縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第31話 7日目④

 
 
 
          アオキ村。夕食の広場。
 
タカジョウ  「シシ腿の塩漬け、切り分けて来たぞ。おれ達の分だ。」
テーチャ  「今、摘まんでみたけど、美味しいのね!
       炊事場では、みんな、美味しい美味しいって大騒ぎよ。」
タカジョウ  「そうだったな(笑)。そら、コノカミ、食べてみてくれ。」
キサヒコ(男・33歳)  「おおすまんな。どれ、ウワサには聞いたが・・・
             旨い!初めて食ったが、旨いもんだな!」
カゼト  「なんだこれは!口の中でとろけるぞ。」
イワジイ  「久しゅう食うておらなんだが・・・ほう!こりゃ上物じゃ!」
マサキ  「ほう、薄いのか・・・
      どれ・・・なんと!ホントにとろけるんだな。」
サチ  「ミツ、やっと食べれるよ!」
ミツ  「うん!美味しい!」
シロクン  「ははは、お預けだったもんな。」
 
 ここでテーチャは乳飲み子をおぶっているが、服を着た上からおぶっているのではない。
 素肌に直接裸の子をおぶって、その上から服をまとい、その上から帯を締めて支えている。
 子が泣くと、そのままクルリと腹側に移動させ、乳を飲ませるのだ。
 
