縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第25話 6日目①

 

 

          早朝の湧き水平。

 
オジヌ  「姉ちゃん遅いよ。遅れちゃうぞ。」
エミヌ  「ごめん。お待たせ。さあ行こう!」
カタグラ  「ゴン。しっかり番をしておれよ。」
ナクモ  「パヤパヤには、多めにエサをあげて来た。村に帰るの、久しぶり。」
ナジオ  「夜宴の日以来、まだ一度も帰ってないの?」
ナクモ  「そうだよ。もうひと月近くになるよね。」
カザヤ  「おれ達が到着したら、旗塔の立ち上げを始めるのか?」
オジヌ  「そう。全員で縄を引くんだって言っていたよ。」
コヨウ  「でも驚いたよね。あの布が、ホントにウルシ村の旗だったなんて。」
シロイブキ  「おれが布を持って行ったら、もうウルシ村では大騒ぎだ。」
カタグラ  「そうなるよな。不思議な話だから。」
シロイブキ  「4人の旅は護られているという事になって、ハニサもヤシムも泣いていたよ。」
マユ  「タガオは?」
シロイブキ  「ああ、タガオが一番泣いていた(笑)。」
マユ  「でもシロクンヌ達を守ったって言う三本の御神木も、太い樹なんでしょう?」
ナジオ  「そうだけど、あの帰りに改めて見たら、もっと太い樹が何本も折れていたんだ。
      シオ村は台風きついけど、ああいう樹が折れるなんて珍しいよ。
      あの辺りは、相当な風が吹いたんだと思う。」
テミユ  「あんな樹が折れるなんて、竜巻かも知れないわね。
      でもマユ、あなたホントに大丈夫?
      あの山の上、風が強そうだし、きっとかなり寒いよ。
      小屋が出来てからの方がいいんじゃない?」
マユ  「平気平気。イブキと抱き合って寝るから。
     寒い方がいいの。」
カザヤ  「ハハハ。シロイブキが真っ赤になっておるぞ。」
マユ  「カザヤだって、昨日はエミヌと寒い奥の洞窟で寝たんでしょ?」
カザヤ  「ふむ。確かにエミヌと一緒なら、寒いのは苦にならんな(笑)。」
エミヌ  「私も気にならないよ。
      でもいいな。マユはシロイブキと小屋作りをしながら一緒に暮らすんでしょう。
      コヨウは今日からハニサのムロヤに住むから、いつでもオジヌに会えるし、
      空いたマユのムロヤで、テミユはナジオと暮らすんだよ?
      ねえカザヤ、私達だけ離れ離れだよ。
      十日の月が出る日に、洞窟で会うんだもん。
      私、もうアユ村に行こうかな・・・」
カザヤ  「エミヌがその気なら、おれ、エニに話をするぞ。」
 
 
          ウルシ村。曲げ木工房。
 
ハニサ  「あー、逃げたスッポン、見っけ。」
アコ  「どこ?」
ハニサ  「あの樹の向こう。ひょこひょこ歩いてるよ。」
テイトンポ  「おお、よく見つけたな。」走って行った。
アコ  「これで6匹か。4匹はもう見つからないだろうな。」
ハニサ  「台風で池があふれちゃったもんね。
      卵が孵るといいね。全部交尾した卵なんでしょう?」
アコ  「そうだよ。光に透かすと中にいるのが見えたから。」
テイトンポ  「ほら、池に戻れ。その前にエサをやるか。ずっと喰っておらんのだろう。
        アコ・・・」
アコ  「ほい、これだろ。」
イナ  「ねえ、この少し下流だけど、今見たらやっぱり様子が変よ。湯気が出てるの。」
テイトンポ  「あの台風で崩れた所か?」
アコ  「石の河原の所だね?」
イナ  「そう。昨日もゆらゆらしてたから、気になっていたのよ。」
テイトンポ  「穴掘り器を持って行ってみるか。」
 
    丁度そこにシロイブキ達が到着した。
 
テイトンポ  「おおシロイブキ、いい所に来た。一緒に来てくれ。」
シロイブキ  「どうした?」
イナ  「少し下流に石の河原があって、湯気が出てるの。」
コヨウ  「温泉?」
テイトンポ  「そうか。コヨウは黒切りの里でイワジイと暮らしておったのだな。
        イワジイから何か聞いておるか?」
コヨウ  「ちょっと聞いたよ。
      お爺ちゃんと一緒に水脈を探していて、温泉を見つけた事もある。」
ハニサ  「温泉見つけるってすごいね。」
コヨウ  「あ、ハニサ、今日からよろしくお願いします。
      イナも、よろしくお願いします。」
ハニサ  「こちらこそ、よろしくね。」
イナ  「よろしくね。ちょっと見に行きましょうよ。」
 
    全員で石の河原に向かう事になった。
 
アコ  「久しぶり。元気にしてた?」
ナクモ  「元気だよ。毎日、結構忙しいの。アコはつわりは?」
アコ  「だいぶ治まって来てる。今夜はこっちに泊まるんだろう?」
ナクモ  「そうだよ。みんなで大ムロヤで寝るみたい。
      ハニサはつわりは大丈夫なの?」
ハニサ  「あたしは平気。何でも美味しく食べれちゃう。」
マユ  「ハニサが元気そうで良かった。
     シロクンヌが旅立ったから、どうしてるかな?って心配だったの。」
アコ  「ハニサは元気だよ。むしろヤシムの方がサチが居なくなって淋しがってる。」
カタグラ  「女神は淋しくないのか?」
ハニサ  「淋しいよ。
      でも護られてるって分かったし、絶対に無事に戻って来てくれるからいいの。」
マユ  「そうよね。4人は護られてるわよ。」
ハニサ  「マユはいつからシロイブキと暮らすの?」
マユ  「明日からよ。」
アコ  「え?でも、小屋はまだ建ってないだろう?ああ、洞窟で寝るのか。」
マユ  「違うわよ。山の上で寝るの。
     シロクンヌ達だって行った先で野宿してるんでしょう?そんな感じよ。」
テミユ  「でもシロクンヌ達は、抱き合ってないと思うよ(笑)。」
エミヌ  「抱き合って寝るから、寒い方がいいんだって。私、うらやましくって。
      ねえカザヤ、私やっぱりアユ村に行く。毎日一緒がいい。」
アコ  「なんだかみんな、激しいな(笑)。」
ハニサ  「見せつけられてる・・・」
カザヤ  「ハハハ。ではエニとコノカミにあいさつするよ。」
イナ  「ほら見てあそこ。湯気が出てるでしょう?」
 
 
          石の河原。
 
ナジオ  「いつからこうなの?」
イナ  「今日から。昨日も様子は変だったけど、こんなに湯気は出てなかったわね。」
オジヌ  「石はそんなに熱くないね。」
テイトンポ  「掘ってみるか。」
コヨウ  「待って。いきなり噴き出すかも知れないから。ヤケドしちゃうよ。」
カタグラ  「温泉掘りには、いろいろしきたりがあるみたいだな。」
シロイブキ  「それで、これは温泉なのか?」
コヨウ  「そこが川でしょう。
      この下は伏流だけど、湯気が出てるから掘れば間違いなくお湯が出ると思うよ。
      それがどれだけ熱いかまだわからないから、慎重に進めた方がいいよ。」
テイトンポ  「なるほど、その通りだ。
        コノカミやみんなを待たせてもいかんし、
        地の祓えをしてから事を進めた方がよいな。」
アコ  「送り場にみんな集まってる頃だから、あたし達もそっちに行こうよ。」
イナ  「温泉が見つかったって言えば、コノカミ、きっと凄く喜ぶわよ。」
 
 
この日、シロクンヌ一行はつつがなく旅を続け、特に事件もありません。そしてゾキとセジは、西を目指して旅立ち、その後の消息はつかめなくなります。ですからこの機会に、久しぶりにウルシ村の様子を見ていこうと思っています。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト