縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第30話 7日目③

 

 

 

          アオキ村の入口。

 
 湧き水のメシ食い場から森を抜けると、アオキ村が見えた。
 アオキ村は小高い丘の上にあり、丘の西側に川が流れている。
 北の湖から流れ出し、南の湖に注ぐ川だ。
 この川が、南の湖の水源であった。
 川の水は澄んでいて、そのまま飲むことが出来た。
 
 その川沿いに道があり、村への入口となるのだ。
 道の途中が崖のようになっているのだが、そこにイワジイの姿があった。
 
タカジョウ  「ジイ、どうした?汗びっしょりで。」
イワジイ  「おお!来たか!
       丁度完成したところじゃ。
       コノカミに頼まれての、蒸し室(ムシムロ)を掘ったんじゃよ。」
シロクン  「ほう!本格的な蒸し室はこうやるのか。
        入口は小さいんだな。中はそこそこ広いぞ。
        四人くらい、いけそうだ。」
サチ  「大人でも背が立つんだね。一人で掘ったの?」
イワジイ  「ほうじゃよ。三日で掘ったのう。
       出た土で室の前を地ならしして、ここが焚き場じゃ。
       ミツ、どうじゃった?旅には慣れたかの?」
ミツ  「うん!でもいろんな事があったよ。」
シロクン  「話す事が山ほどあるぞ(笑)。」
イワジイ  「ほうか。おいおい聞くとしようかの。
       ここからの旅は、わしも同行させておくれ。
       そうじゃシロクンヌ、川原石を運ぶのを手伝うてくれんかのう。」
シロクン  「焼き石にするんだな?いいぞ。
        石はイワジイが選んでくれ。」
タカジョウ  「おれも手伝うぞ。」
マサキ  「一度村に落ち着こう。荷物を置いてそれからだ。
      おれも手伝うよ。
      焼いて、水を掛ければ、石は割れやすい。
      沢山運んでおこう。」
  「シロクンヌー!待ってたよー!」
 
 乳飲み子をおぶった女が一人、こっちに走って来る。
 
  「シロクンヌ、会いたかったよ!
    見て!シロクンヌの子だよ!」
シロクン  「何い!
        ま、待て・・・
        だ、誰であったかな・・・」
  「え?」
シロクン  「お、おれはおぬしを知らんが・・・」
女  「えーーー!!!」
イワジイ  「シロクンヌや、それは無かろう!
       テーチャはシロクンヌはまだかと、何度もここに見に来ておったのだぞ。」
テーチャ(女・23歳)  「・・・・・」
マサキ  「テーチャはシロクンヌの事を良く知っておったぞ。」
シロクン  「そ、そうなのか?」
マサキ  「ああ、間違いない。
      テーチャの子が、シロクンヌとの間に出来た子だというのは、おれも今初めて聞いたが。」
 
 サチとミツが心配そうにシロクンヌを見ている。
 タカジョウは一人、ニヤニヤしている。シロクンヌの窮地が楽しいのかも知れない。
 
シロクン  「待ってくれ・・・
        間違いない。おれはおぬしを知らん。
        ・・・・・
        ははあ、分かったぞ!
        カゼト!どこに隠れておる!」
 
 すると、アハハハハと籠ったような笑い声が聞こえて来た。
 
イワジイ  「ん?どこじゃ?」
タカジョウ  「蒸し室からだ。いつの間に?」
 
 蒸し室の中から、一人の男が現れた。
 
カゼト(男・28歳)  「シロクンヌ、久しぶりだな。」
シロクン  「ああ久しぶりだ。相変わらず、手の込んだたぶらかしをやっておるな。」
イワジイ  「何じゃ?どういう事じゃ?」
マサキ  「あ!ひょっとして・・・
      テーチャ?」
テーチャ  「アハハ、ごめんなさい。カゼトから頼まれたの。」
タカジョウ  「なんだなんだ?」
シロクン  「カゼトはこういうのが好きなんだよ。
        旅人をダマしては楽しんでおる。悪い男だ(笑)。」
タカジョウ  「と言う事は?」
テーチャ  「ごめんなさい。この子は別の人との子。
       あたしもシロクンヌと会うのは初めてよ。」
マサキ  「しまった、おれも完全にダマされた(笑)。」
イワジイ  「なんとも、仕込みの込んだマネをしよるのう(笑)。」
サチ  「あー、良かった!」
ミツ  「心配したよねえ。」
カゼト  「すまんな。アマカミになってしまっては、仕掛けられんだろう?
      今の内にやっておかねばと思ってなあ。」
マサキ  「それにしても、いつの間に蒸し室に入ったのだ?
      おれ達がさっき見た時には、カゼトの姿はなかったが。」
カゼト  「ああ、みんながテーチャの演技に気を取られている隙にな。
      それまでは、あそこに太い樹があるだろう。あの陰に隠れていた。」
タカジョウ  「けっこう遠いぞ。よく気付かれずに来られたな。」
シロクン  「カゼトはそういうのが得意なんだ。
        音も無くに近づいて来て、いきなりワッ!ってやりおる。」
ミツ  「アハハ、なんかアブナイ人だね。」
サチ  「カゼト・・・カゼ・・・もしかして?」
カゼト  「そうだよ。おれの生まれは北のミヤコ。
      カゼのイエの流れをくむ者だ。」
シロクン  「そうなのか!知らなかった!
        おれはてっきり、この村の生まれだと思っていたよ。
        カゼのイエと言えば、たしか今のアマカミがカゼのイエの御出身だと・・・」
カゼト  「うん。アマカミは、かつてはカゼクンヌと名乗っておられた。
      おれは当然、シロクンヌがシロのイエのクンヌだと分かっていたさ。
      でもシロクンヌが何も言わんから、おれもそこには触れずにおいた。」
シロクン  「そうだったんだな。
        そうだ、カゼト、紹介しておくよ。」
カゼト  「もう分かってる。この子がミツ。
      この子がサチ。アヤクンヌだ。
      おれがミヤコを出た時には、まだ3歳だったはずだから、お互い、初対面だ。
      そしてタカジョウ。たぶん、タカクンヌだ。
      それからあの枝にいるのがシップウ。
      おぬしらが飯食い場で鍋談義をしているのを、おれは樹の上で見ていたんだぞ(笑)。
      マサキ、その時、気になる事を言っていたな。
      南の島のハタレの兄弟だ。
      後で、もっと詳しく教えてくれ。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト