縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第17話 4日目⑤

 
 
 
          渓流沿い。続き。
 
レンザ  「レン!しっかりしろ!」
サチ  「レン!死なないで!」
シシヒコ  「レン!死ぬな!
       誰か、レンを助けてくれ!」
タカジョウ  「背中の傷は?」
レンザ  「開いてる。くっそう!血が止まらん。」
  タカジョウが服を脱いだ。
タカジョウ  「これで、しっかり押さえろ!」
シロクン  「針と糸だ。これで、傷口を、縫え!」
レンザ  「どうやるんだ?」
シロクン  「タカジョウ、出来るか?
        ヌリホツマから聞いただけで、おれもやった事がないんだ。」
タカジョウ  「おれもやった事は無いが、ハギからやり方は詳しく聞いた。
        レンザ、レンに動かないように、言い聞かせてくれ。
        レンの傷口を、鹿の腱(アキレス腱)の糸で縫う。
        シロクンヌ、手伝ってくれ。
        吹き出た血を、服でふいてくれ。」
 
 
レンザ  「何とか血が止まった。レンを助けてくれてありがとう。」
ミツ  「良かったー!」
シシヒコ  「良かった!おれはレンのお陰で、今生きている。
       おれを助けようと、レンは足をケガしたんだ。
       おれは、レンのためなら何でもする。
       レンザ、レンと一緒に、村に逗留して養生してくれ。」
サタキ  「あんた達のお陰で、村が助かった。
      あんた達でなければ、シシ神を倒すなんて出来なかった。
      本当にありがとう。」
シロクン  「いや、二人が盾になってくれたから、助かったんだ。
        おれ達だけの時にいきなり襲われていたら、5人の誰かが犠牲になったはずだ。」
タカジョウ  「そうだな。最初の一撃で、誰かがやられていただろうな。
        サタキ、腕が折れていただろう?
        添え木を当ててやるよ。」
シロクン  「そうだ、忘れていた。レンザ、脚は大丈夫なのか?」
レンザ  「あ!おれも忘れていた。思い出させるから、痛くなったじゃないか。」
シロクン  「ハハハ、添え木をするぞ。
        レンはレンザと一緒に担架で運ぼう。
        ミツ、木を割きたい。河原石を割って、楔(くさび)を作ってくれ。」
ミツ  「はい。」
シシヒコ  「担架を作るのか?
       おれとサタキの服を使ってくれ。」
サチ  「あ!シップウが何か持って来てる。重そうだよ。」
タカジョウ  「キツネだろう。多分、生け捕りだぞ。
        レンザ、レンにキツネの生き血を飲ませてやれ。」
 
 
          シシガミ村への道中。
 
    担架は、シロクンヌとタカジョウが持っている。
    担架には、レンとレンザが並んで乗っていた。
    シシ神の屍体は、人喰いだと言う事で、肉や毛皮などの一切は利用せず、
    動物にも食べさせないように、その場で解体して焚き上げる事になった。
    その手配のために、シシヒコは先に村に戻って行った。
 
レンザ  「サチ、もう一度、矢を見せて。
      この矢には、そういういわれがあったのか。
      この矢じりが、おれに力をくれたんだろうな。
      いつもは、あんなに巧く刺せないんだ。」
タカジョウ  「なんだレンザ、随分と謙虚ではないか。」
レンザ  「いや、おれ、樹の上で見てただろう。
      シロクンヌもタカジョウも凄いんだな。
      シシ神が恐くないのか?」
タカジョウ  「おまえが一番凄いぞ。」
シロクンヌ  「シシ神に飛び乗ったからなあ。」
レンザ  「あれはカッとしてやったんだよ。体が勝手に動いたんだ。」
ミツ  「レンザって勇気があるんだね。」
サチ  「シシ神にとどめを刺したんだから、凄いよ。
     でもレンが死ななくて良かった。
     あれだけ食欲があったんだから、絶対に死なないよね?」
レンザ  「ああ大丈夫だ。足も、自分で舐めて治すよ。
      でも驚いたな。レンが初めて人前で飯を食っただけじゃなくて、
      シップウと一緒にキツネを食うなんて。」
タカジョウ  「あれにはおれも驚いた。」
ミツ  「お互いを認め合ったんだね。」
サタキ  「ほら、あそこに旗が見えるだろう。あそこがシシガミ村だ。」
レンザ  「村外れのような場所に、ポツンと小屋があったりしないか?」
サタキ  「見張り小屋が、そんな感じだなあ。」
レンザ  「おれとレンは、その小屋がいい。」
サタキ  「分かった。小屋を片付けさせる。
      おれは走って先に帰るよ。」
 
 
          シシガミ村。
 
ゾキ  「コノカミ、そのレンザがシシ神にとどめを刺したの?」
シシヒコ  「そうだ。ゾキの兄さん二人のかたきを討ったのがレンザだ。
       とても勇敢な少年だぞ。」
ゾキ  「脚をケガしてるんでしょう?私がレンザのお世話をする。
     夜も付きっ切りで。
     私、決めたの。レンザの宿になる。いいでしょう?」
シシヒコ  「分かった。ゾキはここの生まれではないから、村の男をと思っていたが、
       ゾキがそう言うならそれでいい。」
ゾキ  「他の4人の人は、明日旅立つの?」
シシヒコ  「おそらくな。長逗留を勧めたのだが、先を急ぐ旅のようだな。」
ゾキ  「私、今夜はシシ神の焚き上げに行ってもいい?」
シシヒコ  「そうだな。焚き上げは、明日までタップリとかかると思うぞ。
       今から行くのか?」
ゾキ  「うん。兄さん達のかたきだからね。」
シシヒコ  「少し走れば、先発隊に追いつくかも知れん。気をつけて行くんだぞ。」
ゾキ  「はい。」
 
    お気づきの通り、ゾキとはオロチの姉である。
    二人の兄とは、兄でも何でもなく、二人旅の若者を体を使って誘惑し、
    旅のボディガードに仕立てただけの事だった。
    それがたまたまシシガミ村の付近でシシ神に遭遇し、
    若者二人はゾキの盾となり、シシ神に殺された。
    ゾキは崖を滑り下りて逃げたのだが、その際に背中を擦りむいた。
    シップウから受けた傷を、新たな傷が隠してしまっていた。
    そしてシシガミ村に保護を求め、そこが外部と付き合いの薄い村だと知ると、
    言葉巧みにシシヒコに取り入っていたのだ。
 
    焚き上げに行くと言ったのも、
    シップウという大ワシと、顔を知られたミツが一行の中に居る事を知り、
    姿を見られないための方便であり、自分を助けようと身を投げ出して死んだ二人には、
    何の感情の持ち合わせも無いのだった。
 
