縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第22話 5日目③

 
 
 
          シオユ村(シシガミ村)。見張り小屋。
 
シュリ  「どうしたの?
      セジが呼びに来て、見張り小屋に行くように言われたんだけど。
      ゾキは?」
レンザ  「いないよ。レンがゾキに敵意むき出しなんだ。
      どれだけ言い聞かせてもダメなんだよ。
      だからゾキには悪いけど、宿は諦めてもらった。
      明日からは一日おきじゃなくて、毎日シュリと一緒だ。」
シュリ  「レンが?こんなにおとなしいのに・・・
      でも良かった。ずっと一緒にいられるね。」
レンザ  「うん。だけど大変だったんだぞ。
      普段、人に対しては、あそこまでやらないんだけどな。
      ゾキには可愛そうな事をしたよ。」
シュリ  「ゾキがレンに何かしたの?」
レンザ  「そうじゃない。
      突然レンが唸り始めたんだ。様子がおかしくなってた。
      レン、どうした?って言った時に、ゾキが入って来た。
      多分、ゾキの気配に唸ってたんだと思う。
      それからのレンの剣幕は尋常じゃなかった。
      ほっといたらゾキに襲い掛かる勢いなんだ。
      だからゾキとは少し話をしただけで、すぐに引き上げてもらったよ。」
シュリ  「そんな事があったんだ・・・
      レンザ、ゾキを見て、何か感じなかった?」
レンザ  「いやあんまりよく見てないんだ。
      レンをなだめるのに必死で。
      だけどレンがあんな風になるなんて今まで一度もなかったから、
      もしかするとゾキには何かあるのかも知れないな。」
シュリ  「あたしね、ヤキモチだけじゃなくて、なんだか嫌な予感があったの。
      レンも何かを感じたんだと思うよ。」
レンザ  「多分、そうなんだろうな・・・
      でもおれ、ゾキを待ってて思ったけど、
      ゾキじゃなくて、シュリが来てくれたらなって思ってた。
      だからゾキには悪かったけど、こうなって良かったと思ってる。
      おれは毎日、シュリと居たいんだ。」
 
 
 
          アヅミ野。川の上の高台。
 
タカジョウ  「なんだホコラ、こんな所にいたのか。
        旅立つから、洞窟にあいさつに行ったんだぞ。」
ホコラ  「丁度行き違いになったのかも知れんな。
      ん、この子はタガオの所の娘っ子だな。
      タガオと投網をしておった子だ。」
ミツ  「父さんを知ってるの?」
ホコラ  「知っておるよ。何度か共に蜂追いをした。
      お、灰燻し(アクいぶし)がこんなにあるのか。
      よしよし、では案内するから付いて来てくれ。
      歩きながら話をしよう。
      今日はあれ達のねぎらいの日でな。
      ちょうどいい所で出会った。
      猿酒をご馳走するよ。いい具合に醸(かも)されておる。
      サチと、なんと言ったかな?」
ミツ  「私の名前は、ミツ。」
ホコラ  「サチとミツには、山ブドウの甘酒だ。」
      どうしたシロクンヌ、キツネにつままれた顔をしておるぞ(笑)。」
 
 
          シオユ村(シシガミ村)。物陰。
 
セジ  「背中の傷は、少しずつ良くなってるね。
     でも大丈夫だったか?随分レンが唸り上げていたけど。
     噛まれたりしてないだろう?」
ゾキ  「怪我はしなかったけど・・・
     予定が狂ったね。
     こいつも無駄だった!」蛭(ヒル)を地面にたたきつけた。鮮血が飛び散った。
セジ  「それって・・・」
ゾキ  「そう。レンザをだますつもりだったの。
     生娘の振りをしてね。破瓜の血に使うはずだったんだよ。
     セジ・・・旅に出るよ。西に行く。」
セジ  「え?急に何を・・・」
ゾキ  「明日、旅立つよ。」
セジ  「明日って・・・ミワは?」
ゾキ  「あきらめな!旅先で、いい思いさせてやるからさ。」
セジ  「でも・・・ミワを狂わせてから、その後旅立ってもいいんじゃないか?」
ゾキ  「今、何て言った?
     あたしは、あきらめなって言ったよな?
     おまえ、あたしに逆らったね?
     消えな。とっとと消えてしまえ!
     あたしは別の男と旅立つよ。
     おまえはここで、女の股を覗いてよろこんでろ!」
セジ  「ちょ、ちょっと待ってくれよ!そんなつもりじゃないんだ。
     謝るからさ、おれを連れて行ってくれ。」
ゾキ  「おまえ、あたしと二人っきりで旅出来るんだよ?
     嬉しくないのか?
     毎晩、一緒に寝てやるんだ。」
セジ  「嬉しい!だから機嫌を直してくれ。
     何でもするからさ。」
ゾキ  「ホントだろうね?
     今度あたしに逆らったら、捨てて行くからね!」
セジ  「うん。もう逆らったりしない。絶対だ。
     そうか・・・明日からしばらくゾキと二人っきりなんだな・・・
     確かに嬉しいよ。凄く嬉しい。
     こう見えておれ、狩りだってそこそこ出来るからさ、
     ゾキにひもじい思いはさせないよ。
     ゾキが歩き疲れたら、いつだって・・・」
 
 
          アヅミ野。移動中。
 
シロクン  「それならミノリは、もともとハニサを知っておったのか?」
ホコラ  「それはもちろんな。あんな器をこしらえるのだから。
      だが、おぬしとハニサを結ばせようとか、そんな気はなかったぞ。
      おれはおぬしに、明り壺の祭りを見せたかっただけだ。
      タビンドのおぬしから見ても、他には無い、いい祭りだったろう?」
シロクン  「それは確かにそうだ。
        だがおれは、何かに導かれてウルシ村に行ったような気がしてならんのだ。
        その元がミノリだから、おれはずっとミノリの事が気になっていた。」
ホコラ  「待て待て、それは違うぞ。元はおれではない。
      明り壺の祭りだ。祈りの丘だよ。
      導かれたのではなく、引き寄せられたのだよ。
      ハニサが丈夫な子を産める歳になったぞと、おぬしを呼び寄せたのだ。」
シロクン  「そうなのか・・・
        ハニサは、ど。」
タカジョウ  「うしているかな。
        サチ、何回目だ?」
サチ  「12回目。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト