縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第16話 4日目④

 
 
 
          渓流沿い。続き。
 
シシヒコ  「その子らを早く避難させてくれ!」
サタキ  「おれ達が盾になる。」
  二人は盾を持ち、槍を構えた。
タカジョウ  「サチ、先に登れ。上からミツを引き上げてくれ。」
サチ  「大きい!イナが射たイノシシの倍以上ある!
     ミツ、こっち!」
シロクン  「この枝に左脚で立て。右脚は曲げるな。上の枝を握っていろよ。」
 
  シシ神が走り出した。猛烈な速さで川を渡って来ている。
  川原石の凹凸など、やすやすと踏み越えた。
  シシヒコ達二人に向かって、一直線に突進している。
  そこへシップウが真横から飛来し、シシ神の顔に爪を掛けた。
  シシ神の動きが一瞬にぶり、そこへ突っ込んだレンがシシ神の右前足に嚙みついた。
  レンは噛みついたまま離れないが、シシ神はそれに構わず突進を開始した。
  あっと言う間にサタキに迫った。
  サタキは槍を繰り出したが、柄がブチ折れた。そしてシシ神に突き上げられた。
シシヒコ  「サタキ!」
  盾が真っ二つに割れ、飛び散った。
  サタキは吹っ飛ばされ、クマザサの茂みに落ちた。
 
  シシ神は向きを変え、シシヒコに向かって突進を開始した。
  レンは必死で前足を踏ん張っているが、シシ神の動きは止まらない。
  そこへ横から走って来たシロクンヌが、肩からシシ神に体当たりした。
  シシ神は怒りの雄叫びを上げ、横倒しになった。
 
シロクン  「タカジョウ、コノカミと二人で、サタキをあの大岩の上に運べ。」
  シシ神はすぐに起き上がり、雄叫びを上げながらタカジョウに向かって突進を開始した。
  タカジョウもシシ神に向かって走り、助走をつけ石斧を投げた。
  石斧は見事にシシ神の脳天に命中したのだが、シシ神はひるまない。
タカジョウ  「不死身か?」
  すんでの所で、タカジョウは身をかわした。
 
  シシ神はそのまま川に入り、狂ったように川の中を走り出した。
  口に水が入り、レンがたまらずにシシ神から離れた。
  シロクンヌは川岸に立ち、矢を放った。
  続けざまに3矢放ち2矢がシシ神に突き立ったが、シシ神の勢いはおとろえない。
 
シロクン  「矢では無理だ。タカジョウ、サタキの様子は?」
タカジョウ  「腕をやられてる。」
サタキ  「おれは大丈夫だー!」
シロクン  「太い杖を作る間が欲しい。3人はそのまま岩の上にいてくれ。
        レンザ、レンを一度引かせてくれ。前足をやられている。」
レンザ  「レン!こっちに来い!」
シロクン  「杖を作って仕切り直しだ。」
 
  しかし耳を塞ぎたくなるような雄たけびを上げたているシシ神は、時間を与えない。
サチ  「父さん、シシ神がこっちに来る!」
  シシ神がサチとミツのいる樹に頭から激突した。
  大きな衝撃が走り、ミツが樹から落ちそうになった。サチが必死に支えている。
 
レンザ  「シロクンヌ、これを使え!」
  レンザは添え木を外し、シロクンヌに投げた。
  シシ神が、もう一度、樹に激突した。
  樹が折れて、ゆっくりと倒れ始める。その樹にはミツがぶら下がっている。
 
  フンギャーと叫び、シシ神は、ミツに向かって突進を開始した。
  添え木を拾ったシロクンヌも、ミツに向かって走った。
  タカジョウとシシヒコもミツに向かって走っている。
ミツ  「怖いよ。」
 