 
・・・とここで在庫切れとなってしまいました。
またしばらく書き溜めます。
なお、旅編17話の最終部分は、少し書き直すかも知れません。
話の筋はこの通りなのですが、時間が無かったが為に、説明口調になってしまいました。
縄文GoGoは小説ではないので、登場人物のセリフから状況を説明するように心掛けていました。
投稿再開は、1月中旬の予定です。
皆様、良いお年をお迎えください。
    
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

縄文GoGo旅編 第16話 4日目④

 
 
 
          渓流沿い。続き。
 
シシヒコ  「その子らを早く避難させてくれ!」
サタキ  「おれ達が盾になる。」
  二人は盾を持ち、槍を構えた。
タカジョウ  「サチ、先に登れ。上からミツを引き上げてくれ。」
サチ  「大きい!イナが射たイノシシの倍以上ある!
     ミツ、こっち!」
シロクン  「この枝に左脚で立て。右脚は曲げるな。上の枝を握っていろよ。」
 
  シシ神が走り出した。猛烈な速さで川を渡って来ている。
  川原石の凹凸など、やすやすと踏み越えた。
  シシヒコ達二人に向かって、一直線に突進している。
  そこへシップウが真横から飛来し、シシ神の顔に爪を掛けた。
  シシ神の動きが一瞬にぶり、そこへ突っ込んだレンがシシ神の右前足に嚙みついた。
  レンは噛みついたまま離れないが、シシ神はそれに構わず突進を開始した。
  あっと言う間にサタキに迫った。
  サタキは槍を繰り出したが、柄がブチ折れた。そしてシシ神に突き上げられた。
シシヒコ  「サタキ!」
  盾が真っ二つに割れ、飛び散った。
  サタキは吹っ飛ばされ、クマザサの茂みに落ちた。
 
  シシ神は向きを変え、シシヒコに向かって突進を開始した。
  レンは必死で前足を踏ん張っているが、シシ神の動きは止まらない。
  そこへ横から走って来たシロクンヌが、肩からシシ神に体当たりした。
  シシ神は怒りの雄叫びを上げ、横倒しになった。
 
シロクン  「タカジョウ、コノカミと二人で、サタキをあの大岩の上に運べ。」
  シシ神はすぐに起き上がり、雄叫びを上げながらタカジョウに向かって突進を開始した。
  タカジョウもシシ神に向かって走り、助走をつけ石斧を投げた。
  石斧は見事にシシ神の脳天に命中したのだが、シシ神はひるまない。
タカジョウ  「不死身か?」
  すんでの所で、タカジョウは身をかわした。
 
  シシ神はそのまま川に入り、狂ったように川の中を走り出した。
  口に水が入り、レンがたまらずにシシ神から離れた。
  シロクンヌは川岸に立ち、矢を放った。
  続けざまに3矢放ち2矢がシシ神に突き立ったが、シシ神の勢いはおとろえない。
 
シロクン  「矢では無理だ。タカジョウ、サタキの様子は?」
タカジョウ  「腕をやられてる。」
サタキ  「おれは大丈夫だー!」
シロクン  「太い杖を作る間が欲しい。3人はそのまま岩の上にいてくれ。
        レンザ、レンを一度引かせてくれ。前足をやられている。」
レンザ  「レン!こっちに来い!」
シロクン  「杖を作って仕切り直しだ。」
 
  しかし耳を塞ぎたくなるような雄たけびを上げたているシシ神は、時間を与えない。
サチ  「父さん、シシ神がこっちに来る!」
  シシ神がサチとミツのいる樹に頭から激突した。
  大きな衝撃が走り、ミツが樹から落ちそうになった。サチが必死に支えている。
 
レンザ  「シロクンヌ、これを使え!」
  レンザは添え木を外し、シロクンヌに投げた。
  シシ神が、もう一度、樹に激突した。
  樹が折れて、ゆっくりと倒れ始める。その樹にはミツがぶら下がっている。
 
  フンギャーと叫び、シシ神は、ミツに向かって突進を開始した。
  添え木を拾ったシロクンヌも、ミツに向かって走った。
  タカジョウとシシヒコもミツに向かって走っている。
ミツ  「怖いよ。」
 
  その時シップウがシシ神の顔に爪を食いこませ、激しく羽ばたいた。
  爪の一つが、左の目玉に刺さっている。
  シシ神がひるんだところに、シロクンヌが飛び込みざま、熊刺しを放った。
  ムギャーという叫びが響き渡った。
  肋骨数本をぶち折った感触が、シロクンヌの手に残った。
  シップウは飛び立ち、シシ神は横倒しになっている。
  シロクンヌはミツを抱きかかえた。
シロクン  「サチはレンザの樹に登れ。」
レンザ  「シロクンヌ、早く逃げろ!シシ神が立ち上がった。」
シロクン  「なんだと!」
  立ち上がるのが早過ぎないか?
  こいつは本当に不死身なのかと、シロクンヌは思った。
 
  その時タカジョウが投げた石斧が、シシ神の右前足を直撃した。
タカジョウ  「シシ神、こっちだ。
        奴の目をそらす。コノカミも逃げてくれ。」
  シシ神がタカジョウを追い始めた。
  シシ神の右前足は明らかに折れている。
  不自然に折れ曲がっているのが、見てハッキリと分かるほどだ。
  しかしシシ神は、走るのをやめない。
 
レンザ  「サチ、おれの手をつかめ。
      この樹がやられたら、あの樹に移るんだ。
      その矢を貸してくれ。」
 
  それは、アヤの村の矢じりが付いた矢だった。
  ウルシ村を出る時に、ヤシムがサチの背負い袋に矢留めをつけて差してくれた、あの矢だった。
  その時にヌリホツマが、この矢は旅の守り神じゃと言ったのを、サチは覚えていた。
  この矢がおぬしらの身を護る、ヌリホツマはそう言ったのだ。
  サチはレンザに、その矢を手渡した。
レンザ  「レンは前足をやられたな。食い止めようとして、爪をはがしたんだ。」
 
  シシヒコの放った矢が、シシ神の腹に刺さった。
  それでもシシ神は倒れない。
  今度は、シシヒコに向かって突進を開始した。
  シシヒコは大岩に逃げようとしたが、つまずき転んでしまった。
  シシ神の突進は止まらない。
  真っ赤な眼をした巨大イノシシが、体を左に傾かせ、
  吠え立てながらヨダレをまき散らし、こっちに来る。
  それを見たシシヒコは、恐怖の余り身動きが取れなくなってしまった。
  シシヒコが死を覚悟したその時、レンの姿が見えた。
  横手から突っ込みざま、シシ神の首に食らい付いたのだ。
  しかし、レンの牙を持ってしても、シシ神の急所には届かない。
  レンは傷ついた前足を突っ張り、必死でシシ神を止めようとている。
  そこへシップウが飛来し、シシ神の背中を鷲づかみ、
  シシ神の右の目玉に嘴(くちばし)の一撃を入れた。
  これでシシ神は、両目が見えなくなった。
  シシヒコのわずか横を、シシ神が駆け抜けた。
 
  シシ神は吠え立てながら、狂ったようにそこら中を走り回っている。
  シップウは飛び立ったが、レンは首から離れない。
レンザ  「レン!戻れ!」
  レンザがそう叫んだ時だった。
  シシ神が折れた樹に激突し、とがった木の先端がレンの背中を切り裂いた。
  レンの背中から、血が噴き出した。
レンザ  「レン!
      シシ神い、レンに何しやがる!」
  レンザは樹の枝から、跳んだ。
  シシ神の背中に飛び乗った。
  左手で、吠え立てるシシ神の左耳をつかんだ。
レンザ  「もっと口を開けえ!」
  レンザはシシ神の右耳に噛みついた。食い千切らんばかりの勢いだ。
  そしてサチの矢を右手に持ち、シシ神の鼻を突き散らかした。
  シシ神が、大きく叫びを上げた時、
  レンザはサチの矢を、シシ神の口の中に突き入れた。
  矢じりが急所を貫いた。
  走りながら、シシ神は息絶えた。
  その横には、血だらけのレンがいた。
レンザ  「レン!」
 
  みんながレンのもとに駆け寄った。
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。

 

 

縄文GoGo旅編 第15話 4日目③

 
 
 
          渓流沿い 続き。
 
シシヒコ  「おれもサタキと同じで、シシガミ村の生まれではないんだ。
       10年前に通り掛かってな。
       その時、子種が欲しいと宿を請われた。
       で、その女に惚れてしまってな(笑)。」
タカジョウ  「どこかで聞いた話だな(笑)。」
シシヒコ  「だから本来なら、おれの女房がカミなのだ。
       だが言い伝えは、おれも聞いている。」
シロクン  「シシ神と言うのは?」
シシヒコ  「ここらは昔から、大イノシシが産まれる土地柄だそうだ。」
サタキ  「それが、同時に2頭いる事は無く、いても必ず1頭だけらしい。」
シシヒコ  「その1頭は、オスなのだが、とてもおとなしいそうだ。
       ただ手負いにすると、凶暴になって人を襲う。
       そういう事が、昔は何度もあったらしい。」
サタキ  「それで、神様にしてしまえとなったんだ。
      大イノシシは、神様だからうやまえと。
      矢など射るのは、もってのほかだと。
      だから、普通のイノシシは、おれ達も普通に狩ってるよ。」
シシヒコ  「それをあの6人組が、止めた者をぶん殴って、シシ神に矢を放ったのだ。」
サチ  「手負いになったの?」
シシヒコ  「そうだ。何本かが刺さったらしい。
       それが五日前で、もう二人が殺された。
       若い男が二人、旅の兄弟だ。
       だから十分気をつけて欲しい。
       この後案内するから、今夜は村で泊った方がいい。」
サタキ  「オオカミのニオイがすれば、普通のイノシシならそこは避ける。
      だけど手負いのシシ神は、とにかく狂暴なんだ。
      殺された二人も、喰われていた。」
タカジョウ  「人喰いか!」
シロクン  「6人を探していた訳は?」
サタキ  「村には若い男が少ない上に、おれ達二人以外、みんな怖気づいてしまっている。
      だから6人を見つけ出してシシ神退治を手伝わせようと思っていたんだが、
      話を聞けば、とてもそんな連中じゃあ無かったんだな。」
シロクン  「そうだな。他の村に、加勢を頼めんのか?」
シシヒコ  「無理だ。なあ?」
サタキ  「ああ、昔はこの辺りにもいくつか村があったそうなんだが、
      シシ神が暴れて多くの人死にが出てからは、みんなよそに移って行ったそうだ。
      だからシシ神にかかわろうって者は、この辺りにはいない。」
レンザ  「たたりのウワサが立っているぞ。」
シシヒコ  「孤立した村だとどうしても血が濃くなるだろう?
       それで奇形の子が産まれだしたんだな。昔の話だぞ。
       それでたたりのうわさなんかも立って、ますます孤立が深まる。
       そういう訳で、通りすがりの旅人から子種をもらう事にしたそうだ。
       今でも村で産まれた者同士の子作りは禁止となっている。
       だから村では、女系のムロヤばかりだ。」
サタキ  「村で産まれた男は、年頃になると村を出て行く者が多い。」
シシヒコ  「中にはヨソで女を見つけて、二人で戻って来る者もいるが、
       大半は、行きっ放しだな。」
レンザ  「おれ達で、そのシシ神をやっつければいいじゃないか。
      こっちにはレンがいる。」
タカジョウ  「お、強気だなあ(笑)。
        どうする?」
シロクン  「レンザがそう言うのなら、そうせねばなるまいな(笑)。」
サタキ  「手伝ってくれるのか?通りすがりなのに!」
シシヒコ  「待て待て。正直に言っておかねばならん。
       今度のシシ神は、今までの中でケタ違いにデカいんだ。
       そのオオカミが仔犬に見えるくらいに。
       背の高さは、」
レンザ  「サチよりも、うんと高いだろう?
      知ってるよ。さっきヌタ場を見たから。」
タカジョウ  「あのヌタ場には、さすがに驚いたがな。
        シップウ!」
 
    シップウが飛んで来て、タカジョウの腕にとまった。
 
サタキ  「何だこのワシは!」
シシヒコ  「おぬし、ワシ使いか?
       それにしても大きいな!」
タカジョウ  「オオイヌワシのシップウだ。
        みんなで力を合わせれば、何とかなるんじゃないか?
        それになんと言ってもこっちには、シロクンヌがいるんだからな(笑)。」
レンザ  「おれを抱いたままやすやすと沢石を跳ぶし・・・
      シロクンヌって、そんなに強いのか?」
タカジョウ  「この世の者とは思えんほどにな。」
シロクン  「ん?それは、ホメ言葉か?」
サチ  「アハハ。」
サタキ  「コノカミ!助けてもらえそうだぞ!」
シシヒコ  「そうだな!恩に着る!
       今夜は、我が村に泊まってくれ。
       高いシシ垣で囲まれているから、シシ神でも越えられはせん。」
シロクン  「そうだコノカミ、塩湯って何だ?」
シシヒコ  「我が村の自慢だ。湯元をお見せする。」
サタキ  「湯塩で締めたシシ腿肉を、一度食べてみてくれよ。」
シシヒコ  「食べれば病み付きだ(笑)。2年前に仕込んだナマ肉が、丁度いい具合になっている。」
タカジョウ  「いぶしか?」
サタキ  「そう思うよな?ところが違う。ナマだ。塩締めだよ。」
タカジョウ  「ナマで2年だと?」
シシヒコ  「旨いんだぞ。
       湯塩締めと美しい女。この二つで、おれもサタキも村に居着いてしまったんだ(笑)。」
サタキ  「村の女はみんな綺麗だよ。最初に村に来た時に、おれは驚いたよ。
      村中の女が美人なんだから。」
シシヒコ  「殿方3人には、宿を用意する。」
タカジョウ  「3人?レンザもか?」
シシヒコ  「もちろんだ。すでに男の体であろう?」
タカジョウ  「男と言うか・・・猿の体だ(タメ息)。」
レンザ  「うるさいな!タカジョウは!
      シップウ!タカジョウを、つつけ!」
シロクン  「ワハハハ。
        それで、巣は分かっているのか?」
サタキ  「分かってる。手負いになる前から見つけてあった。
      4ヶ所あるが、今でもそのどこかがねぐらだ。」
シシヒコ  「そうだ、もう一つ言い伝えがあって、シシ神に痛みは無いと言うんだ。
       不死身だともいう。」
ミツ  「不死身なの?」
レンザ  「不死身な訳ないだろう。大袈裟に伝わってるんだよ。」
シシヒコ  「まあ、そんなところだろうな。今夜は我が村でくつろいでくれ。
       準備を整えて、明日、勝負に出よう。」
タカジョウ  「ん?と、思ったが・・・」
レンザ  「近くにいる!レン、まだだぞ。」
タカジョウ  「シップウ!牽制しろ!」
シロクンヌ  「タカジョウ、ミツはあの樹だ!
        サチ、あの樹に登って、ミツを支えていろ!
        レンザ、おれにしがみつけ!
        あの枝に行く。
        上の枝を、しっかり握っているんだぞ。」
サタキ  「あそこか!」
レンザ  「レン、行け!」
 
