縄文GoGo

5000年前の中部高地の物語

縄文GoGo旅編 第20話 5日目①

 

 

 

          翌早朝。シシガミ村の近く。

 
ユリサ(22歳・女)  「あ!急降下した!キツネを見つけたのかな?」
タカジョウ  「きっとそうだ。キツネを見つけるのは早いからな(笑)。」
ユリサ  「あそこ、見に行ってみよう!」
 
ユリサ  「シップウが、キツネを押さえ込んでる!」
タカジョウ  「縄を打つから下がって見ていてくれ。生け捕りだ。」
ユリサ  「レンにあげるんだね。
      なんか、タカジョウもシップウもカッコイイな。
      ホントに、今日行っちゃうの?」
タカジョウ  「ああ、そうだ。
        なんやかんやで、予定よりも遅れているからな。
        本当なら、もっと先にいるはずなんだ。
        今日は早めの出発だ。
        よし、シップウ、よくやった。
        こいつをかついで、見張り小屋に行くぞ。
        どうした、ユリサ、泣いてるのか?」
ユリサ  「何でも無いよ。チョット淋しいなって思ったの。」
タカジョウ  「そうは言うが、昨日、知り合ったばかりだぞ。
        今までも、何度か宿は取って来たんだろう?」
ユリサ  「うん。私ねえ、授かりにくいのかも知れない。」
タカジョウ  「まだ一度も子を宿していないのか?」
ユリサ  「うん。それに、前の人達が旅立って行く時に、淋しいってあんまり思わなかった。
      一日しか会ってない人に淋しいって思うなんて、自分でもビックリ。
      タカジョウは、淋しくない?」
タカジョウ  「そう言われれば、淋しいな。
        そうだ、これをやるよ。黒切りの磨きだ。
        おれが磨いて、穴も開けたんだぞ。」
 
    タカジョウは両腕に腕飾りをしていたが、
    一つを外し、紐を取って石だけをユリサに手渡した。
 
ユリサ  「綺麗!透き通ってる。ありがとう!
      そっちの石も見せて。」
タカジョウ  「元々同じ一個の石だったんだ。こっちの方が少し黒いよな。
        女紐は持ってるだろう?」
ユリサ  「うん。ムロヤに戻ればある。
      ありがとう!これ、私の宝物。」
タカジョウ  「黒切りの里でも、これだけ透き通ってるのは珍しいんだぞ。
        さあ行こう。レンザのやつ、どうなったかな。」
 
 
          朝のシシガミ村。広場。
 
タカジョウ  「あのシュリって女、すごいな。
        食ってる最中のレンの頭を撫でてたぞ。」
シロクンヌ  「レンザはどうしてた?」
タカジョウ  「なんか、和らいだ顔つきになっていた。
        飛び越しにハマったようだぞ(笑)。」
シロクン  「ハハハ、昨日、ミツから教わったんだな。
        ではレンザとレンにあいさつして、おれ達は出発するか。
        コノカミ、ミワ、世話になったな。
        昨夜も豪勢な宴を開いてもらったし。」
シシヒコ  「村の恩人だぞ。あれくらいの事しか出来んが、また遊びに来てくれよ。」
シロクン  「ふむ。塩の件で、おれか別の者かはわからんが、またここに来ると思う。
        その時はよろしく頼む。」
シシヒコ  「うん。それで出来ればだが、シロのイエの男も、
       何人かここに住んでもらえるとありがたい。」
シロクン  「そうだな。あと大事なのは、たたりのウワサを打ち消す事だろうな。
        おれ達はこの村を、シオユ村と呼ぶ事にするよ。」
ミワ  「ありがとうございます。次は、ゆっくり遊びにいらしてください。」
サタキ  「ほら、これ持って行ってくれ。
      二年物だ。少し重いが、おぬしらなら苦にならんだろう?」
タカジョウ  「丸々一本、いいのか?」
シロクン  「おお、これはいい土産をもらったなあ。」
サチ  「ミツ、良かったね!また食べれるよ。」
ミツ  「うん!ありがとう!」
シシヒコ  「そしてこれは塩だ。
       今日は走るって言っていただろう?汗をかくぞ。
       そんな時は、こいつをチョンと指に付けて舐めるんだ。」
シロクン  「こりゃあいい!何から何まですまんな。」
ミワ  「ユリサ、腕飾り、とっても素敵よ。
     泣いていないでご挨拶しなきゃ。」
ユリサ  「タカジョウ、ありがとね。こども、出来てるといいな。」
タカジョウ  「きっと授かっておるぞ。手ごたえがあったからな(笑)。
        また会う日が来るかも知れん。元気でいろよ。」
 
 
          見張り小屋。
 
レンザ  「もう行くのか?」
シロクン  「ああ出発だ。その前に脚の具合を診てやる。
        そうだ。薬を少し置いていくか。」
サチ  「レンザはここに住むの?」
レンザ  「そのつもりだよ。コノカミも是非住んでくれって言ってくれたし。
      シュリとレンの3人でここで暮らす。
      また会いに来いよ。」
ミツ  「ねえレンザ、耳かして。ナイショ話。
     (もじゃもじゃだった?)」
レンザ  「ぶっ、ばかだなおまえはホントに。そうだったよ。」
ミツ  「よかったね!」
シュリ  「何のはなし?ってチョット聞こえたよ!」
タカジョウ  「ナイショ話になってなかったぞ(笑)。」
シュリ  「もう、恥ずかしいんだから!
      そう言えば昨日の夜宴でオロチの話をしてたでしょう。
      オロチの姉って何て言う名前なの?」
シロクン  「ミツ、名は聞いておらんのだよな?」
ミツ  「うん。姉ちゃんって呼んでただけだったから。」
シュリ  「何歳くらいだったの?」
ミツ  「15歳くらい。」
シュリ  「シップウに背中をやられたんだよね・・・」
シロクン  「何か心当たりがあるのか?」
シュリ  「え、でも南に向かったんでしょう?」
シロクン  「それは分からんのだ。男にそう言わせておいて、北に向かったかも知れん。」
レンザ  「ゾキの事を言ってるのか?
      考えすぎだよ。」
タカジョウ  「ゾキとは?」
レンザ  「昨日コノカミが言っていたろう。おれのもう一人の宿。
      兄さん二人をシシ神に喰われて、暗い感じらしいんだ。
      それでシシ神から逃げる時に崖を滑り下りて、背中をケガしてる。
      傷は新しかったんだろう?」
シュリ  「うん。ミワに聞いたら、新しい擦り傷だって。」
レンザ  「そんな事言わなくたって、おれはゾキに入れ込んだりしないよ。
      ただ境遇がおれと似てるから、同情はするだろうけど。
      シュリはゾキの事になると、ちょっと変だぞ。」
シュリ  「ごめんなさい。やっぱりあたし、レンザを独り占めしたいのかな・・・」
タカジョウ  「おおレンザ、モテていいではないか(笑)。」
シロクン  「レンザは顔つきが変わったな。噛みつきそうな眼をしておったが。
        シュリのお陰だな(笑)。」
レンザ  「うん。おれ、シュリに会えて良かった。
      シロクンヌ、アマカミになったらもう会えないのか?」
シロクン  「そんな事はない。今まで通りだ。ミヤコに遊びに来いよ。」
レンザ  「シュリに子が産まれたら、レンを連れてみんなで遊びに行くよ。
      子はアマテルと遊ばせようかな(笑)。」
シュリ  「ハニサって綺麗なんでしょう?会ってみたいな。」
シロクン  「ハニサかー、おれも会いたいなあ(笑)。」
タカジョウ  「もう里心が付いたのか。先が思いやられるぞ(笑)。」
サチ  「父さん、昨日の夜も、ハニサはどうしてるかなって言ってたよ。」
シュリ  「シロクンヌって、ハニサが大好きなんだ。
      でも、カッコいいからモテるでしょう?」
タカジョウ  「それがこの男、ハニサ以外の女はイノシシに見えるらしいぞ(笑)。」
シロクン  「それは言い過ぎだ(笑)。」
レンザ  「ミツ、飛び越しって面白いな。
      あれを考え出すなんて、ミツは意外に賢いんだな。」
ミツ  「今、どっちが強いの?」
シュリ  「3勝3敗。
      レンザが動けるようになるまで、あたし、一緒にいて飛び越しやるの。」
タカジョウ  「いかんなあ、なんだかレンザがうらやましくなってきたぞ。」
レンザ  「いいだろう(笑)。タカジョウも絶対こっちに戻って来いよ。
      タカの里にも遊びに行くからな。」
タカジョウ  「ああ分かった。おまえもあんまり無茶するなよ。」
サチ  「アヤの村にも来てね。」
レンザ  「もちろん行くさ。ミツもそこにいるんだよな。
      おまえら、少しは大人になってろよ。」
シロクン  「ははは。さて、そろそろ出発するか。
        今日は走るぞ。今日中にアヅミ野に入る。
        ミツは抱っこ帯だ。」
 
    それぞれが別れを告げ、シロクンヌ達4人は村を後にした。
    村を出た所で、レンの遠吠えがひとつ響いた。
 
 
 
