シロクンヌの涙 第49話 8日目⑥
谷の温泉。続き。
シロクンヌ 「サチ、おれもおまえも裸だ。抱きしめるぞ。
(サチを抱え上げ抱きしめた。サチも抱きついた。)
どうだ?おれのここを見てみろ。
あいつらのようにはなっていないだろう?」
サチ 「はい。父さん、温かかった。」
シロクンヌ 「父さんは、これからサチの体をくまなく調べる。
傷があったらいけないからだ。
そこから悪いモノが入ると、サチの命にかかわる。いいな?」
サチ 「はい。」
シロクンヌ 「ハニサ、ヌリホツマの薬を取ってくれ。
可哀そうに、思った通り尻が切れている。」
ハニサ 「ひどい!」
シロクンヌ 「幸いなことに、他に傷は無い。いまだに、生娘だ。
薬を塗るぞ。痛くはないか?」
サチ 「少し痛い。」
シロクンヌ 「可哀そうに・・・」
シロクンヌの目から、ボロボロと涙がこぼれ落ちた。
ハニサはそれを見て驚いた。
ハニサが知らなかった、シロクンヌの一面がそこにあった。
シロクンヌ 「サチ、二度とあんな目には合わせない。
これからは、必ずおれが護ってやるからな!」
サチ 「父さん!」
シロクンヌ 「ハニサ、いっしょに湯に入って、サチの体を洗い倒すぞ!
徹底的に穢れを洗い落とす!」
シロクンヌはオオヤマネコの冬毛の毛皮を縫い合わせた毛布を持って来ていて、
それの中央に切り込みを入れている。
サチの貫頭衣を作っているのだ。
靴は毛皮の切れ端を、器用に縫い合わせて作った。
シロクンヌ 「サチ、これを着てみろ。」
ハニサ 「かわいい! サチ、斑(ぶち)入りで、すごくかわいいよ!
待ってて・・・
シロクンヌ、この切れ端、使っていいでしょう?
これを手首に結べば・・・
ほら、ね? やっぱりかわいい!」
シロクンヌ 「おお! なるほど。
待ってろよ。今、取って置きを出すからな・・・
ほら、泥染めの布だ。」
ハニサ 「わー!不思議な模様!」
シロクンヌ 「綺麗だろう?
ずっと南の島に泥染めの名人が居てな、頼んで染めてもらったんだ。
絞り模様だぞ。これを半分に切って帯にする。
残りの半分は、ハニサにやるよ。」
ハニサ 「素敵! ありがとう!
わー、サチ、靴もかわいいね!
サチの靴、あたしもあんな靴がいい。」
シロクンヌ 「だったら待ってろ。
もう一枚、夏毛の毛皮があるから、サチとは色違いの、服と靴を作ってやるよ。」
ハニサ 「シロクンヌって、靴作るの、上手なんだね!」
シロクンヌ 「靴はタビンドの命だからな(笑)。」
帰り道
ハニサ 「ねえシロクンヌ、さっき焚き火する時に、枝を折ってたでしょう?
すごく良く燃える木だったけど、特別な木なの?」
シロクンヌ 「ああ、アブラギ(アブラチャン)だよ。
たまたま近くにあったんだ。
アブラギの実は、割るとキッコみたいな匂いがするんだが、よく燃えるんだぞ。
油分が多い樹で、枝を折っただけでも手が油っぽくなるんだ。」
ハニサ 「へー、ダケカンバとかアブラギとか、いろいろあるんだね。」
シロクンヌ 「アブラギの実も、タビンドの七つ道具の一つだな。
今だってヒョウタンに入れて持ち歩いてる。
ん!匂うぞ・・・この匂いは・・・
来る時は気付かなかったが・・・
こっちだな・・・この奥だ・・・
あった!
サチ、来てみろ。ハニサも。」
ハニサ 「何があるの? サチ、行ってみよう!」
サチ 「はい。
・・・あ! 山ブドウだ!
いっぱい生ってる!」
シロクンヌ 「甘酸っぱくて、美味いぞ!」
アユ村の入り口。
マグラとカタグラがシロクンヌの帰りを待っていた。
カタグラ 「あれ、シロクンヌじゃないか?」
マグラ 「そうだ。おーーーい!」
カタグラ 「ハニサは服を着替えてないか? 毛皮だぞ。」
マグラ 「ハニサもそうだが、横の少女は、あれはさっきの娘か?」
カタグラ 「・・・そうだ。まるで別人だ。どうなってるんだ?」
マグラ 「コノカミが言ってたな、天からの使いだって。
本当にそうかも知れんぞ。」
カタグラ 「なんだかおれも、そんな気がしてきたよ。」
シロクンヌ 「温泉に浸かってきた。さっぱりしたよ(笑)。」
マグラ 「この子、さっきの子か? 見違えたなあ」
シロクンヌ 「かわいいだろう(笑)。おれの娘の、サチだ。」
カタグラ 「サチって言うのか。まるで、ハニサの妹みたいだ。」
ハニサ 「うん! あたしも妹だと思ってる!」
アシヒコ 「お帰りじゃな。寝所(しんじょ)の用意はできたぞい。
荷物をそこへ・・・
なんとまあ、かわいらしいじょうちゃんじゃ!
ハニサとお揃いの服で・・・うっとりと見惚れてしまうのう。」
サチはしきりに照れてはいたが、嬉しさを隠しきれない様子であった。
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