    眼を真っ赤に充血させたシシ神が、向こう岸の笹薮から姿を現した。
    その体は、巨大な岩の様であった。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。

 

 

縄文GoGo旅編 第14話 4日目②

 
 
 
          山越え。続き。
 
シロクン  「シシガミ村?何かいわれのある村なのか?」
レンザ  「姉ちゃんから聞いたんだ。姉ちゃんも誰かから聞いたんだと思う。
      シシガミ村の近くでは、イノシシ狩りはするなって。」
タカジョウ  「その村が、この近くにあるのか?」
レンザ  「場所はハッキリと分からない。
      でもこっちの方だと思う。
      イノシシ狩りはするなと言っても、全部のイノシシじゃなくて、
      シシ神に連なるイノシシは狩ってはいけないんだ。
      シシ神は、大イノシシらしい。
      シシ神を怒らせると、とんでもない事になるからって。」
タカジョウ  「しかし、あんなのに出くわしたら大変だぞ。」
シロクン  「ふむ。念のため、杖を弓にしておくか。
        他には何かあるのか?」
レンザ  「シシガミ村は周りに他の村は全然なくて、どことも付き合いが無いらしい。
      たたりにまつわる何かがある村だって事で、誰も近寄らないって言ってたぞ。」
ミツ  「なんだか怖い村だね。」
サチ  「でも山奥なんでしょう。塩はどうするの?」
レンザ  「村に塩湯が湧くらしいんだ。」
シロクン  「シオユ?タカジョウ、塩湯って何だ?」
タカジョウ  「おれも知らんぞ。レンザ、教えてくれ。」
レンザ  「おれだって知らないよ。
      村があれば、行って聞いてみればいいじゃないか。」
 
 
          山越え。渓流沿いでの昼食。
 
タカジョウ  「台風でこの川も相当に荒れたんだろうな。
        そこら中、流木だらけだ。」
シロクン  「お陰で焚き物には事欠かんがな。」
レンザ  「サチはカラミツブテが巧いんだなあ。
      道中で山鳩を2羽獲るなんて、相当練習したのか?」
サチ  「うん。父さんに教わった。
     レンザは何かよく使う得物はあるの?」
レンザ  「おれは手槍。」
ミツ  「手槍って何?」
レンザ  「短い槍だよ。投げるんじゃなくて、手で持って刺すんだ。
      一回しくらいの長さのやつ。
      レンが首に食らい付いている獲物に使うんだ。」
タカジョウ  「手槍も失くしたのか?」
レンザ  「うん。手槍はまた作ればいいんだけど、
      黒石糊(くろいしのり。アスファルト)をたくさん持って来てたんだ。
      それも失くした。
      黒石糊が無いと、いい手槍は出来ない。
      こっちでは、黒石糊は使わないだろう?」
 
    アスファルトは、秋田県新潟県北部の油田地帯で産出する。
    温めると融け、常温では固まるので、接着剤や接合材として使われた。
    石器を木材に固定するのに便利だったのだ。
    二枚貝の貝殻や、土器に入れて運搬され、主に信州北部から関東以北で利用されていた。
 
ミツ  「黒石糊なんて聞かないよ。」
シロクン  「ニカワか漆だな。」
レンザ  「そうだよな・・・」
 
    その時、男が二人、近づいて来るのが見えた。
    二人とも、弓矢と槍、そして盾を持っている。
    レンが立ち上がり、ウーと低い声で唸り始めた。
    男二人は、離れた所で立ち止まった。
 
  「おーい、ウシシ村はどっちか、知ってるかー?」
タカジョウ  「なんだと?あいつら、何者だろうか?」
  「おーい、伝えたい事もあるんだー。
    そのオオカミを、何とかしてくれー。」
シロクン  「3人はここにいてくれ。
        タカジョウ、おれ達が向こうに行こう。」
 
 
  「食事中だったようだな。邪魔して悪かった。しかし大事な用件でな。
    おれはこの先にあるシシガミ村のカミのシシヒコと言う。
    まず聞くが、お二人はウシシ村をご存じか?」
シロクン  「6人組に関係あるのか?」
シシヒコ(35歳)  「おお、そうだ。その6人を探している。
            その6人もウシシ村を探していたと聞いておるが。」
シロクン  「おれはシロクンヌと言う。」
シシヒコ  「おぬしがシロクンヌか!光の子の父親だな。」
シロクン  「そうだ。ウシシ村とはウルシ村の間違いだろうな。
        奴らはもうこの世にいない。
        こっちでも、人を殺めているのか?」
シシヒコ  「そうではない。奴らが手を出したのは、シシ神だ。
       詳しく話を聞きたいし、こちらからも話しておかねばならん事もある。」
シロクン  「ではまず、6人組について知っている事を話す。」
タカジョウ  「シロクンヌ、話ながらゆっくり向こうに戻ってみないか?
        もうレンも唸らんかもしれん。
        言い遅れた。おれはタカジョウと言う。」
サタキ(25歳・男)  「おれはサタキ。一年前からシシガミ村で暮らしている。」
 
 
ミツ  「ねえ、サチ。いたすって、何をいたすの?」
サチ  「あとで二人だけの時に教えるよ。」
レンザ  「いいよ。おれが教えてやる。」
ミツ  「教えて。一人でどんなことやるの?やってみて。」
レンザ  「バカ言うな!そんなの、隠れてコッソリやる事だ!」
ミツ  「あ!工ッチなことでしょう?」
レンザ  「もう分かっただろう?」
ミツ  「分からないよ。知らない事だもん。」
 
