縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

第117話 17日目③ 魂写しの儀

 

 

 

          大ムロヤ。魂写し(たまうつし)の儀。

 
    ハニサは神域に床を延べている。
    線の手前には、シロクンヌ、サチ、ハギ、サラ、ヤッホ、ムマヂカリ、エミヌ、
    そして大ムロヤで寝泊まりしているシオラムとナジオの姿があった。
 
    当時において、出産は女性にとって、命がけの一大事業であった。
    無事な出産への祈りとして取られていた方法が、身代わり人形である。
    粘土で、妊婦の身代わりの人形をこしらえて、
    その人形を壊すことによって、妊婦の厄落としとするのだ。
    身代わり人形は、村人が一人に付き一体作るのが普通だった。
    ただし人形に身代わりをさせるには、粘土に妊婦の魂を転写させる必要があり、
    それが魂写しの儀だ。
    かと言って難しいものではなく、神域で粘土と妊婦が一晩過ごすというだけだ。
    ウルシ村における魂写しの儀は、妊娠したての女性への励まし会のようなものでもあった。
    友人達が集まり、ワイワイガヤガヤと楽しく過ごすのだ。
    ただ、男 根 を模した神坐の前で夜に行われる為、猥談となる傾向が強かった。
 
ハニサ  「あたし、魂写しの儀って初めて。
      こっち側はもちろんだけど、そっち側にもいたことがないの。」
ヤッホ  「そう言われれば、ハニサはこういう場にはほとんど来なかったよな。」
エミヌ  「それならハニサは知らないんだね。
      魂写しの儀では、神域で嘘をついちゃいけないの。
      私たちの質問に、全部正直に答えなきゃいけないんだよ。」
ヤッホ  「毎回、これはやるよな。」
ハニサ  「えー! あたし質問されるの? 変な事を聞かないでよ。」
ハギ  「嘘をつかなければいいんだ。」
エミヌ  「じゃあ行くよ。最初は無難な線で、一番悲しかった出来事は?」
ハニサ  「父さんが死んだ事。あたし、5歳だった。」
サチ  「病気で?」
ハニサ  「そう。突然倒れちゃったの。」
ヤッホ  「じゃあ次は、おれだ。おれの事が好きだった時があるか無いか?」
ハニサ  「無いよ。次行って。」
ムマヂカリ  「ワハハ、あっさりだったな。では・・・初恋の人は?」
ハニサ  「シロクンヌ!」
サラ  「そうなんだ。でも最近知り合ったばかりでしょう?
     その前にはいなかったの?」
ハニサ  「いないよ。シロクンヌの事は最初から好きで、それがどんどん好きになったの。」
サラ  「じゃあ初恋が出たから・・・初めて手をつないだ男は? 肉親以外ね。」
ハニサ  「オジヌ。」
エミヌ  「へー、オジヌなんだ。しかも即答。」
ハニサ  「オジヌとしか手をつないだ記憶がないもん。」
ハギ  「では、いつまでオネショをした?」
ハニサ  「兄さん、それ反則だ! 知ってるくせに。
      もう! 14歳。でも一回だけだよ。」
ハギ  「ほんとか! おれ、12歳だと思ってた! 悪い!」
ヤッホ  「14かよ! おれは13までだから、おれの勝ちだ。」
ハニサ  「イーっだ。」
エミヌ  「アハハ、ねえそろそろあっち系の質問、行かない?」
ハニサ  「あっち系って何?」
ナジオ  「では、ご要望に副う線で・・・夜の営み、好きか嫌いか?」
ハニサ  「そういう事か。もう。言わなくちゃいけないんでしょう?」
エミヌ  「まだまだ序の口よ。これからが凄いんだから。」
ハニサ  「えー、じゃあ言うよ・・・好き。」 おー、というどよめきが起きた。
シオラム  「そう来なくちゃな。あの時、我慢できずに、大声を張り上げてしまう?」
ハニサ  「えー! そんな質問まであるの? 恥ずかしすぎない? 答えなきゃいけない?」
シオラム  「それがすでに答えになっておる気もするが、しっかりとした返答が欲しいところだ。」
ハニサ  「どうなんだろう。あたし、自分では分からないけど・・・はい。」
シオラム  「ハハハ。あの時とは、怒った時とか泣いた時とか、
       それは自分で決めてもらってよかったんだぞ。」
ハニサ  「もう! じゃあ泣いた時だ。泣いた時にあたし、大声出すから。」
シロクン  「ハハハ、もう遅いな。では・・・
        シジミを食べて、興奮した?」
ハニサ  「キャー! それ、大反則! 
      シロクンヌにダマされそうになったからでしょう?
      それにあれって、アユ村の神坐が寂しがっていたずらしたんだから。」
ヤッホ  「ハニサはシジミで興奮するのか?」
ハニサ  「騙されたのよ。暗示にかかるところだったの。
      だから答えは、するところだった。でいいね?」
ナジオ  「神坐のいたずらって言うのは?」
シロクン  「アユ村のすぐ裏手に、温泉があるんだ。
        おれ達は、夜、そこに入ったんだが、そばに神坐があるに気付かなかった。
        だから手火を適当な位置に立てたんだ。」
ハニサ  「だけど本当は、神坐の前に手火をお供えしなくちゃいけなかったの。
      寂しがり屋の神坐で、仲間外れにされたと思ったみたい。
      それで神坐から、いたずらされちゃったの。」
サラ  「いたずらって、どんな事されたの?」
ハニサ  「えー! 正直に言わなくちゃいけないんだよね・・・」
 