イワジイ  「それで蒸し室はどうじゃった?三人で入ったんじゃろう?」
サチ  「暑かった!でも気持ち良かった。ミヤコの人にも教えてあげる!」
ミツ  「出た後に冷たい水を浴びると、シャキッとするね。」
テーチャ  「あたし、初めて入った。中で火を焚くのは駄目なの?」
イワジイ  「いかんぞ!明りは手火立てで二本。それ以上はいかん。
       熾きなどもっての外じゃ!瘴気でやられる。死んでしまうぞ。」
ミツ  「手火に器をかぶせると火が消えるけど、同じ意味?」
イワジイ  「ほうじゃ。」
サチ  「掘る場所って、どこでもいい訳じゃないでしょう?」
イワジイ  「ほうじゃ。ほいじゃが、口で説明するのは難しいが・・・」
カゼト  「多分、ハニのイエの者なら分かるよ。」
サチ  「そうだね。それに掘らなくても、張り屋みたいなやり方もあるし。」
キサヒコ  「イワジイのお陰で村の名物が増えた。
       旅の者も癒される。ありがとうな。」
イワジイ  「なあにコノカミ、お安い御用じゃ。」
カゼト  「ところで、女衆も裸で入ったのか?」
テーチャ  「そうよ。まさかカゼト、あんたどっかに潜んで、覗こうとしてないわよね?」
ミツ  「してそう。」
サチ  「水浴びの時がアブナイよね?」
タカジョウ  「カゼトなら、やりたい放題だぞ(笑)。」
マサキ  「ハハハ、間違いない。」
イワジイ  「わしにもその技を教えてくれんか。」
カゼト  「何言ってる。覗きなんかするもんか。」
シロクン  「よく言うぞ。」
キサヒコ  「ははあ、さてはカゼト、また旅の衆に悪さをしたな?」
シロクン  「ああ、おれをハメようとした。テーチャと組んで。」
キサヒコ  「テーチャも悪乗りするからな。困った奴等だ(笑)。」
テーチャ  「えへへ。」
シロクン  「テーチャ、その子の父親はどこにいるんだ?」
テーチャ  「旅に出ちゃった。あたしとこの子をこの村に預けて。
       カゼのイエの人なのよ。」
キサヒコ  「随分昔からの言い伝えなのだが、南の湖の向こうにカゼの里があったらしいのだ。
       この村とも行き来して、良い付き合いだったらしい。
       ところがある日、大雨が降って、土石流で押しつぶされてしまったと言うのだ。」
カゼト  「一夜にして埋まってしまったらしいぞ。
      犠牲者も多く出たが、助かった者はこの村の世話になった。
      以来ここは、カゼのイエの連絡場所になっている。」
シロクン  「そうだったのか!
        それで分かったぞ。
        ここから北に続く塩の道、そのブナの木の・・・」
カゼト  「ヲシテか?」
シロクン  「ああ。誰が彫ったのか不思議に思っていた。」
タカジョウ  「ヲシテだと?」
サチ  「ヲシテがあるの?」
マサキ  「ヲシテって何だ?イワジイは知っておるか?」
イワジイ  「いや知らん。初めて聞くのう。
       ミツ、知っておるか?」
ミツ  「私も初めて聞いた。イエにまつわる何か?」
シロクン  「ああ、そうだ。
        やはり、タカジョウも知っていたな?
        塩の道に面白いものがあると言っていただろう。
        それがヲシテだよ。」
タカジョウ  「ヲシテは師匠から一通り教わった。
        絶対、人には話すなと言われてな。
        イエの者なら知っていると言うことか・・・」
イワジイ  「じゃから、そのヲシテとは何じゃい?
       教えてくれても良かろうが。」
シロクン  「言の葉の、書き記しだ。モジとも言う。」
イワジイ  「何じゃと!言の葉の・・・
       コノカミやテーチャは知っておったのか?」
キサヒコ  「ヲシテがあるのは聞いていた。
       しかし読み方は知らん。」
テーチャ  「私も同じ。この子に教える時に、あたしにも教えてくれるみたい。」
イワジイ  「驚いたぞい。言霊(コトダマ)を操りよるのか?」
カゼト  「もちろん悪用はせんよ。
      地図の補足のために書いたのだ。
      それに、石に刻んだりはしていない。樹の幹だ。
      ブナの幹に彫ったのだ。とこしえには残ったりしない。」
シロクン  「普通は乾いた粘土版に彫ることが多いな。
        そしてその粘土版は、決して焼きはせん。
        不要になれば、水で湿らせ崩してしまう。」
ミツ  「なんか、よく分からない。
     サチ、詳しく教えてよ。」
サチ  「父さん?」
シロクン  「ああいいさ。教えてやれ。」
サチ  「言の葉には、一枚一枚に意味があるのは知ってる?」
ミツ  「少しだけ。は、開く意味だよね?ける、かるいの
     逆に、は閉じる意味。める、つむく、めくの。」
マサキ  「は積極性だ。いーと言う時、口が前に出るからな。口と言うか、舌が。
      く、のち、きの。」
サチ  「そう。は出るもの。っぱ、らう、れる・・・
     は調和。ごやか、めらか、かま、らぶ、めす・・・
     だから、はなは出ていてまとまったもの。
     顔の鼻や地面から出ている花。」
イワジイ  「はしっこの意味の端(はな)もあるのう。」
サチ  「うん。はーって伸ばすとになるでしょう?
     なーって伸ばすとになる。
     だから同じの組。は、ける、かるいだったでしょう?
     だからはなと言えば、ける、かるい感じがするの。
     さわやかなかまも全部になる。ける、かるい感じがするでしょう?」
キサヒコ  「なるほど・・・他に、の組、の組、の組、の組があるのだな?」
サチ  「そう。それは横の組で、縦にも組があるの。
     例えば、と同じ組は、
     こすってる感じがするでしょう?
     そういう風に組分けして、言の葉一枚一枚を形にして書いたのがヲシテ。
     昔、アヤのイエで考え出されたの。」
シロクン  「そうなのか!アヤのイエが・・・それは知らなかった。」
カゼト  「シロクンヌはクンヌのくせに、要所要所で知らん事が多いんだな(笑)。」
シロクン  「そうなんだよ・・・
        こんなことで、アマカミになって良いものなのかと思ったりするぞ。」
カゼト  「のんきな男だ(笑)。」
イワジイ  「しかしサチ、それを知った者は、コトダマを操れるようになりはせんか?
       その気になれば、人に呪詛をかけられようが。」
シロクン  「ふむ。確かにそれは言える。コトダマの力が強まるからな。
        魂写しをしていない粘土であっても、ヒトガタを作り、
        そこに名を刻めば本人になる。
        それを踏みつければ・・・」
カゼト  「白樺の皮に[もえよ]と書いてムロヤに埋めて置けば、
      いつかそのムロヤは火事を出すだろうな。」
テーチャ  「わー、怖い。」
タカジョウ  「そうか。だからむやみに伝えてはならんのだな。
        ハタレが知ったら大ごとだ。」
シロクン  「イエの者にしか伝えてはいけないとなっている。
        だからイナは知っているが、テイトンポは知らん。
        テイトンポが知ったところで悪用するとは思えんが、それが掟なんだ。」
イワジイ  「なるほどのう。」
ミツ  「言の葉を書きしるすなんて、思ってもみなかった!
     サチのご先祖様はすごいんだね。
     言の葉では、他にどんなことが出来るの?」
サチ  「例えばね・・・もう一つ、名前を作ったりできるよ。新しい名前。
     やってみようか?
     言の葉の中で、一番強い言の葉は、なの。わめる、るの
     キッ って言うと、いかにも強いでしょう?
     だから父さんをひと言で表せば、
     そしてお姉ちゃん(ハニサ)は、
     は、まろび優しく受け止める意味があるの。きの
     つる、ずの
     そして父さんとお姉ちゃんは、祈りの丘に誘(いざな)われて出会ったでしょう。
     もしかすると、お互いに、相い誘(いざな)って、出会ったのかも知れない。
     そんなだから・・・
     父さんは、イザナキ。お姉ちゃんは、イザナミ。」
 
 
やまとことば 参考資料  林英臣 縄文のコトダマ  
本稿には、林先生の発言をそのまま引用させていただいた部分が多々あります。
作者としまして、無許可での引用の非礼をお詫びすると共に、学ばせて頂いたことに対し、林先生には深く感謝し、お礼を申し上げます。
 
縄文人の言霊信仰。
それが現代日本人に落とす影について、私見を持っております。
それは別稿で詳しく触れてみたいと思っています。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト