縄文GoGo旅編 第27話 6日目③
ウルシ村。広場。
旗塔の立ち上げを無事に終え、まだ陽は高いが、祝いとねぎらいの宴が始まった。
広場中央の焚き火の周りでは、様々な肉が焼かれている。
イノシシの熾火焼き、鴨の丸焼き、ムササビの姿焼き・・・
などなど、焼き上がった物から各自が自由にむしり取って食すのだ。
ヤッホ 「そらハニサ、鴨肉をむしってやったぞ。いい感じに焼けてるだろう。
アニキ達、もう海に着いた頃か?」
ハニサ 「ありがとう。まだだと思うよ。たぶん、二つの湖の辺りじゃないかな。」
ヤシム 「ヤッホ、姿焼き、半分コしよう。あそこの、焼けてるでしょう。
あ~あ、でもサチが心配。無茶してなければいいけど・・・」
ヌリホツマ 「なに心配いらん。祖先の矢じりがサチを護っておる。」
ヤッホ 「そうだよ。それにアニキが一緒なんだぜ。春には元気に戻ってくるさ。
熱っちー!姿焼きの半裂きって難しいな。」
オジヌ 「それにサチだって強いよ。
何てったって、あの薙ぎ倒しの牙を潜って取って来たんだから。
このイノシシ、パリッパリだ。」
コヨウ 「あれにはお爺ちゃん(イワジイ)も驚いてたよね。
ホントだね!パリパリしてて美味しい!」
ササヒコ 「おお、コヨウ、ここにおったか。探しておったんだ。
みんな、大いに食べて飲んでくれよ!
カタグラが栗実酒をたっぷり差し入れしてくれおった。
とにかく今日は目出度い。
旗塔も無事に立ち上がったし、とうとう我が村で温泉が見つかったからな。
それでコヨウ、明日からだが、温泉掘りの指図を頼んでよいか。
テイトンポが掘り頭だ。オジヌとヤッホ、手を貸してやれ。」
イナ 「あたしも手伝うのよ。」
テイトンポ 「温泉の事はおれもよく知らん。何か用意する物とかあるのか?」
コヨウ 「兄さんからカスミ網は教わったでしょう?」
ヤシム 「あれ、カスミ網って言うんだ。鳥がつかんで離さない網でしょう?
畠の横に立てて、時々使ってるやつね。」
コヨウ 「そう。その網で、鳥を生け捕りにしておくの。」
ヌリホツマ 「瘴気(しょうき)じゃな?」
サラ 「そう言えば、瘴気が出る温泉があるって聞いたことがある。
瘴気に中る(あたる)と、倒れるって聞いたよ。」
ハニサ 「ショウキって何?」
コヨウ 「地が吐き出す、悪い息。
それを吸い込むと、倒れてそのまま死んじゃうの。」
ハギ 「岩の温泉って、硫黄(いおう)のニオイが凄いだろう。
ああいう風に、温泉場では、地がいろんな息を吐くんだよ。」
ハニサ 「そうか。粘土掘りの時にもニオイはするもん。
地はいろんな息を出すんだね。」
コヨウ 「だから掘る時は、風上に立つの。
そして周りには、鳥かごに生きた鳥を入れて置いておく。」
ササヒコ 「瘴気が出れば、鳥が倒れるのだな。」
コヨウ 「そう。鳥の様子がおかしくなったら、すぐに息を止めて逃げるの。
とにかく息を止めて、出来るだけ離れるのが大事。」
ヤシム 「なんだか怖いね。ヤッホ、逃げる時に転ばないでよ。」
ハギ 「ヤッホなら転ぶだろうな。」
サラ 「転びそう。」
ハニサ 「大抵の時、ヤッホは転んでるもん。」
ヌリホツマ 「転びよるじゃろうな。」
ヤッホ 「なんだよヌリホツマまで!予言めいて聞こえるじゃないか!」
イナ 「アハハ、転んだって息を吸わなきゃいいのよ。
あたしが助けに行ってあげるから、息を止めて待ってなさいよ。」
テイトンポ 「ヤッホが転ぶのはしょうがない。転んでもあわてんことだ。」
オジヌ 「おれ、ヤッホが転んだのを見て、噴き出しちゃわないかって心配してる。」
コヨウ 「絶対笑っちゃダメだよ。息が続かなくなっちゃうから。」
ヤッホ 「なんだよみんなして!おれは転ばないよ!」
カタグラ 「そら、マユ、注いでやる。栗実酒はたっぷりあるからな。」
マユ 「ありがとう。ソマユもこっちの暮らしに慣れたみたいね。」
ソマユ 「うん。毎日楽しいよ。
でも湖が見えないのが、ちょっと寂しいかな。
だけどその代わりに、御山が綺麗だからね。朝なんて凄く綺麗!」
シロイブキ 「しかし豪勢な宴だなあ。こんなのは、10年振りだ。」
ムマヂカリ 「ここに熊肉が加わっておればなあ。
そうだ、クマ狩りだが、いつ頃の予定だ?
