縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第36話 8日目③

 
 
          北の湖の湖上。筏で移動中。
 
ミツ  「この湖、すごく深いんだね。」
タカジョウ  「スワの湖は、浅いからな。
        しかし深いのに、どこまで行っても底が見える。
        覗き込んで、真下を見れば底が見えるのに、横を見れば美しい山々が映っている。」
シロクン  「な?不思議な気分になるだろう?」
サチ  「父さん、潜ってみていい?」
シロクン  「ああいいぞ。」
 
 サチが、服を脱いで飛び込んだ。そのまま深く潜って行く。

テーチャ  「わー!サチって凄いね!あんなに深く潜って行く。
       あたしもやってみよう!
       カゼマル、待っててね。」
タカジョウ  「おいおい!」

 テーチャはスルスルと服を脱ぎ、あっと言う間に全裸になると、
 カゼマルを脱いだ服でくるんで寝かせ、湖に飛び込んだ。

イワジイ  「なんともはや、気ままなおなごじゃ(笑)。」
テーチャ  「気持ちいいよー!
       水だって、そんなに冷たくないよー!」
ミツ  「私も行こう!」
サチ  「父さーん、青くて綺麗だよー!」
シロクン  「おいタカジョウ、行くぞ!」
タカジョウ  「お、おー。」

 ミツとシロクンヌ、そしてタカジョウもしぶしぶ全裸になって飛び込んだ。

テーチャ  「つーかまーえた!」
タカジョウ  「こ、こら、離れろ!」
サチ  「キャハハハ。
     父さん、潜りっこしよう!」
シロクン  「よし、いくぞっ!」
ミツ  「プハー。湖の中、すごく広い!青くて綺麗!
     青い世界にいるみたい。」
イワジイ  「青き湖か・・・」
ミツ  「気持ちいいよ。
     イワジイも一緒に潜ろう!」
イワジイ  「言うてなかったかの。わしは泳げんのじゃ。」
 
 
 
          海に向かう山越えの道中。
 
ミツ  「ブナの落ち葉を踏みしめながら山を歩くのって、気持ちがいいね。」
イワジイ  「ひなたを歩くのと変わらんのう。汗が出て来よる。」
テーチャ  「フンフンフン・・・」
シロクン  「テーチャはごきげんだな(笑)。」
テーチャ  「ターカジョウに勝ったもーん。」
タカジョウ  「あんなのは反則だ!」
テーチャ  「反則なんかーじゃないですよー。」
サチ  「ねえテーチャ、どんな顔したの?」
テーチャ  「これ。」
ミツ  「アハハハハ。イワジイの変な顔とそっくり!」
シロクン  「ワハハハ。ホントだなあ。」
サチ  「キャハハ、これ見たら吹き出すよね。」
イワジイ  「それでタカジョウはあんなに早く浮き上がったんじゃな。」
タカジョウ  「自信満々に息止め潜りっこを挑んで来られれば、受けん訳にはいかんだろう。
        せーので潜って、ヒョイとテーチャを見たらこの顔だ。
        おんなイワジイめ。」

 勝負に負けたため、タカジョウはテーチャの荷物を持たされていた。

サチ  「あ!あのブナの幹に、何か描いてある。」
シロクン  「地図ブナだ。見てみよう。」(地図ブナ=樹の幹に地図が刻まれたブナ)
タカジョウ  「ここからは、こういう地図ブナが方々にあるんだな?」
シロクン  「そうだ。だから村は無いが、割合安全に海に出られるんだ。」
イワジイ  「なになに・・・こっちに行けば・・・こりゃ湖の絵じゃな。
       わしらが今来た方角じゃ。
       こっちは、泉と川かいの?」
シロクン  「そうだな。おそらくヌナ川が始まる泉だ。
        その泉まで行って、休憩しようか。」
テーチャ  「そこでこの子にお乳あげよう。
       ねえ、ヲシテってどれ?」
シロクン  「これだよ。キタと書いてある。
        ここがこの樹の北面だ。
        曇っていても方角が分かるように書いたのだな。」
 