 
サタキ  「あのオオカミは、飼われているのか?」
タカジョウ  「そうだ。あそこにいる、脚をケガした少年の友達だ。
        ヒトには懐かんそうだが、おれ達にだけは唸らない。
        その板っ切れみたいに見えるのは何だ?」
シシヒコ  「村では盾(たて)と呼んでいる。
       イノシシが突進して来た時に、牙の直撃を防ぐ道具だ。」
シロクン  「木を割いて作るのか?
        持たせてくれ。
        思ったより軽いんだな・・・」
 
 
ミツ  「へー。そうやってやるんだ。知らなかった。」
レンザ  「おれの周りで女と言えば、姉ちゃんだけだったろう。
      だからどうしても、姉ちゃんをいやらしい目で見てしまう時があるんだ。
      一緒に作業をしてると、股が見えたりしたしな。
      そういう時は離れた所に行って、いたしていた。
      出る時は気持ちいいんだけど、すぐ後には姉ちゃんを変な目で見ていた事を後悔する。
      ずっとそういう気持ちでいたいんだけど、
      液が体に溜まりだすとどうしてもダメなんだ。
      だから溜めないように、何度もいたしていたんだ。」
ミツ  「なんか大変なんだね。
     私達の事も、変な目でみたりする?」
レンザ  「おまえらなんか、子供じゃないか。
      全然そんな気になんかならないよ。
      おれは、ちゃんと毛が生えた大人が好きなんだ。」
サチ  「私、まだ生えてない。」
レンザ  「そうだろう。もじゃもじゃしてなきゃ、つまんないよ。」
ミツ  「レンザは生えてるの?」
レンザ  「生えてるよ。もじゃもじゃではないけどな。」
サチ  「あ、4人で帰って来るよ。」
レンザ  「何か話があるんだな。
      二人はおれから少し離れてくれ。
      おれはここでレンと一緒にいるから。
      レン!ここに来い。唸るんじゃないぞ。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト

 

 

縄文GoGo旅編 第13話 4日目①

 
 
 
          翌朝の野営地。
 
タカジョウ  「確かこの樹だったよな?そうだ、ここに爪痕がある。」
サチ  「レンは、あの枝まで跳んでいたよ。
     あの枝の近くで、飛んでるムササビを捕ったんだもん。」
ミツ  「走って来て、幹のここに爪を立てて、あそこまで跳んだんだ。
     この爪痕、私の背より高い。」
タカジョウ  「シロクンヌ、オオカミ対策で吊り寝を張っていたとして、
        あの枝よりも高くに張ったか?」
シロクン  「いや、もっと低くに張っただろうな。
        あんなに跳ぶとは、完全に想定外だ。」
ミツ  「レンが敵じゃなくて良かったね!」
シロクンヌ  「まったくだ。ムササビ狩りも、レンの独壇場だったからな。」
サチ  「みんな、レンの動きに見とれてたよね。」
レンザ  「おーい、そろそろいいんじゃないかー。焼き上がりだー。」
 
タカジョウ  「レンはまだ帰って来んのか?」
レンザ  「ゆっくりと、自分の食事をしているんだ。
      レンは、おれ以外の人の前では食べないから。」
ミツ  「驚いたよね?朝起きたら、ウサギが2匹、置いてあるんだもん。」
シロクン  「ふむ。レンは並のオオカミではないな。
        タカジョウ、灰燻し(アクいぶし)の掘り出しはまかせていいな?
        レンザ、右脚の具合を診てやる。
        傷むか?」
レンザ  「そりゃあ、痛いさ。でも平気だ。」
サチ  「フキの葉、採って来た。」
シロクン  「葉っぱに塗り薬をぬってくれ。」
タカジョウ  「おお、丁度いい具合だ。
        ウサギ3匹に、ムササビ5匹。
        レンザ、おまえ、灰燻しが巧いな。」
レンザ  「よくやったからね。灰は腹に、ぎゅうぎゅう詰め込んだ方がいいよ。
      外側にも、しっかりまぶし付けて。
      そうすれば、ミヤコまでだって持つさ。」
ミツ  「腐らないの?」
レンザ  「腐るもんか。味だって変わらない。
      千切って食ってみろよ。旨いから。」
タカジョウ  「ふむ。確かに旨い。」
シロクン  「レンザはこれからどうするんだ?」
レンザ  「おれは、レンと二人で暮らす。
      レンを受け入れる村は無いし、レンもヒトにはなつかない。
      ヒトを襲ったりはしないけど、唸るからな。
      おれが怪我をしていなければ、あんた達にも唸っていたかも知れない。」
シロクン  「この脚、治るのに一月は掛かるぞ。
        一ヶ月は、ヒザを曲げてはいかん。
        無理をすると、一生歩けん体になる。
        近くの村までは、おれが抱いて行ってやる。
        そこで受け入れてもらえなければ、カワセミ村まで抱いて行く。
        カワセミ村には知り合いが多くいる。
        おれが頼んでやるから、カワセミ村で脚が治るまでジッとしていろ。」
レンザ  「おれの事は、置いて行ってくれればいい。
      食い物は、レンが運んで来てくれる。」
シロクン  「水はどうする?タキギは?
        杖をついて無理に動くと、取り返しがつかん事になるぞ。
        今のおまえには、介添えが必要だ。」
レンザ  「おれは一人が性に合ってるんだ。」
サチ  「父さんの言う通りにした方がいいよ。
     抱っこ帯の抱っこだから、レンザだって疲れないんだよ。」
シロクン  「見てみろ。レンザ用の抱っこ帯だ。早起きして作ったんだぞ。」
レンザ  「おれは、昨日みたいに寝るのは嫌なんだ。」
タカジョウ  「ははーん、さてはおまえ、ひょっとして、いたしたいんだな?一人で(笑)。」
レンザ  「うるさいなー。」
ミツ  「何をいたすの?」
タカジョウ  「姉と一緒の時はどうしていたのだ?」
レンザ  「姉ちゃんとは、別々の吊り寝だったよ。」
ミツ  「ねえ、何をいたすの?
     サチ、分かる?」
サチ  「分かるよ。後で教えてあげる。」
レンザ  「変な教え方、するなよ。」
タカジョウ  「おまえ、激しそうだな(笑)。サル並みに。」
ミツ  「アハハ。レンザが真っ赤になってる。」
レンザ  「ホントにうるさいなー。いい加減にしろよ。」
シロクン  「ハハハ。よし、ではレンザは吊り寝だ。
        毎晩吊り寝を張ってやるよ。
        フキの葉も、要るよな?」
タカジョウ  「アハハハ。」
レンザ  「あー要るよ!2枚や3枚じゃあ足りないからな!」
サチ  「そんなにするものなの?」
レンザ  「いいだろー!何回したって!」
タカジョウ  「アハハハ、頼もしい男だな。
        お、レンが帰って来た。
        シップウにお目通りと行くか。
        シップウ!」
 
