縄文GoGo旅編 第18話 4日目⑥
シシガミ村の見張り小屋。
シシガミ村は、高く積まれたシシ垣の上に築かれていた。
村全体が、石垣で囲まれていたのだ。
見張り小屋はその石垣の外にあり、村から少し離れた場所に、
やはり高く積まれたシシ垣に囲まれて建てられていた。
例えて言うなら、離れ小島のような感じだ。
その小屋の中に、シロクンヌ一行とレンザとレン、そしてシシヒコと女が二人いた。
シシヒコ 「急ごしらえの寝床だが、寝心地はいかがかな?」
レンザ 「悪くはないよ。
水鉢の水を飲んで、レンも落ち着いて来たし、
この小屋でレンと二人、しばらく厄介になるよ。」
シシヒコ 「それなら良かった。
紹介しておこう。
おれの女房のミワだ。」
ミワ(33歳) 「シシ神を退治していただいたそうで、本当にありがとうございます。
皆さんは村の恩人です。
ここ数日、村の者は、恐ろしくてシシ垣の外に出られずにいました。
今度のシシ神は異様に大きくて、
手負いには決してさせないようにと注意を払っていたのですが、
通りすがりの不届き者の気まぐれから、大変な事態となっていました。
村は絶望に包まれておりました。
シシ神が病で斃(たお)れるのを待つしかない・・・
皆、そう言っていたのです。
それを皆さんが救って下さいました。
私には、皆さんが天からの使いに見えます。
山奥の村で大したおもてなしはできませんが、
せめて今夜はくつろいでくださいませ。」
シロクンヌ 「これはご丁寧に。我々4人、一晩厄介になりますよ。」
タカジョウ 「コノカミが言っていた通りだ。綺麗な奥さんだなあ。
こっちの女の人は?」
シュリ(21歳) 「シュリと申します。レンザのお世話をいたします。
子種も、授けて下さいませ。」
タカジョウ 「おいレンザ!凄い美人だぞ!」
シロクンヌ 「請われて子種を差し出すのは人助けだ。
男冥利に尽きる頼まれ事だぞ。」
タカジョウ 「何だレンザ、モジモジして。あいさつしないか。」
レンザ 「顔が、姉ちゃんに似てるんだ。そしたら、声まで似てた・・・」
シロクンヌ 「おまえの死んだ姉さんは、いくつだったんだ?」
レンザ 「21歳。おれと姉ちゃんの間にもう一人いて、赤ん坊の時に死んだって聞いた。」
ミワ 「シュリも21歳ですよ。
気の届くやさしい娘ですから、何なりと言いつけてくださいね。」
サチ 「大人の人で良かったね!」
ミツ 「もじゃもじゃ・・・」
レンザ 「言うな!ミツ!」
サチ 「キャハハ。」
レンザ 「もう、子供はあっちに行け!」
サチ 「ミツ、外に行ってみよう!」
ミツ 「うん、旗塔の所に、花が咲いてたよ。」
レンザ 「ホントにあいつら、ガキだな!」
タカジョウ 「レンザ、おまえ、女といたした事はあるのか?」
レンザ 「無いに決まってるだろう。大体、出会う事が無かったんだぞ。」
タカジョウ 「さてはおまえ、もう張り屋をおっ立てておるだろう?(笑)」
レンザ 「どうしような・・・頭の中が、クラクラしてる。」
シシヒコ 「ハハハ、では、シュリを残して我々は退散しようか(笑)。
そうだ、レンザ、実はもう一人、宿の希望者がいてな、
その娘は、レンザに感謝しているんだ。
シシ神に喰われた兄弟の妹なんだよ。
今はシシ神の焚き上げに行っていてここにはいないが、
その娘も、若いが美しいぞ。
若いんだから、二人相手でも苦にならんだろう?(笑)」
タカジョウ 「苦になるどころか、猿の本領を発揮するよな?(笑)」
レンザ 「うるさい!タカジョウ!早くどっかに行ってくれ!」
シロクンヌ 「ハハハ、コノカミ、塩湯というのを見てみたいんだが。」
シシヒコ 「うん。案内する。
それと、一晩だけだが、二人も宿を取ってくれ。
我が村にとって、勇者の子種は得難い宝だからな。
村のために、是非頼む。」
レンザ 「やっと出て行ったな。
まったく、どいつもこいつも、人をからかいやがって・・・」
シュリ 「ブ、ブファハハハー。」
レンザ 「な、何だよ、いきなり!」
シュリ 「だって、レンザ、ムクムクさせてるんだもん!
反応、良過ぎっ!面白いー!」
レンザ 「な、何言ってるんだ。シュリの方こそ、さっきと感じが違うぞ。」
シュリ 「ミワの前では、ああやってないとしかられるからね。
あ!レンの水鉢が空になってる。
水汲んで来るね。
レンはおとなしくていい子だねー。」
レンザ 「おい!今、レンの頭を撫でたのか?」
シュリ 「そうだよ。ほら、いい子いい子。」
レンザ 「驚いたなー。似てるからって、姉ちゃんと間違えるはずないし・・・
レンは、おれと姉ちゃん以外のやつに、絶対にそんな事させなかったんだぞ。」
シュリ 「そうなんだ。あたし、レンに認めてもらったんだ。
今日はレンザを放っといて、レンと寝ようかなー。
水汲んで来るねー。」
レンザ 「変わった女だな・・・」
シシガミ村。塩湯の湯元。
ミワ 「これがそうです。この石垣の間から、少しずつ染み出すように湧いてきているでしょう。
熱いんですよ。」
シシヒコ 「ほら、この器に溜めて、舐めてみろよ。」
シロクンヌ 「ん!塩辛いな!海の水の何倍も塩辛い。」
タカジョウ 「何でだろうな?こんなにも海から遠い所で・・・」
シシヒコ 「不思議だろう?
