縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第9話 3日目② 

 
 
 
          三本の樹の近く。
 
シロクンヌ  「村で何かあったのか?」
シロイブキ  「ではまずそっちから言うか。
        ウルシ村もアユ村も、村人は無事だそうだ。怪我人も出ておらん。
        ただ、建物には被害が出たようだ。
        それからシロのイエの者も、全員無事だ。
        ほっといて治る程度の怪我をした者はおるが。」
シロクン  「それなら一安心だ。
        おれの方からも伝えたい事があったんだ。
        来てくれて丁度良かったよ。
        イブキの話から聞こうか。だがその前に、簡単に紹介だけさせてくれ。
        コノカミ、この男はおれの兄弟のシロイブキ・・・」
 
 
シロイブキ  「昨日の朝、おれはアユ村を出て洞窟に向かった。
        所々に崩れた箇所はあったが、洞窟までの道は無事だった。
        そこからはカタグラと二人で、さらに上流を見に行った。
        すると規模は小さいが、崖崩れした箇所があった。
        もしかすると、一時はその辺りまで川が増水したのかも知れん。
        道から川に下りる斜面が崩れていた。
        その斜面から、ヒトの足が出ていたのだ。足首から先が。」
タガオ  「崖崩れに巻き込まれたのか?」
シロイブキ  「そう思って、二人であわてて駆け寄った。
        ところが見てすぐに分かるほどに、腐敗が進んでおるんだ。」
スズヒコ  「オロチじゃろう?」
シロイブキ  「よく分かったな。」
タカジョウ  「オロチだったのか?」
シロイブキ  「ミツ、二つ三つ聞きたいが、いいか?」
ミツ  「うん、いいよ。」
シロイブキ  「オロチの姉は、アンギン編みの木肌色の服を着ていたのだな?」
ミツ  「そう。染めて無かった。オロチが着てたのは、きつね皮。夏毛だった。」
シロイブキ  「二人は槍は持っていたか?」
ミツ  「槍は見て無いよ。見たのは、石斧と弓矢。
     あと、一人一つずつ、袋を持ってた。それもアンギンの木肌色。」
シロイブキ  「オロチの髪の長さは?覚えていたら教えてくれ。」
ミツ  「短かった。縛れないくらいの長さ。」
シロイブキ  「間違いなくオロチだ。顔に傷もあったしな。
        ミツ、ありがとう。
        コヨウ、この子達と、向こうで遊んでやってくれないかな。」
コヨウ  「うん。向こう行って遊ぼう!」
 
※ ここからは、残酷描写があります。
 
シロクン  「で、どういう状態だったんだ。」
シロイブキ  「酷い有り様だった。順を追って話すぞ。
        まず、事実だけを話す。推測抜きでな。」
スズヒコ  「それが良いの。」
シロイブキ  「足が腐乱しておったので、すでに死んでいるのは間違い無い。
        一切手を付けず、おれはテイトンポを呼びに行った。
        カタグラはそこに留まり、ボウボウでマシベを呼んだ。
        おれはテイトンポと、その辺りに詳しいハギを連れて戻った。
        その5人で、そこを掘り進めた。
        そこに立ってすぐに分かったのだが、
        崩れた土砂が遺体の上に積もったのでは無い。
        遺体から先の崖が崩れたのだ。
        だから掘ると言っても、横に掘るんだ。」
タカジョウ  「それはどういう事だ?」
シロイブキ  「斜面に横穴があり、遺体はそこにあったのだ。頭を奥にして。」
        少し掘っただけで、体の周りにすき間があるのが分かった。
        体の上や横には土が無いんだ。
        横穴の大きさだが、中で体の向きを変えるのは無理だ。
        それ位狭い。
        頭から入れば、足から出るしかない。
        遺体は右を下にした横向きで、裸だった。服は着ていない。
        そして遺体の肛門に、木の棒が刺さっているのが見えた。
        棒の太さは、握れば丁度指が届くくらいだ。」
タジロ  「なんだって!」
シロイブキ  「遺体の足元に布が見えたから、それは引き出した。
        それは血にまみれていたが、アンギンの木肌色の服で、
        背中の部分が少し裂けていた。」
テミユ  「姉が着ていた服ね。」
シロイブキ  「遺体が男なのは分かったから、おれ達は顔の傷を確認したかった。
        だから無理に引き出すようなことはせず、慎重に上の土を掘って行った。
        両手は壁を押すような形になっていて、右手中指の爪がはがれかけてた。
        他の爪には、土が入り込んでいた。
        そして手元には、短い木の棒があった。
        その棒の両端は、とがっていた。
        穴の奥の壁に後頭部が当たっていて、首は胸の方に不自然に曲がっていた。
        だから顔は穴の入口を向いている。
        顔には確かに傷があった。そしてその傷に、治った感じはまったく無かった。」
タジロ  「怪我をしてすぐに死んだと言う事なのか?」
シロイブキ  「そう見えた。それを確認したから、おれ達はゆっくりと遺体を引き出した。」
シロクン  「死後、どれほど経っていそうだった?」
シロイブキ  「十日前後というのが、大方の意見だった。
        オロチの事件から、きょうで丁度十日だそうだな。
        そして尻に刺さっていた木の棒だがな・・・
        抜いてみたのだが、先には槍の穂先は付いていなかった。
        先はそれほと尖(とが)っておらんのだ。
        その棒を遺体の横に置き比べてみたのだが、
        どう見ても、肩まで届いていたとしか考えられんのだ。」
テミユ  「え?肩までって、どういう事?」
シロイブキ  「尻から差して、先が肩に届くまで差し込んだと言うことだ。」
タジロ  「そこまでするのか・・・」
シロクンヌ  「コノカミが言った通りだったな。」
スズヒコ  「残虐さと冷酷さの両方を持っておったが。」
テミユ  「でもそこまで差し込むのって、力がいるんじゃない。
      協力者がいたって事?」
シロイブキ  「ここからは推測だが、地面に杭を打ち込む時のように、
        木か石かで、敲(たた)いたのではないかな。
        棒の持ち手側の先には、そういう跡があった。
        テイトンポは、丸太のような木だと言っていた。
        それを脇に抱えて、突いたのだと。
        そうやって、横穴の奥に押し込んだのだと。」
シロクン  「きつね皮の服は?」
シロイブキ  「見つかっていない。姉が着て行ったのだろうな。
        他にこれと言って目ぼしい物は見つかっていない。」
タカジョウ  「そこはどんな場所なんだ?」
シロイブキ  「ハギが言うには、対岸からも、川の中からでも見えん場所だったらしい。
        台風で川の様子がかなり変わっていたのだが、
        岸辺には背の高い葦(あし)が生い茂っていたそうだ。
        草が生えていて、道からも見えん。
        そこが崩れて、道から見える様になったんだ。
        あと、折れてしまっていたが、川のすぐそばにクルミの大木があって、
        横穴の上には、何本も枝が張り出していたそうだ。」
ナジオ  「シップウ対策だな。」
シロクンヌ  「ちょっと探し回った程度では、見つけにくい場所だと言う事だな?」
シロイブキ  「そうだ。だが、ハギはそこも調べたらしい。
        間違いなく、このクルミのそばは探していると言っていた。
        そこらは短い草が生えていて、そこに土が山積みなら絶対に気付いたと言うんだ。
        おれは、そういう物を探していたんだからと。
        その時はまったく異常は無かったと言うから、
        姉が巧く痕跡を消したんだろうな。
        あと、そこにはもともと、動物の巣穴なども無かったはずだと言っていた。」
シロクン  「姉の傷の度合いはどうなんだろうな?」
シロイブキ  「アンギンの背中なんだが、オロチの血でまみれておって、
        姉の出血の度合いがまったく分からんのだ。」
シロクン  「コノカミ、ここまで聞いてどんな推測をする?」
スズヒコ  「ミツの事件の後、二人はまずどこかで木の皮を剥いだんじゃろうな。
       おそらく倒木からじゃろうが、何枚か剥いだ。
       それを敷いて穴を掘り始めた。
       出た土は、その皮で受けた。
       そして、アンギンの袋に詰めて、棒の両端に吊るし、
       その天秤棒をかついでどこかに捨てに行った。
       穴も、その棒を使って掘った。
       だから、最初は棒の先はもっと尖っておったはずじゃ。
       それらの事を、全部裸のオロチがやったんじゃ。」
ナジオ  「オロチに姉の服を着せるのは?」
スズヒコ  「それはいかん。尻の穴の場所が見えんじゃろう?
       それにおそらく、姉も裸になったのじゃろうと思う。
       服を着ておっては、シップウに見つかるとゆうての。
       木の皮を剥ぐまでは、オロチも服を着ておったかも知らんが、
       その段階で、姉の中では全部の計画が出来上がっておったはずじゃ。
       血でキツネ皮を汚したくないと思えば、早い段階で脱がせたじゃろうな。
       二人の隠れ家にするとゆうて穴を掘らせたのじゃろうが、
       横幅を狭く掘らせたのは、オロチからの反撃を受けんためじゃ。
       オロチは穴にもぐらされ、更に掘り進めよと命じられたんじゃ。
       どんな口調で言ったのかは分からんが、要するにそう言う事じゃ。
       それで短い棒で掘っておるところをヤラレた。
       そこからは姉の仕事じゃが、埋め戻しが甘ければ獣が掘り出す。
       ハギはニオイも気づかんかったのじゃろうから、
       姉は、よっぽど上手に仕事したんじゃぞ。
       この女、相当に頭が良かろうな。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。