第122話 18日目①
作業小屋。
ハニサ 「おはよー! やっぱりオジヌがいたー!」
オジヌ 「おはよう。どうしたのハニサ? 妙に元気がいいね。シロクンヌは?」
ハニサ 「もう少し後から来る。
あたしねえ、思い出した!」
オジヌ 「えー! こないだ言ってた事?」
ハニサ 「そうだよ。オジヌ、ありがとう!
あたしを助けてくれたんだね!」抱きついた。
オジヌ 「待ってよ、ハニサ。どこを思い出したの?」
ハニサ 「全部だよ! オジヌとのこと全部! ムロヤで体を拭いてくれた事も。」
オジヌ 「えー!」
ハニサ 「あたし、怖くておしっこ漏らしてたでしょう?
それを、内緒にしてねって言ったんだよね?
だからオジヌは、誰にも言わないでいてくれたんでしょう?」
オジヌ 「うん。それにおれは、ハニサに嫌われたと思ったんだ。
おれは毎日待ってたんだけど、元気になってもちっとも来なかったから。」
ハニサ 「シロの餌やりだよね?
二人で毎日シロに餌をあげようって約束したのに・・・
ごめんなさい。
あたし病気で寝込んでしまって、
良くなった時にはお祭りの日の記憶が曖昧になっていたの。」
オジヌ 「そうだってね。でも思い出しちゃったんだろう?
あの時おれ、あんな風になったけど、
でもおれは、いやらしい気持ちでハニサを拭いていたんじゃないよ。
あっという間だったんだ。
ハニサを拭いていたら、ふっとハニサのいい匂いがしたんだ。
そしたら、あっという間だった。
自分でも何が起きたのか分からなかった。」
ハニサ 「あたし、あの頃そういう事の知識が全然無かったの。
だから驚いて、オジヌを傷つけるようなことを、何か言ったのかも知れない。
でも今は分かるから、全然変な事じゃないって分かってるよ。」
とにかくあたしはオジヌに感謝してる。
嫌ってなんかいない。
それをちゃんと言っておきたかったの。」
オジヌ 「そうか、分かったよ、ありがとう!
白状すると、あの頃のおれは、ハニサのことがどうしようもなく好きだったんだ。
ハニサは可愛かったし、優しかったから。
そばに居られるだけで、舞い上がっていた。
でも今はね、他に好きな子がいて、付き合ってるんだぞ。」
ハニサ 「えー! 誰?」
オジヌ 「内緒だよ。黒切りの里の子で、15歳。
こないだのお祭りで知り合って、ずっと一緒にいたんだ。
ハニサ程じゃないけど、凄く可愛いんだ。今度また会うけどね。」
ハニサ 「何ていう名前なの? でも黒切りの里って、山奥の遠い場所でしょう?」
オジヌ 「名前はコヨウ。コヨウはもうすぐ、アユ村に引っ越すんだよ。」
ハニサ 「そうなの? いつ引っ越すの?」
オジヌ 「一度帰って、すぐに準備をするって言ってたから、4~5日後に出立じゃないかな。」
ハニサ 「アユ村の人達と、今度夜宴をするんだよ。」
オジヌ 「知ってる。タカジョウも来るんだよね。コヨウはタカジョウの妹だよ。
お父さんは違うんだけど。」
ハニサ 「へー! 驚いた!」
オジヌ 「コヨウを産むと、すぐにお母さんは死んじゃったって言ってたな。
アユ村のマユって人知ってる?
その人のムロヤに住まわせてもらうんだって。」
ハニサ 「マユ! 知ってるよ! 妹のソマユとは、お友達になったんだから!
へー! なんか色々と縁があるものね。
オジヌも夜宴に来るでしょう?」
オジヌ 「姉ちゃんにはそう言ってある。
あ! シロクンヌだ。おはよう。」
シロクンヌ 「おはよう。さっそく取り掛かるか。
背負子は最低二つは欲しいが、一つ目は一緒に作るぞ。
二個目はオジヌが一人で作るんだ。
その間におれは、槙の木の残りで桶を作る。できるか?」
オジヌ 「やらせてくれるの? できるよ!
一個目で覚えればいいんだね?」
シロクンヌ 「そうだ。サチは粘土搗きをしてから、カブテの練習だ。」
サチ 「はい。」
オジヌ 「シロクンヌ、見てよ。おれ、あれから、いろんな道具を自分で作ってみたんだ。」
シロクンヌ 「どれ、見せてみろ。」
オジヌ 「これはね、昨日もらったサメの歯。
三つくれたから、一つはシロクンヌが持ってるようなのを作るつもり。
でもまだ、穴が開けられないでいる。
残りの二つを使って作ったのが、これ。」
シロクンヌ 「歯を向かい合わせて並べたのか!
ギザギザ面が綺麗に真っ直ぐ通ってる。
なるほど、これならギコギコが倍の長さで出来る訳か。
上手に固定したな。木を加工したのか?」
オジヌ 「そうだよ。木を削ってね、歯のここの所の出っ張り、
この出っ張りがピッタリはまるようにしたんだ。
少しだけグラつくんだけど、使う時はここをしっかり握って使うから、大丈夫なんだ。
石よりも、うんと竹が切りやすいよ。」
シロクンヌ 「漆付けしないのは、歯がすり減った時に、
ひっくり返してもう片方が使えるようにだな。」
オジヌ 「うん。出来るだけ有効に使わないとね。」
シロクンヌ 「いい心掛けだ。ところで、オジヌは爪先を鍛え始めたのはいつからだ?」
オジヌ 「え? どうして分かったの? 5年前からだけど。」
シロクンヌ 「毎日、樹を蹴っていたのだろう? 歩き方で分かる。」
オジヌ 「やっぱりシロクンヌって凄いんだね!
おれ、こっそりやってたし、誰にも話してないから、みんな知らないはずなんだ。」
シロクンヌ 「ん? ハニサ、今、器を作っているんだよな?」
ハニサ 「そうだよ。あ! あたし、光ってないね。」
オジヌ 「ほんとだ。」
サチ 「お姉ちゃん・・・」
シロクンヌ 「もう光らなくなったのか?」
ハニサ 「分からない。あたし、自分の意志で光ってたんじゃないから・・・」
シロクンヌ 「そうか・・・ハニサが光らなくなると、少し寂しいが。」
ハニサ 「えー! どうやれば光るんだろう?」
シロクンヌ 「宿したからかも知れんぞ。まあ、光らんのが当たり前だからな。」
ハニサ 「きっとそうだよ。あたし、ここにシロクンヌの子がいるんだね。
なんだか、そう思っただけで幸せ。」
オジヌ 「ハハハ。うっとりした顔になってるよ。」
サチ 「でもだんだん顔がニヤけて行ってるよ。」
ハニサ 「いいの! サチ。幸せなんだから。」