    シップウが飛んで来て、タカジョウの腕にとまった。
 
 
          山越え。
 
    レンザは抱っこ帯でシロクンヌに抱かれている。
    レンは、5人の少し後からついて来ている。
    シップウは、空高く飛んでいる。
 
ミツ  「シップウとレンはニラミ合っていたけど、敵だと思ったのかな?」
サチ  「何か迫力があったよね。ジッとしたまま、動かなかったでしょう。」
レンザ  「サチとミツは、シップウの狩りを見た事あるのか?」
サチ  「あるよ。隣の山でカモシカを狩って、
     爪で掴んで、谷を越えてこっちまで運んで来たんだよ。」
ミツ  「あれ怖かったよね。こっちに向かって飛んで来るんだもん。」
レンザ  「カモシカをつかんだまま、飛んだのか?」
タカジョウ  「飛ぶと言うかな・・・
        空を斜め下にくだって来た感じだな。羽根を広げて。」
レンザ  「すげーな!おれも見たかったな。」
シロクン  「おい!あれを見てみろ!
        あれはヌタ場だろう?その横の樹だ!」
 
 
タカジョウ  「これは、台風の前だな。台風の後には使われておらん。」
サチ  「ヌタ場って何?」
シロクン  「この泥だまりだ。
        イノシシが、この泥の上で転げ回るんだ。
        体に泥を付けて、その後に樹に体をこすりつけて泥を落とす。
        そうやって、泥と一緒に体に付いたノミを落とすんだ。」
タカジョウ  「その樹がこれだ。
        台風で洗われているが、泥のあとが見えるだろう?
        サチ、横に立ってみろ。」
ミツ  「サチの背よりも高いよ。そんなイノシシっているの?」
シロクン  「この泥よりも、イノシシの背は少し高いはずだ。
        そこに足跡が、二つだけ残っている。
        見た事もない大きさだ!」
レンザ  「シシ神だ。多分この先に、シシガミ村があるんだ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。

 

 

縄文GoGo旅編 第12話 3日目⑤

 

 

 

          野営地。続き。

 
シロクン  「用心するとしても、今から吊り寝(ハンモック)に切り替えるのもアレだな。
        サチとミツはここでゆっくり寝かせてやりたい。」
タカジョウ  「せっかく作った寝床だからな。
        おれとシロクンヌで、交代で寝ずの番だ。
        どうせいぶしをやるんだし、焚き物には事欠かん(笑)。」
シロクン  「念のために縄梯子を作ってあの枝から吊り下げておくか。」
タカジョウ  「そうしよう。踏み棒になるような枝を集めて来る。」
サチ  「父さん、さっきのオオカミ!
     また尾根にいるよ。」
ミツ  「こっちを見てる。また何か、くわえてない?」
サチ  「草履?ぞうりみたいに見える。」
ミツ  「あ!こっちに来る!」
シロクン  「ミツ、サチ、おれ達の後ろにさがれ。
        タカジョウ、石斧は?」
タカジョウ  「ここにある。」
サチ  「降りて来てる。もうすぐ、あの樹の所に出て来る!」
シロクン  「ん?樹の手前で止まったようだな。」
サチ  「あ!口から草履を落とした!
     戻って行くよ。
     ・・・
     止まった。こっちを見てる。
     動かないよ。」
タカジョウ  「あいつ、何かをおれ達に伝えたいのではないか?」
シロクンヌ  「ふむ。少し前に出てみるか。」
サチ  「動いた。オオカミも前に進んだ。
     どこかに案内したいのかな?」
シロクンヌ  「草履の所まで行こう。」
サチ  「私達が前に進むと、オオカミも前に進むよ。」
タカジョウ  「この草履、少し小さいな。」
シロクン  「よし、とにかくあいつについて行こう。」
 
 
          尾根を越えた森
 
サチ  「あの樹の根本、人が座り込んでる!」
タカジョウ  「あれを知らせたかったのか!
        あのオオカミは大丈夫だ。
        おれ達を襲っては来ん。」
 
    タカジョウが駆け出した。
 
タカジョウ  「見ろ!ここにムササビが置いてある。
        こいつは、この少年のために、ムササビを狩ったのだ。
        おい!しっかりしろ!
        こんな所で寝ていると、死んでしまうぞ!」
シロクン  「火を焚いた跡がある。
        右脚をケガしているのか。
        ここまで来て、動けなくなったのだな。
        体が冷えている。ねぐらに運ぶぞ。
        しっかりしろ!もう大丈夫だ!助けてやるからな!」
 
 
          野営地。
 
    5人から少し離れた所で、オオカミは座ってこちらを見ている。
 
シロクン  「気が付いたか。煮冷ましだ。少し飲め。」
 
    少年はシロクンヌに抱かれていて、
    蕗(フキ)の葉を折り曲げて作られたコップの中の白湯(さゆ)を少し飲んだ。
 
少年  「あんた達、男は何人だ?」
タカジョウ  「ん?見ての通り、二人だぞ。」
少年  「おまえら、さらわれて来たのではないのか?」
サチ  「違うよ。みんな、旅の仲間なんだから。」
少年  「おれは、助けてもらったのか?」
タカジョウ  「おまえ、ずいぶんと不敵な眼をしているな。
        あのオオカミが、そこまでおれ達を呼びに来たんだぞ。
        あいつがおまえの所まで案内したんだ。」
少年  「レン!」
 
    少年が呼ぶと、オオカミは近くに来て座った。
 
シロクン  「このオオカミは?」
少年  「レンはおれの友達だ。
     レンが産まれたての時に、おれが拾って育てた。
     だけどレンはヒトに唸る(うなる)んだ。
     他人には、なつかない。
     レンが唸らないのは、あんた達が初めてだ。」
タカジョウ  「おまえ、歳はいくつだ?名は何という?」
少年  「名前はレンザ。14歳だ。」
シロクン  「レンザ、脚の骨が折れているな。しかもズレている。
        今からつなぐぞ。
        かなり痛いだろうが我慢しろ。
        タカジョウ、押さえつけておいてくれ。」
レンザ  「やめろ。そんな事をすると、レンが暴れ出すかもしれん。
      おれはジッとしているから、つないでくれ。」
シロクン  「ひねるからな。相当痛いぞ。暴れるなよ。」
レンザ  「うっ・・・」
ミツ  「うわ!痛そっ!」
シロクン  「よし。よくこらえたな。
        サチ、フキの葉にヌリホツマの薬を塗ってくれ。
        それを貼って、添え木を当てる。
        毒消しもくれ。」
タカジョウ  「レンザ、腹は?」
レンザ  「減ってる。」
タカジョウ  「待っていろ。薬汁を作ってやる。」
 