ムマヂカリ  「ワッハッハッハ、サチに見られたのか。」
エミヌ  「キャー、シロクンヌの神坐、私も見たかった!」
ハギ  「いたずら好きの神坐なのか(笑)。アユ村って面白い所だな。」
エミヌ  「すぐ裏手が温泉っていうのもいいよね。
      あと質問してないのは・・・サチかな?」
ハニサ  「次はサチね? 良かった。」
サチ  「じゃあ私は・・・お姉ちゃんが、一番怖かったことは、何ですか?」
ムマヂカリ  「よかったな。あっち系じゃなくて。」
ハニサ  「えーと・・・嘘ついちゃいけないんでしょう?
      あたし、思い出せないの。」
シロクン  「怖かったことか?」
ハニサ  「そう。物凄く怖かったことがあるはずなの。
      オジヌが関係してるんだよ。」
エミヌ  「オジヌが何か悪さした?」
ハニサ  「そうじゃなくて、その時に一緒にいたと思う。
      お祭りの前の日に、粘土とアケビを採りに行ったでしょう?
      あの日、久しぶりにオジヌに会ったの。」
シロクン  「オジヌは、5年ぶりにハニサと口を利くと言ってなかったか?」
ハニサ  「うん。オジヌに会って、あたし、思い出したの。
      絶対、何かあったの。凄く怖い事が。
      でも、そこまでしか思い出せない。
      アケビを採りながらオジヌに聞いたんだけど、忘れたの?って驚かれて、
      なんだ忘れてたのか、じゃあ知らない方がいいよ。って。
      そのあとしつこく聞いたんだけど、教えてくれなかった。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第118話 17日目④

 

 

 

          大ムロヤ。魂写しの儀。続き。

 
シロクン  「怖い思いをしたのは、いつ頃の話なんだ?」
ハニサ  「あたしが12歳の時。」
シロクン  「5年前だな。それが原因でオジヌと口をきかなくなったのかな?」
サチ  「その頃のオジヌは、ハニサは護ってあげなくちゃいけないって、
     頻繁に言ってたんでしょう?
     きっと、お姉ちゃんに、何か悪い事が起きると知ってたんだね。」
ハニサ  「どうしてサチが知ってるの?」
サチ  「アケビの蔓を採りに行って、お昼を食べてる時、エニがそう言ってたの。」
エミヌ  「よく覚えていたわね。確かにそういう話をしたね!」
ハギ  「5年前で、季節は?」
ハニサ  「今位。というか、明り壺のお祭りの時だと思う。」
シオラム  「おいおい、ちょっと待ってくれ。
       5年前の明り壺の祭りで起きた事を、みんなは知らんのか?」
シロクン  「そうか、5年前なら、ちょうどシオラムとナジオもお祭りに来ていたんだな。」
ムマヂカリ  「5年前と言えば、直前に大雨が降って、川の増水で飛び石が危なかった年だ。」
ハギ  「だが他の村の連中も、なんとか、たどり着いただろう?
     他に何かあったか?」
エミヌ  「覗き魔を探しに、どこかの村の人が来なかった?
      お祭りの何日かあとに。」
ナジオ  「マツタケ山の覗き魔は、よその村でも悪さをしていたのか?」
ムマヂカリ  「そうだった。
        おれ達はそいつらの顔を知らんのだが、祭りに紛れ込んでおったようだ。
        その村では母娘を連れ去ったらしい。
        マツタケ山の張り屋(テント)から、子供の服が出て来た。
        しかしそいつらは、結局そこへは戻らんかったな。
        そいつらが祭りで何かをやったという事か?」
シオラム  「オジヌは何も言っておらんのか・・・
       待てよ。
       オジヌはハニサが忘れておるとは思っておらんかったのだな?」
ハニサ  「そうみたい。
      忘れたの?って驚いてたから。」
シオラム  「ハニサが言わんから、オジヌもみんなに語らんのかも知れん。」
ハギ  「そう言えば、5年前の祭りの翌日から、ハニサは寝込んだんだ。
     熱が高くて、呼びかけても返事をしなかった。
     ヌリホツマが寝ずの祈りをしてくれたんだ。」
ナジオ  「ハニサは祭りの日の事を覚えてはいない?」
ハニサ  「何かあったと思うんだけど・・・」
ナジオ  「それならマツタケ山の一件は?」
ハニサ  「覚えてるよ。
      足をくじいてナジオにおんぶしてもらって帰って来たよね。」
ナジオ  「うん、その日の山での出来事。」
エミヌ  「私とハニサ、覗かれたじゃない。」
ムマヂカリ  「その二人組、マツタケ山で張り屋(テント)暮らしだったな。」
ナジオ  「おれ達が、奴らと最初に出くわしたんだよ。
      あんなのが居るなんて知らずに松茸採りに行ったんだ。
      おれは当時15歳で、マツタケ山に行った中では、おれとアコが年長だった。」
エミヌ  「あれ、お祭りの何日か前だったよね?
      あの時行ったのは・・・ナジオ、ハニサ、私、アコ、あと、オジヌとカイヌね。」
ヤッホ  「マツタケ山で、何があったんだ?」
エミヌ  「私、山でみんなから少し離れたの。
      そこにあの二人が現れて、木の実を採りたいだろう?って私を持ち上げたの。
      二人で片足ずつ持って、こうすると高い所に届くぞって。
      私、無邪気に木の実を採ってたんだよ。
      てっきり親切でやってくれてるんだと思ってたら、なんか様子がおかしいの。
      ずっと下から覗いてたのよ。」
サチ  「えー! ひどい!」
エミヌ  「脚を開かれてたから、私恥ずかしくて、下ろしてって言ったら、ひどい事言われた。」
ヤッホ  「何て言われたんだ?」
エミヌ  「私のがどうなってるって言い立てるの。持ち上げたままだよ。
      もう、死ぬほど恥ずかしかった。」
ヤッホ   とんでもない奴らだな。
      今、目の前にいたら、ぶん殴ってやる!」
ナジオ  「おれはアコとカイヌと一緒にいたんだ。
      そしたら遠くでオジヌの叫び声が聞こえた。
      ハニサを下せ!って。」
ハニサ  「思い出した! オジヌがすごい剣幕で怒ったの。
      あたしも同じ様にされたけど、その時は無頓着だった。
      でも今思うと、酷い事言われてる。」
ヤッホ  「なんて言われたんだ?」
ハニサ  「ツルツルだな。おれの勝ちだ。そう言ったの。」
サラ  「最低ね!」
ハニサ  「あたし、そういうの全部おそかったんだ。
      そっちの知識も意識も全然なくて、その時は、ピンと来てなかったのね。
      でもそれを聞いて、オジヌは怒ったの。」
シロクン  「いくつ位の奴らなんだ?」
エミヌ  「20代半ばかな。」
ナジオ  「おれがそこに走って行くと、奴らはもういなかった。
      ハニサが足をくじいて泣いていた。
      下ろせって言われて、あいつら手を放して落としたみたいだな。」
ハニサ  「思い出した! あの時は痛いのが先立ってたけど、
      あいつら、大丈夫か診てやると言って、座り込んでるあたしの脚を開いたの。
      そしてオジヌに、ほら、よく見えるだろうって言ったのよ。
      もっと色々言ってた気がする。
      その時は意味が分からなかった。」
ナジオ  「そんな事までしたのか!
      それはオジヌは言わなかったが、ハニサを護れなかったと言って泣いていた。」
ハギ  「それ以上の事はされてないんだろう?」
ハニサ  「うん。ちゃんとシロクンヌに捧げてるよ。そうだよね?」
シロクン  「間違いない。出会った時、ハニサは生娘であった。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第119話 17日目⑤