 
          ヌナ川の泉。
 
サチ  「泉の水、冷たくて美味しい!
     ここがヌナ川の源流なの?」
イワジイ  「そうじゃ。雄大な湧き水じゃろう。
       地すべりの溝が造った川の始まりじゃよ。
       曲がりくねりはするが、大きく見ればここから真北に向かって流れておる。」
シロクン  「この先ヌナ川は深い谷になっていて、川に沿って歩くのは難儀する。
        だから川から離れて、山越えが続くんだ。
        ミツは随分と元気だが、疲れてはいないのか?」
ミツ  「うん平気。だって早く海を見てみたいから、もっと急いでも平気だよ。
     そうだ、今夜は十三夜でしょう?
     ブナの山なら月の光で明るいよ。夜も歩こう!」
シロクン  「ハハハ。ところがな、夜半には雨になりそうなんだ。
        月も隠れて真っ暗だぞ。」
サチ  「雨雲のニオイがするの?」
シロクン  「ふむ。明日も、雨だろうな。」
イワジイ  「おそらくそうじゃろう。細かな虫が、群れて飛んでおる。」
テーチャ  「あーもーやだ。月のものが来ちゃった。
       タカジョウ、荷物の中に当て物があるから取って。」
タカジョウ  「自分で取れよ。って乳をやってるのか。
        どれだ?シロクンヌ、分かるか?」
シロクン  「どら・・・これじゃないか?」
テーチャ  「それそれ。当てて。」
シロクン  「腰を浮かせてくれ。よし、下ろせ。仮当てだぞ?」
テーチャ  「うん。ありがとう。あとで自分でやる。」
イワジイ  「テーチャは乳をやっておるのに、月のものが始まったのか?」
テーチャ  「うん、先月から。
       珍しいって言われたよ。」
タカジョウ  「月のものか・・・
        子が出来ておればいいが・・・
        ユリサはどうしているかな・・・」
サチ  「あはは、父さんと入れ代わってる。」

 作者は、縄文人とは、経血を汚辱視しない人々ではなかったかと思っている。
 したがって、そこから来る女性差別も持ち合わせてはいなかったであろう。

サチ  「あ!シップウが何かを捕まえて来てる!」
タカジョウ  「アナグマだ。今夜はムジナ汁だ。
        テーチャ、腹一杯食わせてやるぞ。」
テーチャ  「わー嬉しい!お乳あげると、お腹減るのよ。」
タカジョウ  「シップウ、よくやった!
        ハラワタをシップウに食わせて来る。ちょっと待っててくれ。」
シロクン  「分かった。サチとミツ、クルミだ。
        そら、テーチャも食っておけ。」
イワジイ  「今夜は冷えそうじゃのう。小屋の火は、絶やさんようにした方がよかろうな。」
ミツ  「小屋の中で火が焚けるの?」
イワジイ  「山掛け小屋はの、岩陰を利用してこさえてあるんじゃ。
       岩壁を伝って、煙は抜ける。
       炎を浴びた岩が、夜っぴて火照っておって、あったかいんじゃぞ。
       この先に何ヶ所もある。

山掛け小屋の断面図。右側は岩陰。数本の木を立て掛け、横木を渡し、樹皮を張る。そこに笹を下向きに重ねて留める。岩肌が煙道となり、天井から煙は抜ける。また、適度にいぶされ、小屋内に虫が湧きにくくなる。
 
 
 
          山掛け小屋の前。夕刻前。
 
ミツ  「ホントに地図ブナって便利だ。たどって行けば、小屋に出るんだもん。
     地図の通りに、ちゃんとあそこに湧き水もあるよ。」
タカジョウ  「中は結構広そうだな。これなら余裕で寝られる。
        お?器もあるぞ。誰かがここで焼いたんだろうな。」
シロクン  「よし、先客もいない。今夜はここを使わせてもらおう。
        火は中と外と、両方で焚こう。
        中は一度、いぶしておいた方がいいな。
        まず、地の祓えをするぞ。
        イワジイ、お願いする。」
イワジイ  「ふむ。ではそこに一列に並び、ひざまずいてこうべをたれよ。
       ん?テーチャ、どうした?」
テーチャ  「あたしは舞いの役。」
イワジイ  「なるほどの。では、神妙にな。
       ちーのーみーたーまーにーもーうーしーきーかーせーたーきー・・・」

 目をつぶって詠い上げるイワジイの背後で、テーチャがカクカクした舞いを舞った。
 見ると変顔になっている。
 みんな、笑いをこらえるのに必死であった。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。  カゼマル 1歳 テーチャの息子

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト  ヲシテ=ここでは文字を意味する。 中今=ここでは超能力を発揮する心の状態を意味する。