縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第121話 17日目⑦

 

 

 

          大ムロヤ。魂写しの儀。続き。

 
ハニサ  「でもあたし、何が怖かったかというと、
      連れ去られる時に、そいつは母さんの事ばかり言っていたの。
      おまえの目の前で、クズハをヒーヒー言わせてやるとか、
      クズハにぶっ刺してやるとか・・・
      あたし、母さんがいじめられて、泣かされて、刺し殺されちゃうと思ったの。
      この人、もうすぐ、あんなに優しい母さんを殺すんだと思って、それが凄く怖かったの。」
クズハ  「そうだったの・・・知らなかったわ。」
シロクン  「クズハ目当てで、ハニサを人質にする気だったのか。」
シオラム  「そうだ。奴は最後まで、クズハをものにできんかったことを、悔しがっておった。
       奴が言うには、マツタケ山でハニサを見て、
       この可愛い娘の、姉か母親を、犯そうと考えたようだ。
       そして一番チビというからカイヌだな。
       カイヌからハニサの家族構成を聞き出し、父親がおらんと知り、
       クズハを男に飢えた女と決めつけた。
       祭りでクズハを初めて見て、何が何でも犯すと二人で誓い合ったそうだ。
       今まで、二人で誓い合った女は、全員犯してきたらしい。
       クズハを孕ませ女を産ませる。
       その子はハニサくらい綺麗だろう。
       その子をクズハにおれの言いなりになるように育てさせ、
       毎日三人で楽しむんだと言いおった!」
シロクン  「ハタレだ。ハタレの言いそうな事だ。」
クズハ  「人では無いわね。」
シオラム  「クズハに抵抗されて驚いていた。
       触ってやったのに、抵抗しやがったと。」
クズハ  「当たり前よ。
      あんな気持ち悪い男達、見たことが無かったわ。」
シオラム  「すぐにものにできると思っておったようだぞ。
       それで、ハニサを人質にしようとした。」
ハニサ  「母さん、ひどい事されたの?」
クズハ  「一人が私を羽交い締めにして、もう一人が触って来たの。
      乱暴に触られて、痛かったのよ。
      シオラムに診てもらったら、傷になってたのよね?」
ハニサ  「え? どこを診てもらったの?」
クズハ  「触られた所よ。
      それを見て、シオラムが怒ったんだから。」
シロクン  「つまり、そういう関係だったということだな。
        相談を受けたと言っていたが、相談したのはクズハだろう?」
クズハ  「そうよ。だからあの時、私は満たされていたの。
      飢えてなんかいなかったわよ。」
ハニサ  「知らなかった!」
クズハ  「とにかく痛かったから、羽交い締めを振りほどいて、触った奴の腕をひねってやったの。」
シロクン  「なるほど。クズハはウケ(川で魚を獲る仕掛け)を組むほど、腕の力がある訳だからな。
        クズハを言いなりにさせるには、人質が必要だと考えたのだ。」
シオラム  「そいつが舟から海に落ちる直前に、クズハとの事を事細かく教えてやったよ。
       どれだけいい女か、とな。
       おまえ、最高の女と出来なかったんだぞ、と。
       雄たけびをあげて、悔しがっておったな。」
シロクン  「それが正解だ。そんな奴が作った塩など、食いたくはないからな。」
ハニサ  「母さんって・・・そんなに、いいの?」
シオラム  「テイトンポを見ていたら分かるだろう?
       おれも、クズハとはああだったよ。」
クズハ  「シオラムはね、母さんの初めての人なの。
      私が14で、シオラムが16。」
ハニサ  「えー! 父さんが最初じゃなかったんだ。
      14って言ったら、あたしが最後にオネショした歳だよ。」
クズハ  「ウフフ、そうだったわね。母さんは早熟だったのよ。
      だって16歳でハギを産んでいるのよ。」
シオラム  「ん? 待てよ。おれは17からシオ村だろう・・・
       ひょっとして、ハギは・・・」
クズハ  「それは違うわよ。あなたがシオ村に行って、すぐ月のものがあったの。」
ハニサ  「という事は、それからすぐ、父さんと一緒になったの?」
クズハ  「そうね。そうしておきましょうね。」
シオラム  「んん? 重なっておったのか!
       おれはクズハ一筋で、泣く泣くシオ村に行ったのに!」
クズハ  「ウソよ。月のものがあったから、すぐにトツギになったの。
      大体、毎日だったでしょう? 重ねようが無いじゃない。
      じゃあそろそろ帰るわね。
      シオラムも少し経ったら散歩にでも出たら?
      シロクンヌとハニサ、二人きりにしてあげた方がいいわよ。」
ハニサ  「おやすみ。
      なんかあたしへのあっち系の質問より、エミヌや母さんの告白の方が凄かった。」
クズハ  「神坐の前ではね、女は大胆になるものなのよ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。