 

 

 

          大ムロヤ。魂写しの儀。続き。

 
ヤッホ  「それで叔父さん、祭りの時には何があったの?」
シオラム  「どうしたもんかな・・・
       おれが言ってしまっていいのだろうか?
       ハニサは嫌だったというよりも、怖かったのだよな?」
ハニサ  「そう。怖かったの。
      何があったのか、教えて!」
シオラム  「ハニサは、さらわれたんだ。」
サチ  「え!」
シオラム  「と言っても、旗塔の下までだ。
       そこが、二人組の待ち合わせ場所になっておった。
       ハニサをさらった奴が、先にそこに着いた。
       そこで何者かがハニサを救出した。
       おれは、それはオジヌかも知れんと思っている。」
エミヌ  「オジヌがハニサを助けたの?」
シオラム  「待ってくれ、順を追って話す。
       あの年おれは、シオ村で世話役が回って来ておって、そっちの用事の加減で、
       ここには祭りのひと月前に来て、祭りが終ったら三日後に戻る予定でいた。
       祭りの日の話をすると、おれはある女から相談を受けたんだ。
       事が事だから、村の者には言いにくかったのだろう。
       二人組からいやらしい事をされたと言う。
       それなら見つけ出して懲らしめてやると言ったのだが、
       仕返しが怖いから止めてくれと言われた。
       女は怯えておったので、おれは近くに居てやることにした。
       すると、一人はあの男だと言ったから、おれは服装と顔を覚えた。
       その後そいつを見つけ出して、後をつけて、
       人込みから抜けた所で、そいつをぶちのめした。
       そいつの口を割らせると、片割れは旗塔だと言った。
       それで二人で旗塔に向かったのだが、夜だからな、旗塔の辺りは星明りだけだ。
       すると暗闇に呻き声がする。
       片割れは、何者かにぶちのめされて、動けずにいた。
       おれがぶちのめした奴は、それを見て逃げ出した。
       おれは追いかけたが、見失った。
       そしたら、ウワという声のあと、ドンと音がした。
       見に行くと、どうやらそいつは崖から落ちたようだった。
       取りあえずそいつは放っておいて、
       おれは作業小屋から縄を取って来て、片割れを樹に縛り付けた。
       そしてタイマツを2本持って来て、1本を崖から投げ落とした。
       その炎が男を照らし出したが、男はまったく動かない。
       慎重に崖を降りてみると、すでに男は死んでおったから、そいつは川に流した。
       増水していたからな・・・海まで運ばれたかも知れん。
       おれは予定を早め、祭りの次の日に、シオ村に戻ることにした。
       その時、樹に縛りつけておいた片割れを連行した。
       その片割れが、シオ村が近づいた所で言ったのだ。
       ハニサをさらっていたと。
       ハニサに何かしたのかと聞いたら、何もしていないと言った。
       ハニサをさらって旗塔に着いたら、すぐに何者かに襲われたと言っていた。
       祭りの翌朝、村は大騒ぎになっていなかったから、
       ハニサは無事なのだろうとおれは考えた。
       差し迫った用事もあったから、おれはそのままシオ村に戻った。
       その片割れは、船の無い離れ小島で塩作りをさせていたが、2年前に病で死んだ。」
エミヌ  「そんな事があったなんて、全然知らなかった!」
シロクン  「ハニサ、何か思い出さないか?」
ハニサ  「暗い旗塔で・・・あ! 母さん!」
クズハ  「お夜食よ。
      テイトンポもアコもいないし、どうせ一人だから、混ぜてもらおうと思って。
      深刻な顔してるけど、何のお話?」
ハニサ  「5年前の明り壺のお祭りで、あたし、さらわれたの?」
クズハ  「何を言い出すの、急に。さらわれてなんかいないわよ。」
ハニサ  「あたし、凄く怖い目に遭ってるはずなの。でもそれが思い出せないの。」
クズハ  「さらわれたなんて、一体どうしてそんな話になっているの?」
シロクン  「かいつまんで説明するぞ・・・」
 
