縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第7話 2日目④

 
 
 
          寝所のムロヤ。
 
    シロクンヌ達4人と、セリがいる。
 
サチ  「父さん見て!」 眼木のフレームが緑色にキラキラ輝いている。
シロクン  「お!綺麗だな!どうやったんだ?」
ミツ  「私もあるよ!」
タカジョウ  「分かったぞ。タマムシだろう?
        タマムシの翅(はね)をきれいに切って、すき間無く眼木に貼ったのか。」
サチ  「セリが作ってくれたの。」
シロクン  「今、作ったのか?上手にやってあるなあ。」
セリ  「これ見て。全部私が貼ったんだよ。」
タカジョウ  「このカゴの中の、全部か?
        これは腕輪だな。これは簪(かんざし)。」
 
   それは木彫りの器胎に、様々な甲虫の翅を貼り付けたアクセサリーだった。
   タマムシコガネムシ、カミキリムシなど様々だ。
   接着剤には、漆(うるし)が使われていた。
 
サチ  「こんなの、ミヤコでも見た事ないよ。」
ミツ  「これ、セリにもらった。もう少し髪が伸びたら、髪飾りにする。」
サチ  「私も、これもらったよ。」
タカジョウ  「でもこんなにたくさんの翅、どうしたんだ?
        セリが捕まえたのか?」
セリ  「タジロがね、いっぱい虫を飼ってるの。
     タジロのムロヤは、虫だらけなんだよ。」
シロクンヌ  「ハハハ。サラと気が合いそうだな。」
ミツ  「さっき見せてもらったらね、虫カゴとか虫オケとか、山積みされてたよ。」
サチ  「鳴く虫もいて結構うるさいんだぞって、嬉しそうに言ってた。」
ミツ  「だって、入った時に、もうガサガサいってたよ。」
セリ  「うん。タジロって、時々虫臭い時ある。」
タカジョウ  「アハハハ。よっぽどの虫好きなんだなあ。
        おれも長いこと、涼虫(すずむし)を飼っていたが。」
シロクン  「木の方は、誰が彫ったんだ?」
セリ  「コノカミ。上手でしょう?」
シロクン  「サチ、そのカンザシ、見せてみろ。
        これはもう、渡しに使える出来栄えだぞ。」
タカジョウ  「さてはタビンド根性がうずきだしたな?(笑)」
シロクン  「まあ、実際そんなとこだ(笑)。」
サチ  「ヤシムにあげたら、きっと喜ぶよね。」
シロクン  「そうだな。ハニサは、ど・・・」
タカジョウ  「ど?
        サチ、何回目だ?」
サチ  「今日はまだ1回目。」
ミツ  「アハハ。」
シロクン  「今のは言っておらんがなあ・・・
        そうだ。思い出した。ちょうど三つ有ったんだ。待ってろよ・・・
        そら、南の島の貝殻。ウルシ村の渡しの残りだ。
        旅の準備をしていたら袋の底から出て来た。綺麗だろう?
        一人一個ずつだ。」
セリ  「わー綺麗!もらっていいの?」
ミツ  「みんな色が違うね。」
サチ  「セリから好きなの選んで。」
セリ  「いいの?」
ミツ  「いいよ。」
サチ  「ねえ父さん、セリもここで一緒に寝ていいでしょう?」
シロクン  「ああいいぞ。コノカミにもそう言ってあるから。」
ミツ  「じゃあ今度は折り葉やろう。
     サチがすごく上手なんだよ。」
タカジョウ  「おれはちょっと、タジロのムロヤをのぞいてみるかな。
        虫だらけってのが気になってな(笑)。いいだろう?」
シロクン  「ははは。分かった。ゆっくりしてきたらいい。」
 
