縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第11話 3日目④

 
 
 
          道中の尾根。夕刻前。
 
    眼下にブナの森が広がっている。
 
シロクン  「水の匂いがする。この下は、沢だな。」
タカジョウ  「あの空に、薄っすらと半月が見える。」
サチ  「今夜は八日月。上弦の月でしょう。」
タカジョウ  「そうだ。陽が沈めば、あの月が南の空高くで輝く。
        シロクンヌ、ムササビ狩りをしないか?」
シロクン  「いいな。陽が沈めば、あのブナの樹々の間をムササビが飛び交うぞ。」
ミツ  「私、ムササビが飛んでるのって、一度しか見た事ない。」
サチ  「ムササビって、月が空高くにある夜に飛ぶんでしょう?」
タカジョウ  「ふむ。月に誘われて、飛ぶ。
        肉は灰(あく)いぶしで、旅の糧にしよう。
        はらわたは、シップウの大好物だ。」
シロクン  「毛皮は沢の水で洗って、あとでなめせばいいな。
        よし。下に降りて寝床の準備に取り掛かるか。」
 
 

          森の中の野営地。夕刻。

 
    大きく火が焚かれ、そのそばで、4人は夕食をとっている。
 
タカジョウ  「スズヒコが持たせてくれたこのアユのいぶし、これは旨いなあ。」
シロクン  「味がコナレている。こんなアユを食うのは初めてだよ。」
ミツ  「骨が軟らかいよ。アユ村では甘露煮にした時がこんな感じ。」
サチ  「あれも美味しいよね。頭まで美味しかったもん。」
シロクン  「話は変わるが、ミツ、この辺り、冬はどのくらい雪が積もるか、分かるか?」
ミツ  「知ってるか?じゃなくて、分かるか?なの?」
シロクン  「そうだ。初めて行った場所でも、分かるかどうかと言う意味だ。」
ミツ  「じゃあ、分からない。分かる方法があるの?
     サチ、知ってる?」
サチ  「知ってる。死んだ父さんから聞いたの。こっちに来る時に。
     周りを見たら分かるよ。」
ミツ  「周りって、ブナの樹だよ。
     ・・・
     あ!高さが一緒だ!分かった!あの苔(こけ)でしょう?
     雪が積もる所には、あの苔が生えないんだ!」
シロクン  「そうだ。ブナの幹に生えている苔で分かるんだ。
        苔が生えているのは、ミツの腿(もも)から上だろう?
        ミツの腰くらいまで積もる時もあるだろうが、
        この辺り、山深い所だが、それほど雪深い訳では無い。
        タカジョウ、ここに住むとしたら、どうだろうな?」
タカジョウ  「問題は、冬の寒さ対策だ。
        それさえ出来れば、雪の量から言えば、カモシカ狩りには最適だぞ。
        雪が積もれば、女でも簡単にカモシカは狩れるからな。」
ミツ  「足が雪に刺さって、逃げ足が遅くなるんでしょう?」
タカジョウ  「だから見つけさえすればいい。遠くにいても、すぐに追いつく。
        真冬のカモシカは、最高の獲物だ。
        肉は旨いし、毛皮は水を通さんほど綿毛がビッシリと生えている。」
サチ  「今、敷いてるのがそうだよね。」
シロクン  「そうだ。湿った地面に敷いても尻が濡れん。
        カモシカの角は、イカ釣りに使うんだぞ。」
タカジョウ  「そうなのか!それでシップウが狩ったカモシカの角を欲しがったのだな?」
シロクン  「ふむ。カワセミ村へのいい渡しが手に入った。
        あの角が、海の中で青黒く光るらしいんだ。
        それをイカが好んでな、抱きついて来る。
        角にエイの尻尾をくくっておいて、尻尾のトゲでイカを刺して引き上げるそうだ。
        そう言えば、イカ釣りも月夜にやると言っていたな。」
タカジョウ  「食い物以外でも釣れるんだなあ。
        そのイカがスルメになってこっちに来るんだから面白いよな。」
シロクン  「確かに(笑)。カモシカの角や毛皮の他にも、オコジョの冬毛、ダケカンバの皮、
        蚊遣りキノコ、塩の礼には事欠かんだろうな。
        リンドウ村まで歩いて半日、だがイエの者なら、半日あれば往復する。」
タカジョウ  「シロの里か?」
シロクン  「ふむ、ただヲウミ育ちの者には、ここの冬はこたえるだろうな。」
タカジョウ  「なに、カワウソの毛皮を身にまとえば、動けば汗が出る。
        狩った獲物はな、雪ムロにうずめて凍らせておくんだ。
        それを溶かして、ナマのままむさぼり食えば、寒さなんか気にならんぞ。」
シロクン  「なるほど。ナマで食うのか。
        そうなるとここも十分候補地だな。
        そうだ、聞きそびれていた。
        タカジョウは、どんな所に住んでいたんだ?」
タカジョウ  「おれのねぐらがあったのは、八ヶ岳の中腹だよ。
        冬の棲みかは低い場所だったのだが、それでもここよりは高い。
        だから、ここよりは寒いな。風も強い。
        竪穴なんかを掘ると、雨が降れば間違いなく水が湧く。
        だから盛り土の上に張り屋(テント)を立てて住んでいた。
        張り屋は夏場、冬場、共に四つあって、冬場のねぐらの張り屋だけは特別仕様だ。」
サチ  「八ヶ岳に住んでたんだ。」
タカジョウ  「そうなんだよ。八ヶ岳とも知らずにな(笑)。」
ミツ  「ヤツガタケって?」
サチ  「この辺では御山って呼ばれてる山だよ。
     御山で一番高い峰が、クニトコタチなの。
     トコヨクニに何かあった時には、八つのイエは、八ヶ岳で集まる事になっていたの。」
ミツ  「クニト山って、クニトコタチだったの?
     御山は、神の棲みかだって言うのは知ってたけど、そんないわれがあったんだね。」
シロクン  「永い年月が経つうちに、八ヶ岳がどこなのかが忘れ去られていたんだが、
        こないだの明り壺の祭りの時に、ひょんな事から分かったんだよ。
        ところでタカジョウ、特別仕様の張り屋と言うのが気になるのだが。」
タカジョウ  「そりゃあもちろん、寒さ対策だ。
        他は丸太の骨組みに木の皮を張っただけだったのだが、
        冬のねぐらの張り屋は、竹囲いした上から木の皮を張って、
        内側には、キツネの毛皮を二重に貼っていた。
        キツネ60頭分だ。」
シロクン  「すごいな(笑)。」
タカジョウ  「キツネはシップウの大好物だからな(笑)。
        とにかくキツネを狩りたがるんだよ。
        床は竹敷きのうえに葦(あし)を重ね、
        その上にカモシカの冬毛を敷き詰めていたから、
        カワウソの毛皮で作った毛布をかぶれば、真冬でも朝までグッスリだったぞ。」
 