クズハ  「マツタケ山でそんな事があったの。脚をくじいただけじゃなかったのね。」
シロクン  「ところで、ハニサを助けたのはオジヌだと考える訳は?」
シオラム  「その片割れの話では、ハニサのそばに鬱陶しいガキがいて、
       何かと二人の邪魔をしたらしい。
       そいつら祭りの最中に、気付かれんように何人もの女を覗いたと言うんだ。
       自慢するような話し振りでな。
       そのガキがいなかったら、その倍の人数が覗けたはずだと悔しがっておった。」
サラ  「狂ってる。」
シオラム  「まったくだ。奴らはハタレだ。」
ハニサ  「ハタレ!」
シオラム  「奴が言うには、二人でそのガキをおびき寄せて後を追わせ、
       二手に分かれて、ガキをまいた方がハニサをさらう作戦で、
       おれがガキをまいたんだと得意げに言っておった。
       そのガキというのは、マツタケ山で、ハニサと一緒にいたガキだと言った。
       マツタケ山に変な二人組がいたというのは、おれは、ナジオから聞いて知っていた。」
ハギ  「母さん、祭りの夜は、ハニサの様子はどうだったんだ?」
クズハ  「帰ったらムロヤで寝ていたわ。怪我とかは、していなかったはずよ。」
ハニサ  「私、何か言ってなかった?」
クズハ  「うなされていたわね。熱も高かったのよ。
      そのままハニサは寝込んでしまって、口をきいたのは、3日後だったかしら。
      それからは、さらわれたなんて、一度も言ったことはないわよ。」
シロクン  「ムロヤに変わった様子はなかったのか?」
クズハ  「そう言われれば・・・一人で帰って来たんじゃないと思ったわ。
      お湯も沸かしたようだったし・・・多分、誰かが連れて来てくれたのよ。」
シロクン  「その誰かは、名乗り出なかったのだな。」
クズハ  「そうなの。村の人なら、何か言うはずよね。」
シロクン  「ハニサはそれ以来、オジヌと口をきいていなかったんだな?」
ハニサ  「そうなのかな・・・」
クズハ  「ハニサが寝込んでいる間、オジヌは毎日様子を聞きに来ていたの。
      でも、ハニサは元気になったから遊びにおいでと言っても、
      それならいいんだと言って、来ようとはしなかったわね。
      ハニサ、オジヌがムロヤまでハニサを連れて来てくれたんじゃない?
      そして体も拭いてくれたんじゃないかしら?」
 
    ハニサは、身振りで静かにしていてと伝えた。
    ハニサが何かを思い出しそうだと思い、しばらくの間、みんなは固唾をのんで見守った。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第120話 17日目⑥

 

 

 

          大ムロヤ。魂写しの儀。続き。

 
ハニサ  「あ!ここでは嘘を言っちゃいけないんだった!」
ヤッホ  「どうした? 思い出したのか?」
ハニサ  「うん! 思い出したよ。
      全部思い出した!
      オジヌがあたしを抱いて旗塔からムロヤまで運んでくれたの。
      そしてムロヤで、体を拭いてくれた。
      でも、あたしをさらった奴をやっつけてくれたのは、知らない大人の男の人だった。」
ハギ  「村の人ではないんだな?」
ハニサ  「うん。あの日、供宴の場にオジヌと一緒にいて、
      あたし疲れたからムロヤに帰って横になるって言ったの。
      そしたらオジヌが慌てたのよ。
      ムロヤはバレてるって。」
サチ  「バレてるっていうのは、二人組がお姉ちゃんのムロヤを知ってたの?」
ハニサ  「たぶん、そういう意味だと思うよ。」
ヤッホ  「よっぽどハニサを付け狙ってたんだな。
      ぶん殴ってやりたいよ。」
ハニサ  「そしたら、奴らだ、見つけた!って言って走って行っちゃったの。
      だからあたし、村の方に向かって歩いて行ったら、
      人気の少ない所で、抱え上げられたの。誰かに。」
ムマヂカリ  「供宴の場や祈りの丘にみんないて、村は人がいないだろうな。」
ハニサ  「そしてそのまま、旗塔に連れて行かれた。
      シロが吠えていたのを覚えてる。」
ヤッホ  「体を触られたりしなかったか?」
ハニサ  「しなかった。嫌な味のする物を、口に詰められた。
      そいつはあたしを下して、ハアハア息をしてて、
      そしたら知らない人が来て、そいつをやっつけてくれた。
      シロがずっと吠えていて、オジヌはそれで旗塔に来たみたい。
      オジヌが来てくれた時、その人はオジヌに、よくハニサを護ったなと言ったの。
      あたしの名前を知っていた。
      そしたら少し離れた場所で、男二人が争って、一人を打ち負かしたのだけど、
      あれがシオラムだったの?」
シオラム  「多分な。」
ハニサ  「もう一匹はあっちが片付けた。もう心配ないから、おまえはハニサをムロヤに運べ。
      その人がオジヌにそう言ったの。
      でも不思議なの。
      あんなに暗くて離れていたのに、なんでどっちが勝ったか分かったのかしら?
      ムロヤでオジヌに、さっきの人は誰?って聞いたら、
      知らない。さっき初めて会ったって言っていた。」
ハギ  「一体誰だったのかな、ハニサを助けたのは。」
ムマヂカリ  「だけどオジヌも、その人が来るなんて知らずに旗塔に行ったのだろう?
        肝の据わった11歳だぞ。」
エミヌ  「へー! オジヌがねえ・・・
      とにかくハニサが大好きだったのよ。
      でもその少し後くらいから、私の事をいやらしい目で見るようになったの。」
ヤッホ  「オジヌがか?」
エミヌ  「そうよ。」
ハギ  「どうせそれは、エミヌが大胆な格好をして、オジヌを挑発したせいだろう?」
エミヌ  「なんでハギは分かったの?
      オジヌはドギマギした顔をして、すぐ神坐になるの。
      見ていて可愛いのよ。
      ハニサ、意味わかる?」
ハニサ  「え、分かる。エミヌはオジヌに見せてたの?」
エミヌ  「そうだよ。見えてるなんて知らなかった・・・みたいな感じで、実はわざと。
      そしたらオジヌがチラチラ見てるじゃない。ドギマギした顔で。
      それを見て、私も興奮してたの。
      サチにはそういう気持ち、分かる? まだ早いか。」
サチ  「私、分からない・・・」
ハギ  「サチは分からなくていいぞ。
     エミヌは二人組に覗かれて以来、覗かれ願望が芽生えたんじゃないのか?」
エミヌ  「なんでハギは何でもお見通しな訳?
      ハギってその道の達人?」
ハギ  「達人な訳、無いだろう! サラの前で、変な事言うなよ。」
ハニサ  「今でも見せてるの?」
エミヌ  「今は無理よ。あいつ、男ムロヤに行っちゃったでしょう?
      それに、もうドギマギした顔にならないんじゃないかしら。
      そうならつまんないから、もうあいつには見せてやらない。」
ヤッホ  「お、おれ、ドギマギした顔するぞ!」
エミヌ  「そうなの? ちょっと見てみる?」
ムマヂカリ  「おれもドギマギする!」
エミヌ  「ムマヂカリは駄目! マ印を教えてくれなかったから。」
ムマヂカリ  「教えてやる! いいかよく聞け・・・」
 
    それからしばらく、エミヌ主導による猥談が続いた。
    そして、ハギのムロヤで続きをやろうということになり、
    ハギ、サラ、ムマヂカリ、ヤッホ、エミヌ、ナジオ、はハギのムロヤに行き、
    大ムロヤはハニサ、シロクンヌ、サチ、シオラム、クズハの面々となった。
    そしてサチはシロクンヌのひざで眠ってしまった。
 
クズハ  「ああ、興奮しちゃったわねえ。
      床を延べたから、サチはこっちで寝かす?」
シロクン  「ありがとう。しかしエミヌはじらすだけじらしておいて、結局見せる気は無いな。」
シオラム  「ムマヂカリとヤッホは完全に手玉に取られておったな。」
ハニサ  「でも母さん、なんでオジヌが連れて来てくれて、体を拭いてくれたことまで分かったの?」
クズハ  「あの夜ムロヤに帰ったら、臭いがしたのよ。栗の花の匂いが。
      それで慌ててハニサの体を調べたの。そしたら傷もなく、きれいだったわ。
      ところが、その日ハニサが着ていた服は、おしっこで濡れていたの。
      だから、ハニサを連れて来た人は、ハニサを拭いてくれて、
      ハニサを見ながら自分でしたんだわと思ったの。
      前後の流れから見ても、その人はオジヌじゃないかしらと思うでしょう?」
ハニサ  「その時あたし怖くて、おしっこを漏らしちゃったの。
      ムロヤでオジヌが体を拭いてくれていて、うっと言ったあと何だこれと言って、
      しばらく茫然としていた。
      そしてそんな気は無かったと言ってあたしに謝ってた。
      あたし、その時はまったく意味が分からなかった。」
クズハ  「そうだったのね。」
シロクン  「オジヌには潔癖なところがあるからな。
        ハニサをいやらしい目で見てしまったと思い、自分が嫌になったかも知れん。」
ハニサ  「そうかも知れない。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第121話 17日目⑦

 

 

 