 
ミツ  「サチとセリが眠っちゃった。私、抱っこ帯で寝てたからまだ眠くない。
     ねえシロクンヌ、聞いてもいい?」
シロクン  「ああいいぞ。何が聞きたい?」
ミツ  「今日、変な人達と出会って、私、起こされたでしょう。
     その時、名前を呼び合うなってシロクンヌは言ったけど、どうしてなの?」
シロクン  「ふむ、あれはな、呪(しゅ)だ。」
ミツ  「しゅ?」
シロクンヌ  「やつらから、呪を投げつけられない様にしたんだ。
        名前と顔が分かれば、その人に呪を投げつける事ができる。
        ミツは知らなかっただろう?」
ミツ  「うん。知らなかった。」
シロクン  「人は死ぬとお墓に入って、そこで魂送り(たまおくり)される。
        そういう死は、清らかだ。
        ミツも小さい時、アユ村の墓場で遊んだだろう?」
ミツ  「うん。墓場は遊び場だったよ。」
シロクン  「でも中には、墓場に入れてもらえないヤカラもいる。
        魂送りをして、よみがえりをされると困るヤカラだ。」
ミツ  「あの、変な人達がそうだね。」
シロクン  「そうだ。だから、やつらの死は、ケガレている。
        やつらはよみがえりは出来ないが、たまに、呪を投げてくるんだ。
        その呪に当たると、悪い事が起きたりもする。」
ミツ  「名前と顔が分からなければ、呪を当てられないんだね?」
シロクン  「そう言う事だな。
        名を口にすると、言の葉が生まれる。
        それがヒトガタと結びつくと、祈りにも呪にも使われるんだ。」
ミツ  「身代わり人形(土偶)をそっくりに作っちゃいけないのにも、似た意味があるの?」
シロクン  「ふむ、少し似ておるな。
        ミツは、魂写しの儀(たまうつしのぎ)は知っているだろう?」
ミツ  「知ってる。お腹に宿った時に、お母さんになる人の魂(たま)を粘土に写すんでしょう?」
シロクンヌ  「そうだ。身代わり人形を作る粘土のかたまりに、魂を転写する。
        その粘土で何かを形作れば、もうそれには本人の魂が写っているんだ。
        それを壊せば、それで本人の身代わりになる。
        それなのに、魂の写った粘土で、形まで本人そっくりに作ってしまっては、
        それは本人そのものだ。
        それを壊せば、本人にわざわいが行く。」
ミツ  「そうか・・・」
シロクン  「さっき言ったように、言の葉(ことのは)もヒトガタも、祈りにも使うが、
        逆に呪につながる恐れもあるんだ。
        使い方によっては、まったく逆の働きをする。
        争いばかりの世の中になると、殺し合いも方々で起きる。
        世の中に恨みが満ちると、生きながらに呪を操ろうとする者さえ現れる。
        すると暗い世の中になるだろう?」
ミツ  「うん。そんなの嫌だよね!」
シロクン  「多くの呪が集まると、怨霊という厄介なものまで産まれる。
        争わぬ事が大切なのだ。
        争いが起こらぬようにと、人々が心やすらぐようにと、
        アマカミは、言の葉を使って毎日祈っておられるのだぞ。」
ミツ  「アマカミは、みんなのために祈ってくれているの?」
シロクン  「そうだ。」
ミツ  「あの変な人達はハタレって言うの?」
シロクン  「そうだ。」
ミツ  「ハタレが心を入れ替える事って無いの?」
シロクン  「それもアマカミは祈ってきたのだが、ハタレに人の心を持たせるのは難しくてな。
        今の所、どのアマカミにも出来ておらん。」
ミツ  「シロクンヌがアマカミになったら出来る?」
シロクン  「いや、おれには無理だ。
        おれが出来るとしたら、目の前にいるハタレから人々を護る事だけだ。
        ハタレに人の心を芽生えさせるのは、この先のアマカミにも難しいだろうな。
        だがもしそれを出来るとしたら・・・」
ミツ  「それが、アマテルなんだね?」
シロクンヌ  「そうだ。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。