    そうやって話をしながら楽しく食事をしている間に、辺りはすっかり暗くなり、
    南の空には右半分だけの月がくっきりと浮かんでいた。
 
シロクン  「ん?あれは・・・
        オオカミだ。大きいぞ。」
タカジョウ  「口に何かをくわえておるな。おれ達の方を見ている。」
サチ  「あそこって、さっき私達がいた尾根だよね?」
 
    オオカミはこちらをジッと見ていて動かない。
    その背後には、星空が広がっている。
    やがてオオカミは、尾根の向こう側に降りていった。
 
ミツ  「いなくなったね。」
シロクン  「おそらく、群れではないな。ハグレだ。
        相当に大きかったぞ。
        数頭の群れと渡り合っていそうなやつだった。」
サチ  「くわえていたのは、ムササビだったように見えたよ。」
シロクン  「ムササビ一匹では、腹を満たしそうも無いな。」
タカジョウ  「用心しておくか。」
 
          ━━━━━━ 幕間 ━━━━━━
 
縄文人とオオカミの関係。あくまで作者の見解です。
 
オオカミを大神、山の神としてたてまつり、縄文人はオオカミ狩りはしなかった。
・・・このように断言する文章を、何冊かの書物で目にしました。
しかし作者の考えは全くの真逆なのです。
 
作者は、オオカミを大神としてたてまつったのは、弥生以降だと思っています。
農耕民にとっては、畠を荒らすシカやイノシシを駆逐するオオカミは、時に有難い存在だったのかも知れません。
しかし狩猟民にとっては、獲物を取りあう邪魔者でしかありません。
おまけに群れでヒトを襲います。
縄文遺跡から出土するオオカミの骨の数は少ないのですが、それはオオカミ狩りをしなかったのではなく、オオカミとオオヤマネコに対しては、「送り」をしなかったのだと思っています。
送り場に入れて送りの儀式を行い、「よみがえり」をさせたくなかったのだと思います。
オオカミとオオヤマネコの骨は、山中などに遺棄し、村の中の送り場(ゴミ捨て場)には入れなかった。
だから遺跡からの出土が少ないのではないかと思っています。
事実オオヤマネコは、縄文後期に絶滅したと考えられています。
縄文人によみがえりの思想があったのは、埋め甕(うめがめ)の風習があった事からも分かります。
埋め甕については、女性の服装にも関わる(イナは股間を見られるのをきらっているが、決してスボンははかない。)風習ですので、機会があればどこかで言及しておこうと考えています。
 
里で暮らす農耕民と違って、彼らは山や森で暮らしていました。
オオカミと遭遇する機会も多く、群れに襲われて死んだ人も多かったと思います。
ヒトの味を知った獣は、再びヒトを襲います。
オオカミの群れが棲む森で、ドングリ拾いをする気になりますか?
 
たとえば人間の狩り場で群れて小便をまき散らすとします。
するとそこからは、シカもイノシシもキツネもタヌキもいなくなります。
そうやって自分たちの狩り場に獲物を追いやる。
頭のいいボスオオカミなら、それくらいの事はしたかも知れません。
 
私が縄文人なら、真っ先に狩るのがオオカミです。
縄文人がオオカミをたてまつったなどという発想は、平和ボケした現代日本人の発想に思えてなりません。
もちろん地域によっては、オオカミを神としてたてまつっていた所もあるかも知れません。
でもそれは、鹿や熊、鶴や鯉、蛇など他の動物についても言える事ではないでしょうか。
以上の事から縄文GoGoでは、オオカミは縄文人の敵であった、という立場をとっています。
 
次回、金曜日から、再投稿していく予定です。
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。

 

 

縄文GoGo旅編 第10話 3日目③

 
 
 
          三本の樹の近く。続き。
 
シロイブキ  「ふむ。おおむね、おれ達が相談して出した結論と同じだ。
        コノカミは只者じゃないなあ。
        まあそれで、イエの者の案内で、
        おれはハグレの中に3人いた若い女を調べようと動いた。
        その一人目だ。」
シロクン  「見つかったのか?」
シロイブキ  「いや、逃げられた。五日前だそうだ。
        あとの二人は問題無かった。」
タカジョウ  「どういう事なんだ?」
シロイブキ  「若い娘とその父親が住む小屋があると言うから、まずそこに行った。
        すると台風で小屋が壊れておって、人影は無い。
        そこからほど近い所にムロヤが1軒あると言うからそこに行き尋ねた。
        あそこにあった小屋の住人を知らんかと聞いたんだ。
        そしたら、四日前にタヌキを持って訪ねて来て、寒くなる前に場所を移る。
        世話になったから、このタヌキをやる。
        ヒョウタンの余りがあれば分けてくれんかと言うから二つやったと言われた。
        娘と二人で来たのか?と聞いたら、あの男に娘などおらんぞと言う。
        今年の夏前にひょっこり現れて、あそこに小屋を建て、ずっと一人で住んでいたと。
        どこに行くと言っていたか?と聞いたら、
        暖かい所に行くと言っていた。
        夏は涼しい所、冬は暖かい所に小屋を建てて住む、
        あいつはこれまでずっとそうして来たそうだ。
        少し頑固者だが、気の良いやつだった。
        そう言っていた。
        歳は40位で、これと言った特徴など無い男だったらしい。
        すでにこの辺にはおらんだろうが、シカ村に伝令が走っていると思う。
        だがなあ・・・」
スズヒコ  「ふむ。その男も、すでにこの世にはおらんかも知らんのう。」
タカジョウ  「その姉だが、ミツに対してはどういうつもりでいると思う?」
スズヒコ  「ふーむ。そこじゃがのう。
       軽々しくは言えんが、
       オロチがミツに持っていたほどの復讐心は無いように思うが・・・
       この件で、この女が復讐を考えておるとすれば、
       その相手はタカジョウじゃろうな。
       シップウの飼い主を捜し出し、そいつに復讐する。」
ナジオ  「確かにそういう考え方をしそうだな。」
タジロ  「タカジョウ、気をつけてくれよ。」
スズヒコ  「いや、個人に復讐すれば、という話じゃぞ。」
シロイブキ  「ふむ。この女が何かをたくらむとすれば、
        それは、一人二人に対してどうのこうのでは無いだろうな。
        確かにシップウをあやつるタカジョウは邪魔だろうが、
        復讐とは別の意味だと思う。
        ミツとイワジイに対しては、復讐する相手と言うよりも、
        顔を見られている相手という括りになるのではないかな。」
シロクン  「この女はシップウの恐ろしさを知っている。
        ワシを訓練し、自在にあやつる事が出来る者。
        その者が持つ背景まで考えていると思う。
        今すぐにタカジョウに向かって行っても敵わんということは、
        分かっているんじゃないか?
        オロチなら、傷が癒え次第、動いただろうが。」
タカジョウ  「時間をかけて、力を溜めると言う事だな。」
シロクン  「もちろん油断は出来んが。」
シロイブキ  「一人では動かんだろうな。
        と言うよりも、自身が前に出るような事もせんと思う。
        いずれハタレの女統領になるだろうが、
        力が溜まるまで、シップウの前には現れんという気もする。
        だが事を起こす時、最初に狙うのがタカジョウかも知れんぞ。」
タカジョウ  「ふむ、かも知れん。まあ、やすやすとやられはせんが。」
シロイブキ  「十分、気をつけてくれよ。
        クンヌ、おれからの報告は以上だ。」
シロクン  「ではおれからの報告だ。昨日、この先でハタレに出会ってな。」
タカジョウ  「シロクンヌ、おれは席を外してもいいか?
        タジロに斧投げを教えたくてな。」
シロクン  「ああ分かった。ナジオとテミユは聞いていてくれ。
        マグラやスワの衆に伝えて欲しい。」
 
    込み入った話も終わり、斧投げのコツの伝授も済み、歓談の時を迎える。
 
シロクン  「ところでイブキ、ヒゲは誰に剃ってもらったんだ?(笑)」
コヨウ  「マユだよマユ。マユはね、シロイブキが泊ってるムロヤに入り浸ってたんだよ。」
タカジョウ  「シロイブキもやるじゃないか(笑)。」
テミユ  「昨日だって、マユはシロイブキの話ばかりしてたもんね。
      イブキの小屋が出来たら、泊まりに行くって言ってたよ。」
コヨウ  「そうそう。もうイブキって言うもんね。」
テミユ  「イブキって呼んでくれって言われたんだって。」
シロクン  「アハハハ。イブキ、顔が真っ赤だぞ。」
シロイブキ  「そ、そうだ。思い出した。
        エミヌに頼まれておったのだ。
        クンヌは、ハニサはどうしてるかな、って、何回言った?」
サチ  「6回。」
ナジオ  「それ見ろ!おれ、ピッタリだったろう!
      2回や3回じゃないはずなんだよ。」
テミユ  「ホントだー!ハニサは愛されてるんだね。」
スズヒコ  「ワハハ。シロクンヌも顔が赤うなって来よったぞ。」
シロイブキ  「コノカミ、折を見て、一度ゆっくり遊びに来てもいいかな?」
スズヒコ  「もちろんじゃ。是非来ておくれ。
       村の下に温泉があってのう、マユとのんびり浸かったらいい。」
ミツ  「すごく広い温泉なんだよ。」
コヨウ  「兄さん、スッキリした顔してると思ったら、温泉に入ったんだ。」
シロクン  「ブッ。さあ、そろそろ出発するか。
       そうだ。建物の被害は深刻なのか?」
シロイブキ  「ウルシ村では、旗塔がやられた。
        3本の柱がぶち折れておった。
        縁起が悪い。4人に何かあったんじゃないか。
        そう言って、村ではクンヌ達の心配をして、一時大騒ぎになったようだぞ。
        で、ヌリホツマが、心配いらん、これは身代わりじゃ、
        と言ったのをハニサがあっさり信用したのを見て、騒ぎもおさまったそうだ。」
 
 
          三本の樹。
 
シロイブキ  「・・・びーのーぶーじーをーみーまーもーらーれーん-こーとーをー。」
セリ  「樹さん。4人の旅を、見守ってあげてください。」
タジロ  「4人が無事に、ミヤコまで行けますように。」
シロイブキ  「さあ、おれ達は戻ろう。
        この布は、おれがウルシ村に届けるよ。」
テミユ  「不思議な話よね。旗なのかな・・・」
コヨウ  「兄さん、体に気をつけてね。」
タカジョウ  「おれは大丈夫だ。コヨウの方こそ、風邪引くんじゃないぞ。」
シロクンヌ  「おれ達も出発するか。
        コノカミ、お世話になった。
        おれがこっちに戻ったら、この近くに、シロのイエの者を住まわせる。
        小さいが、シロの里を作る。
        付近でハタレが悪さをすることは無くなるからな。」
スズヒコ  「それは心強い。ありがとうの。」
タジロ  「斧投げの練習、毎日やるよ。
      タカの里が出来たら、遊びに行っていいかい?」
タカジョウ  「ああもちろんだ。虫持って遊びに来い(笑)。」
セリ  「コノカミがね、アヤの村が出来たら引っ越してもいいって。
     そしたら毎日遊ぼうね!」
ミツ  「やったー!翅(はね)貼りのやり方、教えてね。」
サチ  「村が出来たら、コノカミも遊びに来て下さい。」
スズヒコ  「これは嬉しい事を言うてくれる。長生きはするもんじゃのう。」
サチ  「じゃあセリ、行って来るね。またね!」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。

 

 

女系天皇?

 

 

 

あなたは女系天皇に賛成ですか?反対ですか?

 

 

・・・こんなアンケートを目にする事があります。

でも、『系』という言葉の持つ本来の意味は何なのでしょう?

 

例えば太陽系と言えば、太陽の周りを回る惑星や衛星、小惑星や彗星、

それら全部をひっくるめていますよね?

『系』とは、全体のありさま、ありよう、を言う言葉であって、個を表現する言葉ではありません。

女系とは何かと言えば、母から娘へ、その娘からまたその娘へ・・・

そのように、母から娘へとバトンが連綿と移る、そのありさまを言った言葉です。

縄文GoGoでは、アヤのイエがそうですね。

 

父から息子へ、その息子からまたその息子へ・・・そのまた息子からへ。

ここまでは、男系ですよね。

でも、そのから息子(A)へ、あるいは娘(B)へ。

と、なった時に、AやBをいきなり女系と表現する事に、私は違和感を覚えます。

私からすると、AやBは、破系であり無系です。

 

あなたは破系天皇に賛成ですか?反対ですか?

 

アンケートでは、そう表記するべきだと思います。

私の答えは、当然、「反対」となります。

 

 

縄文GoGo旅編 第9話 3日目② 

 
 
 
          三本の樹の近く。
 
シロクンヌ  「村で何かあったのか?」
シロイブキ  「ではまずそっちから言うか。
        ウルシ村もアユ村も、村人は無事だそうだ。怪我人も出ておらん。
        ただ、建物には被害が出たようだ。
        それからシロのイエの者も、全員無事だ。
        ほっといて治る程度の怪我をした者はおるが。」
シロクン  「それなら一安心だ。
        おれの方からも伝えたい事があったんだ。
        来てくれて丁度良かったよ。
        イブキの話から聞こうか。だがその前に、簡単に紹介だけさせてくれ。
        コノカミ、この男はおれの兄弟のシロイブキ・・・」
 
 
シロイブキ  「昨日の朝、おれはアユ村を出て洞窟に向かった。
        所々に崩れた箇所はあったが、洞窟までの道は無事だった。
        そこからはカタグラと二人で、さらに上流を見に行った。
        すると規模は小さいが、崖崩れした箇所があった。
        もしかすると、一時はその辺りまで川が増水したのかも知れん。
        道から川に下りる斜面が崩れていた。
        その斜面から、ヒトの足が出ていたのだ。足首から先が。」
タガオ  「崖崩れに巻き込まれたのか?」
シロイブキ  「そう思って、二人であわてて駆け寄った。
        ところが見てすぐに分かるほどに、腐敗が進んでおるんだ。」
スズヒコ  「オロチじゃろう?」
シロイブキ  「よく分かったな。」
タカジョウ  「オロチだったのか?」
シロイブキ  「ミツ、二つ三つ聞きたいが、いいか?」
ミツ  「うん、いいよ。」
シロイブキ  「オロチの姉は、アンギン編みの木肌色の服を着ていたのだな?」
ミツ  「そう。染めて無かった。オロチが着てたのは、きつね皮。夏毛だった。」
シロイブキ  「二人は槍は持っていたか?」
ミツ  「槍は見て無いよ。見たのは、石斧と弓矢。
     あと、一人一つずつ、袋を持ってた。それもアンギンの木肌色。」
シロイブキ  「オロチの髪の長さは?覚えていたら教えてくれ。」
ミツ  「短かった。縛れないくらいの長さ。」
シロイブキ  「間違いなくオロチだ。顔に傷もあったしな。
        ミツ、ありがとう。
        コヨウ、この子達と、向こうで遊んでやってくれないかな。」
コヨウ  「うん。向こう行って遊ぼう!」
 
※ ここからは、残酷描写があります。
 
シロクン  「で、どういう状態だったんだ。」
シロイブキ  「酷い有り様だった。順を追って話すぞ。
        まず、事実だけを話す。推測抜きでな。」
スズヒコ  「それが良いの。」
シロイブキ  「足が腐乱しておったので、すでに死んでいるのは間違い無い。
        一切手を付けず、おれはテイトンポを呼びに行った。
        カタグラはそこに留まり、ボウボウでマシベを呼んだ。
        おれはテイトンポと、その辺りに詳しいハギを連れて戻った。
        その5人で、そこを掘り進めた。
        そこに立ってすぐに分かったのだが、
        崩れた土砂が遺体の上に積もったのでは無い。
        遺体から先の崖が崩れたのだ。
        だから掘ると言っても、横に掘るんだ。」
タカジョウ  「それはどういう事だ?」
シロイブキ  「斜面に横穴があり、遺体はそこにあったのだ。頭を奥にして。」
        少し掘っただけで、体の周りにすき間があるのが分かった。
        体の上や横には土が無いんだ。
        横穴の大きさだが、中で体の向きを変えるのは無理だ。
        それ位狭い。
        頭から入れば、足から出るしかない。
        遺体は右を下にした横向きで、裸だった。服は着ていない。
        そして遺体の肛門に、木の棒が刺さっているのが見えた。
        棒の太さは、握れば丁度指が届くくらいだ。」
タジロ  「なんだって!」
シロイブキ  「遺体の足元に布が見えたから、それは引き出した。
        それは血にまみれていたが、アンギンの木肌色の服で、
        背中の部分が少し裂けていた。」
テミユ  「姉が着ていた服ね。」
シロイブキ  「遺体が男なのは分かったから、おれ達は顔の傷を確認したかった。
        だから無理に引き出すようなことはせず、慎重に上の土を掘って行った。
        両手は壁を押すような形になっていて、右手中指の爪がはがれかけてた。
        他の爪には、土が入り込んでいた。
        そして手元には、短い木の棒があった。
        その棒の両端は、とがっていた。
        穴の奥の壁に後頭部が当たっていて、首は胸の方に不自然に曲がっていた。
        だから顔は穴の入口を向いている。
        顔には確かに傷があった。そしてその傷に、治った感じはまったく無かった。」
タジロ  「怪我をしてすぐに死んだと言う事なのか?」
シロイブキ  「そう見えた。それを確認したから、おれ達はゆっくりと遺体を引き出した。」
シロクン  「死後、どれほど経っていそうだった?」
シロイブキ  「十日前後というのが、大方の意見だった。
        オロチの事件から、きょうで丁度十日だそうだな。
        そして尻に刺さっていた木の棒だがな・・・
        抜いてみたのだが、先には槍の穂先は付いていなかった。
        先はそれほと尖(とが)っておらんのだ。
        その棒を遺体の横に置き比べてみたのだが、
        どう見ても、肩まで届いていたとしか考えられんのだ。」
テミユ  「え?肩までって、どういう事?」
シロイブキ  「尻から差して、先が肩に届くまで差し込んだと言うことだ。」
タジロ  「そこまでするのか・・・」
シロクンヌ  「コノカミが言った通りだったな。」
スズヒコ  「残虐さと冷酷さの両方を持っておったが。」
テミユ  「でもそこまで差し込むのって、力がいるんじゃない。
      協力者がいたって事?」
シロイブキ  「ここからは推測だが、地面に杭を打ち込む時のように、
        木か石かで、敲(たた)いたのではないかな。
        棒の持ち手側の先には、そういう跡があった。
        テイトンポは、丸太のような木だと言っていた。
        それを脇に抱えて、突いたのだと。
        そうやって、横穴の奥に押し込んだのだと。」
シロクン  「きつね皮の服は?」
シロイブキ  「見つかっていない。姉が着て行ったのだろうな。
        他にこれと言って目ぼしい物は見つかっていない。」
タカジョウ  「そこはどんな場所なんだ?」
シロイブキ  「ハギが言うには、対岸からも、川の中からでも見えん場所だったらしい。
        台風で川の様子がかなり変わっていたのだが、
        岸辺には背の高い葦(あし)が生い茂っていたそうだ。
        草が生えていて、道からも見えん。
        そこが崩れて、道から見える様になったんだ。
        あと、折れてしまっていたが、川のすぐそばにクルミの大木があって、
        横穴の上には、何本も枝が張り出していたそうだ。」
ナジオ  「シップウ対策だな。」
シロクンヌ  「ちょっと探し回った程度では、見つけにくい場所だと言う事だな?」
シロイブキ  「そうだ。だが、ハギはそこも調べたらしい。
        間違いなく、このクルミのそばは探していると言っていた。
        そこらは短い草が生えていて、そこに土が山積みなら絶対に気付いたと言うんだ。
        おれは、そういう物を探していたんだからと。
        その時はまったく異常は無かったと言うから、
        姉が巧く痕跡を消したんだろうな。
        あと、そこにはもともと、動物の巣穴なども無かったはずだと言っていた。」
シロクン  「姉の傷の度合いはどうなんだろうな?」
シロイブキ  「アンギンの背中なんだが、オロチの血でまみれておって、
        姉の出血の度合いがまったく分からんのだ。」
シロクン  「コノカミ、ここまで聞いてどんな推測をする?」
スズヒコ  「ミツの事件の後、二人はまずどこかで木の皮を剥いだんじゃろうな。
       おそらく倒木からじゃろうが、何枚か剥いだ。
       それを敷いて穴を掘り始めた。
       出た土は、その皮で受けた。
       そして、アンギンの袋に詰めて、棒の両端に吊るし、
       その天秤棒をかついでどこかに捨てに行った。
       穴も、その棒を使って掘った。
       だから、最初は棒の先はもっと尖っておったはずじゃ。
       それらの事を、全部裸のオロチがやったんじゃ。」
ナジオ  「オロチに姉の服を着せるのは?」
スズヒコ  「それはいかん。尻の穴の場所が見えんじゃろう?
       それにおそらく、姉も裸になったのじゃろうと思う。
       服を着ておっては、シップウに見つかるとゆうての。
       木の皮を剥ぐまでは、オロチも服を着ておったかも知らんが、
       その段階で、姉の中では全部の計画が出来上がっておったはずじゃ。
       血でキツネ皮を汚したくないと思えば、早い段階で脱がせたじゃろうな。
       二人の隠れ家にするとゆうて穴を掘らせたのじゃろうが、
       横幅を狭く掘らせたのは、オロチからの反撃を受けんためじゃ。
       オロチは穴にもぐらされ、更に掘り進めよと命じられたんじゃ。
       どんな口調で言ったのかは分からんが、要するにそう言う事じゃ。
       それで短い棒で掘っておるところをヤラレた。
       そこからは姉の仕事じゃが、埋め戻しが甘ければ獣が掘り出す。
       ハギはニオイも気づかんかったのじゃろうから、
       姉は、よっぽど上手に仕事したんじゃぞ。
       この女、相当に頭が良かろうな。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。