登場人物 シロクン 28歳 タビンド 特産物を遠方の村々に運ぶ シロのイエのクンヌ  ササヒコ 43歳 ウルシ村のリーダー  ムマヂカリ 26歳 ヒゲの大男   ヤッホ 22歳 ササヒコの息子   ハギ 24歳 ヤスが得意  タホ 4歳 ヤッホとヤシムの息子 ヤシムと暮らしている  タヂカリ 6歳 ムマヂカリとスサラの息子  クマジイ 63歳 長老だが・・・  テイトンポ 40歳 シロクンヌの師匠 その道の達人   クズハ 39歳 ハギとハニサの母親   タマ 35歳 料理長  アコ 20歳 男勝り テイトンポに弟子入り   ヤシム 24歳 タホの母親  ハニサ 17歳 土器作りの名人 シロクンヌの宿   スサラ 25歳 ムマヂカリの奥さん  ヌリホツマ 55歳 漆塗り名人 巫女 本名はスス  ホムラ 犬 ムマヂカリが可愛がっている      
追加アシヒコ 56歳 アユ村のリーダー  マグラ 27歳 アユ村の若者  カタグラ 24歳 マグラの弟  フクホ 50歳 アシヒコの奥さん  マユ 25歳 アユ村の娘  ソマユ  19歳 マユの妹  サチ 12歳 孤児 シロクンヌの娘となる アヤクンヌ      エミヌ 18歳  オジヌ 16歳 エミヌの弟  カイヌ 14歳 オジヌの弟    モリヒコ シカ村のカミ  サラ 17歳 スサラの妹 ハギとトツギとなる ヌリホツマの弟子  ナクモ 18歳 エミヌの友人  シオラム 41歳 ササヒコのすぐ下の弟 塩作りの加勢のためシオ村で暮らす 5年に一度、里帰りする  ナジオ 20歳 シオラムの息子 シオ村生まれ  タカジョウ 23歳 ワシ使い  ホコラ 洞窟暮らし 哲人  シップ オオイヌワシ タカジョウが飼っている  エニ 38歳 エミヌ姉弟の母   カヤ アマカミの使者  シラク 北のミヤコのシロのムロヤの責任者  マシベ フジのシロの里の者 ヲウミのシロの村との連絡係り  トモ フジのシロの里の者  イナ 30歳 シロクンヌの姉弟子 杖の達人  コヨウ 15歳 タカジョウの妹  ゴン 洞窟で飼われている仔犬  ミツ 11歳 アユ村の少女  カザヤ 24歳 アユ村の若者 カタグラの友人  テミユ 22歳 カザヤの妹  タガオ 32歳 ミツの父親 目がみえない  ゾキ 14歳 オロチの姉 シップウの攻撃で背中に傷を負う オロチ 12歳 ゾキの弟 シップウの攻撃で顔に傷を負う  イワジイ 60歳 黒切りの里の山師 ヌリホツマの兄  シロイブキ 28歳 シロクンヌの兄弟
追加(旅編)スズヒコ 65歳 リンドウ村のリーダー  タジロ 21歳 リンドウ村の若者  セリ 11歳 リンドウ村の娘  レンザ 14歳 道中で出会った少年。足の骨が折れていた。  レン レンザが飼っているオオカミ  シシヒコ 35歳 シシガミ村のカミ  サタキ 25歳 シシガミ村の青年  ミワ 33歳 シシヒコの奥さん。  シュリ 21歳 シシガミ村の娘。レンザの宿。  ユリサ 22歳 シシガミ村の娘。一日だけのタカジョウの宿。

   

用語説明 ムロヤ=竪穴住居  大ムロヤ=大型竪穴建物  カミ=村のリーダー  コノカミ=この村のリーダー           グリッコ=どんぐりクッキー  黒切り=黒曜石  神坐=石棒(男性器を模した磨製石器)  塩渡り=海辺の村が作った塩を山の村に運ぶ塩街道があった。ウルシ村から東にシカ村→アマゴ村・・・七つ目がシオ村  御山=おやま。ウルシ村の広場から見える、高大な山々  コタチ山=御山連峰最高峰  トコヨクニ=日本  蚊遣りトンボ=虫除けオニヤンマ ここではオニヤンマの遺骸に竹ひごを刺し、竹ひごをヘアバンドで頭部に固定する  トツギ=一夫一婦の結婚  眼木=めぎ 眼鏡フレーム 曲げ木工房で作っている  クンヌ=イエの頭領  吊り寝=ハンモック  一本皿=長い丸太を半分に割いて作ったテーブル。一本の木から2本取れるが、一本皿と呼ばれている。  一回し=長さの単位 70㎝  半回し=35㎝ 縄文尺とも呼ばれる。  カラミツブテ・カブテ=狩りの道具。コブシ大の二つの石を紐でつなげた物。  ボウボウ=樹皮ラッパ 法螺貝よりも高い音が出る。  薙ぎ倒しの牙・薙ぎ倒しイノシシの牙=ナウマン象の象牙  バンドリ=背負子などを背負った時に、肩と背中を保護する当て物。衣服の上からバンドリを装着し、それから背負子を着ける。  黒石糊アスファルト