第168話 32日目⑤
湧き水平。昼食。
クマジイ 「ここでは、アコのタレが無いのだけが、残念じゃ。」
カタグラ 「まったくだ。あれがあれば、言う事無いんだが。
クマジイ、栗実酒はたっぷりあるからな。注(つ)いでやるよ。」
クマジイ 「すまんな。カタグラも人物が出来上がって来たようじゃな。
ほう! この串は赤ガエルのモモ肉の桜燻しじゃな。
ぜいたくな肴(さかな)じゃわい。
カタグラ 「サラが赤ガエルを捕まえるのが巧くてな。カイヌはオジヌの弟か?」
カイヌ 「そう。これ、美味しいけど、何の串?」
カタグラ 「旨いだろう。それは鶫(ツグミ)だ。
今年は早く渡って来たと言って、タカジョウがおどろいておった。」
マグラ 「シロクンヌ、報告させてくれ。
まず舟だがな、アユ村と隣のヤマメ村が協力して、試しに一艘作ってみる事になった。
大杉を、三日がかりで切り倒したところだ。
アヤの村は、子宝の湯の付近で、15のムロヤができそうな区画を検討しておる最中だ。
スワ中の村がいきり立っておってな、
その仕事はウチがやる、その材料はウチが出すと、
こっちは取りまとめに苦労しておるぞ(笑)。」
シロクンヌ 「アヤの村の件は、マグラに任せておけば間違いなさそうだな(笑)。
何かと難儀をかけるが、よろしく頼むよ。」
マグラ 「ああ、任せてくれ。サチにもそう伝えてくれな。」
カイヌ 「ツグミなんて、どうやって捕まえるの?」
ナクモ 「私もそれは不思議に思った。
さっき見たら、結構な数が燻しになってたよ?」
カタグラ 「おれもそんなやり方、初めて知ったんだが、アミだ。
アミと言っても、広げて横にして張るだけだ。その代わり、細い。」
クマジイ 「それでは逃げられてしまおうが。」
カタグラ 「そう思うだろう? ところがな・・・
鳥の通り道に竿を二本立てて、その間にアミを張る。
少し経って見に行くと、鳥が何羽もぶら下がっておるんだ。
アミを足でつかんで、必死にアミを蹴っておる。
羽ばたいて逃げればよいと思うのだが、そうは出来んようなんだ。
タカジョウは色んな事を知っておるな。
みな生きているから、必要な分だけ獲って、あとは逃がしてやるんだ。」
クマジイ 「不思議じゃのう。どうして逃げよらんのかのう。」
エミヌ 「もう、イヤになるわよ。アユ村から16人来てるのよ。
でも、男の人はみんな彼女同伴じゃない。
シロクンヌ、ハニサばっかりじゃなくて、私とも遊んでよ。」
シロクンヌ 「ハニサはソマユ達といろいろ話がしたいんじゃないかな。
今も向こうで一緒に食べてるだろう。
よし! 食べたら、あれをやってやるよ。」
エミヌ 「やったー!」
イナ 「このカモ、燻してあるのね。この葉っぱで包んで食べると美味しいわ。」
シロクンヌ 「あそこに燻し小屋があるだろう。
タカジョウが燻しが巧いみたいだな。」
イナ 「魚も燻してあるわね。クンヌ、あたし、お酒もらってもいい?」
シロクンヌ 「いいぞ。せっかく来たんだ。骨休めして行けよ。どら、注いでやるよ。」
スサラ 「風が気持ちが良いわね。タヂカリは、ずっとブランコこいでるわよ。」
ムマヂカリ 「気に入ったみたいだな。なあ、後で一緒に薬湯に入ってみるか?」
スサラ 「洗いっこしましょうか(笑)。私、見晴らし岩の上で、夕陽を眺めてみたいわ。」
ムマヂカリ 「いいな。背負って登ってやるよ。」
スサラ 「ヤシムは髪飾りを取ったのね。素敵だったのに。」
ムマヂカリ 「ふむ、祭りの時は仲良かったのだが、事情があって、うまく進展せんようだな。
マグラも何かと忙しい様だし。」
スサラ 「二人で話してるけど、悲壮感は無いわよね? 深刻な感じじゃないもの。
あなた、タヂカリを呼んで来て。何か食べさせなきゃ、お腹が空くわ。」
サチ 「そう、そこでスソを巻き込むの。それで女登りになるよ。」
コヨウ 「見えなかった?」
オジヌ 「丸見えだった。」
コヨウ 「えーウソだー。サチ、見えなかったよね?」
サチ 「うん。大丈夫。」
コヨウ 「ブリ縄って面白いね。サチ、教えてくれてありがとう。
お腹減ったね。私達も食べよう。」
ヌリホツマ 「温泉上がりに毎日その薬を塗れ。
傷痕は消えはせぬが、目立たぬくらいまではなるじゃろう。」
ソマユ 「ありがとう。薬湯も気持ちよかった! いい匂いがした。」
マユ 「そうそう、洞窟の奥が、凄く良い匂いになってるもん。」
サラ 「先生、父さんが、薬湯の事を聞きたいって。一緒に来て。」
アコ 「イナの背中は凄かったな。」
ソマユ 「肩甲骨が踊ってたね。」
ハニサ 「痛みはどうなの?」
ソマユ 「やってもらった時は痛かったけど、今は随分楽だよ。昨日までとは全然違う。」
アコ 「明日もう一度やるから、きっともっと良くなるよ。」
ソマユ 「うん、ありがとう! 治るといいな。」
マユ 「三人が薬湯に入ってる時、ついたての所でテイトンポが立ちはだかって見張ってたわよ。」
ハニサ 「あれね、アコを覗かれたくないからよ。アコは愛されてるもん。
今日だって、抱っこしてもらって来たんだから。」
マユ 「えー! いいわねー!」
ソマユ 「抱っこって、こういう抱っこ?」
アコ 「違うよ、そんな抱っこは工ッチだろう。」
ハニサ 「アハハハ」
マユ 「ミツ、こっちにおいで。サチとは、お話した?」
ミツ(11歳・女) 「まだ。」
ハニサ 「この子、あの時の子ね。」
ミツ 「このキジの羽根、お姉ちゃん(ハニサ)にもらったんだよ。
女神様からもらった、私の宝物。」
ハニサ 「この格好、あの時と同じね! あの時の、サチだ。」
ソマユ 「ミツは11歳だから、サチのいっこ下ね。サチが大好きなの。
ずっと、サチに会いたがっていたのよね?」
ハニサ 「サチー、ちょっと来てー。」
ナジオ 「シロクンヌ、アユ村のみんなが、岩滑りをやりたがっているんだ。
食事が済んだら、一緒にやってくれないかな?」
シロクンヌ 「そうだな。奥の洞窟にも行ってみたいだろうし。
エミヌ、先ずは岩滑りからやるぞ。」
エミヌ 「ねえシロクンヌ、私を抱いて滑ってよ。ハニサが怒るかな?」
シロクンヌ 「どうかな? まあ、いいだろう。一緒に滑るか。」
エミヌ 「やったー! ねえ、思いっきり飛んでね。」
シロクンヌ 「ちびるなよ。」
エミヌ 「うん! 気をつける。」
ヤッホ 「済んだのか?」
ヤシム 「うん! ねえヤッホ、サチの髪飾り、かぶせて。タホ、いっぱい食べた?
ねえ、後で三人一緒に、薬湯に入ろうよ。」