縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第14話 4日目②

 
 
 
          山越え。続き。
 
シロクン  「シシガミ村?何かいわれのある村なのか?」
レンザ  「姉ちゃんから聞いたんだ。姉ちゃんも誰かから聞いたんだと思う。
      シシガミ村の近くでは、イノシシ狩りはするなって。」
タカジョウ  「その村が、この近くにあるのか?」
レンザ  「場所はハッキリと分からない。
      でもこっちの方だと思う。
      イノシシ狩りはするなと言っても、全部のイノシシじゃなくて、
      シシ神に連なるイノシシは狩ってはいけないんだ。
      シシ神は、大イノシシらしい。
      シシ神を怒らせると、とんでもない事になるからって。」
タカジョウ  「しかし、あんなのに出くわしたら大変だぞ。」
シロクン  「ふむ。念のため、杖を弓にしておくか。
        他には何かあるのか?」
レンザ  「シシガミ村は周りに他の村は全然なくて、どことも付き合いが無いらしい。
      たたりにまつわる何かがある村だって事で、誰も近寄らないって言ってたぞ。」
ミツ  「なんだか怖い村だね。」
サチ  「でも山奥なんでしょう。塩はどうするの?」
レンザ  「村に塩湯が湧くらしいんだ。」
シロクン  「シオユ?タカジョウ、塩湯って何だ?」
タカジョウ  「おれも知らんぞ。レンザ、教えてくれ。」
レンザ  「おれだって知らないよ。
      村があれば、行って聞いてみればいいじゃないか。」
 
 
          山越え。渓流沿いでの昼食。
 
タカジョウ  「台風でこの川も相当に荒れたんだろうな。
        そこら中、流木だらけだ。」
シロクン  「お陰で焚き物には事欠かんがな。」
レンザ  「サチはカラミツブテが巧いんだなあ。
      道中で山鳩を2羽獲るなんて、相当練習したのか?」
サチ  「うん。父さんに教わった。
     レンザは何かよく使う得物はあるの?」
レンザ  「おれは手槍。」
ミツ  「手槍って何?」
レンザ  「短い槍だよ。投げるんじゃなくて、手で持って刺すんだ。
      一回しくらいの長さのやつ。
      レンが首に食らい付いている獲物に使うんだ。」
タカジョウ  「手槍も失くしたのか?」
レンザ  「うん。手槍はまた作ればいいんだけど、
      黒石糊(くろいしのり。アスファルト)をたくさん持って来てたんだ。
      それも失くした。
      黒石糊が無いと、いい手槍は出来ない。
      こっちでは、黒石糊は使わないだろう?」
 
    アスファルトは、秋田県新潟県北部の油田地帯で産出する。
    温めると融け、常温では固まるので、接着剤や接合材として使われた。
    石器を木材に固定するのに便利だったのだ。
    二枚貝の貝殻や、土器に入れて運搬され、主に信州北部から関東以北で利用されていた。
 
ミツ  「黒石糊なんて聞かないよ。」
シロクン  「ニカワか漆だな。」
レンザ  「そうだよな・・・」
 
    その時、男が二人、近づいて来るのが見えた。
    二人とも、弓矢と槍、そして盾を持っている。
    レンが立ち上がり、ウーと低い声で唸り始めた。
    男二人は、離れた所で立ち止まった。
 
  「おーい、ウシシ村はどっちか、知ってるかー?」
タカジョウ  「なんだと?あいつら、何者だろうか?」
  「おーい、伝えたい事もあるんだー。
    そのオオカミを、何とかしてくれー。」
シロクン  「3人はここにいてくれ。
        タカジョウ、おれ達が向こうに行こう。」
 
 
  「食事中だったようだな。邪魔して悪かった。しかし大事な用件でな。
    おれはこの先にあるシシガミ村のカミのシシヒコと言う。
    まず聞くが、お二人はウシシ村をご存じか?」
シロクン  「6人組に関係あるのか?」
シシヒコ(35歳)  「おお、そうだ。その6人を探している。
            その6人もウシシ村を探していたと聞いておるが。」
シロクン  「おれはシロクンヌと言う。」
シシヒコ  「おぬしがシロクンヌか!光の子の父親だな。」
シロクン  「そうだ。ウシシ村とはウルシ村の間違いだろうな。
        奴らはもうこの世にいない。
        こっちでも、人を殺めているのか?」
シシヒコ  「そうではない。奴らが手を出したのは、シシ神だ。
       詳しく話を聞きたいし、こちらからも話しておかねばならん事もある。」
シロクン  「ではまず、6人組について知っている事を話す。」
タカジョウ  「シロクンヌ、話ながらゆっくり向こうに戻ってみないか?
        もうレンも唸らんかもしれん。
        言い遅れた。おれはタカジョウと言う。」
サタキ(25歳・男)  「おれはサタキ。一年前からシシガミ村で暮らしている。」
 
 
ミツ  「ねえ、サチ。いたすって、何をいたすの?」
サチ  「あとで二人だけの時に教えるよ。」
レンザ  「いいよ。おれが教えてやる。」
ミツ  「教えて。一人でどんなことやるの?やってみて。」
レンザ  「バカ言うな!そんなの、隠れてコッソリやる事だ!」
ミツ  「あ!工ッチなことでしょう?」
レンザ  「もう分かっただろう?」
ミツ  「分からないよ。知らない事だもん。」
 
 
サタキ  「あのオオカミは、飼われているのか?」
タカジョウ  「そうだ。あそこにいる、脚をケガした少年の友達だ。
        ヒトには懐かんそうだが、おれ達にだけは唸らない。
        その板っ切れみたいに見えるのは何だ?」
シシヒコ  「村では盾(たて)と呼んでいる。
       イノシシが突進して来た時に、牙の直撃を防ぐ道具だ。」
シロクン  「木を割いて作るのか?
        持たせてくれ。
        思ったより軽いんだな・・・」
 
 
ミツ  「へー。そうやってやるんだ。知らなかった。」
レンザ  「おれの周りで女と言えば、姉ちゃんだけだったろう。
      だからどうしても、姉ちゃんをいやらしい目で見てしまう時があるんだ。
      一緒に作業をしてると、股が見えたりしたしな。
      そういう時は離れた所に行って、いたしていた。
      出る時は気持ちいいんだけど、すぐ後には姉ちゃんを変な目で見ていた事を後悔する。
      ずっとそういう気持ちでいたいんだけど、
      液が体に溜まりだすとどうしてもダメなんだ。
      だから溜めないように、何度もいたしていたんだ。」
ミツ  「なんか大変なんだね。
     私達の事も、変な目でみたりする?」
レンザ  「おまえらなんか、子供じゃないか。
      全然そんな気になんかならないよ。
      おれは、ちゃんと毛が生えた大人が好きなんだ。」
サチ  「私、まだ生えてない。」
レンザ  「そうだろう。もじゃもじゃしてなきゃ、つまんないよ。」
ミツ  「レンザは生えてるの?」
レンザ  「生えてるよ。もじゃもじゃではないけどな。」
サチ  「あ、4人で帰って来るよ。」
レンザ  「何か話があるんだな。
      二人はおれから少し離れてくれ。
      おれはここでレンと一緒にいるから。
      レン!ここに来い。唸るんじゃないぞ。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト