縄文GoGo旅編 第10話 3日目③
三本の樹の近く。続き。
シロイブキ 「ふむ。おおむね、おれ達が相談して出した結論と同じだ。
コノカミは只者じゃないなあ。
まあそれで、イエの者の案内で、
おれはハグレの中に3人いた若い女を調べようと動いた。
その一人目だ。」
シロクンヌ 「見つかったのか?」
シロイブキ 「いや、逃げられた。五日前だそうだ。
あとの二人は問題無かった。」
タカジョウ 「どういう事なんだ?」
シロイブキ 「若い娘とその父親が住む小屋があると言うから、まずそこに行った。
すると台風で小屋が壊れておって、人影は無い。
そこからほど近い所にムロヤが1軒あると言うからそこに行き尋ねた。
あそこにあった小屋の住人を知らんかと聞いたんだ。
そしたら、四日前にタヌキを持って訪ねて来て、寒くなる前に場所を移る。
世話になったから、このタヌキをやる。
ヒョウタンの余りがあれば分けてくれんかと言うから二つやったと言われた。
娘と二人で来たのか?と聞いたら、あの男に娘などおらんぞと言う。
今年の夏前にひょっこり現れて、あそこに小屋を建て、ずっと一人で住んでいたと。
どこに行くと言っていたか?と聞いたら、
暖かい所に行くと言っていた。
夏は涼しい所、冬は暖かい所に小屋を建てて住む、
あいつはこれまでずっとそうして来たそうだ。
少し頑固者だが、気の良いやつだった。
そう言っていた。
歳は40位で、これと言った特徴など無い男だったらしい。
すでにこの辺にはおらんだろうが、シカ村に伝令が走っていると思う。
だがなあ・・・」
スズヒコ 「ふむ。その男も、すでにこの世にはおらんかも知らんのう。」
タカジョウ 「その姉だが、ミツに対してはどういうつもりでいると思う?」
スズヒコ 「ふーむ。そこじゃがのう。
軽々しくは言えんが、
オロチがミツに持っていたほどの復讐心は無いように思うが・・・
この件で、この女が復讐を考えておるとすれば、
その相手はタカジョウじゃろうな。
シップウの飼い主を捜し出し、そいつに復讐する。」
ナジオ 「確かにそういう考え方をしそうだな。」
タジロ 「タカジョウ、気をつけてくれよ。」
スズヒコ 「いや、個人に復讐すれば、という話じゃぞ。」
シロイブキ 「ふむ。この女が何かをたくらむとすれば、
それは、一人二人に対してどうのこうのでは無いだろうな。
確かにシップウをあやつるタカジョウは邪魔だろうが、
復讐とは別の意味だと思う。
ミツとイワジイに対しては、復讐する相手と言うよりも、
顔を見られている相手という括りになるのではないかな。」
シロクンヌ 「この女はシップウの恐ろしさを知っている。
ワシを訓練し、自在にあやつる事が出来る者。
その者が持つ背景まで考えていると思う。
今すぐにタカジョウに向かって行っても敵わんということは、
分かっているんじゃないか?
オロチなら、傷が癒え次第、動いただろうが。」
タカジョウ 「時間をかけて、力を溜めると言う事だな。」
シロクンヌ 「もちろん油断は出来んが。」
シロイブキ 「一人では動かんだろうな。
と言うよりも、自身が前に出るような事もせんと思う。
いずれハタレの女統領になるだろうが、
力が溜まるまで、シップウの前には現れんという気もする。
だが事を起こす時、最初に狙うのがタカジョウかも知れんぞ。」
タカジョウ 「ふむ、かも知れん。まあ、やすやすとやられはせんが。」
シロイブキ 「十分、気をつけてくれよ。
クンヌ、おれからの報告は以上だ。」
シロクンヌ 「ではおれからの報告だ。昨日、この先でハタレに出会ってな。」
タカジョウ 「シロクンヌ、おれは席を外してもいいか?
タジロに斧投げを教えたくてな。」
シロクンヌ 「ああ分かった。ナジオとテミユは聞いていてくれ。
マグラやスワの衆に伝えて欲しい。」
込み入った話も終わり、斧投げのコツの伝授も済み、歓談の時を迎える。
シロクンヌ 「ところでイブキ、ヒゲは誰に剃ってもらったんだ?(笑)」
コヨウ 「マユだよマユ。マユはね、シロイブキが泊ってるムロヤに入り浸ってたんだよ。」
タカジョウ 「シロイブキもやるじゃないか(笑)。」
テミユ 「昨日だって、マユはシロイブキの話ばかりしてたもんね。
イブキの小屋が出来たら、泊まりに行くって言ってたよ。」
コヨウ 「そうそう。もうイブキって言うもんね。」
テミユ 「イブキって呼んでくれって言われたんだって。」
シロクンヌ 「アハハハ。イブキ、顔が真っ赤だぞ。」
シロイブキ 「そ、そうだ。思い出した。
エミヌに頼まれておったのだ。
クンヌは、ハニサはどうしてるかな、って、何回言った?」
サチ 「6回。」
ナジオ 「それ見ろ!おれ、ピッタリだったろう!
2回や3回じゃないはずなんだよ。」
テミユ 「ホントだー!ハニサは愛されてるんだね。」
スズヒコ 「ワハハ。シロクンヌも顔が赤うなって来よったぞ。」
シロイブキ 「コノカミ、折を見て、一度ゆっくり遊びに来てもいいかな?」
スズヒコ 「もちろんじゃ。是非来ておくれ。
村の下に温泉があってのう、マユとのんびり浸かったらいい。」
ミツ 「すごく広い温泉なんだよ。」
コヨウ 「兄さん、スッキリした顔してると思ったら、温泉に入ったんだ。」
シロクンヌ 「ブッ。さあ、そろそろ出発するか。
そうだ。建物の被害は深刻なのか?」
シロイブキ 「ウルシ村では、旗塔がやられた。
3本の柱がぶち折れておった。
縁起が悪い。4人に何かあったんじゃないか。
そう言って、村ではクンヌ達の心配をして、一時大騒ぎになったようだぞ。
で、ヌリホツマが、心配いらん、これは身代わりじゃ、
と言ったのをハニサがあっさり信用したのを見て、騒ぎもおさまったそうだ。」
三本の樹。
シロイブキ 「・・・びーのーぶーじーをーみーまーもーらーれーん-こーとーをー。」
セリ 「樹さん。4人の旅を、見守ってあげてください。」
タジロ 「4人が無事に、ミヤコまで行けますように。」
シロイブキ 「さあ、おれ達は戻ろう。
この布は、おれがウルシ村に届けるよ。」
テミユ 「不思議な話よね。旗なのかな・・・」
コヨウ 「兄さん、体に気をつけてね。」
タカジョウ 「おれは大丈夫だ。コヨウの方こそ、風邪引くんじゃないぞ。」
シロクンヌ 「おれ達も出発するか。
コノカミ、お世話になった。
おれがこっちに戻ったら、この近くに、シロのイエの者を住まわせる。
小さいが、シロの里を作る。
付近でハタレが悪さをすることは無くなるからな。」
スズヒコ 「それは心強い。ありがとうの。」
タジロ 「斧投げの練習、毎日やるよ。
タカの里が出来たら、遊びに行っていいかい?」
タカジョウ 「ああもちろんだ。虫持って遊びに来い(笑)。」
セリ 「コノカミがね、アヤの村が出来たら引っ越してもいいって。
そしたら毎日遊ぼうね!」
ミツ 「やったー!翅(はね)貼りのやり方、教えてね。」
サチ 「村が出来たら、コノカミも遊びに来て下さい。」
スズヒコ 「これは嬉しい事を言うてくれる。長生きはするもんじゃのう。」
サチ 「じゃあセリ、行って来るね。またね!」