 

 

縄文GoGo旅編 第8話 3日目①

 
 
 
          早朝の下の温泉。
 
シロクン  「お、先客がおるな。」
タカジョウ  「やっぱり湯煙もうもうで、雰囲気が出ておるぞ。」
タエ(43歳・女) 「こっちこっちー。」
トミ(40歳・女) 「シロクンヌー、一緒に入ろうよー。」
チヅ(36歳・女) 「タカジョー、こっちが熱くていいんだよー。」
チコ(35歳・女) 「ほらほら、早くー。」
シロクン  「な、なんだか激しいぞ。」
タカジョウ  「そ、そうだな。」
チコ  「早く早く、こっちこっち。」
 
    チコがタカジョウの手を引いて、強引に女達の方に連行した。
    タカジョウは、あっと言う間に、女4人に囲まれた。
    シロクンヌは雰囲気を察して、素早く温泉から逃げ出していた。
 
タカジョウ  「シ、シロクンヌ、おれを置いて行かないでくれ!」
タエ  「いーのいーの。洗ってあげる。」
トミ  「まあ、素敵ねー!見てみなさいよ。」
チヅ  「ホント!」
チコ  「チヅ、手をどけてよ。見えないでしょう。」
タカジョウ  「シロクンヌー!戻って来てくれー!」
 
 
          3本の樹に向かう道中。
 
    シロクンヌ一行に加え、スズヒコ、タジロ、セリが歩いている。
    スズヒコが先頭を歩き、
    サチ、ミツ、セリ、タジロはワイワイ話しながら歩いている。
    そして最後尾では、シロクンヌとタカジョウがひそひそ話をしている。
 
ミツ  「あー!タジロ、虫臭いー!」
サチ  「キャハハ、虫と一緒に寝たの?」
タジロ  「別々に寝てるよ。一緒に寝たら、潰しちゃうだろう。」
セリ  「待ってね・・・今日は虫臭く無い方だよ。」
スズヒコ  「ハハハ。タジロはな、虫の物まねも巧いんじゃぞ。」
サチ  「タジロ、カマキリの物まねして!」
タジロ  「カマキリはな、尻がこう突き出ている。」
サチ  「アハハ。面白い。」
タジロ  「脚はこう。体を前に倒して、頭はコッコッとこう動くんだ。
      手はこうなっている。この手がシャオッ!」
サチ  「わー!
     もう!びっくりしたー。」
ミツ  「私にもシャオやって!」
タジロ  「シャオッ!」
 
 
タカジョウ  「おれを置いて行くとはひどいぞ。」
シロクン  「危機察知能力の違いだ(笑)。
        でも、悪い気はしなかっただろう?
        たまにはああいう事もいいんだぞ。」
タカジョウ  「しかし揉みくちゃにされたからな。」
シロクン  「シップウに助けてもらえばよかったじゃないか(笑)。」
タカジョウ  「あんな姿、シップウに見せる訳にいくもんか!
        助けもせずに、岩陰から、覗いていただろう?」
シロクン  「気付いていたか。
        なかなか見ごたえがあったぞ(笑)。
        4人を相手にどうするかと思えば、ああいう技があるんだなあ。
        あれも師匠に教わったのか?」
タカジョウ  「ばか言うな。おぬし、心底楽しんでおるだろう。
        忘れた頃に、お返ししてやる。」
シロクン  「アハハハ。気をつけておかんといかんなあ。」
タカジョウ  「ん?樹が見えて来たが、昨日と様子が違わんか?」
シロクン  「何だろうなあれは。枝に何かが引っ掛かっているんじゃないか?」
 
 
          3本の樹。
 
スズヒコ  「これがそうじゃな?なるほど立派な3本じゃ。」
ミツ  「あの上の方に絡まってるのって、昨日は無かったよね?」
シロクン  「どこかから飛んで来たんだろうな。」
タジロ  「おれ、登って外してこようか?」
シロクン  「ではその樹を頼む。サチはそれ。おれはこの樹のを外す。」
 
セリ  「サチ、木登りが巧いんだね!」
スズヒコ  「布じゃなあ。赤が2枚で黒が1枚。
       旗じゃなかろうか?」
サチ  「父さん、これって・・・」
シロクン  「まさかなあ・・・」
タカジョウ  「ウルシ村の旗って事か?」
ミツ  「似てる気がするけど・・・」
タジロ  「そんなはず無いよ。距離だってあるし、間に湖があるんだから。」
シロクン  「そうだな。
        ではお神酒を捧げて、祈りの準備をしようか。
        コノカミ、縄はどうやって張ればいいかな?」
スズヒコ  「ふむ。まず、頭の高さに各樹に巻く。
       そこにサカキの枝を挿し、樹と樹を渡すように、この太い縄を・・・」
 
スズヒコ  「よろしい。祈りを始める。
       タカジョウ。渡し木を受けるための溝を彫ったじゃろう。
       そこにこの清水をかけて回れ。
       他の者は、ムシロにひざまずきコウベをたれよ。
       きーのーみーたーまーにーもーうーしーきーかーせーたーきー・・・」
 
 
シロクン  「コノカミ、ありがとう。
        これで、この3本の樹に感謝を捧げる事ができた。」
スズヒコ  「この3本は御神木じゃ。
       供物をし、通り掛かれば拝む(おがむ)事にする。
       近隣の村にも、そう伝えおく。」
 
    作者は思うのだが、こういう場所にその後ヤシロが建ち、
    神社になったのではないだろうか。
    事実、縄文遺跡や貝塚の上に建つ神社は多いのだ。
    神社の起こりは弥生などでは決してない。
    縄文早期、一万年前だと作者は確信している。
    加えて言えば、三万八千年前から民族の滅亡もなく、侵略も受けず、
    連綿と文化を伝承して来た国は、地球上に日本しか存在しない。
    DNAが、それを証明している。
    現代日本人のDNAの中で、縄文人のDNAの占める割合が、
    予想以上に多いことが最近判明している。
    ある見方をすれば、縄文文化は昭和の中頃まで続いていた。
    練炭やガスの普及を以って、縄文時代は終了したとする意見もあるのだ。
 
タジロ  「タカジョウ、斧投げを見せてくれよ。」
タカジョウ  「では向こうに行ってやろうか。
        あそこに丁度イノシシくらいの大きさの倒木がある。」
 
タカジョウ  「まず立ち止まって投げるぞ。
        あの倒木の、右が頭だ。頭と後ろ足を狙う。
        いくぞ。少し山なりに後ろ足。素早く頭!」
タジロ  「同時に当たった!」
セリ  「石の部分が当たったよね?」
シロクン  「斧投げは石を当てるんだ。柄(え)が当たってもこたえんだろう?
        回転しながら飛んで来た斧石が当たるから、獲物はたおれる。」
サチ  「父さん、出来る?」
シロクン  「おれはやった事ないなあ。」
スズヒコ  「頭に当たった方は、相当な威力じゃったのう。」
タカジョウ  「次は走りながらやるぞ。」
 
    その時、「兄さーん」と声がした。
    見るとコヨウが走って来る。
    その後ろに、シロイブキ、ナジオ、テミユの顔が見える。
 
コヨウ  「よかったー!無事で。」
タカジョウ  「なんだ、心配して来てくれたのか?」
コヨウ  「それもあるけど・・・シップウは?」
タカジョウ  「あの枝だ。何かあったのか?」
シロイブキ  「クンヌ、報告しておかなければならん事が起きた。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。

 

 

縄文GoGo旅編 第7話 2日目④

 
 
 
          寝所のムロヤ。
 
    シロクンヌ達4人と、セリがいる。
 
サチ  「父さん見て!」 眼木のフレームが緑色にキラキラ輝いている。
シロクン  「お!綺麗だな!どうやったんだ?」
ミツ  「私もあるよ!」
タカジョウ  「分かったぞ。タマムシだろう?
        タマムシの翅(はね)をきれいに切って、すき間無く眼木に貼ったのか。」
サチ  「セリが作ってくれたの。」
シロクン  「今、作ったのか?上手にやってあるなあ。」
セリ  「これ見て。全部私が貼ったんだよ。」
タカジョウ  「このカゴの中の、全部か?
        これは腕輪だな。これは簪(かんざし)。」
 
   それは木彫りの器胎に、様々な甲虫の翅を貼り付けたアクセサリーだった。
   タマムシコガネムシ、カミキリムシなど様々だ。
   接着剤には、漆(うるし)が使われていた。
 
サチ  「こんなの、ミヤコでも見た事ないよ。」
ミツ  「これ、セリにもらった。もう少し髪が伸びたら、髪飾りにする。」
サチ  「私も、これもらったよ。」
タカジョウ  「でもこんなにたくさんの翅、どうしたんだ?
        セリが捕まえたのか?」
セリ  「タジロがね、いっぱい虫を飼ってるの。
     タジロのムロヤは、虫だらけなんだよ。」
シロクンヌ  「ハハハ。サラと気が合いそうだな。」
ミツ  「さっき見せてもらったらね、虫カゴとか虫オケとか、山積みされてたよ。」
サチ  「鳴く虫もいて結構うるさいんだぞって、嬉しそうに言ってた。」
ミツ  「だって、入った時に、もうガサガサいってたよ。」
セリ  「うん。タジロって、時々虫臭い時ある。」
タカジョウ  「アハハハ。よっぽどの虫好きなんだなあ。
        おれも長いこと、涼虫(すずむし)を飼っていたが。」
シロクン  「木の方は、誰が彫ったんだ?」
セリ  「コノカミ。上手でしょう?」
シロクン  「サチ、そのカンザシ、見せてみろ。
        これはもう、渡しに使える出来栄えだぞ。」
タカジョウ  「さてはタビンド根性がうずきだしたな?(笑)」
シロクン  「まあ、実際そんなとこだ(笑)。」
サチ  「ヤシムにあげたら、きっと喜ぶよね。」
シロクン  「そうだな。ハニサは、ど・・・」
タカジョウ  「ど?
        サチ、何回目だ?」
サチ  「今日はまだ1回目。」
ミツ  「アハハ。」
シロクン  「今のは言っておらんがなあ・・・
        そうだ。思い出した。ちょうど三つ有ったんだ。待ってろよ・・・
        そら、南の島の貝殻。ウルシ村の渡しの残りだ。
        旅の準備をしていたら袋の底から出て来た。綺麗だろう?
        一人一個ずつだ。」
セリ  「わー綺麗!もらっていいの?」
ミツ  「みんな色が違うね。」
サチ  「セリから好きなの選んで。」
セリ  「いいの?」
ミツ  「いいよ。」
サチ  「ねえ父さん、セリもここで一緒に寝ていいでしょう?」
シロクン  「ああいいぞ。コノカミにもそう言ってあるから。」
ミツ  「じゃあ今度は折り葉やろう。
     サチがすごく上手なんだよ。」
タカジョウ  「おれはちょっと、タジロのムロヤをのぞいてみるかな。
        虫だらけってのが気になってな(笑)。いいだろう?」
シロクン  「ははは。分かった。ゆっくりしてきたらいい。」
 
 
ミツ  「サチとセリが眠っちゃった。私、抱っこ帯で寝てたからまだ眠くない。
     ねえシロクンヌ、聞いてもいい?」
シロクン  「ああいいぞ。何が聞きたい?」
ミツ  「今日、変な人達と出会って、私、起こされたでしょう。
     その時、名前を呼び合うなってシロクンヌは言ったけど、どうしてなの?」
シロクン  「ふむ、あれはな、呪(しゅ)だ。」
ミツ  「しゅ?」
シロクンヌ  「やつらから、呪を投げつけられない様にしたんだ。
        名前と顔が分かれば、その人に呪を投げつける事ができる。
        ミツは知らなかっただろう?」
ミツ  「うん。知らなかった。」
シロクン  「人は死ぬとお墓に入って、そこで魂送り(たまおくり)される。
        そういう死は、清らかだ。
        ミツも小さい時、アユ村の墓場で遊んだだろう?」
ミツ  「うん。墓場は遊び場だったよ。」
シロクン  「でも中には、墓場に入れてもらえないヤカラもいる。
        魂送りをして、よみがえりをされると困るヤカラだ。」
ミツ  「あの、変な人達がそうだね。」
シロクン  「そうだ。だから、やつらの死は、ケガレている。
        やつらはよみがえりは出来ないが、たまに、呪を投げてくるんだ。
        その呪に当たると、悪い事が起きたりもする。」
ミツ  「名前と顔が分からなければ、呪を当てられないんだね?」
シロクン  「そう言う事だな。
        名を口にすると、言の葉が生まれる。
        それがヒトガタと結びつくと、祈りにも呪にも使われるんだ。」
ミツ  「身代わり人形(土偶)をそっくりに作っちゃいけないのにも、似た意味があるの?」
シロクン  「ふむ、少し似ておるな。
        ミツは、魂写しの儀(たまうつしのぎ)は知っているだろう?」
ミツ  「知ってる。お腹に宿った時に、お母さんになる人の魂(たま)を粘土に写すんでしょう?」
シロクンヌ  「そうだ。身代わり人形を作る粘土のかたまりに、魂を転写する。
        その粘土で何かを形作れば、もうそれには本人の魂が写っているんだ。
        それを壊せば、それで本人の身代わりになる。
        それなのに、魂の写った粘土で、形まで本人そっくりに作ってしまっては、
        それは本人そのものだ。
        それを壊せば、本人にわざわいが行く。」
ミツ  「そうか・・・」
シロクン  「さっき言ったように、言の葉(ことのは)もヒトガタも、祈りにも使うが、
        逆に呪につながる恐れもあるんだ。
        使い方によっては、まったく逆の働きをする。
        争いばかりの世の中になると、殺し合いも方々で起きる。
        世の中に恨みが満ちると、生きながらに呪を操ろうとする者さえ現れる。
        すると暗い世の中になるだろう?」
ミツ  「うん。そんなの嫌だよね!」
シロクン  「多くの呪が集まると、怨霊という厄介なものまで産まれる。
        争わぬ事が大切なのだ。
        争いが起こらぬようにと、人々が心やすらぐようにと、
        アマカミは、言の葉を使って毎日祈っておられるのだぞ。」
ミツ  「アマカミは、みんなのために祈ってくれているの?」
シロクン  「そうだ。」
ミツ  「あの変な人達はハタレって言うの?」
シロクン  「そうだ。」
ミツ  「ハタレが心を入れ替える事って無いの?」
シロクン  「それもアマカミは祈ってきたのだが、ハタレに人の心を持たせるのは難しくてな。
        今の所、どのアマカミにも出来ておらん。」
ミツ  「シロクンヌがアマカミになったら出来る?」
シロクン  「いや、おれには無理だ。
        おれが出来るとしたら、目の前にいるハタレから人々を護る事だけだ。
        ハタレに人の心を芽生えさせるのは、この先のアマカミにも難しいだろうな。
        だがもしそれを出来るとしたら・・・」
ミツ  「それが、アマテルなんだね?」
シロクンヌ  「そうだ。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。

 

 

縄文GoGo旅編 第6話 2日目③

 

 

 

          下の温泉。

 
セリ(11歳・女) 「潜りっこしよう。一番長く潜っていた人が勝ちね。
           いくよ。せーのっ!」
 
    セリ、サチ、ミツの3人が、一斉に温泉に潜った。
 
タカジョウ  「ハハハ、絶対、サチが一番だぞ。」
シロクン  「子供はすぐに仲良くなる(笑)。
        それにしても、5人で入るにはもったいない広さだ。
        コノカミが自慢しただけの事はあるなあ。」
 
セリ  「プァー、あー私がドベだ。」
ミツ  「プァー、こんなの、絶対サチだよ。」
セリ  「そうか!スワの湖に潜ったんだったね!」
ミツ  「洞窟の泉にも潜ったよ。凄く冷たいの。
     薙ぎ倒しイノシシの牙を持って泳いだんだよ。」
セリ  「それ、凄く長いって聞いたよ。」
ミツ  「長いよ。ここからね、あそこくらいまである。そして重いの。」
セリ  「奥の洞窟って寒いんでしょう?こないだ、イワジイから聞いた。」
タカジョウ  「イワジイが村に来たのか?」
セリ  「そう。泊まってはいかなかったけど。って、サチってまだ潜ってるよね。
     上がってどっか行っちゃった?」
シロクン  「もうそろそろ顔を出すぞ。あの辺から(笑)。」
セリ  「え?さっきまでここにいたよ?」
ミツ  「この温泉、広いもんね。私、こんなに広い温泉って初めて。」
サチ  「プァー、こっちは熱いんだねー!」
セリ  「ホントだ!いつの間に行ったの?」
サチ  「え?ホントだって、こっちから出て来るの、知ってたの?」
セリ  「うん、シロクンヌがそう言った。」
サチ  「もう父さん、言っちゃダメだよ。びっくりさせたかったのに。」
シロクン  「そうだったか。すまんすまん(笑)。」
ミツ  「アハハ、シロクンヌがしかられてる。」
セリ  「ねえ、ミツってアヤの村に住むんでしょう?」
ミツ  「うん!」
サチ  「セリも来る?そしたら毎日遊べるよ。」
セリ  「行ってもいい?」

サチ  「もちろんいいよ!」

セリ  「でも、コノカミが寂しがるかな・・・」
ミツ  「舟で湖を渡れば、歩く距離ってそんなに無いんじゃない?
     時々、こっちにも来れば?
     昨日乗った舟なんて、凄く速かったよ。
     ああいう舟を、今いっぱい作ってるんでしょう?」
シロクン  「ふむ。昨日も思ったが、スワは変わる。
        アヤの村が出来る頃には、この辺だって変わるぞ。
        すぐそこがミヤコとなれば、ここはヒスイの道になる。
        多くのタビンドが行きかうはずだ。
        橋を作ったりして、今よりも人の往き来はしやすいようになるぞ。」
ミツ  「やったー!セリもおいでよ!」
セリ  「うん!」
シロクン  「ところでセリ、この広い温泉に、木の葉も枝も浮いておらんが?」
タカジョウ  「台風でひどい事になっていただろう?」
セリ  「サチ達が来たから、コノカミが一生懸命片付けたの。」
タカジョウ  「一人でか?」
セリ  「んー、多分そうだと思う。途中で見に来た時、一人だったから。
     汗びっしょりでやってたよ。」
シロクン  「どんなご馳走よりも、ありがたいもてなしだ。」
タカジョウ  「そうだな。涙が出るよ。」
 
