件を詳しく聞いての。
それからわしなりに考えた。
推測じゃが、ゆうても良いか?」
シロクンヌ 「もちろんだ。」
スズヒコ 「わしは、オロチは、すでにこの世におらんと思うておる。」
タカジョウ 「その理由は?」
スズヒコ 「これだけ方々で躍起になって探しておるのに、痕跡が無いとは腑に落ちん。
痕跡は、出ておる。
それに気付いておらんだけと言う事じゃ。」
シロクンヌ 「どういう意味だ?」
スズヒコ 「全ては、姉の仕業じゃ。
皆は顔に傷のある男とか、姉弟の二人組とかを探したんじゃろう?」
シロクンヌ 「・・・そう言う事か!
姉にしてみたら、顔に傷を負ったオロチは邪魔だ。
オロチがいては、すぐに見つかる。
姉一人なら、ハグレの男を垂らし込んで、見回って来た者をやり過ごす事が出来る。」
スズヒコ 「わしはのう、オロチは残虐なだけで、知恵はそれほど無いのではないかと思うておる。
そもそも、仕返しするのなら、シップウかイワジイにじゃろう?
ミツに仕返しするなどは、どう考えても理屈に合わん。
いや、ハタレに理屈が通用せんのは分かっておる。
しかしそんな筋道立って物を考える事のできん馬鹿ハタレに、
痕跡を消して立ち去るなどの芸当は出来はせんぞ。」
タカジョウ 「確かにそうだ。おれ達は、オロチにこだわり過ぎていた。」
スズヒコ 「わしはな、姉は、知恵と残虐さを兼ね備えておると思うておる。
残虐と言うより、冷酷と言った方がよいか。
オロチを言いくるめ、オロチに深い穴を掘らせ、オロチを殺しそこに落とす。」
シロクンヌ 「土を被せるだけなら、背中を怪我していても出来るだろうな。
十分に有り得る話だ。
と言うより、それが真相かもしれん。
それであれば、全てに説明がつくからな。」
スズヒコ 「シロクンヌよ。ミツは無事に助かっておるんじゃ。
イワジイは怪我をしたが、下手人はオロチでしかも軽傷じゃった。
もし二人を捕縛できておっても、姉は殺しはせんかったじゃろう?
姉は、弟に脅されてしょうがなくやったと言い逃れも出来たんじゃ。」
シロクンヌ 「そうだろうな。実際おれ達は、オロチの方の捕縛に躍起になっていたのだから。
それも、ミツに向かって仕返しするぞと言ったのが大きい。」
スズヒコ 「ふむ。つまりじゃな、どんなわずかな咎め(とがめ)も受けたくは無いんじゃ。
咎めを受けるくらいなら、平気で弟を殺す。
事実、いまだに咎められておらん。
そんな女がハタレの男どもをたぶらかして、ハタレを操り、
影の統領になったとしたら・・・」
タカジョウ 「ハグレの中に、若い女はいたのか?」
シロクンヌ 「いた。
おれが聞いた報告では、3人。
例えば父親のような男と一緒に居て、不審な点が見えなければ、
女の背中までは調べていないだろうな。
ミツも、姉は綺麗な女だと言っていた。
とてもそういう事をしそうな女には見えなかったと。
ミツは賢い。そのミツが、その女には付いて行ったんだ。
コノカミの言う通りかも知れん。」
スズヒコ 「以上は、あくまでわしの推測じゃ。
真相は分からんが、顔の傷痕にだけこだわるのはどうかと思うての。」