縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第17話 4日目⑤

 
 
 
          渓流沿い。続き。
 
レンザ  「レン!しっかりしろ!」
サチ  「レン!死なないで!」
シシヒコ  「レン!死ぬな!
       誰か、レンを助けてくれ!」
タカジョウ  「背中の傷は?」
レンザ  「開いてる。くっそう!血が止まらん。」
  タカジョウが服を脱いだ。
タカジョウ  「これで、しっかり押さえろ!」
シロクン  「針と糸だ。これで、傷口を、縫え!」
レンザ  「どうやるんだ?」
シロクン  「タカジョウ、出来るか?
        ヌリホツマから聞いただけで、おれもやった事がないんだ。」
タカジョウ  「おれもやった事は無いが、ハギからやり方は詳しく聞いた。
        レンザ、レンに動かないように、言い聞かせてくれ。
        レンの傷口を、鹿の腱(アキレス腱)の糸で縫う。
        シロクンヌ、手伝ってくれ。
        吹き出た血を、服でふいてくれ。」
 
 
レンザ  「何とか血が止まった。レンを助けてくれてありがとう。」
ミツ  「良かったー!」
シシヒコ  「良かった!おれはレンのお陰で、今生きている。
       おれを助けようと、レンは足をケガしたんだ。
       おれは、レンのためなら何でもする。
       レンザ、レンと一緒に、村に逗留して養生してくれ。」
サタキ  「あんた達のお陰で、村が助かった。
      あんた達でなければ、シシ神を倒すなんて出来なかった。
      本当にありがとう。」
シロクン  「いや、二人が盾になってくれたから、助かったんだ。
        おれ達だけの時にいきなり襲われていたら、5人の誰かが犠牲になったはずだ。」
タカジョウ  「そうだな。最初の一撃で、誰かがやられていただろうな。
        サタキ、腕が折れていただろう?
        添え木を当ててやるよ。」
シロクン  「そうだ、忘れていた。レンザ、脚は大丈夫なのか?」
レンザ  「あ!おれも忘れていた。思い出させるから、痛くなったじゃないか。」
シロクン  「ハハハ、添え木をするぞ。
        レンはレンザと一緒に担架で運ぼう。
        ミツ、木を割きたい。河原石を割って、楔(くさび)を作ってくれ。」
ミツ  「はい。」
シシヒコ  「担架を作るのか?
       おれとサタキの服を使ってくれ。」
サチ  「あ!シップウが何か持って来てる。重そうだよ。」
タカジョウ  「キツネだろう。多分、生け捕りだぞ。
        レンザ、レンにキツネの生き血を飲ませてやれ。」
 
 
          シシガミ村への道中。
 
    担架は、シロクンヌとタカジョウが持っている。
    担架には、レンとレンザが並んで乗っていた。
    シシ神の屍体は、人喰いだと言う事で、肉や毛皮などの一切は利用せず、
    動物にも食べさせないように、その場で解体して焚き上げる事になった。
    その手配のために、シシヒコは先に村に戻って行った。
 
レンザ  「サチ、もう一度、矢を見せて。
      この矢には、そういういわれがあったのか。
      この矢じりが、おれに力をくれたんだろうな。
      いつもは、あんなに巧く刺せないんだ。」
タカジョウ  「なんだレンザ、随分と謙虚ではないか。」
レンザ  「いや、おれ、樹の上で見てただろう。
      シロクンヌもタカジョウも凄いんだな。
      シシ神が恐くないのか?」
タカジョウ  「おまえが一番凄いぞ。」
シロクンヌ  「シシ神に飛び乗ったからなあ。」
レンザ  「あれはカッとしてやったんだよ。体が勝手に動いたんだ。」
ミツ  「レンザって勇気があるんだね。」
サチ  「シシ神にとどめを刺したんだから、凄いよ。
     でもレンが死ななくて良かった。
     あれだけ食欲があったんだから、絶対に死なないよね?」
レンザ  「ああ大丈夫だ。足も、自分で舐めて治すよ。
      でも驚いたな。レンが初めて人前で飯を食っただけじゃなくて、
      シップウと一緒にキツネを食うなんて。」
タカジョウ  「あれにはおれも驚いた。」
ミツ  「お互いを認め合ったんだね。」
サタキ  「ほら、あそこに旗が見えるだろう。あそこがシシガミ村だ。」
レンザ  「村外れのような場所に、ポツンと小屋があったりしないか?」
サタキ  「見張り小屋が、そんな感じだなあ。」
レンザ  「おれとレンは、その小屋がいい。」
サタキ  「分かった。小屋を片付けさせる。
      おれは走って先に帰るよ。」
 
 
          シシガミ村。
 
ゾキ  「コノカミ、そのレンザがシシ神にとどめを刺したの?」
シシヒコ  「そうだ。ゾキの兄さん二人のかたきを討ったのがレンザだ。
       とても勇敢な少年だぞ。」
ゾキ  「脚をケガしてるんでしょう?私がレンザのお世話をする。
     夜も付きっ切りで。
     私、決めたの。レンザの宿になる。いいでしょう?」
シシヒコ  「分かった。ゾキはここの生まれではないから、村の男をと思っていたが、
       ゾキがそう言うならそれでいい。」
ゾキ  「他の4人の人は、明日旅立つの?」
シシヒコ  「おそらくな。長逗留を勧めたのだが、先を急ぐ旅のようだな。」
ゾキ  「私、今夜はシシ神の焚き上げに行ってもいい?」
シシヒコ  「そうだな。焚き上げは、明日までタップリとかかると思うぞ。
       今から行くのか?」
ゾキ  「うん。兄さん達のかたきだからね。」
シシヒコ  「少し走れば、先発隊に追いつくかも知れん。気をつけて行くんだぞ。」
ゾキ  「はい。」
 
    お気づきの通り、ゾキとはオロチの姉である。
    二人の兄とは、兄でも何でもなく、二人旅の若者を体を使って誘惑し、
    旅のボディガードに仕立てただけの事だった。
    それがたまたまシシガミ村の付近でシシ神に遭遇し、
    若者二人はゾキの盾となり、シシ神に殺された。
    ゾキは崖を滑り下りて逃げたのだが、その際に背中を擦りむいた。
    シップウから受けた傷を、新たな傷が隠してしまっていた。
    そしてシシガミ村に保護を求め、そこが外部と付き合いの薄い村だと知ると、
    言葉巧みにシシヒコに取り入っていたのだ。
 
    焚き上げに行くと言ったのも、
    シップウという大ワシと、顔を知られたミツが一行の中に居る事を知り、
    姿を見られないための方便であり、自分を助けようと身を投げ出して死んだ二人には、
    何の感情の持ち合わせも無いのだった。
 
 
・・・とここで在庫切れとなってしまいました。
またしばらく書き溜めます。
なお、旅編17話の最終部分は、少し書き直すかも知れません。
話の筋はこの通りなのですが、時間が無かったが為に、説明口調になってしまいました。
縄文GoGoは小説ではないので、登場人物のセリフから状況を説明するように心掛けていました。
投稿再開は、1月中旬の予定です。
皆様、良いお年をお迎えください。
    
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト