第146話 22日目⑥
夕食の広場。続き。
シロクンヌ 「もう一枚の白樺の皮に、石のツララの道の様子を描いて来た。
それほど正確ではないが、大体こんな感じだ。
石のツララの道では長くて言いにくいから、これからは石ツラ道と言うぞ。
入口の洞窟と、石ツラ道から奥とでは、まったく造りが違う。
石ツラ道と奥の洞窟は、周りが全て岩だと思ってくれ。
地面も壁も、天井もだ。
そして天井からは、石のツララが下がっている。
石ツラ道は天井が低く、デコボコ道で滑り易くてとても歩きにくい。
分かれ道があって、岩室(いわむろ)があるだろう。ここは天井も高い。
入口の洞窟から岩室まで、
歩きづらいが、血抜きしたカモシカを丸まる一頭運び込む事は可能だ。
石のツララだが、石で叩いたら、割と簡単に折れる。
これがそうだ。ハニサ、器作りの磨きにいいだろう?」
ハニサ 「うん。すべすべしてるから、すごくいいよ。」
シロクンヌ 「生活圏としては、ここまでだな。」
アコ 「奥の洞窟にも行ってみたんだろう?」
シロクンヌ 「もちろんだ。ただ奥の洞窟は広すぎるし、危険と隣り合わせなんだ。
だから全体像はまったくつかめていない。」
エミヌ 「でも凄く楽しかったんだよ。シロクンヌが見つけた遊びが。」
シロクンヌ 「ハハハ。だがその話の前に、ヤッホがそこで人骨を見つけたのだ。
保存状態はいいのだが、おこらく大昔の人の骨だと思う。
滑り落ちて、大怪我をして、這い上がれずに死んでしまったのかも知れない。
四人分の骨をおれが回収した。
その弔いと洞窟全体のお祓いをヌリホツマに頼みたいのだ。」
テイトンポ 「そうだな。おれも行って、見てみたいし、明日にでもおれが背負って行こうか?」
ササヒコ 「わしも見ておきたい。」
ヌリホツマ 「では明日、テイトンポに頼もうかの。」
ハニサ 「あたしは夜宴の時の楽しみに取っておくから、
明日、今日行かなかった人達みんなで行ってみたら?」
シロクンヌ 「それがいい。クマジイやシオラムも行って来たらいい。
おれは明日、工房の増築を始めるからこっちに残るが、サチは行け。
奥の洞窟の案内にはサチが必要た。
サチは暗闇でも、はっきりと物が見えるんだ。」
カタクラ 「おお、おれもサチがいなければ、死んでおるところだったからな。」
ヤシム 「サチが? どういう事なの?」
シロクンヌ 「実は、おれも驚いたのだ・・・」
ハニサ 「それでサチは、夜が怖くないんだね。」
ヤシム 「でも夜はやっぱり危ないし、私たちはサチを探せないんだから、
夜、一人で遠くに行っちゃ駄目だよ。」
サチ 「はい。」
クマジイ 「言い伝えにあるお宝は、見つかっておらんのじゃな?」
シロクンヌ 「それらしき物は、まだ見つけてないな。」
ハニサ 「言い伝えって、何なの?」
シロクンヌ 「山師の間では、あの辺に洞窟があるという言い伝えがあって、
お宝の隠し場所だったらしいぞ。」
クマジイ 「わしがシロクンヌにそう話したんじゃが、わしもそれ以上の事は聞いとらん。
タカジョウの方が、わしよりも詳しいかも知れんな。」
アコ 「さっきエミヌが言ってた遊びって何なの?」
エミヌ 「石滑りよ。奥の洞窟でやったの。
一度高い所まで上って、そこから別の方向に滑り下りるの。凄く怖いのよ。」
ヤッホ 「アニキがその滑る道筋を見つけたんだ。そこから滑り始めると、必ずその道筋を通る。
尻の下に桜の皮を敷いて滑るんだ。
かなり曲がりくねってるんだけど、凄い速さで滑るんだぞ。
途中に段があって、そこで体が浮くんだよ。飛んだ様になるんだ。
最後は下の方まで行くから、そこからみんなで縄で引き上げる。」
ハギ 「引き上げると言っても、ぶら下がってるんじゃ無いよ。
滑る斜面を滑りながら、引っ張ってもらうんだ。」
ヤッホ 「そうそう。その引き上げた斜面の上にみんながいるんだけど、
そこが丁度、滑る道筋の段差の横なんだよ。
だから滑って来る奴が飛ぶのが横から見えるんだ。」
ナジオ 「それで、誰が一番遠くまで飛ぶかの競争をしたんだよな。」
ヤッホ 「誰が一番だったと思う?」
ヤシム 「そりゃあ、シロクンヌでしょ?」
ヤッホ 「ところが違うんだ。アニキは3位だ。」
ハニサ 「えー! 上に二人もいるの?」
クマジイ 「オジヌじゃな?」
ヤッホ 「惜しい! オジヌは2位だ。」
テイトンポ 「シカダマシか?」
カタグラ 「シカダマシ?」
ムマヂカリ 「おれのことだ。」
カタグラ 「ん? 何でシカダマ・・・ワッハッハッハ、シカ笛が上手いからか?」
ムマヂカリ 「そうだと思う。1位は残念だが、おれじゃない。」
アコ 「分かった! サチでしょ?」
ヤッホ 「当たりだ。」
オジヌ 「そうなんだよ。
おれ、見晴らし岩への駆け登りでもサチに負けたし、今日、2敗した。」
ハニサ 「あたしが滑るとしたら、産んでからだね。サラやナクモも滑ったの?」
ナクモ 「私も滑ったよ。サラも。怖かったけど、凄く楽しかった!」
ヤッホ 「それで帰りにみんなで話したんだ。夜宴の時にまたやったとして、誰が優勝するかって。」
ナジオ 「色んな意見が出たんだよな? おれはサチだって言ったんだけど。」
エミヌ 「オジヌは自分だって言い張ってたね。私はカイヌもいい線行くと思ったの。」
ハギ 「おれは、まだ見ぬコヨウじゃないかと言った。タカジョウの妹だからな。」
ムマヂカリ 「おれもサチだと思うが、サチでなければ、オジヌかタカジョウだな。」
カタグラ 「おれは絶対、アコだと思う。」
エミヌ 「一番笑ったのはシロクンヌの意見よね。」
ナジオ 「でも、最後にはみんな納得したんだよな。」
ヤシム 「シロクンヌは何て言ったの?」
エミヌ 「優勝賞品が、○○グリッコとなれば、絶対にテイトンポが優勝するって言ったの。」
クマジイ 「なるほどの。」
エミヌ 「その後にシロクンヌは、
そうなった時のテイトンポは、優勝するための小ズルい手段を必ず見つけ出す、
って言ったのよ。」
一同が爆笑した。テイトンポは一人、照れ臭そうに頭を掻いていた。