縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第13話 4日目①

 
 
 
          翌朝の野営地。
 
タカジョウ  「確かこの樹だったよな?そうだ、ここに爪痕がある。」
サチ  「レンは、あの枝まで跳んでいたよ。
     あの枝の近くで、飛んでるムササビを捕ったんだもん。」
ミツ  「走って来て、幹のここに爪を立てて、あそこまで跳んだんだ。
     この爪痕、私の背より高い。」
タカジョウ  「シロクンヌ、オオカミ対策で吊り寝を張っていたとして、
        あの枝よりも高くに張ったか?」
シロクン  「いや、もっと低くに張っただろうな。
        あんなに跳ぶとは、完全に想定外だ。」
ミツ  「レンが敵じゃなくて良かったね!」
シロクンヌ  「まったくだ。ムササビ狩りも、レンの独壇場だったからな。」
サチ  「みんな、レンの動きに見とれてたよね。」
レンザ  「おーい、そろそろいいんじゃないかー。焼き上がりだー。」
 
タカジョウ  「レンはまだ帰って来んのか?」
レンザ  「ゆっくりと、自分の食事をしているんだ。
      レンは、おれ以外の人の前では食べないから。」
ミツ  「驚いたよね?朝起きたら、ウサギが2匹、置いてあるんだもん。」
シロクン  「ふむ。レンは並のオオカミではないな。
        タカジョウ、灰燻し(アクいぶし)の掘り出しはまかせていいな?
        レンザ、右脚の具合を診てやる。
        傷むか?」
レンザ  「そりゃあ、痛いさ。でも平気だ。」
サチ  「フキの葉、採って来た。」
シロクン  「葉っぱに塗り薬をぬってくれ。」
タカジョウ  「おお、丁度いい具合だ。
        ウサギ3匹に、ムササビ5匹。
        レンザ、おまえ、灰燻しが巧いな。」
レンザ  「よくやったからね。灰は腹に、ぎゅうぎゅう詰め込んだ方がいいよ。
      外側にも、しっかりまぶし付けて。
      そうすれば、ミヤコまでだって持つさ。」
ミツ  「腐らないの?」
レンザ  「腐るもんか。味だって変わらない。
      千切って食ってみろよ。旨いから。」
タカジョウ  「ふむ。確かに旨い。」
シロクン  「レンザはこれからどうするんだ?」
レンザ  「おれは、レンと二人で暮らす。
      レンを受け入れる村は無いし、レンもヒトにはなつかない。
      ヒトを襲ったりはしないけど、唸るからな。
      おれが怪我をしていなければ、あんた達にも唸っていたかも知れない。」
シロクン  「この脚、治るのに一月は掛かるぞ。
        一ヶ月は、ヒザを曲げてはいかん。
        無理をすると、一生歩けん体になる。
        近くの村までは、おれが抱いて行ってやる。
        そこで受け入れてもらえなければ、カワセミ村まで抱いて行く。
        カワセミ村には知り合いが多くいる。
        おれが頼んでやるから、カワセミ村で脚が治るまでジッとしていろ。」
レンザ  「おれの事は、置いて行ってくれればいい。
      食い物は、レンが運んで来てくれる。」
シロクン  「水はどうする?タキギは?
        杖をついて無理に動くと、取り返しがつかん事になるぞ。
        今のおまえには、介添えが必要だ。」
レンザ  「おれは一人が性に合ってるんだ。」
サチ  「父さんの言う通りにした方がいいよ。
     抱っこ帯の抱っこだから、レンザだって疲れないんだよ。」
シロクン  「見てみろ。レンザ用の抱っこ帯だ。早起きして作ったんだぞ。」
レンザ  「おれは、昨日みたいに寝るのは嫌なんだ。」
タカジョウ  「ははーん、さてはおまえ、ひょっとして、いたしたいんだな?一人で(笑)。」
レンザ  「うるさいなー。」
ミツ  「何をいたすの?」
タカジョウ  「姉と一緒の時はどうしていたのだ?」
レンザ  「姉ちゃんとは、別々の吊り寝だったよ。」
ミツ  「ねえ、何をいたすの?
     サチ、分かる?」
サチ  「分かるよ。後で教えてあげる。」
レンザ  「変な教え方、するなよ。」
タカジョウ  「おまえ、激しそうだな(笑)。サル並みに。」
ミツ  「アハハ。レンザが真っ赤になってる。」
レンザ  「ホントにうるさいなー。いい加減にしろよ。」
シロクン  「ハハハ。よし、ではレンザは吊り寝だ。
        毎晩吊り寝を張ってやるよ。
        フキの葉も、要るよな?」
タカジョウ  「アハハハ。」
レンザ  「あー要るよ!2枚や3枚じゃあ足りないからな!」
サチ  「そんなにするものなの?」
レンザ  「いいだろー!何回したって!」
タカジョウ  「アハハハ、頼もしい男だな。
        お、レンが帰って来た。
        シップウにお目通りと行くか。
        シップウ!」
 
    シップウが飛んで来て、タカジョウの腕にとまった。
 
 
          山越え。
 
    レンザは抱っこ帯でシロクンヌに抱かれている。
    レンは、5人の少し後からついて来ている。
    シップウは、空高く飛んでいる。
 
ミツ  「シップウとレンはニラミ合っていたけど、敵だと思ったのかな?」
サチ  「何か迫力があったよね。ジッとしたまま、動かなかったでしょう。」
レンザ  「サチとミツは、シップウの狩りを見た事あるのか?」
サチ  「あるよ。隣の山でカモシカを狩って、
     爪で掴んで、谷を越えてこっちまで運んで来たんだよ。」
ミツ  「あれ怖かったよね。こっちに向かって飛んで来るんだもん。」
レンザ  「カモシカをつかんだまま、飛んだのか?」
タカジョウ  「飛ぶと言うかな・・・
        空を斜め下にくだって来た感じだな。羽根を広げて。」
レンザ  「すげーな!おれも見たかったな。」
シロクン  「おい!あれを見てみろ!
        あれはヌタ場だろう?その横の樹だ!」
 
 
タカジョウ  「これは、台風の前だな。台風の後には使われておらん。」
サチ  「ヌタ場って何?」
シロクン  「この泥だまりだ。
        イノシシが、この泥の上で転げ回るんだ。
        体に泥を付けて、その後に樹に体をこすりつけて泥を落とす。
        そうやって、泥と一緒に体に付いたノミを落とすんだ。」
タカジョウ  「その樹がこれだ。
        台風で洗われているが、泥のあとが見えるだろう?
        サチ、横に立ってみろ。」
ミツ  「サチの背よりも高いよ。そんなイノシシっているの?」
シロクン  「この泥よりも、イノシシの背は少し高いはずだ。
        そこに足跡が、二つだけ残っている。
        見た事もない大きさだ!」
レンザ  「シシ神だ。多分この先に、シシガミ村があるんだ。」
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。