少女・サチ 第48話 8日目⑤
アユ村の出口。続き。
アシヒコ 「その子は?」
マグラ(27歳・男) 「まったく気の毒な子だ。
父親は殺され、母親と二人でさらわれたそうだ。
何日もムロヤに閉じ込められて、慰(なぐさ)み者になった挙句に、
母親は、三日前に病で亡くなったと言っておる。」
ハニサ 「ひどい・・・」
マグラ 「ムロヤで一人泣いておったので連れてきた。」
カタグラ 「やつら三人は、足の腱を切って、裸に剥いてけもの道に打ち捨ててきた。
穢(けが)れたムロヤは焼き払った。」
マグラ 「その子については、気の毒だから、おれ達はそれ以上は聞いていない。
コノカミ、シロクンヌは村の恩人だぞ。
まさかこのまま行かせてしまうのか?」
シロクンヌ 「いや、夕刻前に戻って来て、今夜は泊めてもらうことになったよ。」
マグラ 「それなら良かった。
おれはマグラ、そしてこいつはおれの弟でカタグラという。
よろしくな。」
ハニサ 「あたしは、ハニサ。嘘はつかないんだから。」
カタグラ 「いやいや、信じておったぞ(笑)。」
シロクンヌ 「むすめ、もう泣かんでいい。
おれとハニサは散歩に行くが、おまえも一緒に行くか?」
少女 「はい。」
シロクンヌ 「コノカミ、この子の面倒はおれが見る。
寝所(しんじょ)も三人一緒でいい。
おれ達が出立(しゅったつ)する時に、この子も一緒に連れて行く。
それでいいか?」
アシヒコ 「わしに否やはないが・・・ハニサはそれでよいのか?」
ハニサ 「うん、いいよ!」
シロクンヌ 「むすめ、さっきお兄ちゃんと言ったな?
これからは、おれを父さんと思え。いいな?」
少女 「はい!父さん、わかりました!」 シロクンヌにしがみついた。
道中。
シロクンヌ 「むすめ、歳は?」
少女 「12歳。」
シロクンヌ 「おれとあの三人の戦いを見ていたのか?」
少女 「はい。
崖で待ち伏せしていた男は、
母さんが生きている頃から私に変なこと・・・(泣きだした。)
あの時もムロヤで・・・(泣いている)
そこに二人が入ってきて、何かの相談して三人で出て行ったから、
私、逃げようと思って、
外に出て、声が聞こえたから、様子を見ようと思って・・・
そしたらシロクンヌが、あっと言う間にあいつらをやっつけてくれた。
アーンアンアン。
あいつらは動けなくなってたから、ムロヤに戻って、母さんがしてた櫛を探してた。
でも、見つからなかったの。
アーンアンアンアン。アーンアンアンアン。・・・」
谷の温泉。他に、ひと気はない。
シロクンヌ 「アシヒコの言う通り、ここなら人目につかんな。
いいか? よく聞くんだぞ。
おれの本当の名は、シロサッチだ。ハニサは知っているな?」
ハニサ 「うん。」
シロクンヌ 「だからおまえの名は、たった今から、サチだ。
今までの名は、捨ててしまえ。
それからサチ、おれのことは父さんと呼べ。できるか?」
サチ 「はい! 父さん!」
シロクンヌ 「おれには三人の息子がいる。
三人とも、今9歳だ。
サチの三つ下だな。
三人の父親はおれだが、母親はそれぞれ別の女だ。
サチ、ここまでは、いいか?」
サチ 「はい。」
シロクンヌ 「その三人のうちの一人に、サチを娶(めあわ)せる。
もちろん、ずっと先の話だ。
それまでは、サチは父さんが護る。
父さんの強さは、さっき見たな?」
サチ 「はい。父さん。」
シロクンヌ 「サチ、何も心配はしなくていい。父さんにまかせておけ。
今からサチについた穢れを落とす。この温泉でな。
ハニサも手伝ってくれ。」
ハニサ 「わかった! 何やればいい?」
シロクンヌ 「まず、サチの髪の毛を短く切ってくれ。
切った髪は一ヶ所に集めて、サチの衣服と一緒に焼く。」
シロクンヌは近くにあった黄色い葉の低い樹から、実のついた枝を何本か折った。
そして落ちていた枝を半分に裂いた。
そこに小枝を猛烈な勢いでこすりつけた。
何往復かこすっていると、煙が立ち始め、すぐに火種ができた。
その火種をススキの穂に落とし、枯れ葉でくるんで息を吹きかけた。
枯れ葉から炎が立った。
その炎に、さっき折った枝を近づけ、実に炎を移した。
すると勢いよく実は燃え始め、葉や枝も燃え出した。
枝を束ねると、たちまち大きな炎が立ち上がった。
シロクンヌ 「髪は切れたな。サチ、服を脱いで、ハニサに渡せ。
ハニサ、髪の毛と服を焼いてくれ。」
ハニサ 「わかった。」
シロクンヌ 「サチ、温泉にはいるぞ。だがまずは、傷がないか、体を調べる。」
サチ 「はい。」
シロクンヌ 「おれも裸になるからな。」
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