さあ、みんなで、スッポ抜き! 第80話 13日目④
大ムロヤ。
モリヒコ 「サチと言うのか。眼木(めぎ)を外すと、こんなにかわいらしい娘なのか。
眼木を掛けると、妖しい炎の精霊だ。
ササヒコ。この眼木、どこで手に入る?」
ササヒコ 「下で見たであろう。テイトンポの工房で、作っておる。」
モリヒコ 「本当か! 木を曲げると言うておったが・・・」
テイトンポ 「コノカミ。土産用の眼木だが、頑張って140作ったぞ。
今、ここに持って来た。」
テイトンポは袋の中身をムシロの上に広げた。
眼木は、シカ村の女達で奪い合いになった。
いろり屋の周り。
カタグラ 「死ぬかと思ったぞ。」
ハニサ 「ごめんなさい。」
マグラ 「女神は謝らなくていいさ。女神なんだから。」
ヤシム 「なに、その、女神っていうのは?」
マグラ 「ハニサはアユ村では、女神だと信じられているんだ。」
カタグラ 「シロクンヌは女神の召使いで、戦いの神だ。」
ヤシム 「ブッ! シロクンヌが召使いなの?」
マグラ 「召使いは少し言いすぎだが、女神を護る勇者だな。」
カタグラ 「女神、あれから女神が作った器で沸かした湯を飲んで、三人の病が治ったんだぞ。」
ヤシム 「シロクンヌ、アユ村で、ハニサが器を作ったの?」
シロクンヌ 「実はな・・・」
ヤシム 「そんなことがあったんだ。
ハニサは最近、ちょいちょい光ってるもんね。」
サチ 「こんにちは!」
カタグラ 「うわっ!」
マグラ 「ひょっとして・・・サチか?」
ヤシム 「ちゃんと眼木を取って、挨拶しなきゃ。」
サチ 「はい。こんにちは!」
カタグラ 「サチ! 元気そうだ。良かったなあ!」 涙ぐんでいる。
ハニサ 「サチは今、ヤシムと一緒に暮らしてるの。」
オジヌ 「シロクンヌ、ちょっと教えて欲しいんだけど・・・」
大ムロヤ
サラ 「コノカミ、私、今日から、ハギと暮らすことになりました。
よろしくお願いします。」
ササヒコ 「ハギ、そうなのか?」
ハギ 「まあ、そうだが・・・
どうも、親元を、飛び出して来たらしい。」
スサラ 「一年、待ちなさいって言われて、待てないって言って出てきたみたい。
明日は父さんも母さんも、ここに来るんでしょう?」
サラ 「来ても私、帰らない。
今夜ハギにトツグんだから。」
ハギ 「わかった。サラは今日からおれの女房だ。」
サラ 「・・・・・」 激しくハギに抱きついて、離れようとしない。
ササヒコ 「エー、ゴホンッ!
ムマヂカリ、新しく作ったムロヤだが、もう住めるんだよな?」
ムマヂカリ 「建物は、完成しているが・・・」
ササヒコ 「クズハに言って、とりあえずの寝具だけは運び入れるようにしてくれ。」
ムマヂカリ 「わかった。さっそくいってくる。」
ササヒコ 「ムロヤをもう一棟、作らにゃあならんな・・・」
作業小屋。
ヤシム 「ここにある桜の木って、鳥除けのらせん皮を採った残りでしょう?」
シロクンヌ 「そうだよ。幹も枝もまだ使えるから、ここに運んでおいたんだ。」
カタグラ 「オジヌ、もう一度見せてくれ。」
ハニサ 「不思議だよね!
何で切れ目や継ぎ目が無いんだろう?」
カタグラ 「黒切りのこの持ち手、この桜の皮は、ここにある様な枝から採ったのだよな?」
シロクンヌ 「そうだ。マグラもスッポ抜きを知らんのか?」
マグラ 「知らんし、おれもこんなのは初めて見た。やっぱりスッポ抜くのか?」
サチ 「私、知ってる。」
オジヌ 「えー! サチは知ってるの?」
シロクンヌ 「サチ、この枝で、やって見せてくれ。
少し乾いているから、やりにくいかも知れんが。」
シロクンヌは長さが10センチ、太さが5センチほどの枝を差し出した。
サチはそれを受け取ると、別の枝で、その枝の皮の部分をコツコツと叩いた。
シロクンヌ 「枝はたくさんあるから、みんなもサチのまねをしてやってみたらいい。
ゴンゴン叩いたら駄目だぞ。コツコツと叩くんだ。
まんべんなく皮を叩けばそれで完了。
サチ、そろそろいいだろう。」
サチ 「はい。じゃあ抜くね。」
左手で枝を持ち、右手の指で枝の木部を押し出すと、
木部がツルリと飛び出して下に落ちた。
サチの左手には、円筒形の皮だけが残った。
(ちなみに実際に縄文遺跡から、この様な切れ目のない樹皮が出ているのです。)
ヤシム 「おもしろーい! 私もやってみよう。」
オジヌ 「おれもやってみる!」
ハニサ 「あたしもやろう。サチ、教えて。
カタグラ、ゴンゴンやってない?」
カタグラ 「力が入り過ぎか?」
マグラ 「コツコツやるのがコツだな。」
ヤシム 「アハハ、オジサンのシャレだ。」
マグラ 「言ったな(笑)。ところでヤシムは一人者なのか?」