縄文GoGo旅編 第34話 8日目①
北の湖に向かう川沿いの道。
イワジイとテーチャ、そしてカゼマルが新たに旅に加わり、キサヒコ、マサキ、カゼトが見送りに同行している。
サチとミツ、そしてテーチャは葉っぱ付きの眼木を掛けている。
キサヒコ 「木の皮をこう丸めて、ここを結ぶ。こんな簡単なやり方でいいのか?」
タカジョウ 「それでいい。腹から吹いてみてくれ。」
ブオーと音が出た。タカのイエ伝来の樹皮ラッパだ。
カゼト 「ボウボウと言うのか。これは使える。」
キサヒコ 「ふむ。よい事を教わった。さっそく村で合図の取り決めをしよう。
ブォボーと吹けば、<聞こえた者は返事をくれ。>の合図。
聞こえた者は、ボーーと吹き返す。
・・・こんな具合でいいんだろう?」
テーチャ 「他にも、舟でこっちに来て、とかいろいろできそうだね。
あ!あの葉っぱいい!真っ赤っか!
サチ、ちょっとカゼマルを抱いてて。葉っぱを採って来る!」
サチ 「いいよ。カゼマル、おいで。
ミツ、見て!嬉しそうな顔したよ。」
ミツ 「いいなー。カゼマルは、私よりサチの方が好きみたいだもん。」
マサキ 「もしかすると、母親よりもサチが好きかもしれんぞ(笑)。
その母親だが、なんとまあ、尻丸出しで樹によじ登っておる。」
タカジョウ 「おんなカタグラだ。」
ミツ 「アハハハ。もう必死だね。」
シロクンヌ 「無邪気なもんだ(笑)。
おれの子を産んだと担がれた時には、さすがにあせったが(笑)。」
マサキ 「おれやイワジイまで巻き込むとは、まったく質(たち)が悪い奴等だ(笑)。」
キサヒコ 「ははは。だがそんなみんなが旅立ってしまうと、村も寂しくなる・・・
そうそうこの川だがな、大雨でも水嵩が増さんし濁らんのだぞ。」
シロクンヌ 「そうだってな。神の施す水、そう聞いたぞ。」
タカジョウ 「どういう事だ?」
カゼト 「北の湖には神が住んでいて、無限に水を吐き出してくれているんだ。
北の湖には流れ込む川が一本も無いんだぞ。」
キサヒコ 「沢と呼んだ方がふさわしいくらいの小川ではあるが、この水は、村の命の水だ。
北の湖は、真冬でも凍らんのだぞ。」
ミツ 「えー!何だか不思議。」
カゼト 「全く凍らんと言う訳ではないが、全面に氷が張ったりはせん。」
キサヒコ 「村にとっては、北の湖は聖なる湖だ。
魚も水鳥も獲らんのだよ。
まあ、もともと魚はほとんどおらんし、水鳥も数が少ないが。」
シロクンヌ 「恐ろしいほどに水が澄んでいて、筏で漕ぎ出したら不思議な気分になるぞ。」
マサキ 「湖底に筏の影が映るからな。」
キサヒコ 「船着き場の横に、見守り杉と言う御神木があって、
みづ神の話し相手だと言い伝えられている。
だから見守り杉に祈りを捧げてから、舟に乗るようにしておるんだ。」
サチ 「流れ込む川が無い湖なのに、こんなに水が流れ出しているの?」
キサヒコ 「そうだよ。不思議だろう?
シロクンヌもマサキもみづ神祭りを見ておらんよな?」
シロクンヌ 「ああ、行き合わせていない。」
マサキ 「おれもだ。綺麗だそうだな。」
イワジイ 「わしは見ておるぞ。蛍祭りじゃ。すごい数の蛍じゃぞ。」
サチ 「蛍がいるの?」
カゼト 「いるなんてもんじゃないぞ。もの凄い数だよ。
見守り杉の下が浅瀬になっていて、ニナ(巻貝)だらけなんだ。
天敵がおらんのだな。」
ミツ 「そうか!蛍の幼虫はニナを食べるんだったね。」
サチ 「そうなんだ?だから蛍が・・・わー、見てみたいなー。」
キサヒコ 「本来、わしらがみづ神に感謝を捧げる祭りなのだが、
みづ神の方が、わしらを楽しませてくれておる・・・」
カゼト 「舟に乗って蛍を見るんだぞ。湖面に光が映るし、漂う光に囲まれる。」
タカジョウ 「そりゃあ綺麗だろうな。」
サチ 「ミツ、いつか来てみたいね!」
ミツ 「うん!セリも誘って、三人で来たいね!」
シオユ村(シシガミ村)の近く。
ホコラ 「朝蕗(あさぶき)は、たんと採れたかな?」
シュリ 「わー!びっくりしたー!
もう!いきなりおどかさないでよ!」
ホコラ 「これはすまんかった。
旅の者だが、腹が減ってしまってなあ。まだ朝メシを食っていない。
シオユ村で何か食わせてもらえんかな?」
シュリ 「いいよ。あたしはシュリ。
でも今、シオユ村って言ったよね?もしかして・・・」
ホコラ 「ふむ。アヅミ野でシロクンヌらと出会ってな。
おれの事は、ホコラとでも呼んでくれ。
シュリと言えば、確かレンザのお相手だな?」
シュリ 「そうだよ。いろいろ話は聞いたんだね。
レンザやレンにも会って行く?」
ホコラ 「そのつもりでここに来たんだよ。あとユリサと言う娘にもな。」
シュリ 「肩に載ってる子猿は友達なの?」
ホコラ 「アヅミ野では猿達に囲まれて暮らしていてな。
別れを告げて旅立つつもりが、こいつだけはどうしても付いて来よって、
言い聞かせても、おれから離れようとしない。
仕方ないから一緒に旅をする事にしたのだ(笑)。」
シュリ 「可愛いね(笑)・・・あ!思い出した!
ずっと前、フラッと訪ねて来て、いっぱい蜂蜜をくれた人でしょう?」
アオキ村から北に向かう川沿いの道。
カゼト 「話は変わるが・・・
昔あったカゼの里の横には、真っ白な水が流れる川があったと言うぞ。
この川の水とは大違いだよな。
そっちは乳の川と呼ばれていて、水浴びすると乳の出が良くなったそうだ。」
ミツ 「白っぽい水が流れる川のそばで、昨日の朝、不思議な物を見つけたよ。」
サチ 「あ!そうだ。忘れてた。
イワジイ、これと似たのを掘り出したの?」
イワジイ 「おお、サチも掘ったか。わしも三つ持っておるぞい。
そう言やあ、白っぽい川が流れておったの。岩が溶け出したんじゃろう。
ほら、これじゃ。こりゃあ一体、何じゃろか?」
カゼト 「あ!どこにあったんだ?」
サチ 「野営した所。昨日の朝、魂送りの為の穴を掘ったら出て来たの。」
イワジイ 「わしもあそこで野営したんじゃよ。」
マサキ 「おれはそこでイワジイに出会ったんだ。」
カゼト 「そこだ!そこに昔、カゼの里があったんだ。
マサキ、明日そこに案内してくれ。祈りを捧げる。」
マサキ 「ああ良いが、これは何なんだ?」
カゼト 「これは、カゼの証しだ。
もう今は使っていないが・・・」
タカジョウ 「カゼノアカシとは?」
カゼト 「カゼの者である証しだよ。こうやって紐をからめて、こうやって髪に結ぶ。
知らん者が見ても、ただの髪結いにしか見えんだろう?
でもカゼの者が見ると、仲間だと分かるんだ。
カゼのイエは、イエの者の他にも仲間を作っていた。
旅先で出会った仲間を、そうやって見分けていた訳だ。
カゼの里で、これを作っていたらしい。
模様が綺麗だろう?色石(チャート)で作るんだ。」
テーチャ 「面白い形してるね。」
イワジイ 「カゼのイエにまつわる物じゃったか。
そんならカゼトとテーチャに一つずつやろうかいの。
テーチャから選んでよいぞ。」
テーチャ 「いいの?ありがとう!あたし、これがいい!」
カゼト 「あ!おれもそれが良かった!黒がハッキリ出ているし。」
テーチャ 「もう遅いよーだ。
髪を縛ってみよう。カゼト、やり方教えて!」
シオユ村。見張り小屋。
ホコラ 「お!このキノコ汁のダシはシシ腿の塩漬けだな?
この汁は、グリッコと最高に合う。
グリッコも上手にあぶったな!焦げの香ばしさ具合が丁度良い。
こっちは朝摘み蕗の灰くぐりか。
これは灰の熱さ加減が難しいんだ。見ればいい色を出しておるが、どれ・・・
旨い!」
レンザ 「うまそうに食うなあ。
なんだかおれも腹が減って来た。そこのグリッコを取ってくれ。」
シュリ 「はい。レンは気持ち良さそうだよ。」
レンザ 「シップウが居なくなって、レンも寂しそうだったからな。
でもさっきは肝を冷やしたよ。
小屋に入って来るなり肩から飛び降りて、レンに駆け寄ったもんな。」
ユリサ 「私、あっ!って叫んじゃった。もう身が凍る思いだったよ。」
シシヒコ 「お邪魔するよ。ホコラが来ていると聞いてな。」
ホコラ 「おおコノカミ、久しぶりだ。ご馳走になっているぞ。」
シシヒコ 「元気そうで何よりだ。
ホコラはシロクンヌやタカジョウの知り合いだったの・・・
何と!
あの子猿、レンの毛づくろいをしているのか!」
━━━ 幕間 ━━━
さて、くだんのトロトロ石器ですが、「カゼの証し」と言う事にしてしまいました。
ハッキリ言って、苦し紛れですね(笑)。
あの形である必然性を持った道具は何か無いかと考えを巡らせたのですが・・・。
ここで長野県大町市の山の神遺跡について、少し説明しておきます。
西側には北アルプス、東に大町盆地を臨む。
現在は「国営アルプスあづみの公園」の敷地内となっています。
特徴は集石遺構の存在。
動画を貼っておきます。
この遺跡は少なくとも3回の土石流被害を経験していて、8千年前は、石列部分のすぐ横を乳川が流れていたらしいです。
石列と川との高低差も少なかったようなのです。
だから・・・
川の水を取り入れた作業場か加工場、もしかして工場があった?
トロトロ石器は工具?それか部品の一部?
などと空想してみるのですが、革なめしの作業場くらいしか具体的には思い付いていません。
長いこと、そう言われて来ました。
その言説に基づいてストーリー展開して行くつもりでしたが、言説が間違いであることが判明しました。
6千年前ではなく、もっと新しい地層だったようです。
よって、旅編の32話~35話を書き直すことにしました。
書き直しした物が、こちらになります。