  その時シップウがシシ神の顔に爪を食いこませ、激しく羽ばたいた。
  爪の一つが、左の目玉に刺さっている。
  シシ神がひるんだところに、シロクンヌが飛び込みざま、熊刺しを放った。
  ムギャーという叫びが響き渡った。
  肋骨数本をぶち折った感触が、シロクンヌの手に残った。
  シップウは飛び立ち、シシ神は横倒しになっている。
  シロクンヌはミツを抱きかかえた。
シロクン  「サチはレンザの樹に登れ。」
レンザ  「シロクンヌ、早く逃げろ!シシ神が立ち上がった。」
シロクン  「なんだと!」
  立ち上がるのが早過ぎないか?
  こいつは本当に不死身なのかと、シロクンヌは思った。
 
  その時タカジョウが投げた石斧が、シシ神の右前足を直撃した。
タカジョウ  「シシ神、こっちだ。
        奴の目をそらす。コノカミも逃げてくれ。」
  シシ神がタカジョウを追い始めた。
  シシ神の右前足は明らかに折れている。
  不自然に折れ曲がっているのが、見てハッキリと分かるほどだ。
  しかしシシ神は、走るのをやめない。
 
レンザ  「サチ、おれの手をつかめ。
      この樹がやられたら、あの樹に移るんだ。
      その矢を貸してくれ。」
 
  それは、アヤの村の矢じりが付いた矢だった。
  ウルシ村を出る時に、ヤシムがサチの背負い袋に矢留めをつけて差してくれた、あの矢だった。
  その時にヌリホツマが、この矢は旅の守り神じゃと言ったのを、サチは覚えていた。
  この矢がおぬしらの身を護る、ヌリホツマはそう言ったのだ。
  サチはレンザに、その矢を手渡した。
レンザ  「レンは前足をやられたな。食い止めようとして、爪をはがしたんだ。」
 
  シシヒコの放った矢が、シシ神の腹に刺さった。
  それでもシシ神は倒れない。
  今度は、シシヒコに向かって突進を開始した。
  シシヒコは大岩に逃げようとしたが、つまずき転んでしまった。
  シシ神の突進は止まらない。
  真っ赤な眼をした巨大イノシシが、体を左に傾かせ、
  吠え立てながらヨダレをまき散らし、こっちに来る。
  それを見たシシヒコは、恐怖の余り身動きが取れなくなってしまった。
  シシヒコが死を覚悟したその時、レンの姿が見えた。
  横手から突っ込みざま、シシ神の首に食らい付いたのだ。
  しかし、レンの牙を持ってしても、シシ神の急所には届かない。
  レンは傷ついた前足を突っ張り、必死でシシ神を止めようとている。
  そこへシップウが飛来し、シシ神の背中を鷲づかみ、
  シシ神の右の目玉に嘴(くちばし)の一撃を入れた。
  これでシシ神は、両目が見えなくなった。
  シシヒコのわずか横を、シシ神が駆け抜けた。
 
  シシ神は吠え立てながら、狂ったようにそこら中を走り回っている。
  シップウは飛び立ったが、レンは首から離れない。
レンザ  「レン!戻れ!」
  レンザがそう叫んだ時だった。
  シシ神が折れた樹に激突し、とがった木の先端がレンの背中を切り裂いた。
  レンの背中から、血が噴き出した。
レンザ  「レン!
      シシ神い、レンに何しやがる!」
  レンザは樹の枝から、跳んだ。
  シシ神の背中に飛び乗った。
  左手で、吠え立てるシシ神の左耳をつかんだ。
レンザ  「もっと口を開けえ!」
  レンザはシシ神の右耳に噛みついた。食い千切らんばかりの勢いだ。
  そしてサチの矢を右手に持ち、シシ神の鼻を突き散らかした。
  シシ神が、大きく叫びを上げた時、
  レンザはサチの矢を、シシ神の口の中に突き入れた。
  矢じりが急所を貫いた。
  走りながら、シシ神は息絶えた。
  その横には、血だらけのレンがいた。
レンザ  「レン!」
 
  みんながレンのもとに駆け寄った。
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。