縄文GoGo旅編 第15話 4日目③
渓流沿い 続き。
シシヒコ 「おれもサタキと同じで、シシガミ村の生まれではないんだ。
10年前に通り掛かってな。
その時、子種が欲しいと宿を請われた。
で、その女に惚れてしまってな(笑)。」
タカジョウ 「どこかで聞いた話だな(笑)。」
シシヒコ 「だから本来なら、おれの女房がカミなのだ。
だが言い伝えは、おれも聞いている。」
シロクンヌ 「シシ神と言うのは?」
シシヒコ 「ここらは昔から、大イノシシが産まれる土地柄だそうだ。」
サタキ 「それが、同時に2頭いる事は無く、いても必ず1頭だけらしい。」
シシヒコ 「その1頭は、オスなのだが、とてもおとなしいそうだ。
ただ手負いにすると、凶暴になって人を襲う。
そういう事が、昔は何度もあったらしい。」
サタキ 「それで、神様にしてしまえとなったんだ。
大イノシシは、神様だからうやまえと。
矢など射るのは、もってのほかだと。
だから、普通のイノシシは、おれ達も普通に狩ってるよ。」
シシヒコ 「それをあの6人組が、止めた者をぶん殴って、シシ神に矢を放ったのだ。」
サチ 「手負いになったの?」
シシヒコ 「そうだ。何本かが刺さったらしい。
それが五日前で、もう二人が殺された。
若い男が二人、旅の兄弟だ。
だから十分気をつけて欲しい。
この後案内するから、今夜は村で泊った方がいい。」
サタキ 「オオカミのニオイがすれば、普通のイノシシならそこは避ける。
だけど手負いのシシ神は、とにかく狂暴なんだ。
殺された二人も、喰われていた。」
タカジョウ 「人喰いか!」
シロクンヌ 「6人を探していた訳は?」
サタキ 「村には若い男が少ない上に、おれ達二人以外、みんな怖気づいてしまっている。
だから6人を見つけ出してシシ神退治を手伝わせようと思っていたんだが、
話を聞けば、とてもそんな連中じゃあ無かったんだな。」
シロクンヌ 「そうだな。他の村に、加勢を頼めんのか?」
シシヒコ 「無理だ。なあ?」
サタキ 「ああ、昔はこの辺りにもいくつか村があったそうなんだが、
シシ神が暴れて多くの人死にが出てからは、みんなよそに移って行ったそうだ。
だからシシ神にかかわろうって者は、この辺りにはいない。」
レンザ 「たたりのウワサが立っているぞ。」
シシヒコ 「孤立した村だとどうしても血が濃くなるだろう?
それで奇形の子が産まれだしたんだな。昔の話だぞ。
それでたたりのうわさなんかも立って、ますます孤立が深まる。
そういう訳で、通りすがりの旅人から子種をもらう事にしたそうだ。
今でも村で産まれた者同士の子作りは禁止となっている。
だから村では、女系のムロヤばかりだ。」
サタキ 「村で産まれた男は、年頃になると村を出て行く者が多い。」
シシヒコ 「中にはヨソで女を見つけて、二人で戻って来る者もいるが、
大半は、行きっ放しだな。」
レンザ 「おれ達で、そのシシ神をやっつければいいじゃないか。
こっちにはレンがいる。」
タカジョウ 「お、強気だなあ(笑)。
どうする?」
シロクンヌ 「レンザがそう言うのなら、そうせねばなるまいな(笑)。」
サタキ 「手伝ってくれるのか?通りすがりなのに!」
シシヒコ 「待て待て。正直に言っておかねばならん。
今度のシシ神は、今までの中でケタ違いにデカいんだ。
そのオオカミが仔犬に見えるくらいに。
背の高さは、」
レンザ 「サチよりも、うんと高いだろう?
知ってるよ。さっきヌタ場を見たから。」
タカジョウ 「あのヌタ場には、さすがに驚いたがな。
シップウ!」
シップウが飛んで来て、タカジョウの腕にとまった。
サタキ 「何だこのワシは!」
シシヒコ 「おぬし、ワシ使いか?
それにしても大きいな!」
タカジョウ 「オオイヌワシのシップウだ。
みんなで力を合わせれば、何とかなるんじゃないか?
それになんと言ってもこっちには、シロクンヌがいるんだからな(笑)。」
レンザ 「おれを抱いたままやすやすと沢石を跳ぶし・・・
シロクンヌって、そんなに強いのか?」
タカジョウ 「この世の者とは思えんほどにな。」
シロクンヌ 「ん?それは、ホメ言葉か?」
サチ 「アハハ。」
サタキ 「コノカミ!助けてもらえそうだぞ!」
シシヒコ 「そうだな!恩に着る!
今夜は、我が村に泊まってくれ。
高いシシ垣で囲まれているから、シシ神でも越えられはせん。」
シロクンヌ 「そうだコノカミ、塩湯って何だ?」
シシヒコ 「我が村の自慢だ。湯元をお見せする。」
サタキ 「湯塩で締めたシシ腿肉を、一度食べてみてくれよ。」
シシヒコ 「食べれば病み付きだ(笑)。2年前に仕込んだナマ肉が、丁度いい具合になっている。」
タカジョウ 「いぶしか?」
サタキ 「そう思うよな?ところが違う。ナマだ。塩締めだよ。」
タカジョウ 「ナマで2年だと?」
シシヒコ 「旨いんだぞ。
湯塩締めと美しい女。この二つで、おれもサタキも村に居着いてしまったんだ(笑)。」
サタキ 「村の女はみんな綺麗だよ。最初に村に来た時に、おれは驚いたよ。
村中の女が美人なんだから。」
シシヒコ 「殿方3人には、宿を用意する。」
タカジョウ 「3人?レンザもか?」
シシヒコ 「もちろんだ。すでに男の体であろう?」
タカジョウ 「男と言うか・・・猿の体だ(タメ息)。」
レンザ 「うるさいな!タカジョウは!
シップウ!タカジョウを、つつけ!」
シロクンヌ 「ワハハハ。
それで、巣は分かっているのか?」
サタキ 「分かってる。手負いになる前から見つけてあった。
4ヶ所あるが、今でもそのどこかがねぐらだ。」
シシヒコ 「そうだ、もう一つ言い伝えがあって、シシ神に痛みは無いと言うんだ。
不死身だともいう。」
ミツ 「不死身なの?」
レンザ 「不死身な訳ないだろう。大袈裟に伝わってるんだよ。」
シシヒコ 「まあ、そんなところだろうな。今夜は我が村でくつろいでくれ。
準備を整えて、明日、勝負に出よう。」
タカジョウ 「ん?と、思ったが・・・」
レンザ 「近くにいる!レン、まだだぞ。」
タカジョウ 「シップウ!牽制しろ!」
シロクンヌ 「タカジョウ、ミツはあの樹だ!
サチ、あの樹に登って、ミツを支えていろ!
レンザ、おれにしがみつけ!
あの枝に行く。
上の枝を、しっかり握っているんだぞ。」
サタキ 「あそこか!」
レンザ 「レン、行け!」
眼を真っ赤に充血させたシシ神が、向こう岸の笹薮から姿を現した。
その体は、巨大な岩の様であった。