 
          スズヒコのムロヤ。
 
シロクン  「コノカミ、いい湯をありがとう。堪能したよ。」
タカジョウ  「広いんだなあ。まるで池だ(笑)。」
スズヒコ  「そうじゃろう。なんにもない村じゃが、下の温泉だけは胸を張れる。」
シロクン  「明日、日の出の時分に入ってもいいか?」
タカジョウ  「おおいいな!きっと湯煙がもうもうとしておって最高だぞ。」
スズヒコ  「さてはおぬしら、通じゃな?
       温泉は、朝が一番じゃ。もちろん、入ってくれていいぞ。
       朝は村の者でもにぎわうがの。」
シロクン  「よし、起き抜けに、浸かってみるか。
        時にコノカミ、セリだが、ひょっとして・・・」
スズヒコ  「そうじゃ。5年前、母親と姉がさらわれた。」
タカジョウ  「母娘3人でタケノコ採りをしている時と聞いたが・・・」
スズヒコ  「ふむ、根曲がり竹のタケノコでな、熊の大好物じゃろう。
       セリが熊除けの拍子木を打っておった。
       その音を聞きつけたハタレ二人が、セリの目の前で、母親と姉をさらったんじゃ。
       セリは6歳じゃった。
       ここらで悪さをしておった二人組じゃ。
       ひと月ほど前にカタグラが訪ねて来てくれての、その後の顛末は聞かせてもろうた。
       セリの父親は、その時以来、とにかく憑(と)りつかれたようにあちこち探し回っての、
       ある時からプッツリ戻ってきておらん。
       2年前に、山奥の渓谷の岩の裂け目でヒトの骨が見つかっての、
       足を滑らせて崖から落ちたようなんじゃが、
       遺品の様子から、それがそうではないかと言われておるがはっきりせん。」
シロクン  「コノカミは、このムロヤでセリと二人で暮らしているのか?」
スズヒコ  「そうじゃ。わしも5年前、連れ合いを亡くしての。
       フキを採って来ると山に行って帰ってこんから、村中でさがしたんじゃが、
       三日後に川で見つかった。
       したが、亡くなってすぐのように見えた。
       やつら二人の仕業だと言う者も多い。」
タカジョウ  「ここらには、ハタレがよく出るのか?」
スズヒコ  「ここはスワでも、他の村々から少し離れておる。
       ハタレにしてみたら、狙い目なんじゃろう。
       ここの西にはしばらく村はない。
       山越え、峠越えが続くからの。
       その白樺の皮の地図にも、この少し先までしか描かれてないじゃろう?」
シロクン  「そうだな。ところで、イワジイが寄ったそうだが。」
スズヒコ  「そうじゃった。その話をしようと思っておったんじゃ。
       イワジイから、オロチの件を詳しく聞いての。
       それからわしなりに考えた。
       推測じゃが、ゆうても良いか?」
シロクン  「もちろんだ。」
スズヒコ  「わしは、オロチは、すでにこの世におらんと思うておる。」
タカジョウ  「その理由は?」
スズヒコ  「これだけ方々で躍起になって探しておるのに、痕跡が無いとは腑に落ちん。
       痕跡は、出ておる。
       それに気付いておらんだけと言う事じゃ。」
シロクン  「どういう意味だ?」
スズヒコ  「全ては、姉の仕業じゃ。
       皆は顔に傷のある男とか、姉弟の二人組とかを探したんじゃろう?」
シロクン  「・・・そう言う事か!
        姉にしてみたら、顔に傷を負ったオロチは邪魔だ。
        オロチがいては、すぐに見つかる。
        姉一人なら、ハグレの男を垂らし込んで、見回って来た者をやり過ごす事が出来る。」
スズヒコ  「わしはのう、オロチは残虐なだけで、知恵はそれほど無いのではないかと思うておる。
       そもそも、仕返しするのなら、シップウかイワジイにじゃろう?
       ミツに仕返しするなどは、どう考えても理屈に合わん。
       いや、ハタレに理屈が通用せんのは分かっておる。
       しかしそんな筋道立って物を考える事のできん馬鹿ハタレに、
       痕跡を消して立ち去るなどの芸当は出来はせんぞ。」
タカジョウ  「確かにそうだ。おれ達は、オロチにこだわり過ぎていた。」
スズヒコ  「わしはな、姉は、知恵と残虐さを兼ね備えておると思うておる。
       残虐と言うより、冷酷と言った方がよいか。
       オロチを言いくるめ、オロチに深い穴を掘らせ、オロチを殺しそこに落とす。」
シロクン  「土を被せるだけなら、背中を怪我していても出来るだろうな。
        十分に有り得る話だ。
        と言うより、それが真相かもしれん。
        それであれば、全てに説明がつくからな。」
スズヒコ  「シロクンヌよ。ミツは無事に助かっておるんじゃ。
       イワジイは怪我をしたが、下手人はオロチでしかも軽傷じゃった。
       もし二人を捕縛できておっても、姉は殺しはせんかったじゃろう?
       姉は、弟に脅されてしょうがなくやったと言い逃れも出来たんじゃ。」
シロクン  「そうだろうな。実際おれ達は、オロチの方の捕縛に躍起になっていたのだから。
        それも、ミツに向かって仕返しするぞと言ったのが大きい。」
スズヒコ  「ふむ。つまりじゃな、どんなわずかな咎め(とがめ)も受けたくは無いんじゃ。
       咎めを受けるくらいなら、平気で弟を殺す。
       事実、いまだに咎められておらん。
       そんな女がハタレの男どもをたぶらかして、ハタレを操り、
       影の統領になったとしたら・・・」
タカジョウ  「ハグレの中に、若い女はいたのか?」
シロクン  「いた。
        おれが聞いた報告では、3人。
        例えば父親のような男と一緒に居て、不審な点が見えなければ、
        女の背中までは調べていないだろうな。
        ミツも、姉は綺麗な女だと言っていた。
        とてもそういう事をしそうな女には見えなかったと。
        ミツは賢い。そのミツが、その女には付いて行ったんだ。
        コノカミの言う通りかも知れん。」
スズヒコ  「以上は、あくまでわしの推測じゃ。
       真相は分からんが、顔の傷痕にだけこだわるのはどうかと思うての。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。