縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第8話 3日目①

 
 
 
          早朝の下の温泉。
 
シロクン  「お、先客がおるな。」
タカジョウ  「やっぱり湯煙もうもうで、雰囲気が出ておるぞ。」
タエ(43歳・女) 「こっちこっちー。」
トミ(40歳・女) 「シロクンヌー、一緒に入ろうよー。」
チヅ(36歳・女) 「タカジョー、こっちが熱くていいんだよー。」
チコ(35歳・女) 「ほらほら、早くー。」
シロクン  「な、なんだか激しいぞ。」
タカジョウ  「そ、そうだな。」
チコ  「早く早く、こっちこっち。」
 
    チコがタカジョウの手を引いて、強引に女達の方に連行した。
    タカジョウは、あっと言う間に、女4人に囲まれた。
    シロクンヌは雰囲気を察して、素早く温泉から逃げ出していた。
 
タカジョウ  「シ、シロクンヌ、おれを置いて行かないでくれ!」
タエ  「いーのいーの。洗ってあげる。」
トミ  「まあ、素敵ねー!見てみなさいよ。」
チヅ  「ホント!」
チコ  「チヅ、手をどけてよ。見えないでしょう。」
タカジョウ  「シロクンヌー!戻って来てくれー!」
 
 
          3本の樹に向かう道中。
 
    シロクンヌ一行に加え、スズヒコ、タジロ、セリが歩いている。
    スズヒコが先頭を歩き、
    サチ、ミツ、セリ、タジロはワイワイ話しながら歩いている。
    そして最後尾では、シロクンヌとタカジョウがひそひそ話をしている。
 
ミツ  「あー!タジロ、虫臭いー!」
サチ  「キャハハ、虫と一緒に寝たの?」
タジロ  「別々に寝てるよ。一緒に寝たら、潰しちゃうだろう。」
セリ  「待ってね・・・今日は虫臭く無い方だよ。」
スズヒコ  「ハハハ。タジロはな、虫の物まねも巧いんじゃぞ。」
サチ  「タジロ、カマキリの物まねして!」
タジロ  「カマキリはな、尻がこう突き出ている。」
サチ  「アハハ。面白い。」
タジロ  「脚はこう。体を前に倒して、頭はコッコッとこう動くんだ。
      手はこうなっている。この手がシャオッ!」
サチ  「わー!
     もう!びっくりしたー。」
ミツ  「私にもシャオやって!」
タジロ  「シャオッ!」
 
 
タカジョウ  「おれを置いて行くとはひどいぞ。」
シロクン  「危機察知能力の違いだ(笑)。
        でも、悪い気はしなかっただろう?
        たまにはああいう事もいいんだぞ。」
タカジョウ  「しかし揉みくちゃにされたからな。」
シロクン  「シップウに助けてもらえばよかったじゃないか(笑)。」
タカジョウ  「あんな姿、シップウに見せる訳にいくもんか!
        助けもせずに、岩陰から、覗いていただろう?」
シロクン  「気付いていたか。
        なかなか見ごたえがあったぞ(笑)。
        4人を相手にどうするかと思えば、ああいう技があるんだなあ。
        あれも師匠に教わったのか?」
タカジョウ  「ばか言うな。おぬし、心底楽しんでおるだろう。
        忘れた頃に、お返ししてやる。」
シロクン  「アハハハ。気をつけておかんといかんなあ。」
タカジョウ  「ん?樹が見えて来たが、昨日と様子が違わんか?」
シロクン  「何だろうなあれは。枝に何かが引っ掛かっているんじゃないか?」
 
 
          3本の樹。
 
スズヒコ  「これがそうじゃな?なるほど立派な3本じゃ。」
ミツ  「あの上の方に絡まってるのって、昨日は無かったよね?」
シロクン  「どこかから飛んで来たんだろうな。」
タジロ  「おれ、登って外してこようか?」
シロクン  「ではその樹を頼む。サチはそれ。おれはこの樹のを外す。」
 
セリ  「サチ、木登りが巧いんだね!」
スズヒコ  「布じゃなあ。赤が2枚で黒が1枚。
       旗じゃなかろうか?」
サチ  「父さん、これって・・・」
シロクン  「まさかなあ・・・」
タカジョウ  「ウルシ村の旗って事か?」
ミツ  「似てる気がするけど・・・」
タジロ  「そんなはず無いよ。距離だってあるし、間に湖があるんだから。」
シロクン  「そうだな。
        ではお神酒を捧げて、祈りの準備をしようか。
        コノカミ、縄はどうやって張ればいいかな?」
スズヒコ  「ふむ。まず、頭の高さに各樹に巻く。
       そこにサカキの枝を挿し、樹と樹を渡すように、この太い縄を・・・」
 
スズヒコ  「よろしい。祈りを始める。
       タカジョウ。渡し木を受けるための溝を彫ったじゃろう。
       そこにこの清水をかけて回れ。
       他の者は、ムシロにひざまずきコウベをたれよ。
       きーのーみーたーまーにーもーうーしーきーかーせーたーきー・・・」
 
 
シロクン  「コノカミ、ありがとう。
        これで、この3本の樹に感謝を捧げる事ができた。」
スズヒコ  「この3本は御神木じゃ。
       供物をし、通り掛かれば拝む(おがむ)事にする。
       近隣の村にも、そう伝えおく。」
 
    作者は思うのだが、こういう場所にその後ヤシロが建ち、
    神社になったのではないだろうか。
    事実、縄文遺跡や貝塚の上に建つ神社は多いのだ。
    神社の起こりは弥生などでは決してない。
    縄文早期、一万年前だと作者は確信している。
    加えて言えば、三万八千年前から民族の滅亡もなく、侵略も受けず、
    連綿と文化を伝承して来た国は、地球上に日本しか存在しない。
    DNAが、それを証明している。
    現代日本人のDNAの中で、縄文人のDNAの占める割合が、
    予想以上に多いことが最近判明している。
    ある見方をすれば、縄文文化は昭和の中頃まで続いていた。
    練炭やガスの普及を以って、縄文時代は終了したとする意見もあるのだ。
 
タジロ  「タカジョウ、斧投げを見せてくれよ。」
タカジョウ  「では向こうに行ってやろうか。
        あそこに丁度イノシシくらいの大きさの倒木がある。」
 
タカジョウ  「まず立ち止まって投げるぞ。
        あの倒木の、右が頭だ。頭と後ろ足を狙う。
        いくぞ。少し山なりに後ろ足。素早く頭!」
タジロ  「同時に当たった!」
セリ  「石の部分が当たったよね?」
シロクン  「斧投げは石を当てるんだ。柄(え)が当たってもこたえんだろう?
        回転しながら飛んで来た斧石が当たるから、獲物はたおれる。」
サチ  「父さん、出来る?」
シロクン  「おれはやった事ないなあ。」
スズヒコ  「頭に当たった方は、相当な威力じゃったのう。」
タカジョウ  「次は走りながらやるぞ。」
 
    その時、「兄さーん」と声がした。
    見るとコヨウが走って来る。
    その後ろに、シロイブキ、ナジオ、テミユの顔が見える。
 
コヨウ  「よかったー!無事で。」
タカジョウ  「なんだ、心配して来てくれたのか?」
コヨウ  「それもあるけど・・・シップウは?」
タカジョウ  「あの枝だ。何かあったのか?」
シロイブキ  「クンヌ、報告しておかなければならん事が起きた。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。