縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

ウラ話② ネバネバ①

 

 

     今回の話題は、「ネバネバ」です。

 
縄文GoGoの物語の中で、ウルシ村は長野県の何処かだという設定です。
そのウルシ村のそばには「飛び石の川」が流れていて、その下流沿いに、シカ村、アマゴ村、ツルマメ村と続きます。
つまりツルマメ村は山梨県のどこかなのですが、そこではオオ豆を栽培していて、「ネバネバ」と呼ばれる加工食品を作っている事になっています。
 
縄文GoGo第37話
ハニサ  「スサラはアマゴ村の出身だから、その辺、詳しんだよね。」
ヤシム  「もうヤッホ!こぼさずに食べれないの?私の靴に、タレが付いたでしょ!」
ヤッホ  「おまえが近くにいるからだよ。
      アマゴ村の向こうにはツルマメ村があって、豆作りが盛んだって聞いたぞ。」
スサラ  「そうよ。豆料理もいろんな種類があるわね。ネバネバっていう食べ方もあるわよ。」
ハギ  「それ、一度だけ食べたことあるよ。
     最初は、何だこれ、腐ってないか?って思ったけど、食べ出すとクセになるんだよな。」
シロクン  「ネバネバ?いったいどんな・・・」
 
会話はここで途切れてしまうのですが、シロクンヌはその後も、ネバネバの正体が気になってしょうがありません。
ハニサにネバネバを食べた事あるか?と聞いたりしています。
そしてその後、スサラの妹のサラがハギに嫁いできて、ネバネバを作って見せます。
 
縄文GoGo第148話
サラ  「出来たよ。食べてみて。なかなかいい出来だよ。」
ハギ  「旨いぞ。」
オジヌ  「何が出来たの?」
ハギ  「ネバネバだ。サラが四日前から仕込んでたんだ。」
カタグラ  「ああ、前、話に出たやつだな?」
ナジオ  「ツルマメ村が本場なんだよな?」
シロクン  「ネバネバ? これがそうか?」
サラ  「そうだよ。私、みんなを呼んで来る。」
 
スサラ  「美味しい! あんた上手に作ったね。」
ハギ  「旨いよな? 前に食べたのよりも旨いもん。」
ヤシム  「でもこれって・・・腐ってないの? ヤッホの足のニオイがするよ?」
ヤッホ  「何でおれの足が腐ってるんだよ!」
エミヌ  「そうそう、オジヌの靴もこんなニオイ。」
オジヌ  「ねーちゃん、いい加減な事言うなよ!」
カタグラ  「ふむ・・・おれの足もこんなニオイだな・・・」
ハニサ  「シロクンヌの足はこんなニオイしないよ。」
アコ  「いーかげんに足のニオイから離れろよ。食べてみると美味しいぞ。」
ヌリホツマ  「ほう・・・わしは初めて食べたが・・・これは旨いの。
        どうしてオオ豆がこんな味になるんじゃろうか?」
シロクン  「ネバネバという言葉で以前から気になっていたんだが・・・うん、旨いな・・・
        これは何かで味付けがしてあるのか?」
サラ  「してないよ。オオ豆を茹でて、その後にトチの枯れ葉でくるんだの。
     それを炉のそばで温めておいただけだよ。」
クマジイ  「不思議じゃのう。それだけで、こんなに味が変わるもんなんじゃな。」
ナジオ  「くせになるってのは分かるな。美味しいよ、これ。」
テイトンポ  「い、いかん! おれは、どうしても、これは口に出来んっ!」
アコ  「どうして?」
テイトンポ  「おれの、足のニオイに似ているからだっ!」
アコ  「だから、足のニオイから離れろって!」 みんなが、笑った。
 
さて、もうお分かりでしょうが、ネバネバとは、納豆です。
でも舞台は5000年前の縄文時代
納豆なんで無かっただろう。大体、稲わらが無いのに、納豆なんて無理だよ。
・・・普通、そう思いますよね?
実際、私もそう思っていました。
 
私は『縄文GoGo』の中で、縄文人にいろんな事をさせています。
鷹狩り、養蜂、スッホンの養殖・・・
これらはもちろん、私の空想の産物です。
もしかしてもしかすると、やってたかも知れないでしょ?と言うレベルのお話です。
 