おれも参加させてくれ。
シロクンヌが放った熊刺しという技をおれは見ておらんのだ。
シロイブキ、見せてくれよ。」
シロイブキ 「おおいいぞ。おれもムマヂカリの投げ槍が見てみたい。
では四日後でどうだ?
夜は満月だ。ムササビ狩りをするぞ。」
カタグラ 「おおいいな。その後、洞窟で宴だ。
ムマジカリは泊って行け。
そうだ、タヂカリも連れて来たらいい。」
タヂカリ 「父さん、ぼくも行きたい!」
タガオ 「タヂカリは6歳か?この先が楽しみだな。」
クマジイ 「アコや、つわりは良うなったか?」
アコ 「前ほどじゃないけどね、まだ肉はチョット・・・」
タマ 「キノコ汁だって美味しいからさ、トチ団子だって特製さね。」
マシベ 「確かにこのトチ団子は味が良いな。」
クズハ 「エミヌが何かを混ぜてたのよ。あれ、何かしら?」
スサラ 「エミヌは今、醤(ひしお)作りに必死なのよ。
なにか新しい味の物を見つけたのかも知れないわね。」
ナジオ 「あ!クマジイがいた。なんでこんなに離れた所にいるの?」
クマジイ 「そりゃあ、アコとスサラが肉の焼ける煙が苦手じゃからじゃ。」
ナジオ 「ああ、そうだったね。テミユが森小屋のことを聞きたいってさ。」
テミユ 「樹の上に小屋を建てるんでしょう?はかどってるの?」
クマジイ 「上と言うても、てっぺんではないぞ。
床は張り上がっておるが、ちょうど樹の中ほどの位置じゃな。
樹の枝を利用して小屋を作るんじゃよ。」
クズハ 「その床の高さってどれくらいなの?」
マシベ 「送り杉のてっぺんと同じくらいではないかな。」
テミユ 「じゃあ樹の高さは、送り杉の倍ってことね。」
ナジオ 「大きいな。何の樹?」
クマジイ 「ケヤキじゃ。森で一番の巨木じゃよ。」
カイヌ 「ぼく、さっき送り杉に登ったでしょう。
そこから見えたよ。遠くに一本だけ大きな樹があるの。」
マシベ 「枝から枝にハシゴを渡して登るのだが、段数で言えば床まで50段位だ。」
アコ 「すごいな。今度見に行こう。登ってもいいの?」
テミユ 「私も登ってみたい!でも下から見られちゃう?」
マシベ 「登ってくれていいぞ。
女衆が登る時には、男着に着替えてもらうことにしたのだ。
見られるってのもあるが、そもそも女着では危ないのでな。」
クマジイ 「小屋よりも上にの、今、見晴らし台を作っておるところじゃ。
40段上じゃぞ。
出来上がりを見れば、シロクンヌとて驚くじゃろうな。
どうせなら、シロクンヌを魂消させるものを造らにゃあ。」
スサラ 「わー、下を見たら怖そうね。」
タマ 「あたしゃ高い所は苦手さね。」
アコ 「あたしは絶対登る!」
テミユ 「私も!ナジオ、一緒に登ろう!」
ナジオ 「お、おれはどっちかと言うと、タマ寄りなんだよな・・・
下が海ならいいんだけど・・・」
エニ 「そうだったの。エミヌ、あなたいい人見つけたじゃない。」
エミヌ 「えへへ。」
カザヤ 「それで、おれはアユ村を離れられないから、エミヌにアユ村に来てもらいたいんだ。」
エニ 「近いし、いいじゃない。私も遊びに行っていいかしら?」
カザヤ 「もちろん大歓迎だ。ナジオが造った舟で、湖の向こう岸に渡ってもいいよ。」
エニ 「素敵ねー!あなた達、早く一緒になっちゃいなさいよ。
冬に湖が凍ったりするんでしょう?氷の上を歩けるのかしら。
見晴らし広場から見る夕陽って綺麗だって言うわね。
早く一緒になりなさいよ。私、アユ村に行ってみたかったのよ。
あ!裏の温泉に、いたずら好きの神坐がお祀りしてあるそうね!
わざとお供えしなかったらどうなるんだろう。試した人っている?
テイトンポとクズハも誘ってみようかしら。
テイトンポは絶対に行くって言うわね。
シジミグリッコを食べたいはずだから。
えっと、まずはエミヌの荷物をまとめて、オジヌに運ばせればいいわね・・・」