          大ムロヤ。魂写しの儀。続き。

 
ハニサ  「でもあたし、何が怖かったかというと、
      連れ去られる時に、そいつは母さんの事ばかり言っていたの。
      おまえの目の前で、クズハをヒーヒー言わせてやるとか、
      クズハにぶっ刺してやるとか・・・
      あたし、母さんがいじめられて、泣かされて、刺し殺されちゃうと思ったの。
      この人、もうすぐ、あんなに優しい母さんを殺すんだと思って、それが凄く怖かったの。」
クズハ  「そうだったの・・・知らなかったわ。」
シロクン  「クズハ目当てで、ハニサを人質にする気だったのか。」
シオラム  「そうだ。奴は最後まで、クズハをものにできんかったことを、悔しがっておった。
       奴が言うには、マツタケ山でハニサを見て、
       この可愛い娘の、姉か母親を、犯そうと考えたようだ。
       そして一番チビというからカイヌだな。
       カイヌからハニサの家族構成を聞き出し、父親がおらんと知り、
       クズハを男に飢えた女と決めつけた。
       祭りでクズハを初めて見て、何が何でも犯すと二人で誓い合ったそうだ。
       今まで、二人で誓い合った女は、全員犯してきたらしい。
       クズハを孕ませ女を産ませる。
       その子はハニサくらい綺麗だろう。
       その子をクズハにおれの言いなりになるように育てさせ、
       毎日三人で楽しむんだと言いおった!」
シロクン  「ハタレだ。ハタレの言いそうな事だ。」
クズハ  「人では無いわね。」
シオラム  「クズハに抵抗されて驚いていた。
       触ってやったのに、抵抗しやがったと。」
クズハ  「当たり前よ。
      あんな気持ち悪い男達、見たことが無かったわ。」
シオラム  「すぐにものにできると思っておったようだぞ。
       それで、ハニサを人質にしようとした。」
ハニサ  「母さん、ひどい事されたの?」
クズハ  「一人が私を羽交い締めにして、もう一人が触って来たの。
      乱暴に触られて、痛かったのよ。
      シオラムに診てもらったら、傷になってたのよね?」
ハニサ  「え? どこを診てもらったの?」
クズハ  「触られた所よ。
      それを見て、シオラムが怒ったんだから。」
シロクン  「つまり、そういう関係だったということだな。
        相談を受けたと言っていたが、相談したのはクズハだろう?」
クズハ  「そうよ。だからあの時、私は満たされていたの。
      飢えてなんかいなかったわよ。」
ハニサ  「知らなかった!」
クズハ  「とにかく痛かったから、羽交い締めを振りほどいて、触った奴の腕をひねってやったの。」
シロクン  「なるほど。クズハはウケ(川で魚を獲る仕掛け)を組むほど、腕の力がある訳だからな。
        クズハを言いなりにさせるには、人質が必要だと考えたのだ。」
シオラム  「そいつが舟から海に落ちる直前に、クズハとの事を事細かく教えてやったよ。
       どれだけいい女か、とな。
       おまえ、最高の女と出来なかったんだぞ、と。
       雄たけびをあげて、悔しがっておったな。」
シロクン  「それが正解だ。そんな奴が作った塩など、食いたくはないからな。」
ハニサ  「母さんって・・・そんなに、いいの?」
シオラム  「テイトンポを見ていたら分かるだろう?
       おれも、クズハとはああだったよ。」
クズハ  「シオラムはね、母さんの初めての人なの。
      私が14で、シオラムが16。」
ハニサ  「えー! 父さんが最初じゃなかったんだ。
      14って言ったら、あたしが最後にオネショした歳だよ。」
クズハ  「ウフフ、そうだったわね。母さんは早熟だったのよ。
      だって16歳でハギを産んでいるのよ。」
シオラム  「ん? 待てよ。おれは17からシオ村だろう・・・
       ひょっとして、ハギは・・・」
クズハ  「それは違うわよ。あなたがシオ村に行って、すぐ月のものがあったの。」
ハニサ  「という事は、それからすぐ、父さんと一緒になったの?」
クズハ  「そうね。そうしておきましょうね。」
シオラム  「んん? 重なっておったのか!
       おれはクズハ一筋で、泣く泣くシオ村に行ったのに!」
クズハ  「ウソよ。月のものがあったから、すぐにトツギになったの。
      大体、毎日だったでしょう? 重ねようが無いじゃない。
      じゃあそろそろ帰るわね。
      シオラムも少し経ったら散歩にでも出たら?
      シロクンヌとハニサ、二人きりにしてあげた方がいいわよ。」
ハニサ  「おやすみ。
      なんかあたしへのあっち系の質問より、エミヌや母さんの告白の方が凄かった。」
クズハ  「神坐の前ではね、女は大胆になるものなのよ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第122話 18日目①

 

 

 