    その時、オオカミはどこかへ姿を消した。
 
ミツ  「あんた、助けてもらったんだから、ちゃんとお礼言った方がいいよ。」
 
    レンザはミツをにらんだが、ミツもにらみ返した。
 
レンザ  「そうだな。助けてくれてあるがとう。おかげで命拾いした。」
タカジョウ  「ははは、素直な所もあるんだな。
        熱いぞ。やけどするなよ。」
レンザ  「ありがとう。熱っ。」
シロクン  「よし、これでいい。
        レンザ、一人で歩こうとするなよ。
        用事がある時は、おれ達の誰かを呼べ。
        ところで、さらわれたのか?とか、気になる事を言っていたが?」
レンザ  「そうだ。6人組のハタレを知らないか?
      おれはそいつらを追っているんだ。」
シロクンヌ  「そいつらなら、もうこの世にはおらんぞ。」
レンザ  「なんだって!」
シロクン  「この先で、人を3人殺めてな。
        身内の者に、成敗された。昨日の話だ。」
レンザ  「本当か・・・姉ちゃん。ごめん。」泣き出した。
ミツ  「どうしたの?」
レンザ  「かたき討ち、してやれなかった!」
 
    レンザはひとしきり声を上げて泣いた。
    そこにレンがムササビを2匹くわえて戻ってきた。
 
タカジョウ  「利口なオオカミだな。ムササビ汁を作ってやるよ。
        何があったのか、話してみろ。」
レンザ  「おれは、姉ちゃんとレンの3人で旅をしていたんだ。
      八日前だ。
      姉ちゃんが、川でサケを獲る仕掛けを作ると言うから、
      おれとレンは、山に狩りに行った。
      戻ってみたら、姉ちゃんがいない。
      おれは、近くの村に行ったのかも知れないと思って見に行った。
      そこに、6人組のハタレに連れ去られるのを見たという人がいた。」
タカジョウ  「サケが上る川か・・・八ヶ岳の向こう側から、西に向かって流れる川だ。
        あの川筋のどこかから、あいつらは来たのか。」
シロクン  「姉は見つかったのか?」
レンザ  「殺されていた。裸だった。体中に、男の液を掛けられていた。
      眼が開いていて、その眼の上にも掛かっていたんだ。
      あいつら、姉ちゃんが死んだ後にも・・・」
サチ  「ひどい!」
ミツ  「かわいそう!」サチとミツが泣き出した。
シロクン  「脚を折ったのは?」
レンザ  「台風の時に、崖から落ちた。」
シロクン  「荷物は見当たらなかったが、その時に失くしてしまったのか?」
レンザ  「うん。大事な物もあったんだけど・・・」
シロクン  「旅の行き先は、決まっていたのか?」
レンザ  「姉ちゃんには心づもりがあったみたいだけど、おれはハッキリ聞いていない。
      レンがいるとどの村からも受け入れてはもらえないから、
      どこかで3人で暮らすつもりだったと思う。
      働き者で、優しい姉ちゃんだったんだ。」
タカジョウ  「おい。今度はレンが、ウサギを持って来たぞ。
        凄いオオカミだな(笑)。」
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。

 

 

縄文GoGo旅編 第11話 3日目④

 
 
 
          道中の尾根。夕刻前。
 
    眼下にブナの森が広がっている。
 
シロクン  「水の匂いがする。この下は、沢だな。」
タカジョウ  「あの空に、薄っすらと半月が見える。」
サチ  「今夜は八日月。上弦の月でしょう。」
タカジョウ  「そうだ。陽が沈めば、あの月が南の空高くで輝く。
        シロクンヌ、ムササビ狩りをしないか?」
シロクン  「いいな。陽が沈めば、あのブナの樹々の間をムササビが飛び交うぞ。」
ミツ  「私、ムササビが飛んでるのって、一度しか見た事ない。」
サチ  「ムササビって、月が空高くにある夜に飛ぶんでしょう?」
タカジョウ  「ふむ。月に誘われて、飛ぶ。
        肉は灰(あく)いぶしで、旅の糧にしよう。
        はらわたは、シップウの大好物だ。」
シロクン  「毛皮は沢の水で洗って、あとでなめせばいいな。
        よし。下に降りて寝床の準備に取り掛かるか。」
 
 

          森の中の野営地。夕刻。

 
    大きく火が焚かれ、そのそばで、4人は夕食をとっている。
 
タカジョウ  「スズヒコが持たせてくれたこのアユのいぶし、これは旨いなあ。」
シロクン  「味がコナレている。こんなアユを食うのは初めてだよ。」
ミツ  「骨が軟らかいよ。アユ村では甘露煮にした時がこんな感じ。」
サチ  「あれも美味しいよね。頭まで美味しかったもん。」
シロクン  「話は変わるが、ミツ、この辺り、冬はどのくらい雪が積もるか、分かるか?」
ミツ  「知ってるか?じゃなくて、分かるか?なの?」
シロクン  「そうだ。初めて行った場所でも、分かるかどうかと言う意味だ。」
ミツ  「じゃあ、分からない。分かる方法があるの?
     サチ、知ってる?」
サチ  「知ってる。死んだ父さんから聞いたの。こっちに来る時に。
     周りを見たら分かるよ。」
ミツ  「周りって、ブナの樹だよ。
     ・・・
     あ!高さが一緒だ!分かった!あの苔(こけ)でしょう?
     雪が積もる所には、あの苔が生えないんだ!」
シロクン  「そうだ。ブナの幹に生えている苔で分かるんだ。
        苔が生えているのは、ミツの腿(もも)から上だろう?
        ミツの腰くらいまで積もる時もあるだろうが、
        この辺り、山深い所だが、それほど雪深い訳では無い。
        タカジョウ、ここに住むとしたら、どうだろうな?」
タカジョウ  「問題は、冬の寒さ対策だ。
        それさえ出来れば、雪の量から言えば、カモシカ狩りには最適だぞ。
        雪が積もれば、女でも簡単にカモシカは狩れるからな。」
ミツ  「足が雪に刺さって、逃げ足が遅くなるんでしょう?」
タカジョウ  「だから見つけさえすればいい。遠くにいても、すぐに追いつく。
        真冬のカモシカは、最高の獲物だ。
        肉は旨いし、毛皮は水を通さんほど綿毛がビッシリと生えている。」
サチ  「今、敷いてるのがそうだよね。」
シロクン  「そうだ。湿った地面に敷いても尻が濡れん。
        カモシカの角は、イカ釣りに使うんだぞ。」
タカジョウ  「そうなのか!それでシップウが狩ったカモシカの角を欲しがったのだな?」
シロクン  「ふむ。カワセミ村へのいい渡しが手に入った。
        あの角が、海の中で青黒く光るらしいんだ。
        それをイカが好んでな、抱きついて来る。
        角にエイの尻尾をくくっておいて、尻尾のトゲでイカを刺して引き上げるそうだ。
        そう言えば、イカ釣りも月夜にやると言っていたな。」
タカジョウ  「食い物以外でも釣れるんだなあ。
        そのイカがスルメになってこっちに来るんだから面白いよな。」
シロクン  「確かに(笑)。カモシカの角や毛皮の他にも、オコジョの冬毛、ダケカンバの皮、
        蚊遣りキノコ、塩の礼には事欠かんだろうな。
        リンドウ村まで歩いて半日、だがイエの者なら、半日あれば往復する。」
タカジョウ  「シロの里か?」
シロクン  「ふむ、ただヲウミ育ちの者には、ここの冬はこたえるだろうな。」
タカジョウ  「なに、カワウソの毛皮を身にまとえば、動けば汗が出る。
        狩った獲物はな、雪ムロにうずめて凍らせておくんだ。
        それを溶かして、ナマのままむさぼり食えば、寒さなんか気にならんぞ。」
シロクン  「なるほど。ナマで食うのか。
        そうなるとここも十分候補地だな。
        そうだ、聞きそびれていた。
        タカジョウは、どんな所に住んでいたんだ?」
タカジョウ  「おれのねぐらがあったのは、八ヶ岳の中腹だよ。
        冬の棲みかは低い場所だったのだが、それでもここよりは高い。
        だから、ここよりは寒いな。風も強い。
        竪穴なんかを掘ると、雨が降れば間違いなく水が湧く。
        だから盛り土の上に張り屋(テント)を立てて住んでいた。
        張り屋は夏場、冬場、共に四つあって、冬場のねぐらの張り屋だけは特別仕様だ。」
サチ  「八ヶ岳に住んでたんだ。」
タカジョウ  「そうなんだよ。八ヶ岳とも知らずにな(笑)。」
ミツ  「ヤツガタケって?」
サチ  「この辺では御山って呼ばれてる山だよ。
     御山で一番高い峰が、クニトコタチなの。
     トコヨクニに何かあった時には、八つのイエは、八ヶ岳で集まる事になっていたの。」
ミツ  「クニト山って、クニトコタチだったの?
     御山は、神の棲みかだって言うのは知ってたけど、そんないわれがあったんだね。」
シロクン  「永い年月が経つうちに、八ヶ岳がどこなのかが忘れ去られていたんだが、
        こないだの明り壺の祭りの時に、ひょんな事から分かったんだよ。
        ところでタカジョウ、特別仕様の張り屋と言うのが気になるのだが。」
タカジョウ  「そりゃあもちろん、寒さ対策だ。
        他は丸太の骨組みに木の皮を張っただけだったのだが、
        冬のねぐらの張り屋は、竹囲いした上から木の皮を張って、
        内側には、キツネの毛皮を二重に貼っていた。
        キツネ60頭分だ。」
シロクン  「すごいな(笑)。」
タカジョウ  「キツネはシップウの大好物だからな(笑)。
        とにかくキツネを狩りたがるんだよ。
        床は竹敷きのうえに葦(あし)を重ね、
        その上にカモシカの冬毛を敷き詰めていたから、
        カワウソの毛皮で作った毛布をかぶれば、真冬でも朝までグッスリだったぞ。」
 
    そうやって話をしながら楽しく食事をしている間に、辺りはすっかり暗くなり、
    南の空には右半分だけの月がくっきりと浮かんでいた。
 
シロクン  「ん?あれは・・・
        オオカミだ。大きいぞ。」
タカジョウ  「口に何かをくわえておるな。おれ達の方を見ている。」
サチ  「あそこって、さっき私達がいた尾根だよね?」
 
    オオカミはこちらをジッと見ていて動かない。
    その背後には、星空が広がっている。
    やがてオオカミは、尾根の向こう側に降りていった。
 
ミツ  「いなくなったね。」
シロクン  「おそらく、群れではないな。ハグレだ。
        相当に大きかったぞ。
        数頭の群れと渡り合っていそうなやつだった。」
サチ  「くわえていたのは、ムササビだったように見えたよ。」
シロクン  「ムササビ一匹では、腹を満たしそうも無いな。」
タカジョウ  「用心しておくか。」
 
          ━━━━━━ 幕間 ━━━━━━
 
縄文人とオオカミの関係。あくまで作者の見解です。
 
オオカミを大神、山の神としてたてまつり、縄文人はオオカミ狩りはしなかった。
・・・このように断言する文章を、何冊かの書物で目にしました。
しかし作者の考えは全くの真逆なのです。
 
作者は、オオカミを大神としてたてまつったのは、弥生以降だと思っています。
農耕民にとっては、畠を荒らすシカやイノシシを駆逐するオオカミは、時に有難い存在だったのかも知れません。
しかし狩猟民にとっては、獲物を取りあう邪魔者でしかありません。
おまけに群れでヒトを襲います。
縄文遺跡から出土するオオカミの骨の数は少ないのですが、それはオオカミ狩りをしなかったのではなく、オオカミとオオヤマネコに対しては、「送り」をしなかったのだと思っています。
送り場に入れて送りの儀式を行い、「よみがえり」をさせたくなかったのだと思います。
オオカミとオオヤマネコの骨は、山中などに遺棄し、村の中の送り場(ゴミ捨て場)には入れなかった。
だから遺跡からの出土が少ないのではないかと思っています。
事実オオヤマネコは、縄文後期に絶滅したと考えられています。
縄文人によみがえりの思想があったのは、埋め甕(うめがめ)の風習があった事からも分かります。
埋め甕については、女性の服装にも関わる(イナは股間を見られるのをきらっているが、決してスボンははかない。)風習ですので、機会があればどこかで言及しておこうと考えています。
 
里で暮らす農耕民と違って、彼らは山や森で暮らしていました。
オオカミと遭遇する機会も多く、群れに襲われて死んだ人も多かったと思います。
ヒトの味を知った獣は、再びヒトを襲います。
オオカミの群れが棲む森で、ドングリ拾いをする気になりますか?
 
たとえば人間の狩り場で群れて小便をまき散らすとします。
するとそこからは、シカもイノシシもキツネもタヌキもいなくなります。
そうやって自分たちの狩り場に獲物を追いやる。
頭のいいボスオオカミなら、それくらいの事はしたかも知れません。
 
私が縄文人なら、真っ先に狩るのがオオカミです。
縄文人がオオカミをたてまつったなどという発想は、平和ボケした現代日本人の発想に思えてなりません。
もちろん地域によっては、オオカミを神としてたてまつっていた所もあるかも知れません。
でもそれは、鹿や熊、鶴や鯉、蛇など他の動物についても言える事ではないでしょうか。
以上の事から縄文GoGoでは、オオカミは縄文人の敵であった、という立場をとっています。
 
次回、金曜日から、再投稿していく予定です。
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。