アユ村の夜はふけて 第61話 9日目⑦
裏の温泉。星明りの中。
ソマユ 「もう明日、帰っちゃうんでしょう?
折角来たんだから、たっぷり温泉に浸からなきゃね。」
ハニサ 「気持ちいいね。サチも連れて来れば良かったかな。眠そうにしてたから・・・
手火立てって、神坐のそばに立てるんだ。」
ソマユ 「そうよ。神坐にお供えするの。守らないと、神坐からいたずらされるって言うよ。」
ハニサ 「えー! 昨日の夜、神坐があるのに気付かなかったから、他の所に立てちゃった!
どんないたずらされるんだろう?」
ソマユ 「あたしが聞いてるのは・・・
男の人なら、人前で神坐になっちゃって、恥ずかしい思いをする。」
ハニサ 「あ!」
ソマユ 「女の人なら・・・何だっけ、そうそう、うずうずしちゃうんだ。
ハニサ、もしかして、うずうずしてるんじゃない?(笑)」
ハニサ 「えっと・・・シジミが美味しくて、いっぱい食べちゃったの。
だから・・・」
見晴らし広場。焚き火のそば。
カラグラ 「そら、これサチに掛けてやれよ。しっかりしてるけど、やっぱりまだ子供だな。」
シロクンヌ 「色々あって、疲れていたんだろう。寝顔が可愛いだろう?」
マグラ 「サチはシロクンヌの膝の上が大好きみたいだな(笑)。」
カタグラ 「おお、膝に乗ると、嬉しそうな顔をするんだ(笑)。」
マグラ 「明り壺の祭りだが、シロクンヌも見たことは無いのだろう?」
シロクンヌ 「無い。それを見に、ずっと西の村からウルシ村まで飛ばして来たんだ。
明り壺は、ハニサが作ったらしいぞ。」
カタグラ 「今年はおれ達も見に行くよ。」
マグラ 「その前に、近隣の村に呼び掛けて、おれ達自身でもあの場所を調べてみる。」
シロクンヌ 「それがいいな。」
マグラ 「そして、何か、お祭りをやるべきだろうな。
明り壺の祭りの時に、そういう諸々の事を報告できると思う。」
シロクンヌ 「ところで、ソマユの右足だが、いつ怪我したんだ?」
マグラ 「うむ・・・これは、シロクンヌだから言うのだが・・・」
裏の温泉。星明りの中。
ハニサ 「えー!精が付くってそういう意味だったの?知らなかった。」
ソマユ 「アハハハ。ハニサ、鼻息が荒かったよ。目も、血走ってた。」
ハニサ 「絶対うそだ。アハハハ。あたし、変な勘違いしてた。」
ソマユ 「ねえハニサって、兄弟いるの?」
ハニサ 「兄さんが一人いるよ。」
ソマユ 「お兄さん、カッコいいんじゃない?」
ハニサ 「どうかな・・・優しいから大好きだけど。
シロクンヌの方がカッコいいかな。」
ソマユ 「シロクンヌはカッコいいよね。
グラ兄弟みたいにごわごわしてないし。」
ハニサ 「アハハハハ。グラ兄弟って言うの? 確かにごわごわした感じするね。」
マユ 「あー疲れた。やっと片付け、終わった。
こんな時に当番だなんて不運だよ。楽しそうね!」
ハニサ 「ご苦労様。手荒れしてたら、いい薬あるよ。」
マユ 「してるー。薬欲しいー。」
ハニサ 「あとであげるよ。あたし帰れば一杯あるし。」
ソマユ 「ハニサ、明日帰っちゃうんだよねー。
せっかくお友達になれたのに・・・」
ハニサ 「また会えたらいいね。お祭りは来ないの?」
ソマユ 「私、足を怪我しちゃってるから・・・」
マユ 「ソマユは可愛いでしょう?だからあいつらから目を付けられてたの。」
ハニサ 「何があったの?」
寝所のムロヤ。
サチ 「父さん、お姉ちゃんは?」
シロクンヌ 「なんだサチ、起きたのか。
ハニサは裏の温泉からまだ帰ってきてないぞ。」
サチ 「そうなの。」
シロクンヌ 「サチ、眠いか?」
サチ 「今は眠くない。」
シロクンヌ 「ならばイエの話しをするぞ。」
サチ 「はい。」
シロクンヌ 「今だけは、アヤクンヌと呼ぶ。」
サチ 「はい。」
シロクンヌ 「アヤクンヌは両親と共に、沈んだ村を調べに来ていたのだな?」
サチ 「はい。」
シロクンヌ 「おまえの前のクンヌは誰であった?」
サチ 「母の姉の娘です。私のいとこ。いとこは病で亡くなりました。」
シロクンヌ 「その前は?」
サチ 「その姉です。いとこは二人姉妹でしたが、二人とも病で亡くなりました。」
シロクンヌ 「亡くなった年齢は?」
サチ 「二人とも、14歳です。」
シロクンヌ 「その二人の母親も、亡くなっておるのか?」
サチ 「はい。何年も前に。」
シロクンヌ 「アヤのイエがあるのは、北のミヤコだと聞いていたが・・・
そこから旅をして来たのか?」
サチ 「はい。」
シロクンヌ 「もし沈んだ村の事がはっきりしたら、どうすることになっていたのだ?」
サチ 「何か証拠の品を持ってミヤコに戻って報告し、トツギの準備に入るはずでした。」
シロクンヌ 「おまえはまだ、月のものは来ておらんだろう?」
サチ 「はい。」
シロクンヌ 「トツギの相手は、決まっておったのか?」
サチ 「はい。でもその方も病で亡くなりました。
今は誰とも、決まっていません。」
シロクンヌ 「ではおれの息子の一人とトツギをしても、問題は無いな?」
サチ 「はい。」
シロクンヌ 「話は分かった。」
ハニサ 「ただいま。遅くなっちゃった。」
サチ 「お帰り、お姉ちゃん。」
ハニサ 「・・・・・」
シロクンヌ 「どうしたハニサ、元気がないが・・・」
ハニサ 「なんでもない。
さっきね、コノカミに櫛をあげたのヌリホツマの。
お世話になったお礼ですって。
そしたらすごく喜んでくれたよ。」
シロクンヌ 「そうか。よかったな。」
ハニサ 「明り壺のお祭りにも、招待しておいた・・・」
シロクンヌ 「明日は器を作るんだろう? 元気を出せよ。」
ハニサ 「そうだね。すごくお世話になったもの。
お礼の気持ちを込めた器を作るよ。」
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