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5000年前の中部高地の物語

これが矢じり? 第59話 9日目⑤

 

 

          見晴らし広場。焚火のそば。

 
ハニサ  「シジミ、美味しかった。あの水草と合うんだね。」
シロクン  「うまかったな。シジミは精が付くぞ。」
ハニサ  「そうなの?そしたらまたシロクンヌが・・・」
シロクン  「おれが、何だ?」
ハニサ  「だって昨日、サチの前で・・・」
シロクン  「なんだハニサ、知らなかったのか。
        巻貝を食べて精が付くのは男だが、
        二枚貝を食べて精が付くのは女って、昔から決まってるじゃないか。」
ハニサ  「えー! どうしよう。あたしたくさん食べちゃった!」
マグラ  「さて、食事も一段落したし、シロクンヌの重大発表を聞きに来たぞ。」
ソマユ  「ハニサ、ちょっと日に焼けたね。
      野性的になって素敵だよ。」
マユ  「重大発表、気になるー。」
カタグラ  「また大暴れしたのか?(笑)。」
アシヒコ  「これ、村の恩人に失礼じゃぞ。」
シロクン  「順を追って話すぞ。
        質問があったらその都度してくれ。」
マグラ  「わかった。」
シロクン  「おれがハニサにシジミを食わせたがっていたのは知ってるよな?」
ソマユ  「精が付くものね。」
シロクン  「できれば今日の昼に食わせてやろうと思っていたんだ。
        もちろん砂抜きした上で。
        その為には、砂利に住むシジミを採る必要があった。
        吸ってる砂が少ない。
        砂利場を見つけるには、砂利に生える水草を、丘から見つけるのが一番だ。
        子宝の湯から湖面を見たら、それがあったんだよ。」
アシヒコ  「なるほど、あのシジミはそこで獲ったものじゃな。
       泥のものとは色が違うておる。」
シロクン  「おれはあくまで、シジミが獲りたくて、そこまで泳いで行ったんだ。
        その時一緒に取った物を、今から見せる。」
 
    シロクンヌは、人の輪の中央にムシロを広げ、袋の中身をすべてそこに出した。
    アユ村の者たちは、言葉を失った。
 
シロクン  「そこが、沈んだ村だったんだよ。」
ソマユ  「沈んだ村は、あったのね!」
マグラ  「これ全部を、今日取ったと言う事か?」
シロクン  「そうだ。正確には昼過ぎには向こうを出ているから半日以下だな。」
カタグラ  「そこは、浅いのか?」
シロクン  「浅いところで、おれが立って手を上に伸ばした位。
        深いところでおれの背丈の二つ分、もちろん、全部は見切れていない。
        念の為に言うと、おれはガキの頃からヒワの湖で潜ってシジミを獲っていた。
        滅多なやつに、潜りで負けはせん。」
マグラ  「だろうな・・・
      意地の悪い見方なのだが、何者かが舟の上からそれを投げ捨てたとは考えられんか?」
シロクン  「それはおれも考えた。今のところ、絶対に無いとは言えん。
        しかしそこがかつて、陸であったのは間違いない。
        樹の残骸があった。
        調べてみると、根が付いていた。
        その根は湖底の砂利の深くに、今でも埋まっているんだよ。」
カタグラ  「分かったぞ!横長に広がっている、黒い藻のところだろう?」
シロクンヌ  「そうだ。」
カタグラ  「あそこは土地の者は近付かないんだ。
       泳ぐと足を怪我するし、なによりあの水草が気持ち悪い。
       樹の残骸だったのか!」
マユ  「それは砂利の上にあったの?それとも掘ったの?」
シロクン  「混ざっていたと言うのが正しいのかな。
        最初は手で掘っていた。当然手を切った。
        だから手近な石を使って掘ったんだが、あの石は今思えば、人が加工した物だ。
        藻が繁っているし、水は澄んでいるが光は届きにくい。
        手探りなんだよ。
        あと砂利だが、堅い場所と崩れたような場所がある。」
ハニサ  「手を切ったの?」
シロクン  「大したことはない。もう治っている。」
マグラ  「それは割れた器だな。
      村であった痕跡は他に?」
シロクン  「小屋に使ったと思われる材木が沈んでいる。朽ちているがな。
        それからあれはたぶん、炉だと思う。断言はできんが。
        そこで取った物が、そこにある焦げが付いた石だ。」
マグラ  「この夥(おびただ)しい数の矢じりを、わずかな時間に砂利を掘って取ったんだな?」
シロクン  「そうだ。300以上はあるぞ。
        これくらいの範囲に固まっていた。
        いろいろ掘ったが、ほとんどそこでだ。
        これを見てくれ。
        こんな物を作れるやつが、この中にいるか?」

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下段左から3番目などが長脚鏃
カタグラ  「この細い脚を折らずに、石を剥がしたんだろう?」
マグラ  「凄い技術だな・・・」
マユ  「それは鏃(やじり)なの?
     首飾りにしたいくらい。」
シロクン  「ははは、確かにな。魔除けには良さそうだ。
        これは製造過程の途中。
        これなんかも、まだ荒削りだろう?
        それからな、鏃(やじり)の大きさ、つまりこの大きさの原石が、
        持っては来なかったが、たくさん出るんだよ。
        だから間違いなく、石工(いしく)の加工場だったと思う。
        黒切り(黒曜石)が多いが、ほとんどの黒切り矢じりが、透けてるだろう?
        他は、色とりどり。
        見たことが無い石が多いんじゃないか?」
アシヒコ  「そこなんじゃ。
       わしが見たことも無い石が、たくさん混ざっておる。」
マグラ  「サチが言った通りだ。
      間違いない、石工集団の村だ。
      矢柄が付いてしまえば、水に浮くし、そうなると一ヶ所にはまとまらない。
      千本征矢の村は、他の場所にあったんだろうな。」
シロクン  「ここまではおれがさっき見た事実だ。
        ここからは推理になるが、いいか?」
マグラ  「わかった。続けてくれ。
      疑問があれば、その場で聞くよ。」
 
    気が付いて見ると、シロクンヌ達の周りには、村人の輪が幾重にもできていて、
    誰もが息をのんで見守っていた。
 
※ 諏訪湖シジミは江戸期に放流されたもので、5000年前には棲息していません。

 

 

 

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登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