あそこに黒砂利が敷いてあるのが見えるよな。
あの黒砂利を、手で触ってみろよ。」
シロクンヌ 「温かいな。ここで火を焚いたのか?」
シシヒコ 「そうじゃない。地面が温かいんだ。その場所だけな。
そこに砂利を敷いてあるんだ。」
ミワ 「昔から、どんなに寒くても、そこだけは雪が無いんですよ。」
シシヒコ 「台風やシシ神騒動で、今はそうなってるけど、普段ならそこは真っ白なんだぞ。
この浸み出ている塩湯を溜めておいて、そこに蒔くんだよ。
しばらく放っておけば、湯は飛んで、塩だけが白く残る。
あとは砂利をシナの木の皮に載せて、ハケをかける。
そんな簡単な方法で、ここでは塩を手に入れているんだぞ。」
ミワ 「ここでは、塩採りは女の仕事です。」
シロクンヌ 「驚きの連続だ!こんな村があったとはな・・・」
タカジョウ 「黒砂利も結構深いんだな。下の方は相当熱いぞ。」
ミワ 「箕(み)に百杯分の黒砂利を、遠い河原から運んだそうですよ。」
シシヒコ 「これがその湯塩だ。舐めれば分かるが、海の塩とは少し味が違う。」
タカジョウ 「本当だなあ。旨味がある。」
ミワ 「ここも昔は、シオユ村って言っていたそうなんです。
それが周りからは、シシガミ村としか呼ばれないようになってしまって、
今ではシオユ村と言っても分かる人はいません。」
シロクンヌ 「それもまた、ひどい話だな。それでこの湯元と言うのは、ここだけなのか?」
ミワ 「昔はここの他に、近所に2ヶ所あったそうです。
でもそちらの方は涸れてしまって、時々塩気の無い湯がにじむ程度です。」
シロクンヌ 「この塩だが、他の村には出していないのか?」
ミワ 「以前は出していたんですよ。
でも、たたりのウワサが広まって・・・
あの塩を舐めると不具の子ができると・・・
それでどこからも欲しがられなくなったのです。
今は、この村でしか使っていませんから、塩は余っています。」
シシヒコ 「村のカミの名前も、以前はシオヒコだったそうだぞ。
たたりなどと言うが、この村に美人が多いのは、
この塩が体に良いせいではないかと、おれなどは思っているんだがな。」
シロクンヌ 「ふむ。実を言うと、おれが次のアマカミになるんだ。
ウワサは伝わっておらんか?」
シシヒコ 「アマカミ!そうなのか?光の子の父親だとしか・・・
ここはウワサも入って来にくい村だからな。」
ミワ 「まあ!どうしましょう!
アマカミになられるお方をどうやってもてなせば・・・」
シロクンヌ 「いやいや、そういうのは勘弁してくれ。
今はただの男だよ。普通に接してもらいたい。
それでな、スワの湖の向こうがミヤコになるんだ。
人も増える。村も増える。そこへこの塩を・・・」
見張り小屋。
シュリ 「そうなんだ。シロクンヌ達とは、出会ったばかりなんだね。
あたし、ずっと前からの知り合いだと思ってた。
あたしにもねえ、弟がいるんだよ。」
レンザ 「へえ、一緒に住んでるのか?」
シュリ 「まさか。もう村にはいないの。
去年、出て行った切り。そういう男の人、結構多いんだよ。」
レンザ 「うん。コノカミから、ちょっと聞いた。
ん?こら!なに覗いてるんだ!」
サチ 「キャハハハ、見つかった。」
ミツ 「しくじったー。」
レンザ 「何だおまえ達、顔に変なもん付けて。」
シュリ 「素敵ねえ、それ。」
サチ 「シュリにも1個あげる。これもあげる。」
シュリ 「わあ可愛い!お花の髪飾り!ありがとう!
レンザ、似合う?」
レンザ 「あ、ああ、似合うよ。」
シュリ 「なによ、気の無い言い方ねえ。」
ミツ 「照れ臭がってるんだー(笑)。」
サチ 「赤くなってるもん。」
レンザ 「うるさい。」
シュリ 「サチ、これはどうやるの?」
サチ 「これは眼木って言ってね、ここを耳に掛けるの。そう。
この葉っぱ、付けてみる?」
シュリ 「こう?
レンザ、どう?」
レンザ 「なんか感じが変わった!姉ちゃんじゃないみたいだ。」
シュリ 「アハハ!元々姉ちゃんじゃあ無いよ。」
レンザ 「アハハハ、しまった、変な言い方になってたよな?」
サチ 「キャハハ、面白い。」
ミツ 「アハハハ、ねえサチ、怒りん坊のレンザが笑ったよ。」
サチ 「うん、良かったね!」
本年もよろしくお願いいたします。
今後は三日に一度くらいのペースでの投稿となると思います。
多少、不定期になるかも知れません。