第135話 20日目③
夕食の広場。
ササヒコ 「みんな聞いてくれ。重大な話だ。
ミヤコから来たシロクンヌの客人カヤは、アマカミの遣いであった。
アマカミの御意志をシロクンヌに伝達しに来たのだ。
アマカミの御意志で、次のアマカミは、シロクンヌと決まった。
静かにしてくれ。
そしてシロクンヌの意志で、その次のアマカミは、
ハニサに宿る光の子、アマテルとなりそうだ。静かにしてくれ。
我がウルシ村でアマカミが誕生するのだ。
静かにしてくれ。
目出度い踊りは話の後だ。
静かにしてくれ。
えーい、では先に一度踊るか! 目出度い目出度い♪ 目出度い目出度い♪」
オジヌ 「おれが、ハニサを護るの?」
テイトンポ 「もちろんおまえ一人ではないが、おまえの役割は重要だ。
ただし、おまえにその役目ができるかは、一ヶ月後に判断する。
今のままでは、話にならん。
一ヶ月、おれが鍛えてやる。
不服があるか?」
オジヌ 「無い! おれ、強くなれるんだね!」
テイトンポ 「まず、股関節を、剥(は)がす。
脚を広げろ。
アコ、押してやれ。」
オジヌ 「いてててて。」
テイトンポ 「そのままだ。その姿勢のまま、めしを食え。
そうやって、これから一個一個、間接を剥がしていくからな。」
クズハ 「痛そうね。でもあなた、オジヌが強くなれば、とっても頼もしいわよ。
5年前にも、ハニサを護ってくれたんだもの。
それからサチだけど、あれからシロクンヌと森に行って、
今日もカラミツブテでキジバトを獲ったそうよ。」
ヤッホ 「やっぱアニキはすげーな! アマカミにまでなっちまうんだから。」
ヤシム 「すると何? シロクンヌもサチも、近くに住むって事でしょう?」
シロクンヌ 「そうだな。この辺りも少し様子が変わると思うぞ。」
ムマヂカリ 「おれ達、ミヤコの住人になるのだな。
いくつくらい、新しい村ができるんだ?」
シロクンヌ 「まだ分からんが、最終的には10くらいは増えるかも知れん。」
クマジイ 「村の場所が決まれば、すぐに栗の木を植えるんじゃぞ。」
ハギ 「飛び石の川の上流に、いくつか良い丘があるよ。ここくらいの村ができそうな。」
シロクンヌ 「うん、そういう情報はどんどん欲しいな。」
テイトンポ 「おいシロクンヌ、サチにはいつ、カブテを教えたんだ?」
シロクンヌ 「確か、四日ほど前じゃなかったかな?
テイトンポとアコが旅立った次の日だよ。」
テイトンポ 「サチ、食事中に悪いが、おじちゃんにカブテの技を見せてくれんか。
広い場所に行くぞ。」
サチ 「はい!」
ヤッホ 「おれも見に行ってみよう。サチ、今日は何羽獲ったんだ?」
サチ 「2羽。でも、逃げられた方が多いよ。」
エミヌ 「アマカミって響きが素敵よね。
ハニサはアマカミしてもらってる?」
ハニサ 「え?え?」
エミヌ 「してもらいなよ。シロクンヌ、してあげてないの?」
シロクンヌ 「エミヌは最近、されておらんだろう?」
エミヌ 「うん。自分でも届かない。舌なら届くんだよ。見てみる?」
シロクンヌ 「ハハハ。エミヌのお得意だな?」
ハニサ 「ねえねえ、何の話?」
ナジオ 「それ、こないだ聞けば良かったなあ、魂写しの儀で。」
エミヌ 「好きですか?って? 絶対好きって答えてたよね。」
タホ 「チュンチュンチュン!」
ヤシム 「タホ、何もってるの?」
タホ 「すずめー。」
ヤシム 「わー、そっくりね! どうしたの、これ。」
タホ 「おねーちゃんが折ってくれたー。」
ヤシム 「こまかく折ってあるわねえ。サチは指先が器用なのね。」
ムマヂカリ 「そうだ、シロクンヌ、ハニサの護りだが、おれも力になるぞ。」
シロクンヌ 「それを頼もうと思っていたところだ。是非頼む!」
ムマジカリ 「まずはハニサのムロヤの前に、ホムラの犬小屋を作る。
雨に濡れんようにな。
夜はホムラはそこに居させる。」
クマジイ 「それはムマヂカリじゃのうて、ホムラが力になるように思うがのう。」
ムマヂカリ 「だから、まずは、と言っておるだろう。」
ヤシム 「でもハタレが大勢で襲ってきたらどうするの?」
シロクンヌ 「人数にもよるが、あまりにも多いとどうしようもなかろうな。
いきなりそれは無いと思うが。」
ヤシム 「だからそういう時のために、秘密の隠れ場所や、秘密の逃げ道を作っておかなきゃ。
それはね、それを作った人とハニサ以外は、誰にも知られちゃいけないの。」
シロクンヌ 「確かにそれは必要だな・・・
こうしよう。秘密の隠れ場所や逃げ道で、いい考えを思い付いたら、
誰にも言わずに、おれに知らせてほしい。」
ハニサ 「あれ? テイトンポがウサギを持って帰ってきた。」
シロクンヌ 「どうしたんだ? そのウサギ。」
テイトンポ 「サチに狩らせた。サチはものになるぞ!」
ヤッホ 「テイトンポが藪をつついたらそいつが飛び出したんだ。
月明りの中で見てたら、そいつはどうやら、樹の向こうの藪に逃げ込んだ。
テイトンポはサチに、そこを動かずに今のウサギを狩ってみろって言ったんだ。
だけど間に樹があるだろう? おれは無理だと思ったんだよ。
藪のどの辺にいるのかも判らないし、なにしろ暗くてさ。
そしたらサチが、カブテをグルグルやって放り投げたんだ。
カブテは樹の上を飛び越えて、藪に落ちた。
そこまではおれにも見えたが、サチはその時ハッキリと、掛かったって言ったんだ。
見に行くと実際に掛かってたから、おれはぶったまげたんだ。」
テイトンポ 「シロクンヌ、左手で投げる訓練もさせた方がいいぞ。」
シロクンヌ 「そうか! そうだな。両方やるのが、大事かも知れん。」
テイトンポ 「サチは判断力もあるし、勘が鋭い。そして何より良いのは、夜目が利く事だ。
一月後、おまえとタカジョウと旅に出るだろう?
サチは、足手まとい所か、その時には、おまえら二人の力になるはずだ。
そしてアヤのイエは、この先おまえやアマテルの大きな支えになる。
シロクンヌ、サチはそういうつもりで、今毎日を過ごしているんだぞ。」