縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第12話 3日目⑤

 

 

 

          野営地。続き。

 
シロクン  「用心するとしても、今から吊り寝(ハンモック)に切り替えるのもアレだな。
        サチとミツはここでゆっくり寝かせてやりたい。」
タカジョウ  「せっかく作った寝床だからな。
        おれとシロクンヌで、交代で寝ずの番だ。
        どうせいぶしをやるんだし、焚き物には事欠かん(笑)。」
シロクン  「念のために縄梯子を作ってあの枝から吊り下げておくか。」
タカジョウ  「そうしよう。踏み棒になるような枝を集めて来る。」
サチ  「父さん、さっきのオオカミ!
     また尾根にいるよ。」
ミツ  「こっちを見てる。また何か、くわえてない?」
サチ  「草履?ぞうりみたいに見える。」
ミツ  「あ!こっちに来る!」
シロクン  「ミツ、サチ、おれ達の後ろにさがれ。
        タカジョウ、石斧は?」
タカジョウ  「ここにある。」
サチ  「降りて来てる。もうすぐ、あの樹の所に出て来る!」
シロクン  「ん?樹の手前で止まったようだな。」
サチ  「あ!口から草履を落とした!
     戻って行くよ。
     ・・・
     止まった。こっちを見てる。
     動かないよ。」
タカジョウ  「あいつ、何かをおれ達に伝えたいのではないか?」
シロクンヌ  「ふむ。少し前に出てみるか。」
サチ  「動いた。オオカミも前に進んだ。
     どこかに案内したいのかな?」
シロクンヌ  「草履の所まで行こう。」
サチ  「私達が前に進むと、オオカミも前に進むよ。」
タカジョウ  「この草履、少し小さいな。」
シロクン  「よし、とにかくあいつについて行こう。」
 
 
          尾根を越えた森
 
サチ  「あの樹の根本、人が座り込んでる!」
タカジョウ  「あれを知らせたかったのか!
        あのオオカミは大丈夫だ。
        おれ達を襲っては来ん。」
 
    タカジョウが駆け出した。
 
タカジョウ  「見ろ!ここにムササビが置いてある。
        こいつは、この少年のために、ムササビを狩ったのだ。
        おい!しっかりしろ!
        こんな所で寝ていると、死んでしまうぞ!」
シロクン  「火を焚いた跡がある。
        右脚をケガしているのか。
        ここまで来て、動けなくなったのだな。
        体が冷えている。ねぐらに運ぶぞ。
        しっかりしろ!もう大丈夫だ!助けてやるからな!」
 
 
          野営地。
 
    5人から少し離れた所で、オオカミは座ってこちらを見ている。
 
シロクン  「気が付いたか。煮冷ましだ。少し飲め。」
 
    少年はシロクンヌに抱かれていて、
    蕗(フキ)の葉を折り曲げて作られたコップの中の白湯(さゆ)を少し飲んだ。
 
少年  「あんた達、男は何人だ?」
タカジョウ  「ん?見ての通り、二人だぞ。」
少年  「おまえら、さらわれて来たのではないのか?」
サチ  「違うよ。みんな、旅の仲間なんだから。」
少年  「おれは、助けてもらったのか?」
タカジョウ  「おまえ、ずいぶんと不敵な眼をしているな。
        あのオオカミが、そこまでおれ達を呼びに来たんだぞ。
        あいつがおまえの所まで案内したんだ。」
少年  「レン!」
 
    少年が呼ぶと、オオカミは近くに来て座った。
 
シロクン  「このオオカミは?」
少年  「レンはおれの友達だ。
     レンが産まれたての時に、おれが拾って育てた。
     だけどレンはヒトに唸る(うなる)んだ。
     他人には、なつかない。
     レンが唸らないのは、あんた達が初めてだ。」
タカジョウ  「おまえ、歳はいくつだ?名は何という?」
少年  「名前はレンザ。14歳だ。」
シロクン  「レンザ、脚の骨が折れているな。しかもズレている。
        今からつなぐぞ。
        かなり痛いだろうが我慢しろ。
        タカジョウ、押さえつけておいてくれ。」
レンザ  「やめろ。そんな事をすると、レンが暴れ出すかもしれん。
      おれはジッとしているから、つないでくれ。」
シロクン  「ひねるからな。相当痛いぞ。暴れるなよ。」
レンザ  「うっ・・・」
ミツ  「うわ!痛そっ!」
シロクン  「よし。よくこらえたな。
        サチ、フキの葉にヌリホツマの薬を塗ってくれ。
        それを貼って、添え木を当てる。
        毒消しもくれ。」
タカジョウ  「レンザ、腹は?」
レンザ  「減ってる。」
タカジョウ  「待っていろ。薬汁を作ってやる。」
 
    その時、オオカミはどこかへ姿を消した。
 
ミツ  「あんた、助けてもらったんだから、ちゃんとお礼言った方がいいよ。」
 
    レンザはミツをにらんだが、ミツもにらみ返した。
 
レンザ  「そうだな。助けてくれてあるがとう。おかげで命拾いした。」
タカジョウ  「ははは、素直な所もあるんだな。
        熱いぞ。やけどするなよ。」
レンザ  「ありがとう。熱っ。」
シロクン  「よし、これでいい。
        レンザ、一人で歩こうとするなよ。
        用事がある時は、おれ達の誰かを呼べ。
        ところで、さらわれたのか?とか、気になる事を言っていたが?」
レンザ  「そうだ。6人組のハタレを知らないか?
      おれはそいつらを追っているんだ。」
シロクンヌ  「そいつらなら、もうこの世にはおらんぞ。」
レンザ  「なんだって!」
シロクン  「この先で、人を3人殺めてな。
        身内の者に、成敗された。昨日の話だ。」
レンザ  「本当か・・・姉ちゃん。ごめん。」泣き出した。
ミツ  「どうしたの?」
レンザ  「かたき討ち、してやれなかった!」
 
    レンザはひとしきり声を上げて泣いた。
    そこにレンがムササビを2匹くわえて戻ってきた。
 
タカジョウ  「利口なオオカミだな。ムササビ汁を作ってやるよ。
        何があったのか、話してみろ。」
レンザ  「おれは、姉ちゃんとレンの3人で旅をしていたんだ。
      八日前だ。
      姉ちゃんが、川でサケを獲る仕掛けを作ると言うから、
      おれとレンは、山に狩りに行った。
      戻ってみたら、姉ちゃんがいない。
      おれは、近くの村に行ったのかも知れないと思って見に行った。
      そこに、6人組のハタレに連れ去られるのを見たという人がいた。」
タカジョウ  「サケが上る川か・・・八ヶ岳の向こう側から、西に向かって流れる川だ。
        あの川筋のどこかから、あいつらは来たのか。」
シロクン  「姉は見つかったのか?」
レンザ  「殺されていた。裸だった。体中に、男の液を掛けられていた。
      眼が開いていて、その眼の上にも掛かっていたんだ。
      あいつら、姉ちゃんが死んだ後にも・・・」
サチ  「ひどい!」
ミツ  「かわいそう!」サチとミツが泣き出した。
シロクン  「脚を折ったのは?」
レンザ  「台風の時に、崖から落ちた。」
シロクン  「荷物は見当たらなかったが、その時に失くしてしまったのか?」
レンザ  「うん。大事な物もあったんだけど・・・」
シロクン  「旅の行き先は、決まっていたのか?」
レンザ  「姉ちゃんには心づもりがあったみたいだけど、おれはハッキリ聞いていない。
      レンがいるとどの村からも受け入れてはもらえないから、
      どこかで3人で暮らすつもりだったと思う。
      働き者で、優しい姉ちゃんだったんだ。」
タカジョウ  「おい。今度はレンが、ウサギを持って来たぞ。
        凄いオオカミだな(笑)。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。