          作業小屋。

 
ハニサ  「おはよー! やっぱりオジヌがいたー!」
オジヌ  「おはよう。どうしたのハニサ? 妙に元気がいいね。シロクンヌは?」
ハニサ  「もう少し後から来る。
      あたしねえ、思い出した!」
オジヌ  「えー! こないだ言ってた事?」
ハニサ  「そうだよ。オジヌ、ありがとう!
      あたしを助けてくれたんだね!」抱きついた。
オジヌ  「待ってよ、ハニサ。どこを思い出したの?」
ハニサ  「全部だよ! オジヌとのこと全部! ムロヤで体を拭いてくれた事も。」
オジヌ  「えー!」
ハニサ  「あたし、怖くておしっこ漏らしてたでしょう?
      それを、内緒にしてねって言ったんだよね?
      だからオジヌは、誰にも言わないでいてくれたんでしょう?」
オジヌ  「うん。それにおれは、ハニサに嫌われたと思ったんだ。
      おれは毎日待ってたんだけど、元気になってもちっとも来なかったから。」
ハニサ  「シロの餌やりだよね?
      二人で毎日シロに餌をあげようって約束したのに・・・
      ごめんなさい。
      あたし病気で寝込んでしまって、
      良くなった時にはお祭りの日の記憶が曖昧になっていたの。」
オジヌ  「そうだってね。でも思い出しちゃったんだろう?
      あの時おれ、あんな風になったけど、
      でもおれは、いやらしい気持ちでハニサを拭いていたんじゃないよ。
      あっという間だったんだ。
      ハニサを拭いていたら、ふっとハニサのいい匂いがしたんだ。
      そしたら、あっという間だった。
      自分でも何が起きたのか分からなかった。」
ハニサ  「あたし、あの頃そういう事の知識が全然無かったの。
      だから驚いて、オジヌを傷つけるようなことを、何か言ったのかも知れない。
      でも今は分かるから、全然変な事じゃないって分かってるよ。」
      とにかくあたしはオジヌに感謝してる。
      嫌ってなんかいない。
      それをちゃんと言っておきたかったの。」
オジヌ  「そうか、分かったよ、ありがとう!
      白状すると、あの頃のおれは、ハニサのことがどうしようもなく好きだったんだ。
      ハニサは可愛かったし、優しかったから。
      そばに居られるだけで、舞い上がっていた。
      でも今はね、他に好きな子がいて、付き合ってるんだぞ。」
ハニサ  「えー! 誰?」
オジヌ  「内緒だよ。黒切りの里の子で、15歳。
      こないだのお祭りで知り合って、ずっと一緒にいたんだ。
      ハニサ程じゃないけど、凄く可愛いんだ。今度また会うけどね。」
ハニサ  「何ていう名前なの? でも黒切りの里って、山奥の遠い場所でしょう?」
オジヌ  「名前はコヨウ。コヨウはもうすぐ、アユ村に引っ越すんだよ。」
ハニサ  「そうなの? いつ引っ越すの?」
オジヌ  「一度帰って、すぐに準備をするって言ってたから、4~5日後に出立じゃないかな。」
ハニサ  「アユ村の人達と、今度夜宴をするんだよ。」
オジヌ  「知ってる。タカジョウも来るんだよね。コヨウはタカジョウの妹だよ。
      お父さんは違うんだけど。」
ハニサ  「へー! 驚いた!」
オジヌ  「コヨウを産むと、すぐにお母さんは死んじゃったって言ってたな。
      アユ村のマユって人知ってる?
      その人のムロヤに住まわせてもらうんだって。」
ハニサ  「マユ! 知ってるよ! 妹のソマユとは、お友達になったんだから!
      へー! なんか色々と縁があるものね。
      オジヌも夜宴に来るでしょう?」
オジヌ  「姉ちゃんにはそう言ってある。
      あ! シロクンヌだ。おはよう。」
シロクン  「おはよう。さっそく取り掛かるか。
        背負子は最低二つは欲しいが、一つ目は一緒に作るぞ。
        二個目はオジヌが一人で作るんだ。
        その間におれは、槙の木の残りで桶を作る。できるか?」
オジヌ  「やらせてくれるの? できるよ!
      一個目で覚えればいいんだね?」
シロクン  「そうだ。サチは粘土搗きをしてから、カブテの練習だ。」
サチ  「はい。」
オジヌ  「シロクンヌ、見てよ。おれ、あれから、いろんな道具を自分で作ってみたんだ。」
シロクン  「どれ、見せてみろ。」
オジヌ  「これはね、昨日もらったサメの歯。
      三つくれたから、一つはシロクンヌが持ってるようなのを作るつもり。
      でもまだ、穴が開けられないでいる。
      残りの二つを使って作ったのが、これ。」
シロクン  「歯を向かい合わせて並べたのか!
        ギザギザ面が綺麗に真っ直ぐ通ってる。
        なるほど、これならギコギコが倍の長さで出来る訳か。
        上手に固定したな。木を加工したのか?」
オジヌ  「そうだよ。木を削ってね、歯のここの所の出っ張り、
      この出っ張りがピッタリはまるようにしたんだ。
      少しだけグラつくんだけど、使う時はここをしっかり握って使うから、大丈夫なんだ。
      石よりも、うんと竹が切りやすいよ。」
シロクン  「漆付けしないのは、歯がすり減った時に、
        ひっくり返してもう片方が使えるようにだな。」
オジヌ  「うん。出来るだけ有効に使わないとね。」
シロクン  「いい心掛けだ。ところで、オジヌは爪先を鍛え始めたのはいつからだ?」
オジヌ  「え? どうして分かったの? 5年前からだけど。」
シロクン  「毎日、樹を蹴っていたのだろう? 歩き方で分かる。」
オジヌ  「やっぱりシロクンヌって凄いんだね!
      おれ、こっそりやってたし、誰にも話してないから、みんな知らないはずなんだ。」
シロクン  「ん? ハニサ、今、器を作っているんだよな?」
ハニサ  「そうだよ。あ! あたし、光ってないね。」
オジヌ  「ほんとだ。」
サチ  「お姉ちゃん・・・」
シロクン  「もう光らなくなったのか?」
ハニサ  「分からない。あたし、自分の意志で光ってたんじゃないから・・・」
シロクン  「そうか・・・ハニサが光らなくなると、少し寂しいが。」
ハニサ  「えー! どうやれば光るんだろう?」
シロクン  「宿したからかも知れんぞ。まあ、光らんのが当たり前だからな。」
ハニサ  「きっとそうだよ。あたし、ここにシロクンヌの子がいるんだね。
      なんだか、そう思っただけで幸せ。」
オジヌ  「ハハハ。うっとりした顔になってるよ。」
サチ  「でもだんだん顔がニヤけて行ってるよ。」
ハニサ  「いいの! サチ。幸せなんだから。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。

 

 

第123話 18日目②

 

 

 

          夕食の広場。

 
ハニサ  「兄さん、よかったね!
      兄さんのトツギに準備してた家財道具、全部あたしのムロヤで使っちゃったから。」
ヤッホ  「ひでーなハニサ。」
サラ  「私が押し掛けたからトツギが早まったし、仕方ないよ。
     でもびっくりだよ!
     一遍でムロヤが賑やかになっちゃった!」
ハギ  「毛皮だけでムロヤの床が埋まるし、昨日までとは別世界だな。」
タカジョウ  「もらってくれるなら、もっと持ってくるぞ。運べるのがそれだけだったんだ。」
カタグラ  「自慢してやろうと思って取って置きの毛皮を持って来たのだが、
       川晒ししてる熊の毛皮をみたら、ぶっ魂消てしまったよ。」
タカジョウ  「サチのお手柄だってな。
        確かにあれにはぶっ魂消たな。」
カタグラ  「女神の光の子の御懐妊といい、
       この村は、ちょっと目を離すと何が起きるか分からんな(笑)。」
タカジョウ  「ハハハ。まったくだ。しかしハニサは幸せそうな顔をしているな(笑)。」
サチ  「お姉ちゃんは、ずっとああだよ。時々私にお腹を見せて自慢するの。」
ヤッホ  「ハニサ、おれにも見せてくれ。」
ハニサ  「やだよ。エミヌには見せてもらえた?」
ナジオ  「ブァッハッハッハ。あれな!
      まったくエミヌの悪女っぷりには、恐れ入ったよ。
      あのあと、ヤッホとムマヂカリをシモベのように扱っていたんだぞ。
      それで結局見せてもらってないんだろう?」
ハギ  「ひじ枕で寝転んで、二人に足を拭かせるんだ。
     そしてひざを曲げてみたり、脚を組み替えてみたり、いろいろやるんだよ。」
オジヌ  「おれ、それを毎日やらされてた。」
ムマヂカリ  「そうなのか! だからあんなに巧いんだな。絶対見えないんだ。」
オジヌ  「おれの時は、よく見えてたよ。」
ヤッホ  「本当か! おれもエミヌの弟に生まれればよかった。」
ヤシム  「そんなことばっか言ってるから、ヤッホは軽く見られるんだよ。」
サラ  「私の場所からは、何度か見えたよ。」
カタグラ  「それは、何の話なのだ?」
 
タカジョウ  「アッハッハッハ。それはムマヂカリの気持ちが分かるなあ。
        そこまでじらされたら、たまらんな。」
カタグラ  「で、どうなんだ? 実際、見えたのか?」
ムマヂカリ  「おぬしの尻芸に近いな。」
ハニサ  「どういう事?」
ムマヂカリ  「カタグラは、尻だけ出して玉は上手にこぼれ出んようにしておるだろう?
        それと同じで、見えるのは腿までだ。」
ヤッホ  「おれの時は、角度から言ったら絶対に見えているはずなんだけど、
      膝から奥が、暗くて何も見えなかった。
      あれも、計算の内なのか?」
エミヌ  「やっぱり見えなかった?
      もうあの時が最高にドキドキしたのよ。
      ヤッホが食い入るように見てるから、見えてるのかもって。」
ナクモ  「見られたら、恥ずかしくないの?」
エミヌ  「恥ずかしいよ。
      とっても恥ずかしい。
      だからいいんじゃない。
      血に飢えた二匹の狼が、ギラギラした目で私を狙いながら足を拭いてるのよ?
      もう、たまらなくない? ゾクゾクするでしょう?
      サチにはそういう気持ち、分かる? まだ早いか。」
サチ  「私、分からない・・・」
ハギ  「サチは分からなくていいからな。
     エミヌ、自分の世界にサチを引き込むな。」
ヤシム  「あんた、食い入るように見てたの?
      もう、どうしようもないね!」
ヤッホ  「なんでヤシムが怒るんだよ。」
ヤシム  「じゃあもう知らない!
      ムマヂカリは、その思いの丈をスサラにぶつけたんでしょう?」
ムマヂカリ  「スサラが何か言っていたか?」
ヤシム  「寝ていたのに起こされたって。
      迷惑ぶってたけど、嬉しそうだったよ。
      最近のスサラは機嫌がいいわね。」
エミヌ  「それ、マ印のお陰よ。私、聞いちゃったもん。
      テイトンポが帰ってきたら、私にも飲ませてって頼んでみる。
      シロクンヌ、ハニサに内緒で一緒に飲もうよ。」
ハニサ  「キャー止めて!」
シロクン  「おれは隠し場所を知っているぞ。」
ハニサ  「もう! シロクンヌ!」
タカジョウ  「ハハハ。ところで、この村に、オジヌという者がおるだろう?」
オジヌ  「おれだよ。」
タカジョウ  「なんだ、エミヌの弟だったのか。
        祭りの時、コヨウを助けてくれたそうだな。
        礼を言わねばならんと思っていたんだ。ありがとうな。」
ハニサ  「え! 何があったの?」
ナジオ  「そうだ! オジヌには聞きたい事があったんだ!」
ヤッホ  「もうみんな食べ終わっただろう?
      また一雨来そうだから、場所を移さないか?
      大ムロヤに行こうよ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている

      

追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母 

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。