でもですね、納豆に関してはそうじゃないんです。
本当に有ったかも知れないんです。
私がそれを知ったのは2年前でした。
縄文時代の植物について知りたい点があり、愛知県埋蔵文化財センターに電話してみたのです。
すると職員の大半の方が発掘作業で出払っていたようで、応対して下さった方が、今ここでは分かりかねるのでと言う事で、植物なら中山誠二先生が詳しいですよ、と教えてくれました。
 
中山誠二先生?存じ上げなかったので、ググってみました。
すると帝京大学付属研究所の教授で、「南アルプス市ふるさと文化伝承館」の館長さんだとあります。
専門は、植物考古学。
なんだか偉い先生の様だし、どうしようかと一瞬迷いましたが、思い切って「南アルプス市ふるさと文化伝承館」に電話してみました。
それが2年前の出来事です。
 
「館長は、週に二日だけこちらに来ます。次は・・・」
電話に出られた女性職員の方がとても親切な方で、中山先生は不在でしたが、私は用件を伝え、また改めて連絡しますと電話を切りました。
そして鶴舞中央図書館に走り、『マメと縄文人』を借りたのでした。
 
『マメと縄文人』、ど直球なタイトルですよね。
著者はもちろん、中山誠二先生。
 

電話でお話させて頂く前に、一冊は著書に目を通しておこうと思った訳です。
ところがこの本、実に硬派な専門書なのです。
土器の圧痕レプリカ法を用いてツルマメがダイズに移行して行く様子、などを研究した学術書で、走査顕微鏡写真がふんだんに登場し、圧倒的な読み応えで、ここまで念入りに考察するものなのですねと、私などは畏れ入ってしまいました。
それまでも同成社の「ものが語る歴史」シリーズは何冊か手に取っていましたが、他と比べても飛び切りの研究量の成果報告ではないかと思いました。
 
こりゃ大変な先生だな、怖そうだし、やっぱ電話はやめとくか・・・
そうも思ったのですが、数日後、恐る恐る電話してみました。
すると前回の女性が電話に出て、私が名を告げると、はいはい、館長におつなぎします、少々お待ち下さいねととても愛嬌よく応対して下さって、少し安心しながらも緊張は高まって来ます。
 
忙しいのに何の要件だ、みたいに不愛想に応対されるんじゃないか?
実際、私は何度かそういう経験をしていました。
めんどくさそうに説明されたり、少し突っ込むと説明も無く断言されたり・・・
そう断言できる根拠は何ですか?・・・そういう質問をして、何度も嫌がられました。
県や市が運営する○○博物館。そんな所の学芸員にもそういう人って多いのです。
縄文土器って水が漏るんですよ。」そう断言されて、びっくりした経験もあります。
 
しかし、それらの心配が杞憂であった事が、直ぐに分かりました。
中山先生の電話第一声を、私は今でも覚えています。
「いやー○○さん(私の名前)、縄文時代ってね、分からない事だらけなんですよー。」
挨拶の後、いきなりこれですよ。
私は思わず膝を打ちました。これこそが、研究者の態度だと感服しました。
どんな分野であれ、自信のある人って背伸びしませんもんね。謙虚で、ありのままです。
非常に気さくな方で、私の「縄文時代に竹はあったのでしょうか?」という質問に対しては、専門から外れているようで明快なお答えは頂けませんでしたが、その代わりにとても興味深いお話が伺えました。
 
 
中山先生 「○○さん、今ここでは面白い事をやってましてね、納豆を作っているんですよ。」
 
              何だって!
 
私 「なっとう?納豆ですか?でも、麦わらって無かったでしょう?」
中山先生 「麦わら以外の枯草菌を使うんですよ。」
私 「え?そんな事、出来るんですか?」
中山先生  「出来ますよ。アシ、ススキ、トチ。
       トチの葉で作ったのが、職員には一番人気ですね。」
私 「食べたんですか!」
中山先生 「もちろん、食べますよ。
      まだ、あれこれと試している最中ですけどね。」
私 「縄文人が、納豆を作っていたんですか?」
中山先生 「断定は出来ませんよ。可能性は有りますが。」
 
びっくりしました。
いや、縄文時代に納豆があったかも知れないと言う点についてもですが、それを真面目に研究している人がいたのです!
南アルプス市ふるさと文化伝承館」では、館長さんが中心になって、職員さんが協力して縄文納豆の可能性を探っていたのです。
なんとロマンあふれる研究ではありませんか!
正直、私は感動してしまいました。
 
                       つづきます。