縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第19話 4日目⑦

 
 
 
          シシガミ村の近くの洗濯場。
 
    シロクンヌとタカジョウの二人だけだ。
    タカジョウは着替えていて、レンの傷を押さえた服を洗っている。
 
シロクン  「どうだ?血は落ちそうか?」
タカジョウ  「染みにはなるだろうな。
        まあ、レンの血だから、気にならんからいいさ。
        オオヤマネコ除けになるかも知れんしな(笑)。
        思わぬ所で塩の話も付いて、良かったなあ。」
シロクン  「ああ、それはな・・・」
タカジョウ  「何だ、どうかしたのか?」
シロクン  「実は今夜の宿の話なんだ。
        いや宿はおれも今までに何度か取って来た。ハニサだって宿だしな。
        ・・・これはタカジョウだから言うのだが、
        今はな、ハニサ以外の女に、まったく反応せんのだ。」
タカジョウ  「そうなのか!確かめたのか?」
シロクン  「ああ。イナの着替えにまったく反応無しだった。
        昔は反応して、からかわれていたんだ。」
タカジョウ  「ハニサには、反応するのか?」
シロクン  「激しいほどにな。
        最初にハニサといたして以来、その傾向があったんだが、
        決定的な出来事は明り壺の祭りの二日前だ。
        ハニサと二人で岩の温泉に行った。
        温泉では二人きりだった。
        そこでハニサが横の崖に粘土があるのを見つけて、それを掘ったんだ。
        その途端、ハニサが光を放った。全裸でだぞ。
        そこで光り輝くハニサといたして以来、他の女への興味を完全に失った。」
タカジョウ  「光るハニサとか!それも凄い話だな(笑)。
        良かったか?(笑)」
シロクン  「頭の中が、弾けたぞ。」
タカジョウ  「だろうなあ(笑)。まあ、いたせる相手がハニサなんだから、それで十分だよな。
        分かった。コノカミにはおれが上手く伝えておくよ。」
シロクン  「すまんな。さっきはミワがいたから言い出せなかったんだ。」
タカジョウ  「おれは役目を果たしてくるぞ。」
シロクン  「ああ、人助けだ。
        おれはサチとミツと三人で寝るよ。」
タカジョウ  「しかし考えてみると・・・
        以前、ハニサのムロヤでハニサを見た時に思ったのだが、
        あんな神々しい者を相手に、よくおぬし、いたせるよな。
        ましてや光り輝くハニサだろう?
        普通の男なら、反応せんぞ。むしろ、縮こまる。
        そういう意味では、おぬしもレンザとどっこいの猿だな(笑)。」
シロクン  「ぐっ、おぬし、こないだの仕返しをしておるだろう。」
 
 
          シシガミ村。
 
サタキ  「探してたんだぞ。案内するよ。」
シロクン  「洗濯場に行っていた。腕は大丈夫か?」
サタキ  「ああ、平気だ。骨を折ったのは、これで四度目だから慣れてるよ(笑)。」
サチ  「4回も折ってるの?」
サタキ  「ああ。イノシシで3回、熊で1回。」
ミツ  「熊と戦ったの?」
サタキ  「いや、熊から逃げて、崖から落ちた(笑)。
      ほら、あれが塩締め小屋だ。
      中を見せるよ。」
サチ  「わー!天井が見えない!
     たくさん吊り下げてあるね!」
タカジョウ  「イノシシの腿(もも)と言っていたが骨付きのままなのか!
        それも皮が剥いであるだけで、一本丸々だ。」
シロクン  「これとあれでは、色が違うな。」
ミツ  「なんかいい匂いするね。」
サタキ  「全然生臭くないだろう?
      イノシシの皮を剥いで腿を切り落として、塩を摺り込むんだよ。何度もな。
      腿一個に、あの鉢一杯の塩を使うんだぞ。」
シロクン  「何だって!一村で、ひと月に使う塩の倍はあるぞ。」
サタキ  「そうだよな。ここだからこそ、出来るんだよ。
      あの一番奥、あの辺りが二年物だ。待ってろよ。今食わせるから。」
ミツ  「いぶさなくても、塩だけで、生肉が二年ももつの?」
サタキ  「そうだよ。他では出来ないよな?塩って貴重品だから。
      タカジョウ、肉を押さえていてくれ。ここで切るから。
      表面は塩がきつくてダメだ。
      だけど煮込むといいダシが出るんだぞ。
      今晩、こいつを使ったキノコ汁を飲ませるよ。他にはない味だぞ。
      この奥の、この辺りなんだよ、一番旨いのは。
      ここを、薄くそぐんだ。出来るだけ薄く。」
タカジョウ  「上手にそぐなあ。」
サタキ  「一個一個は小さいだろう?これをな、二三枚いっぺんに・・・
      サチとミツ、上を向いて口を開けて。
      そら。そら。」
ミツ  「美味しい!」
サチ  「口の中で、とろけたよ!」
 
 
          見張り小屋。
 
シュリ  「ごめん。脚、痛くなかった?
      あたし、夢中になって動き過ぎちゃった。」
レンザ  「平気だ。女っていいもんだな。
      おれ、ずっとシュリと一緒に居たい気分だ。」
シュリ  「ずっと居なよ。
      レンだっておとなしいし、3人で暮らそうよ。
      あたし、レンザの子を、何人も産みたいもん。
      あたしねえ、今までに二人の人を宿に取ったの。
      でも、授からなかった。」
レンザ  「二人は、長く居たのか?」
シュリ  「二人共、ひと月くらい。」
レンザ  「ふーん。
      レンも居心地良さそうだし、この見張り小屋って、ずっと住んでてもいいのかな?」
シュリ  「きっとコノカミは良いって言うと思うよ。
      だってレンザとレンって、見張りにはピッタリでしょう?」
レンザ  「ハハハ。そうかも知れないな。今度聞いてみるか。
      シュリはここでもいいのか?」
シュリ  「あたし、レンザと一緒ならどこでもいい。
      でもこの小屋、冬は寒いよね?」
レンザ  「うん。おれとレンだけならこのままでもいいけど、
      シュリが寒くならない工夫をしなきゃな。
      寒い中で、いたしたくないし(笑)。」
シュリ  「ねえ、レンザ、あたし、どうだった?」
レンザ  「どうって・・・
      おれにしてみたら、初めてだからな。舞い上がってたよ。
      シュリは姉ちゃんに似てるから、最初はドギマギしたけど。
      でももうおれの中では、シュリは、完全にシュリだ。
      当たり前だよな?おれまた、変な事言ったか?」
シュリ  「ううん。なんか嬉しい。
      って言うか、あたしの方が変な事聞いたよね?」
レンザ  「コノカミが言っていた、もう一人の宿が関係あるのか?」
      シシ神に喰われた兄弟の妹とかいう・・・」
シュリ  「うん。ゾキっていう名前で、あたしはまだしゃべった事無いの。
      確かね、レンザと同じ年だよ。」
レンザ  「14って事か。」
シュリ  「うん。可愛い顔してるんだけど、あたし、あの子、怖い。
      って、あの子に言わないでね。あたしがこんな事言ったの。」
レンザ  「言わないけど、何が怖いんだ?」
シュリ  「うーん、説明が難しいんだけど・・・
      どこか、禍々(まがまが)しいの。」
レンザ  「それは兄さん二人がシシ神に喰われたから、気持ちが暗くなってるからじゃないのか?」
シュリ  「そうなのかな・・・」
レンザ  「おれは、なんとなくゾキの気持ちが分かるよ。」
シュリ  「コノカミやミワは、可哀そうな娘だって言って、何かと良くしてるみたいだけど。
      レンザがゾキに夢中になって、あたしに見向きもしなくなったら嫌だなって・・・」
レンザ  「なるもんか。同い年だろう?
      少しは興味あるけど。
      おれは、シュリみたいに、もじゃもじゃしてる女が好きなんだ(笑)。」
シュリ  「もう!変な言い方!恥ずかしいよ!
      あ!そうだ、これ言っとかないとね。
      レンザのお世話は、あたしとゾキとで一日交代なの。
      だから明日は、あたしとはいたせないよ。」
レンザ  「えー、そうなのか。
      おれ、シュリとは毎日・・・
      そんなら今からもう一回・・・」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 レンザの宿。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト