縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第32話 7日目⑤

 

 

          アオキ村。夕食の広場。続き。

 

サチ  「ねえ、この子、何て言う名前?」
テーチャ  「カゼマルよ。」
サチ  「抱っこしてもいい?」
テーチャ  「いいわよ。待ってね。」
キサヒコ  「寒いといかん。この毛皮でくるんでやれ。」
テーチャ  「そうね。カゼマル(1歳、男)、良かったね。
       お姉ちゃんが抱っこしてくれるって。」
ミツ  「サチ、落としちゃダメだよ。後で代わってね。」
サチ  「カゼマル、よしよし。笑ってる!」
ミツ  「可愛いねー!」
カゼト  「お?不愛想なカゼマルが笑ってやがる。」
マサキ  「ホントだ!おれが抱いた時には泣いたくせに。」
テーチャ  「カゼマルは人を見る目があるのよ。
       ねーカゼマル、賢い子だもんねー。」
サチ  「あはは、足をバタバタさせてる。嬉しいんだね。」
カゼト  「キャッキャ言っている。おれの時と大違いだ(笑)。
      サチ、ミツと交代で、炊事場でいぶし番をしてくれんかな。
      カゼマルを抱いてない方が、火の係りだ。」
サチ  「はい。ミツ、行こう!」
ミツ  「うん。向こうに行ったら交代ね。」
カゼト  「ははは、仲がいいんだな。
      ところでマサキ、南の島のハタレの兄弟だが・・・」
 
 
 
タカジョウ  「なるほど、聞けば聞くほど狂暴な奴等だ。」
シロクン  「まだ徒党を組んではおらんようだが、この先は分からんな。」
マサキ  「とにかく、地元の衆は恐れ切っておる。」
イワジイ  「オロチに劣らぬ凶暴な兄弟と言う事か・・・」
テーチャ  「怖いねー。指を、骨ごと噛み砕いて食べるなんて・・・」
カゼト  「それでその兄弟だが、南の島のどのあたりが棲みかなんだ?」
マサキ  「いや、おそらくだが、今はもう南の島にはおらんぞ。
      セトの海のどこかの島だと思う。」
カゼト  「シロクンヌはセトの海に詳しかったな。どんな所なんだ?」
シロクン  「海は穏やかだ。島の数は多い。
        海に流れがあって、流れる方向が日に何度か変わる。」
キサヒコ  「ほう、面白い海だな。」
カゼト  「人が住む島は多いのか?」
シロクン  「住み付いているかで言えば少ないな。
        大きな島があって、そこには住んでいる。
        小島がすごく多いんだが、そこには住んでいない。
        飲み水に難儀する島が多い。」
タカジョウ  「カゼトはそのハタレの話を聞いて、どうしようと言うのだ?」
カゼト  「近くまで行って、調べてみるつもりでいる。
      おれに何とか出来る相手であれば成敗するが、
      話を聞いた感じでは、まあ無理だろうな。」
テーチャ  「旅に出るの?」
カゼト  「ああ。いろいろ調べて回るのが、カゼのイエの仕事だからな。」
イワジイ  「ほう。調べた事を、アマカミに報告するんじゃな?」
カゼト  「そうだよ。しかしなあ、島に渡るとなると・・・
      舟が必要だし、流れのある海で小島にたどり着くのは難儀しそうだ・・・  
      そうだ!シロクンヌ、船乗りになった兄弟がいると言ってなかったか?
      シロのイエは武のイエだ。その兄弟も強いのか?」
シロクンヌ  「ああ、強いぞ。腕っぷしは、おれより強いだろうな。」
カゼト  「会ってみたい。今どこにいるのか分かるか?」
シロクン  「東の海だ。黒切りが採れる島があって、その辺りだと思う。」
マサキ  「シロミズキならおれも知っている。
      カゼト、もし行くなら、付き合ってやろうか?
      丁度おれもそっちに行くつもりだったから。」
カゼト  「そうか、是非頼む!」
マサキ  「シロミズキがいれば心強い。3人でハタレの兄弟を探してみるか。」
カゼト  「シロミズキは一緒に行ってくれそうか?」
シロクン  「そりゃあ行くさ。ハタレの話を聞いて、動かんはずがない。
        おれだってミヤコの件が無ければ行っている。」
マサキ  「シロミズキは断りゃあせんよ。いつ出立する?」
カゼト  「そうだな・・・三日後でどうだ?」
マサキ  「了解だ。」
テーチャ  「でも、コシの件はどうしよう?」
カゼト  「それだが・・・シロクンヌ、途中、一ヶ所立ち寄ってみてもらえんか?」
シロクン  「どこに行けばいい?」
テーチャ  「そうか!イワジイやタカジョウにも見てもらった方がいいね。
       場所は、コシを流れる川の近く。シナの木の川。」
タカジョウ  「シナの川か。レンザの姉が襲われたのが、シナの川の川筋じだと思う。
        御山の向こうから、西に流れ出して北に向かう川だ。」
シロクン  「だがコシと言えば、海に近い辺りだな?」
テーチャ  「うん。舟で下れば半日で海に出るね。」
タカジョウ  「そこで何事かおこったのか?」
テーチャ  「黒い水が噴き出したの。黒石糊の沼の裂け目から。」
イワジイ  「何じゃと!詳しく教えてくれんか。」
シロクン  「待ってくれ。サチ達も呼んだ方がいいな。」
 
 
ミツ  「カゼマルは寝ちゃったよ。」
テーチャ  「ありがとうね。重かったでしょう?あたしが抱っこするね。」
サチ  「父さん、どこかに立ち寄るの?」
シロクン  「そうだ。今からその話をする。テーチャ、頼む。」
テーチャ  「ここに来る前、あたしはコシに住んでいたの。
       ふた月くらい前に大きな地震があったでしょう?」
シロクン  「明り壺の祭りの前だな。
        そっちでも相当揺れたのか?」
テーチャ  「ひどかったのよ。立ってられないくらい。
       方々で崖崩れもあったし、地面に段差も出来たんだよ。」
タカジョウ  「おれ達がいた所よりも酷そうだな。」
キサヒコ  「ここらも、そこまでは無かった。」
テーチャ  「それでね、地割れが起きたの。ウチの近くで。
       黒石糊が採れる岩盤のそばに沼があって、その周りで何ヶ所も地が裂けたの。」
ミツ  「黒石糊って、レンザが欲しがってたやつでしょう?」
シロクン  「そうだ。黒い石でな、割るとベタベタした黒い糊が採れるんだよ。」
イワジイ  「沼の水は黒いのか?」
テーチャ  「ううん。薄い緑色だった。元々はね。魚だって居たんだよ。
       それが、地震の後、水が減っちゃったの。
       その後、近くの裂け目から黒い水が湧き出して、沼に流れ込んだの。
       そして魚が全部死んじゃった。」
サチ  「黒い水は、毒なの?」
テーチャ  「多分ね。でも普通の水には混ざらなくて、浮くんだよ。」
タカジョウ  「黒い水の量は?沼一面をおおってしまったのか?」
テーチャ  「そう。どんどん湧き出して来てる。
       このまま行くと沼から溢れ出て、近くのシナの川に注ぎ込むかも知れない。」
イワジイ  「そりゃ大変じゃ!サケが登らんようになりゃあせんか?」
テーチャ  「そうなの。みんな、それを心配してる。
       そこより上流に、村がいくつもあるし、人もたくさん住んでるのよ。
       みんなサケが頼りだから・・・」
シロクン  「すぐにも川に流れ込みそうなのか?」
テーチャ  「一年くらい先には川まで届くってみんな言ってる。
       今大勢で、沼と川の間に盛り土を造ってるの。」
ミツ  「沼の横なら掘りやすいでしょう?
     掘って沼を広げたりはできないの?」
テーチャ  「それは無理。瘴気が凄いのよ。
       あたしのムロヤなんて沼の風下だったから、もう住めないわね。」
シロクン  「それでここに来たのだな。
        連れ合いは旅に出たと言っていたが、行き先は?」
カゼト  「アサマだ。ヒのイエの出先がある。火の山のふもとだ。
      おそらくそこに、ヒのクンヌがいる。」
 
 
 
※ 岡山県の二ヶ所の遺跡で、6千年前の地層から、イネのプラントオパールが大量に見つかっている・・・
長いこと、そう言われて来ました。
その言説に基づいてストーリー展開して行くつもりでしたが、言説が間違いであることが判明しました。
6千年前ではなく、もっと新しい地層だったようです。
 
よって、旅編の32話~35話を書き直すことにしました。
書き直しした物が、こちらになります。
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。  セジ 20歳 シシガミ村の青年。ゾキのシモベ。  マサキ 28歳 シロクンヌのタビンド仲間。  テーチャ 23歳 アオキ村で暮らす女。  カゼト 28歳  アオキ村で暮らすカゼのイエの者  キサヒコ 33歳 アオキ村のカミ。  カゼマル 1歳 テーチャの息子

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト