縄文GoGo旅編 第24話 5日目⑤
アヅミ野。岩の崖の上。
ホコラ 「野山で恐ろしい生き物と言って思い浮かべるのは・・・
オオカミの群れも恐ろしい。
熊も恐ろしい。
そうそう、シシ神も恐ろしいな。
しかし他にもおるんだぞ。分かるか?」
ミツ 「マムシ?」
サチ 「蜂も怖いよ。」
ホコラ 「そうだそうだ。そいつらも怖いな。
だがな、もっと恐ろしいものがおるんだ。」
シロクンヌ 「地ネズミだろう。」
ホコラ 「そうだ。シロクンヌは知っておるんだな。
地ネズミほど恐ろしいものも、まあなかなかおらん。」
タカジョウ 「地ネズミだと?それがクマザサの花と関係あるのか?」
ホコラ 「関係大有りだぞ。花ではなく、実の方だがな。
クマザサの実は、地ネズミの大好物だ。」
シロクンヌ 「クマザサの花にまつわる言い伝えで、大雪崩が起きる、があるだろう。
その他におれが聞いたので、地ネズミが湧く、と言うのがある。
それも大量発生するそうだ。」
ホコラ 「クマザサは何十年か知らんが、とにかく何十年に一度しか花が咲かん。
それも、辺り一面のクマザサに一斉に花が咲く。
花が咲けば、実を結び、その後一斉に枯れる。
山の斜面にクマザサの広大な藪があるとするだろう。
それが一斉に枯れて、その上に大雪が積もればどうなる?」
サチ 「根っ子が持たないんだね?枯れてるから。」
ミツ 「根っ子がちぎれて、大雪崩が起きるんだ。」
タカジョウ 「そういう理屈があったのか。
おれは、縁起が悪いっていう話の延長かと思っていた。」
ホコラ 「クマザサに花が咲くと、縁起が悪いと言われておるからな。
それで問題の地ネズミだが、一斉に実を結ぶという事は、
エサが大量に増えるという事だろう?
するとやつらは、次々に子を産み始める。
その子がすぐに成長し、また子を産むから、
あっと言う間に地を覆うほどになる。
だがその頃には、もう実は喰い尽くされておる。
そうなると今度は樹の皮でも何でも喰う。
結果、山は立ち枯れの樹ばかりになってしまう。
人も動物も、困り果てる事態になるんだよ。」
シロクンヌ 「ここらがそうなっておらんのは、猿が活躍したからなのか?」
ホコラ 「そうだ。地ネズミが増えすぎる前に、猿に地ネズミの尻をかじらせた。」
タカジョウ 「普通、猿はネズミなど喰わんだろう?」
ホコラ 「喰わんな。だから喰ってはおらん。かじるだけだ。
地ネズミも死にはせんし、元気に走り回っている。
ただ猿に尻をかじられた地ネズミは、オスならメスに寄りつかんし、
メスならオスを寄せ付けんようになる。
樹が枯れては、猿達も困るからな。
猿に言い聞かせたんだよ。」
そこに一匹の猿が、ホコラのもとにクルミを持って来た。
なんだか、千鳥足になっている。
シロクンヌ 「不思議な話もあるもんだなあ。猿が大地を守ったのか。
あの洞窟だって、猿工房だろう。
猿が酒作りする工房だ。」
タカジョウ 「ハハハ。猿工房か。
それはそうと、この猿酒、結構強いな。
いい気分になってきた。
猿達も酔っ払ってきておるぞ。」
サチ 「キャハハ。あの猿、樹に登ろうとして、落ちた。」
ミツ 「サチ、あそこ見て!あの猿、踊ってる!」
ホコラ 「あれ達も、興が乗って来おったな(笑)。
ところで、シシ神のウワサを聞いたが?」
タカジョウ 「おお、大変だったぞ。あのな・・・」
月明りに照らされて、興が乗った猿達が、樹の枝からブラブラとぶら下がったり、
枝の上で肩を組んだり、地面の上で宙返りしたり、楽し気にはしゃいでいる。
ホコラ 「それでそのレンとレンザは、シシガミ村で暮らす事になったのか?」
シロクンヌ 「ああそうだ。おれ達はシシガミ村ではなく、シオユ村と呼んでいるがな。」
ホコラ 「昔はシオユ村と呼ばれておったらしいな。
サチ、その矢を手に取って見てよいか?」
サチ 「いいよ。はい。」
ホコラ 「うん。うん。うん。うん。・・・
七つ目の心の眼が、少ーし近づいて来おったな。
あー、よい気分だ。
ミツ、旅には慣れたか?」
ミツ 「うん!なんだかいろんな事がいっぱいあった。
旅をすると、いろんな人に出会うんだね。」
サチ 「セリはどうしてるかな・・・」
ミツ 「セリと遊びたいね。」
タカジョウ 「いかん。おれはユリサが恋しくなって来た。」
シロクンヌ 「ユリサと一緒になってしまえばよいではないか。」
タカジョウ 「そうだな。ミヤコに行ってそれからタカの村に行くだろう。
その後、シオユ村に寄ってみるかな。
レンやレンザにも会いたいし・・・
おお、そうだ、ホコラは見晴らし岩の下の洞窟を知らんだろう?
薙ぎ倒しの牙が出た洞窟だ。」
ホコラ 「薙ぎ倒しの牙?なんだそれは?」
タカジョウ 「物を見たら驚くぞ。長さで言えば・・・」
サチとミツは、猿の輪の中で遊び始めた。
甘酒は、少量のアルコールを含んでいて、
程よい心地よさをもたらす程度に醸されていた。
タカジョウ 「そこにおれは、タカの里を作るつもりなんだよ。」
ホコラ 「石のツララの洞窟か・・・それは見に行かねばならんな。
ついでにウルシ村に寄って、タマに会っておくか。」
シロクンヌ 「そうだ、サラを知っているだろう?ヌリホツマの弟子の。」
ホコラ 「知っておるよ。祭りの日にトツギをした娘だな。」
シロクンヌ 「ふむ、そのサラだが、ミツバチの巣作りに躍起になっていてな。
ついでに見てやってくれよ。」
ホコラ 「ああそうだったな。ミツバチを飼いたいと言っていた。
ミツバチは、春でないと新しい巣に引っ越しせんのだが、
どんなのをこしらえたのか見てみるか。」
シロクンヌ 「ササヒコに湯塩の件も伝えておいてくれ。」
ホコラ 「分かった。タガオにも会って、ミツは元気にしておったと伝えてやるか。」
いつの間にか、シロクンヌのヒザにもタカジョウのヒザにも猿が座っている。
猿達が、ひっきりなしにクルミやドングリを持って来る。
サチとミツは、猿と手をつないで大はしゃぎだ。
月夜のアヅミ野で、人と猿との賑やかな宴(うたげ)は夜更けまで続いたのだった。